終南望余雪(祖詠)
終南望餘雪
終南に余雪を望む
終南に余雪を望む
- ウィキソース「終南望餘雪」参照。
- この詩は、開元十二年(724)、祖詠が科挙の試験を受けたときの課題の詩であるという。このような詩は詩律または詩帖詩と呼ばれ、十二句からなる排律の体で作るのが通例であった。ところが祖詠はこの四句だけを提出した。ある人が「あまりにも短いではないか」と詰ったところ、祖詠は「これで意は十分尽くした」と答えたという。『唐詩紀事』巻二十に「有司、終南山に余雪を望む詩を試みる。……四句にして即ち有司に納む。或るひと之を詰る。詠曰く、意は尽くせり、と」(有司試終南山望餘雪詩。……四句即納于有司。或詰之。詠曰意盡)とある。有司は、官吏。ここでは、科挙の試験官。ウィキソース「唐詩紀事 (四庫全書本)/卷20」参照。
- 詩題 … 終南山に残っている雪を眺める。『全唐詩』には、題下に「有司此の題を試みるに、賦四句を詠じて即ち納む。或るひと之を詰るに、曰く、意は尽くせり、と」(有司試此題、詠賦四句即納。或詰之、曰意盡)と注する。『唐詩品彙』では「終南望餘雲」に作る。『万首唐人絶句』『唐詩紀事』では「終南山望餘雪」に作る。『文苑英華』では「終南霽色雪」に作る。『唐詩別裁集』では「望終南殘雪」に作る。『河岳英霊集』では「終南望餘雪作」に作る。『唐文粋』では「終南山望餘雪作」に作る。
- 終南 … 終南山。長安の南方にある山。現在の陝西省南部、秦嶺山脈の中部辺りを指す。別名南山、中南山、太乙山などともいう。ウィキペディア【終南山】参照。『括地志』雍州、万年県の条に「終南山は、一名中南山、一名太一山、一名南山、一名橘山、一名楚山、一名泰山、一名周南山、一名地脯山、雍州万年県の南五十里に在り」(終南山、一名中南山、一名太一山、一名南山、一名橘山、一名楚山、一名泰山、一名周南山、一名地脯山、在雍州萬年縣南五十里)とある。ウィキソース「括地志輯校」参照。また『詩経』秦風・終南に「終南に何か有る、条有り梅有り」(終南何有、有條有梅)とある。条は、ユズの木。梅は、ユズリハの木。ウィキソース「詩經/終南」参照。また『書経』禹貢篇に「荊・岐は既に旅し、終南・惇物より、鳥鼠に至る」(荊岐既旅、終南惇物、至于鳥鼠)とある。荊は、荊山。岐は、岐山。既に旅すとは、すでに道が通じたこと。惇物は、惇物山。鳥鼠は、鳥鼠山。ウィキソース「尚書/禹貢」参照。
- 余雪 … 消え残った雪。残雪。南朝斉の謝朓「高斎にて事を視る」詩(『古詩紀』巻六十九)に「余雪 青山に映じ、寒霧 白日に開く」(餘雪映靑山、寒霧開白日)とある。高斎は、高楼の書斎。事を視るとは、事務を調べること。寒霧は、寒々と立ち込めている霧。白日は、輝く太陽。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷069」参照。
- 祖詠 … 699~746?。盛唐の詩人。洛陽の人。王維とは幼友達。開元十二年(724)、進士に及第したが、生涯にわたり仕官せず、汝水(河南省の川)のほとりに隠棲し、樵漁の生活で終わったという。ウィキペディア【祖詠】参照。
終南陰嶺秀
終南 陰嶺秀で
- 陰嶺 … 陰る嶺。北側の峰をいう。長安からは、終南山の北側が見える。北側は陽が当たらないので前日に降った雪が残っている。盛唐の杜甫「西枝村に草堂を置く地を尋ね、夜賛公の土室に宿る二首」詩の第一首に「陽岡の暖かなるを求めんと要めて、陰嶺の沍えたるを陟るに苦しむ」(要求陽岡暖、苦陟陰嶺冱)とある。賛公は、かつて長安大雲寺の住持であった賛上人。陽岡は、日当たりのよい丘。南に面する丘。沍えたるとは、冷たいこと。陟るとは、渉り歩くこと。ウィキソース「全唐詩/卷218」参照。
- 秀 … 高くぬきんでる。高く聳える。
積雪浮雲端
積雪 雲端に浮ぶ
- 積雪 … 積もった雪。戦国時代、楚の宋玉「笛の賦」(『古文苑』巻二)に「其の陰には則ち積雪凝霜、霧露生ず」(其陰則積雪凝霜、霧露生焉)とある。凝霜は、凍り固まった霜。霧露は、霧と露。ウィキソース「古文苑 (四庫全書本)/卷02」参照。また、南朝梁の沈約「竟陵王に賀し奉る薬名」詩(『古詩紀』巻八十三)に「陽隰に辛夷を採り、寒山に積雪を望む」(陽隰採辛夷、寒山望積雪)とある。陽隰は、日の当たる湿地。辛夷は、モクレンの花。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷083」参照。
- 浮雲端 … 雲の端に浮かび上がって見える。「浮雲の端」と読んでもよい。南朝斉の謝朓「休沐して重ねて還る道中」詩(『文選』巻二十七)に「雲端に楚山見え、林表に呉岫微かなり」(雲端楚山見、林表呉岫微)とある。休沐は、官吏の休暇。沐は、髪を洗うこと。唐代では十日ごとに、家に帰り沐浴することが許された。呉岫は、呉の深い山あい。ウィキソース「昭明文選/卷27」参照。
林表明霽色
林表 霽色明らかに
城中增暮寒
城中 暮寒を増す
- 城中 … 城壁に取り囲まれた町の中。ここでは、長安の町の中を指す。南朝梁の費昶「華光省にて中夜城外の擣衣を聞く」詩(『玉台新詠』巻六)に「秋気 城中に冷やかに、秋砧 城外に発す」(秋氣城中冷、秋砧城外發)とある。秋砧は、秋打つ砧の音。なお、華光省を華觀省に作るテキストもあるが、誤り。ウィキソース「華觀省中夜聞城外擣衣」参照。
- 暮寒 … 夕暮れの寒さ。盛唐の杜甫「暮寒」詩に「沈沈として春色静かに、惨惨として暮寒多し」(沈沈春色靜、慘慘暮寒多)とある。沈沈は、静かで音がしないさま。惨惨は、薄暗く冷たいさま。ウィキソース「全唐詩/卷228」参照。
詩型・韻字
- 五言絶句。
- 端・寒(上平声寒韻)。
テキスト
- 『箋註唐詩選』巻六(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
- 『全唐詩』巻一百三十一(排印本、中華書局、1960年)
- 『唐詩三百首注疏』巻六上・五言絶句(廣文書局、1980年)
- 『文苑英華』巻一百五十五(影印本、中華書局、1966年)※詩題:終南霽色雪
- 『万首唐人絶句』五言・巻十六(明嘉靖本影印、文学古籍刊行社、1955年)※詩題:終南山望餘雪
- 『唐詩解』巻二十二(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
- 『唐詩品彙』巻四十([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)※詩題:終南望餘雲
- 『唐詩別裁集』巻十九([清]沈徳潜編、乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)※詩題:望終南殘雪
- 『古今詩刪』巻二十(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、汲古書院)
- 『河岳英霊集』巻下(傅璇琮編撰『唐人選唐詩新編』、陝西人民教育出版社、1996年)※詩題:終南望餘雪作
- 『唐詩紀事』巻二十([宋]計有功輯撰、上海古籍出版社、1987年)※詩題:終南山望餘雪作
- 『唐文粋』巻十六上(姚鉉撰、明嘉靖本影印、『四部叢刊 初篇集部』所収)※詩題:終南山望餘雪作
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