朝三暮四
朝三暮四
- 出典:『列子』黄帝(ウィキソース「列子/黃帝篇」参照)、『荘子』斉物論
- 解釈:目の前の相違にとらわれて、結果が同じになることに気づかないこと。宋の国に猿をたくさん飼っている者がいた。ある時、飼っていた猿に、トチの実を朝に三つ、暮れに四つ与えると言ったら猿が少ないと怒り出したので、朝に四つ、暮れに三つ与えると言ったところ、猿が喜んだという故事から。
- 列子 … 八巻。道家の思想書。戦国時代の道家の思想家、列禦寇の作といわれる。寓話が多く、独創性が低い。ウィキペディア【列子】参照。
〔列子、黄帝〕
宋有狙公者。
宋有狙公者。
宋に狙公なる者有り。
- 宋 … 春秋戦国時代の国名。周が殷を滅ぼしたのち、微子を封じて建てた国。今の河南省商邱県。ウィキペディア【宋 (春秋)】参照。
- 狙公 … 猿を飼う者。猿回し。
愛狙養之成群。
狙を愛し之を養いて群を成す。
- 狙 … 猿。
能解狙之意、狙亦得公之心。
能く狙の意を解し、狙も亦た公の心を得たり。
- 能 … 「よく」と読み、「~できる」と訳す。可能の意を表す。
- 解狙之意 … 猿の気持ちを理解する。
- 亦 … 「(も)また~」と読み、「~もまた」「~も同様に」と訳す。
- 得 … わかる。理解する。
- 得公之心 … 狙公の気持ちを理解する。
損其家口、充狙之欲。
其の家口を損して、狙の欲を充たせり。
- 家口 … 家族の口に入る食べ物の分量。
- 損 … 減らす。
- 充 … 満足させる。
俄而匱焉。
俄かにして匱し。
- 俄 … 急に。
- 而 … 置き字。順接の働きをする。直前の語に「~て」「~して」と送り仮名をつける。
- 匱 … 食べ物が尽きてなくなること。米びつが空っぽになっているさま。
- 焉 … 断定の気持ちを示す置き字。訓読しない。
將限其食。
将に其の食を限らんとす。
- 将 … 「まさに~んとす」と読み、「~しようとする」と訳す。再読文字。
- 限 … 制限する。
恐衆狙之不馴於己也、先誑之曰、
衆狙の己に馴れざらんことを恐るるや、先ず之を誑きて曰く、
- 衆狙 … おおぜいの猿。
- 馴 … なれる。動物がなつき従うこと。
- 恐 … 心配して。
- 誑 … だます。
與若芧、朝三而暮四、足乎。
若に芧を与うるに、朝に三にして暮に四にせん、足るか、と。
- 若 … 「なんじ」と読む。二人称の代名詞。ここでは猿たちを指すので「お前たち」と訳す。
- 芧 … とちの実。どんぐりの一種。
- 朝三而暮四 … 朝に三つ、夕方に四つとしよう。
- 足 … 足りる。
- 乎 … 「か」と読み、「~であろうか」「~だろうか」と訳す。疑問の終助詞。
衆狙皆起而怒。
衆狙皆起ちて怒る。
- 起 … 両足で立ち上がって。
俄而曰、與若芧、朝四而暮三、足乎。
俄かにして曰く、若に芧を与うるに、朝に四にして暮に三にせん、足るか、と。
- 朝四而暮三 … 朝に四つ、夕方に三つとしよう。
衆狙皆伏而喜。
衆狙皆伏して喜ぶ。
- 伏 … ひれ伏す。
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