鶏口牛後
鶏口牛後
〔十八史略、春秋戦国、趙〕
秦人恐喝諸侯求割地。
秦人恐喝諸侯求割地。
秦人、諸侯を恐喝して地を割かんことを求む。
- 秦人 … 秦の国の人々。国の下に「人」がつく場合は「じん」とは読まず、「ひと」と読む慣習がある。「秦」は今の陝西省の地をあった国。戦国七雄(秦・楚・斉・燕・趙・魏・韓)の一つ。ウィキペディア【秦】参照。
- 諸侯 … ここでは六国(韓・魏・趙・斉・楚・燕)を指す。
- 恐喝 … 脅す。ここでは武力で脅すこと。
- 割地 … 領地を割譲する。
有洛陽人蘇秦。
洛陽の人、蘇秦というもの有り。
游説秦惠王不用。
秦の恵王に游説して用いられず。
- 秦恵王 … 戦国時代の秦の王。在位前338~前311。ウィキペディア【恵文王 (秦)】参照。
- 游説 … 自分の意見・政策などを各地の諸侯に説いて回ること。「游」は「遊」と同じ。「説」は「ゼイ」と読む。
- 不用 … 「もちいられず」と受身に読む。採用されなかった。
乃往説燕文侯、與趙從親。
乃ち往きて燕の文侯に説き、趙と従親せしめんとす。
- 乃 … 「すなわち」と読み、「そこで」と訳す。
- 燕 … 春秋・戦国時代の国。戦国七雄(秦・楚・斉・燕・趙・魏・韓)の一つ。ウィキペディア【燕 (春秋)】参照。
- 文侯 … 戦国時代の燕の君主。在位前362~前333。ウィキペディア【文公 (戦国燕)】参照。
- 趙 … 戦国時代の国。戦国七雄(秦・楚・斉・燕・趙・魏・韓)の一つ。ウィキペディア【趙 (戦国)】参照。
- 与(與) … 通常は「~と…と」と読み、「~と…と」と訳すが、ここでは主語(燕)が省略されているため、「…と」と読み、「…と」と訳す。主語(燕)を補い「燕与趙」とした場合は「燕と趙と」と読み、「燕と趙と」と訳す。
- 従親 … 「従親せしめんとす」と使役に読む。合従(南北に同盟を結ぶ)して、親密にすること。「従」は「縦」と同じで南北の意。「従合」とほぼ同義。
燕資之、以至趙。
燕之に資し、以て趙に至らしむ。
- 之 … 蘇秦を指す。
- 資 … 資金を与えること。
- 至 … 「いたらしむ」と使役に読む。行かせた。赴かせた。
説肅侯曰、諸侯之卒、十倍於秦。
粛侯に説いて曰く、諸侯の卒、秦に十倍す。
- 肅侯 … 戦国時代の趙の君主。在位前350~326。ウィキペディア【粛侯 (趙)】参照。
- 卒 … 兵士。兵卒。兵力。
幷力西向、秦必破矣。
力を并せて西に向わば、秦必ず破れん。
- 并 … 合わせる。一つにする。「併」と同じ。
爲大王計、莫若六國從親以擯秦。
大王の為に計るに、六国従親して以て秦を擯くるに若くは莫し、と。
- 六国 … 秦に対抗しようとした戦国時代の六つの国。韓・魏・趙・斉・楚・燕。ウィキペディア【六国】参照。
- 擯 … 追い払う。排斥する。
- 莫若~ … 「~(する)にしくはなし」と読み、「~に及ぶものはない」「~(するの)が一番よい」と訳す。比較の意を示す。「莫如~」も同じ。
肅侯乃資之、以約諸侯。
粛侯乃ち之に資し、以て諸侯に約せしむ。
- 約 … 「やくせしむ」と使役に読む。同盟を結ばせた。
蘇秦以鄙諺説諸侯曰、
蘇秦、鄙諺を以て諸侯に説いて曰く、
- 鄙諺 … 世間で使われている俗っぽいことわざ。通俗的なことわざ。
寧爲雞口、無爲牛後。
寧ろ鶏口と為るとも、牛後と為る無かれ、と。
- 寧為鶏口、無為牛後 … いっそ鶏のくちばしとなっても、牛の尻にはなるな。「寧~無…」は、「むしろ~するとも…するなかれ」と読み、「いっそ~しても、…するな」と訳す。選択の意を示す。
於是六國從合。
是に於いて六国従合す。
- 於是 … 「ここにおいて」と読み、「そこで」と訳す。ちなみに「是以」は「ここをもって」と読み、「こういうわけで」と訳す。「以是」は「これをもって」と読み、「この点から」と訳す。
- 従合 … 合従(南北に同盟を結ぶ)すること。南北に並ぶ六つの国が秦に対抗するため同盟すること。「従親」とほぼ同義。
〔史記、蘇秦列伝〕
臣聞鄙諺曰、寧爲雞口、無爲牛後。今西面交臂而臣事秦、何異於牛後乎。夫以大王之賢、挾彊韓之兵、而有牛後之名、臣竊爲大王羞之。
臣聞鄙諺曰、寧爲雞口、無爲牛後。今西面交臂而臣事秦、何異於牛後乎。夫以大王之賢、挾彊韓之兵、而有牛後之名、臣竊爲大王羞之。
臣聞く、鄙諺に曰く、寧ろ鶏口と為るとも、牛後と為る無かれ、と。今、西面し、臂を交えて秦に臣事するは、何ぞ牛後に異ならんや。夫れ大王の賢を以て、彊韓の兵を挟みて、而も牛後の名有るは、臣窃かに大王の為に之を羞ず、と。
- 臣事 … 臣下として仕えること。
- 彊韓 … 強い韓。
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