九牛の一毛
九牛の一毛
- 出典:司馬遷「任少卿に報ずるの書」(『文選』巻四十一、ウィキソース「報任少卿書」参照)
- 解釈:取るに足りないこと。「多くの牛の中の一本の毛」の意から。
- 文選 … 六十巻。六朝時代、梁の昭明太子蕭統(501~531)編の詩文選集。530年頃成立。周代から梁代までに至る約千年間の作品を選び集めたもの。収録された作者は約百三十人、作品は約八百編。ウィキペディア【文選 (書物)】参照。
僕之先、非有剖符丹書之功。文史星暦、近乎卜祝之間。固主上所戲弄、倡優所畜、流俗之所輕也。
僕の先、剖符丹書の功有るに非ず。文史星暦、卜祝の間に近し。固より主上の戯弄する所、倡優の畜う所、流俗の軽んずる所なり。
- 僕 … 謙遜していうときの一人称代名詞。
- 先 … 祖先。
- 剖符 … 割り符。
- 丹書 … 君主が封土を受ける者に与える契約書。
- 文史星暦 … 記録や天文・律暦を司る役。
- 卜祝 … 占い師や巫。
- 主上 … 天子・君主の敬称。
- 戯弄 … なぐさみもの。
- 倡優 … 楽人と俳優。
- 流俗 … 世間の俗人。
假令僕伏法受誅、若九牛亡一毛、與螻蟻何以異。而世又不與能死節者、特以爲智窮罪極、不能自免、卒就死耳。何也、素所自樹立使然也。
仮令僕、法に伏し誅を受くるも、九牛の一毛を亡うが若し、螻蟻と何を以て異ならんや。而して世は又能く死節する者を与さず、特だ以て智窮し罪極まり、自ら免るる能わず、卒に死に就くと為すのみ。何ぞや、素より自ら樹立する所の然らしむるなり。
- 螻蟻 … おけらや、あり。
- 死節 … 節義のために死ぬこと。
人固有一死、或重於太山、或輕於鴻毛。用之所趨異也。
人固より一死有り、或いは太山より重く、或いは鴻毛より軽し。用の趨く所異なればなり。
- 太山 … 泰山のこと。
- 鴻毛 … おおとりの毛。非常に軽いものの喩え。
太上不辱先、其次不辱身、其次不辱理色、其次不辱辭令、其次詘體受辱、其次易服受辱、其次關木索被箠楚受辱、其次剔毛髮嬰金鐵受辱、其次毀肌膚斷肢體受辱、最下腐刑極矣。
太上は先を辱めず、其の次は身を辱めず、其の次は理色を辱めず、其の次は辞令を辱めず、其の次は体を詘して辱めを受く、其の次は服を易えて辱めを受く、其の次は木索に関せられ箠楚を被りて辱めを受く、其の次は毛髪を剔られ金鉄を嬰らされて辱めを受く、其の次は肌膚を毀り肢体を断ちて辱めを受く、最下は腐刑極まれり。
- 太上 … 最上。
- 理色 … 道理と体面。
- 辞令 … 人に対する言葉、あいさつ。
- 易服 … 罪人用の赤い服を着ること。
- 木索 … 刑具の名。木は手枷足枷。索は縄。
- 箠楚 … 罪人をうつむち。
- 金鉄 … 鉄で作った刑具。枷の類。
- 毀肌膚 … 入れ墨などで肌を傷つけられること。
- 腐刑 … 宮刑の別称。
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