四面楚歌
四面楚歌
- 出典:『史記』項羽本紀(ウィキソース「史記/卷007」参照)
- 解釈:まわりが全部敵で、完全に孤立すること。楚の項羽が垓下で漢軍に包囲されたとき、漢の軍中で楚の歌を歌うのを聞き、項羽は楚がすでに漢に降伏したのかと思って嘆いたという故事から。
- 史記 … 前漢の司馬遷がまとめた歴史書。二十四史の一つ。事実を年代順に書き並べる編年体と違い、人物の伝記を中心とする紀伝体で編纂されている。本紀十二巻、表十巻、書八巻、世家三十巻、列伝七十巻の全百三十巻。ウィキペディア【史記】参照。
項王軍壁垓下。
項王の軍、垓下に壁す。
- 項王 … 前232~前202。楚の武将、項羽。ウィキペディア【項羽】参照。
- 垓下 … 地名。今の安徽省霊壁県付近。
- 壁 … 「へきす」と動詞に読む。とりでを作って立てこもること。
兵少食盡。
兵少く食尽く。
- 食 … 食糧。
漢軍及諸侯兵圍之數重。
漢軍及び諸侯の兵、之を囲むこと数重なり。
- 漢軍 … 漢の王、沛公(劉邦)の率いる軍勢。
- 諸侯兵 … 沛公に味方した有力な武将の兵。
- 囲之 … 「之」は項王の軍を指す。
- 数重 … 幾重にも重なること。
夜聞漢軍四面皆楚歌、項王乃大驚曰、
夜、漢軍の四面に皆楚歌するを聞き、項王乃ち大いに驚きて曰く、
- 聞漢軍四面皆楚歌 … 四方の漢軍が、みな項羽の故郷である楚の国の歌を歌っているのを聞いて。
- 乃 … 「すなわち」と読み、「意外にも」「なんと」と訳す。感嘆の意を示す。
- 大驚 … 項羽は自分の故郷の歌を敵軍の中から聞いて、もうこれまでと覚悟を決めた。
漢皆已得楚乎。
漢、皆已に楚を得たるか。
- 得楚乎 … 自分の故郷である楚まで手中に収めてしまったのか。「乎」は「か」と読み、感嘆・詠嘆の意を示す。
是何楚人之多也。
是れ何ぞ楚人の多きや、と。
- 何楚人之多也 … なんと敵軍の中に楚の国の兵が多いことだろう。「何…也」は「なんぞ~や」と読み、「なんと~であることよ」「なんとまあ~であろう」と訳す。感嘆・詠嘆の意を示す。
- 楚人 … 楚の国の人。ここでは楚の国の兵。国の下に「人」がつく場合は「じん」とは読まず、「ひと」と読む慣習がある。
項王則夜起飮帳中。
項王則ち夜起ちて帳中に飲す。
- 帳中 … とばりの中。天幕の中。
- 飲 … 酒盛りをする。宴会をする。
有美人、名虞。
美人有り、名は虞。
- 美人 … 侍女、または愛妾。また、女官の位の名称でもある。
- 虞 … 項羽に寵愛された虞姫。ウィキペディア【虞美人】参照。
常幸從。
常に幸せられて従う。
- 幸 … 「こうせらる」と受身に読む。寵愛される。
- 従 … (項王に)付き従っていた。
駿馬、名騅。
駿馬あり、名は騅。
- 駿馬 … 足の速い、すぐれた馬。しゅんばとも。
- 騅 … 項羽の愛馬の名であるが、本来は葦毛の馬(白い毛の中に黒色・茶色などの毛などが入りまじっている馬)。
常騎之。
常に之に騎す。
- 騎 … 乗る。
於是、項王乃悲歌慷慨、自爲詩曰、
是に於いて、項王乃ち悲歌慷慨し、自ら詩を為りて曰く、
- 於是 … 「ここにおいて」と読み、「そこで」と訳す。ちなみに「是以」は「ここをもって」と読み、「こういうわけで」と訳す。「以是」は「これをもって」と読み、「この点から」と訳す。
- 悲歌慷慨 … 悲しげに歌い、憤り嘆く。「慷」は「忼」に同じ。
力抜山兮氣蓋世
力は山を抜き気は世を蓋う
- 力抜山兮気蓋世 … わが力は山をも引き抜き、わが意気は天下をおおう。「抜」は引き抜く。「兮」の音は「ケイ」。調子を整える助字。訓読しない。『楚辞』や楚調の歌に多く用いられる。この句から気力が充実し、意気盛んなさまを「抜山蓋世」という。
時不利兮騅不逝
時利あらず騅逝かず
- 時不利兮騅不逝 … われに時運が不利なので、愛馬の騅も進まない。「時」は時勢。時運。「逝」は、ここでは「進む」の意。
騅不逝兮可奈何
騅逝かざる奈何す可き
- 騅不逝兮可奈何 … 愛馬の騅も進まないので、どうしたらよいだろうか。「奈何すべき」(可奈何)は反語を表し、「どうすることができようか、いや、できはしない」と訳す。「奈何」は手段や方法を尋ねるときの疑問詞で、「如何」と同じ。
虞兮虞兮奈若何
虞や虞や若を奈何せんと
- 虞兮虞兮奈若何 … 愛する虞よ虞よ、いったいお前をどうしようか。「若」は「汝」に同じ。「若を奈何せん」(奈若何)は「奈何」の間に目的語が入った形。反語を表し、「お前をどうしようか、いや、どうしようもないのだ」と訳す。
歌數闋、美人和之。
歌うこと数闋、美人之に和す。
- 数闋 … 数回。「闋」は歌が一曲終わること。
- 和之 … 項羽の歌に唱和した。
項王泣數行下。
項王、泣数行下る。
- 泣数行下 … はらはらと涙を流した。
左右皆泣、莫能仰視。
左右皆泣き、能く仰ぎ視るもの莫し。
- 左右 … 側近の家来。近臣。君主の左右に控えることからいう。
- 莫能仰視 … 誰ひとりとして項羽の顔を仰ぎ見ることのできる者はいなかった。「莫能~」は「~できる人がいない」と訳す。
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