諫爭章第十五
〔諫諍章第二十〕(古文)
曾子曰、若夫慈愛恭敬、安親揚名、則聞命矣。
曾子曰、若夫慈愛恭敬、安親揚名、則聞命矣。
曽子曰く、夫の慈愛恭敬、親を安んじ名を揚ぐるが若きは、則ち命を聞けり。
- この章は、君主や父の不正に対して、臣下や子は諫めなければならないと説いている。
- 諫争 … 諫めること。「争」も諫めるの意。
- 古文では「諫諍章第二十」に作る。
- 曾子 … 孔子の弟子で、姓は曾、名は参、字は子輿。ウィキペディア【曾子】参照。
- 若夫慈愛恭敬、安親揚名 … かの慈しみ愛することや、慎み敬うこと、親を安心させ、名を後世にあげるというようなことは。
- 夫 … 「かの」と読み、「かの」「あの」「例の」と訳す。
- 慈愛 … 慈しみ愛すること。
- 恭敬 … 慎み敬うこと。「恭」は、古文では「龔」に作る。
- 則 … 古文では「參」に作る。
- 聞命 … 仰せを承る。教えを承る。「命」は、教え。
敢問、子從父之令、可謂孝乎。
敢えて問う、子、父の令に従うは、孝と謂う可きか。
- 敢問 … あえてお尋ねしますが。失礼ながらお尋ねいたしますが。
- 子従父之令、可謂孝乎 … 子が父の言いつけに対し、そのまま従うことが孝行と言えましょうか。
- 令 … 命令。言いつけ。古文では「命」に作る。
子曰、是何言與、是何言與。
子曰く、是れ何の言ぞや、是れ何の言ぞや。
- 是何言与 … 何ということを言うのか。
- 是何言與、是何言與 … 古文では「參是何言與、是何言與、言之不通耶」に作る。
昔者、天子有爭臣七人、雖無道、不失其天下。
昔者、天子に争臣七人有れば、無道と雖も、其の天下を失わず。
- 昔者 … 以前。むかし。「者」の読みが省略されるので、二字で「むかし」と読む。「者」は時を示す語に添える助字。「今者」なども同様。
- 天子有争臣七人 … 天子には過失を諫める大臣が七人いたので。
- 争臣 … 君主の過失を痛烈に諫める家臣のこと。「諫臣」に同じ。
- 雖無道 … たとえ天子が道に外れたことをしても。
- 不失其天下 … 天下を失うようなことはなかった。
- 不 … 古文では「弗」に作る。
- 其 … 古文にはこの字なし。
諸侯有爭臣五人、雖無道、不失其國。
諸侯に争臣五人有れば、無道と雖も、其の国を失わず。
- 諸侯有争臣五人 … 諸侯には過失を諫める家臣が五人いたので。
- 雖無道 … たとえ諸侯が道に外れたことをしても。
- 不失其国 … その国を失うようなことはなかった。
- 不 … 古文では「弗」に作る。
大夫有爭臣三人、雖無道、不失其家。
大夫に争臣三人有れば、無道と雖も、其の家を失わず。
- 大夫有争臣三人 … 大夫には過失を諫める家来が三人いたので。
- 大夫 … 卿の下の位。
- 雖無道 … たとえ大夫が道に外れたことをしても。
- 不失其家 … その家を失うようなことはなかった。
- 不 … 古文では「弗」に作る。
士有爭友、則身不離於令名。
士に争友有れば、則ち身、令名を離れず。
- 士有争友 … 士に過失を諫めてくれる友人がいたなら。
- 士 … 下級官吏で、卿・大夫に次ぐ位。上士・中士・下士の三等に分かれた。
- 争友 … 悪い点をどこまでも諫めてくれる友人。
- 身不離於令名 … その身が世間のよい評判から離れ去るようなことはない。
- 令名 … 名声。「令」は、善いの意。
- 不 … 古文では「弗」に作る。
父有爭子、則身不陷於不義。
父に争子有れば、則ち身、不義に陥らず。
- 父有争子 … 父に過失を諫める子がいたなら。
- 争子 … 過失を諫める子のこと。
- 身不陥於不義 … その身が正しい道から外れてしまうようなことはない。
- 不義 … 正しい道から外れること。
- 不陷 … 古文では「弗陷」に作る。
故當不義、則子不可以不爭於父。
故に不義に当っては、則ち子、以て父に争わざる可からず。
- 故当不義 … だから君主や父に正しい道から外れた行為があったならば。
- 義 … 古文では「誼」に作る。
- 子不可以不爭於父 … 子は父を必ず諫めなければならない。
- 争 … ここでは諫めるの意。
- 於 … 古文では「于」に作る。
臣不可以不爭於君。
臣、以て君に争わざる可からず。
- 臣不可以不爭於君 … 臣下は君主を必ず諫めなければならない。
故當不義、則爭之。
故に不義に当っては、則ち之を争う。
- 故当不義、則争之 … こういうことであるから、道から外れた行為があったときは、必ず諫めなければならないのである。
從父之令、又焉得爲孝乎。
父の令に従う、又焉んぞ孝と為すを得んや。
- 従父之令 … 父の命令に従うことが。父の言いつけに従うことが。
- 令 … 命令。言いつけ。古文では「命」に作る。
- 又焉得為孝乎 … またどうして孝行であると言えようか、いや孝行とは言えない。
- 焉 … 「いずくんぞ~ん(や)」と読む。「どうして~であろうか、いや~でない」と訳す。反語の形。古文では「安」に作る。
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