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こう章第八

〔孝治章第九〕(古文)
子曰、昔者、明王之以孝治天下也、不敢遺小國之臣。
いわく、昔者むかし明王めいおうこうもってんおさむるや、えてしょうこくしんわすれず。
  • この章は、明徳の王が孝道に基づいて政治を行えば、人民から心服されて天下がよく治まることを説いている。
  • 孝治 … 孝道に基づいて天下を治めること。
  • 古文では「孝治章第九」に作る。
  • 昔者 … 以前。むかし。「者」の読みが省略されるので、二字で「むかし」と読む。「者」は時を示す語に添える助字。「今者いま」なども同様。
  • 明王之以孝治天下也 … 明徳の王が孝道に基づいて天下を統治されたとき。
  • 明王 … 明徳の王。賢い王。聡明な王。聖王。
  • 不敢遺小国之臣 … 決して小さな国の陪臣であるからといって、いい加減にあしらったりはしなかった。
  • 不 … 古文では「弗」に作る。
  • 敢 … 決して。断じて。
  • 小国 … 子爵・男爵の国。
  • 臣 … 陪臣。臣下に仕えている者。臣下の臣。天子からみて諸侯の家来。
  • 遺 … 「のこす」「すてる」と読んでもよい。いい加減に扱う。ゆるがせにする。ぞんざいに扱う。
而況於公侯伯子男乎。
しかるをいわんやこうこうはくだんいてをや。
  • 而況 … 「しかるをいわんや~をや」と読み、「まして~なら、なおさらだ」と訳す。
  • 公侯伯子男 … 古代、諸侯の爵位の名。公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵の五等級に分かれる。
故得萬國之懽心、以事其先王。
ゆえ万国ばんこく懽心かんしんて、もっ先王せんおうつかう。
  • 得万国之懽心 … あらゆる国の人々からよろこばれ、心服されて。
  • 懽心 … 喜ぶ心。歓心。古文では「歡心」に作る。
  • 事其先王 … 王の祖先の祭祀を行うことができた。
治國者不敢侮於鰥寡。
くにおさむるものえてかんあなどらず。
  • 治国者不敢侮於鰥寡 … 国家を治める諸侯たちは、決して男やもめや未亡人のような寄る辺のない人々を軽蔑したりしなかった。
  • 鰥寡 … 妻に死なれた男と、夫に死なれた女。「鰥」は、やもお。男やもめ。「寡」は、未亡人。後家。
而況於士民乎。
しかるをいわんやみんいてをや。
  • 而況於士民乎 … まして下級官吏や一般庶民なら、なおさら軽視するようなことはなかった。
  • 士民 … 下級の役人と庶民。
故得百姓之懽心、以事其先君。
ゆえひゃくせい懽心かんしんて、もっ先君せんくんつかう。
  • 得百姓之懽心 … 国中の人々から悦ばれ、心服されて。
  • 百姓 … 国中の人々。
  • 懽心 … 喜ぶ心。歓心。古文では「歡心」に作る。
  • 事其先君 … 歴代の君主の祭祀を行うことができた。
  • 先君 … 歴代の君主。
治家者不敢失於臣妾。
いえおさむるものえてしんしょううしなわず。
  • 治家者不敢失於臣妾 … 家を治める卿・大夫は、決して下男・下女の心を失わないように配慮した。
  • 不 … 古文では「弗」に作る。
  • 臣妾 … 下男・下女。古文では「臣妾」の後に「之心」の二字がある。
而況於妻子乎。
しかるをいわんやさいいてをや。
  • 而況於妻子乎 … まして妻や子どもの心を失われるようなことは絶対になかった。
故得人之懽心、以事其親。
ゆえひと懽心かんしんて、もっおやつかう。
  • 得人之懽心 … 人々から悦ばれ、心服されて。
  • 懽心 … 喜ぶ心。歓心。古文では「歡心」に作る。
  • 事其親 … 自分の親に孝養を尽くすことができた。
夫然。
しかり。
  • 夫然 … そもそも天子・諸侯・卿大夫の孝による政治は、このようであったのだ。
故生則親安之、祭則鬼享之。
ゆえけるにはすなわおやこれやすんじ、まつりにはすなわこれく。
  • 生則親安之 … 親が存命中のときは、子の孝心によってその親が安心して暮らせる。
  • 祭則鬼享之 … 親が亡くなられてその霊を祀るときは、その親は祖霊となって祀りを受けられる。
  • 鬼 … 死者の霊。ここでは父母の霊。
是以天下和平、災害不生、禍亂不作。
ここもってんへいにして、災害さいがいしょうぜず、らんおこらず。
  • 是以 … 「ここをもって」と読み、「こういうわけで」「このゆえに」「それゆえに」「だから」と訳す。「以是」は「これをもって」と読み、「この点から」「これにより」「これを用いて」と訳す。
  • 天下和平 … 天下が静かで穏やかになる。
  • 和平 … 静かで穏やか。平和。
  • 災害不生 … 災害も発生しない。
  • 禍乱不作 … 世の中の乱れも生じない。
  • 禍乱 … 世の中の乱れ。騒乱。
故明王之以孝治天下也如此。
ゆえ明王めいおうこうもってんおさむるやかくごとし。
  • 明王之以孝治天下也如此 … 昔の明徳の王が孝道に基づいて天下を治められたことは、このように立派なものであった。
  • 明王 … 昔の明徳の王。昔の聖王。
詩云、有覺徳行、四國順之。
う、かくたる徳行とっこうれば、こくこれしたがう、と。
  • 詩 … 『詩経』大雅・抑篇の一節。ウィキソース「詩經/抑」参照。
  • 覚 … 大きな。高大な。優れた。
  • 徳行 … 道徳にかなった正しい行い。
  • 四国 … 四方の国々。
  • 順之 … これを手本として従う。
今文孝経
開宗明義章第一 天子章第二
諸侯章第三 卿大夫章第四
士章第五 庶人章第六
三才章第七 孝治章第八
聖治章第九 紀孝行章第十
五刑章第十一 広要道章第十二
広至徳章第十三 広揚名章第十四
諫争章第十五 応感章第十六
事君章第十七 喪親章第十八
閨門章第十九(古文のみ)