宿石邑山中(韓翃)
宿石邑山中
石邑山中に宿す
石邑山中に宿す
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻二百四十五、『韓君平集』巻下(『唐五十家詩集』所収)、『唐詩品彙』巻四十九、趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十五(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)、『唐人万首絶句選』巻三、他
- 七言絶句。齊・迷・西(平声齊韻)。
- ウィキソース「宿石邑山中 (韓翃)」参照。
- 詩題 … 『全唐詩』巻二百八十三に李益の詩として重出。ウィキソース「宿石邑山中 (李益)」参照。
- 石邑 … 河北省石家荘市の西、鹿泉県(今の河北省石家荘市鹿泉区)の古名。唐代は獲鹿県と改称された。『元和郡県図志』河北道、恒州の条に「獲鹿県は、本漢の石邑県の地、常山郡に属す。隋の開皇十六年、此に於いて鹿泉県を置く。……石邑県は、本戦国時の中山邑なり、史記に、趙の武霊王は中山を攻め、石邑を取るとは是なり。漢は此に於いて石邑県を置き、常山郡に属し、後漢に至って隋は改めず、皇朝之に因る」(獲鹿縣、本漢石邑縣地、屬常山郡。隋開皇十六年、於此置鹿泉縣。……石邑縣、本戰國時中山邑也、史記趙武靈王攻中山、取石邑是也。漢於此置石邑縣、屬常山郡、後漢至隋不改、皇朝因之)とある。ウィキソース「元和郡縣圖志/卷17」参照。ウィキペディア【鹿泉区】参照。
- 石邑山 … 今の河北省石家荘市鹿泉区にある山。一名西屏山。標高が高く、奇景と称される。『大明一統志』に「西屏山は、獲鹿県の西三十里に在り。高さ数百丈、峰巒連亘し、宛も刻屏の若し。毎冬雪霽れて之を望まば、氷封じ玉削るが如く、一郡中の奇景なり」(西屏山、在獲鹿縣西三十里。髙數百丈、峯巒連亘、宛若刻屏、每冬雪霽望之、如氷封玉削、一郡中之竒景也)とある。峰巒は、連なった山々。連亘は、長く連なり続くこと。ウィキソース「明一統志 (四庫全書本)/卷03」参照。
- 宿 … 宿泊する。
- この詩は、作者が旅の途中に石邑山に遊び、山中に宿泊したときの作。この山が天下の奇勝であることを詠んでいる。
- 韓翃 … 生没年不詳。中唐の詩人。南陽(河南省南陽市)の人。字は君平。天宝十三載(754)、進士に及第。淄青節度使の侯希逸(720~781)に招かれて幕下に入ったが、辞任してから約十年間流浪生活を送った。のち宣武軍(河南省開封市)節度使李勉(717~788)の幕下に入った。その後、徳宗(在位779~805)に認められて駕部郎中・知制誥に任ぜられ、中書舎人で終わった。盧綸・銭起・司空曙・耿湋らとともに大暦十才子の一人。『韓君平詩集』一巻がある。ウィキペディア【韓コウ】参照。
浮雲不共此山齊
浮雲も此の山と斉しからず
- 浮雲 … 空に浮ぶ雲。
- 此山 … この山。石邑山を指す。
- 共 … ここでは「~と」と読み、「~と」と訳す。与に同じ。
- 不~斉 … 等しくない。浮き雲が石邑山ほど高くないということ。
- 浮雲不共此山齊 … 「古詩十九首」(『文選』巻二十九、『玉台新詠』巻一)の第五首に「西北に高楼有り、上は浮雲と斉し」(西北有高樓、上與浮雲齊)とあるのに基づく。ウィキソース「西北有高樓」参照。
山靄蒼蒼望轉迷
山靄蒼蒼として望み転た迷う
- 山靄 … 山にかかる靄。
- 蒼蒼 … 深い青さ。青黒い色の形容。曹植の「白馬王彪に贈る」(『文選』巻二十四)に「太谷は何ぞ寥廓たる、山樹鬱として蒼蒼たり」(太谷何寥廓、山樹鬱蒼蒼)とある。寥廓は、広大で空虚なさま。ウィキソース「贈白馬王彪」参照。
- 望 … 眺めやると。眺めわたせば。『全唐詩』には「一作翠」とある。
- 転 … いよいよ。ますます。
- 迷 … 方角に迷う。
曉月暫飛千樹裏
暁月暫く飛ぶ 千樹の裏
- 暁月 … 明け方の月。有明の月。残月。名残の月。明け方の空に残っている月。鮑照の「舞鶴の賦」(『文選』巻十四)に「星翻り漢迴り、暁月将に落ちんとす」(星翻漢迴、曉月將落)とある。ウィキソース「舞鶴賦」参照。
- 暫飛 … にわかに飛ぶように移ってゆく。
- 暫 … にわかに。たちまち。『春秋左氏伝』僖公三十三年に「武夫力めて諸を原に拘え、婦人暫かにして諸を国に免す」(武夫力而拘諸原、婦人暫而免諸國)とあり、その注に「暫は、猶お卒のごとし」(暫、猶卒也)とある。卒は、にわかにの意。『春秋左傳集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)、ウィキソース「春秋左氏傳/僖公」参照。
- 千樹裏 … 多くの木々の間を。
- 千 … 『全唐詩』では「高」に作り、「一作千」とある。『唐五十家詩集本』では「高」に作る。
秋河隔在數峰西
秋河は隔てて数峰の西に在り
- 秋河 … 天の川。銀河。秋によく見えるので秋河という。謝朓の「暫く下都に使いし、夜新林を発して京邑に至らんとす。西府の同僚に贈る」(『文選』巻二十六)に「秋河は曙に耿耿たり、寒渚は夜蒼蒼たり」(秋河曙耿耿、寒渚夜蒼蒼)とある。ウィキソース「昭明文選/卷26」参照。
- 隔 … 遠く隔てて。
- 在数峰西 … いくつかの峰の彼方、西の空にかかっている。
- 峰 … 『唐詩選』『全唐詩』『万首唐人絶句』では「峯」に作る。異体字。
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