過香積寺(王維)
過香積寺
香積寺に過る
香積寺に過る
- 五言律詩。峰・鐘・松・龍(上平声冬韻)。
- ウィキソース「過香積寺」参照。
- 過香積寺 … 『全唐詩』には「一に王昌齢詩に作る」(一作王昌齡詩)とある。『文苑英華』では王昌齢の作として収録。
- 香積寺 … 長安の南、神禾原にある寺。浄土教の高僧、善導大師を供養するために弟子たちが建立した。ウィキペディア【香積寺 (西安市)】参照。『雍録』寺観、香積寺の条に「香積寺は、呂の図に子午谷の正北微西に在り。郭子儀、粛宗の時長安を収むるに、寺の北に陳す」(香積寺、呂圖在子午谷正北微西。郭子儀肅宗時收長安、陳於寺北)とある。呂は、北宋の政治家、呂大防(1027~1097)のこと。ウィキソース「雍錄/卷10」参照。また『読史方輿紀要』陝西二、西安府、香積寺の条に「府の西南に在り。唐の至徳二載(757)、郭子儀、扶風より兵を進め西京を収め、長安の西に至り、香積寺の北、灃水の東に陳す」(在府西南。唐至德二載、郭子儀自扶風進兵收西京、至長安西、陳於香積寺北、灃水之東)とある。ウィキソース「讀史方輿紀要/卷五十三」参照。
- 過 … 「よぎる」と読む。立ち寄る。訪れる。『史記』田叔伝に「会〻賢大夫少府趙禹来りて衛将軍に過る」(會賢大夫少府趙禹來過衛將軍)とある。ウィキソース「史記/卷104」参照。
- 王維 … 699?~761。盛唐の詩人、画家。太原(山西省)の人。字は摩詰。開元七年(719)、進士に及第。安禄山の乱で捕らえられたが事なきを得、乱後は粛宗に用いられて尚書右丞(書記官長)まで進んだので、王右丞とも呼ばれる。また、仏教に帰依したため、詩仏と称される。『王右丞文集』十巻がある。ウィキペディア【王維】参照。
不知香積寺
香積寺を知らず
- 不知香積寺 … 香積寺がどこにあるかも知らず。
數里入雲峰
数里 雲峰に入る
- 数里 … 唐代の一里は、五五九・八メートル。
- 雲峰 … 雲のかかっている高い山。南朝宋の謝霊運「従弟恵連に酬ゆ」詩(『文選』巻二十五)に「瘵に寝ねて人徒を謝し、迹を滅して雲峰に入る」(寢瘵謝人徒、滅迹入雲峰)とある。人徒を謝すは、人との交際を避けること。ウィキソース「昭明文選/卷25」参照。
- 峰 … 多くのテキストでは「峯」に作る。異体字。
古木無人徑
古木 人径無く
- 古木 … 長い年月を経ている木々。老木。
- 人徑 … 人の通う小道。南朝梁の沈約「沈道士の館に遊ぶ」詩(『文選』巻二十二)に「都べて人径をして絶えしめ、唯だ雲路をして通ぜしむ」(都令人徑絶、唯使雲路通)とある。ウィキソース「遊沈道士館」参照。
- 徑 … 『静嘉堂本』『蜀刊本』『四部叢刊本』『顧可久注本』『全唐詩』では「逕」に作る。同義。
- 古木無人徑 … 『三体詩』では「古路無人迹」に作る。
深山何處鐘
深山 何れの処の鐘ぞ
- 深山 … 奥深い山。『荘子』譲王篇に「是に於いて去りて深山に入り、其の処を知る莫し」(於是去而入深山、莫知其處)とある。ウィキソース「莊子/讓王」参照。
- 深 … 『文苑英華』では「空」に作る。
- 何処鐘 … 鐘の音はどこで打ち鳴らしているのだろうか。
- 鐘 … 『四部叢刊本』『顧可久注本』『文苑英華』『唐詩品彙』では「鍾」に作る。同義。
泉聲咽危石
泉声 危石に咽び
日色冷青松
日色 青松に冷やかなり
- 日色 … 日の光。南朝梁の江淹の詩「無錫県歴山の集い」に「嵐気 陰くして極まらず、日色 半ば天を虧く」(嵐氣陰不極、日色半虧天)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷085」参照。
- 青松 … 美しく緑に茂った松。西晋の潘岳「大駕を迎う」詩(『文選』巻二十六)に「青松は脩嶺を蔭い、緑蘩は広隰に被る」(青松蔭脩嶺、綠蘩被廣隰)とある。大駕は、天子の乗り物。脩嶺は、長い嶺。緑蘩は、緑のよもぎ。広隰は、広い沢。ウィキソース「昭明文選/卷26」参照。
- 冷 … (日の光が)冷たい色を湛えている。
薄暮空潭曲
薄暮 空潭の曲
- 薄暮 … 夕暮れ。魏武帝の楽府「苦寒行」(『文選』巻二十七、『楽府詩集』巻三十三)に「迷惑して故路を失い、薄暮に宿栖する無し」(迷惑失故路、薄暮無宿栖)とある。故路は、もと来た道。ウィキソース「昭明文選/卷27」参照。
- 空潭 … 人気のない淵。
- 曲 … ほとり。くま。
安禪制毒龍
安禅 毒竜を制す
- 安禅 … 静かに坐禅すること。陳の江総「明慶寺」詩に「金河は証果を知り、石室は乃ち安禅なり」(金河知證果、石室乃安禪)とある。証果は、修行によって得た悟りのこと。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷115」参照。
- 毒竜 … 毒をもった竜。煩悩にたとえる。『洛陽伽藍記』に「三日にして不可依山に至る。其の処は甚だ寒く、冬夏積雪あり。山中に池有り、毒竜之に居る。昔三百商人有り、池の側に止宿す、竜の忿怒に値い、泛く商人を殺す。盤陀王之を聞き、位を舎て子に与え、烏場国に向かいて婆羅門の呪を学び、四年の中、尽く其の術を得たり。復た王の位に還り、池に就いて竜を呪す。竜変じて人と為り、過ちを悔いて王に向かう。王即ち之を蔥嶺山に徙す」(三日至不可依山。其處甚寒、冬夏積雪。山中有池、毒龍居之。昔有三百商人、止宿池側、値龍忿怒、泛殺商人。盤陀王聞之、舍位與子、向烏場國學婆羅門咒、四年之中、盡得其術。還復王位、就池咒龍。龍變爲人、悔過向王。王即徙之蔥嶺山)とある。ウィキソース「洛陽伽藍記/卷五」参照。
テキスト
- 『箋註唐詩選』巻三(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
- 『全唐詩』巻一百二十六(中華書局、1960年)
- 『王右丞文集』巻四(静嘉堂文庫蔵、略称:静嘉堂本)
- 『王摩詰文集』巻六(書韻楼叢刊、上海古籍出版社、2003年、略称:蜀刊本)
- 『須渓先生校本唐王右丞集』巻四(『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:四部叢刊本)
- 顧起経注『類箋唐王右丞詩集』巻四(台湾学生書局、1970年、略称:顧起経注本)
- 顧可久注『唐王右丞詩集』巻四(『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、略称:顧可久注本)
- 趙殿成注『王右丞集箋注』巻七(中国古典文学叢書、上海古籍出版社、1998年、略称:趙注本)
- 『唐詩三百首注疏』巻四・五言律詩(廣文書局、1980年)
- 『増註三体詩』巻三・五言律詩・前虚後実(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)
- 『唐詩品彙』巻六十一([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
- 『唐詩解』巻三十六(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
- 『唐詩別裁集』巻九(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
- 『文苑英華』巻二百三十四(影印本、中華書局、1966年)※王昌齢の作として収録
- 『古今詩刪』巻十四(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収)
- 松浦友久編『校注 唐詩解釈辞典』大修館書店、1987年
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