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送客知鄂州(韓翃)

送客知鄂州
かくがくしゅうたるをおく
韓翃かんこう
  • 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻二百四十五、『韓君平集』巻下(『唐五十家詩集』所収)、『唐詩品彙』巻四十九、趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十五(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)、『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、62頁)、『唐詩別裁集』巻二十、『唐人万首絶句選』巻三、他
  • 七言絶句。雲・紛・君(平声文韻)。
  • ウィキソース「送客知鄂州」参照。
  • 客 … ここでは、ある人の意。また、作者の家に客人として寄寓していた人という解釈もある。
  • 鄂州 … 今の湖北省武昌区。『読史方輿紀要』湖広、武昌府の条に「武昌府、禹貢荊州の域。春秋の時楚に属し、之をぜいと謂う。……隋、陳を平らげ、郡を廃し、改めて鄂州を置く」(武昌府、禹貢荊州之域。春秋時屬楚、謂之夏汭。……隋平陳、郡廢、改置鄂州)とある。ウィキソース「讀史方輿紀要/卷七十六」参照。ウィキペディア【武昌区】参照。
  • 知 … 知事。地方長官。ここでは刺史(州の長官)を指す。『全唐詩』には「一作之」とある。こちらは「く」と読む。『万首唐人絶句』『唐詩別裁集』『唐人万首絶句選』では「之」に作る。
  • 送 … 見送る。
  • この詩は、ある人が鄂州(今の湖北省武昌区)の刺史となって赴任するのを見送ったもの。
  • 韓翃 … 生没年不詳。中唐の詩人。南陽(河南省南陽市)の人。あざなは君平。天宝十三載(754)、進士に及第。せい節度使のこういつ(720~781)に招かれて幕下に入ったが、辞任してから約十年間流浪生活を送った。のち宣武軍(河南省開封市)節度使べん(717~788)の幕下に入った。その後、徳宗(在位779~805)に認められて駕部郎中・知制誥に任ぜられ、中書舎人で終わった。盧綸・銭起・司空曙・耿湋らとともに大暦十才子の一人。『韓君平詩集』一巻がある。ウィキペディア【韓コウ】参照。
江口千家帶楚雲
江口こうこうせん うん
  • 江口 … 川のほとり。長江のほとり。江頭に同じ。鄂州は長江と漢水との合流点にある。
  • 千家 … 何千軒もの家並み。無数の人家。鄂州の町を指す。
  • 楚雲 … 楚の空に浮かぶ雲。楚は、湖北・湖南省一帯を指す。鄂州は昔の楚の地。
  • 帯 … そばに伴う。接する。連なる。まとう。
江花亂點雪紛紛
こう乱点らんてんしてゆき紛紛ふんぷんたらん
  • 江花 … 川のほとりに咲く花。
  • 乱点 … あちこちに乱れ散ること。
  • 雪 … 雪のように。
  • 紛紛 … 落花が入り乱れて散るさま。梁の呉均「湘州を発せんとして親故に贈って別るる詩三首 其の三」(『古詩紀』巻九十一、『文苑英華』巻二百八十六)に「りゅうひんまさ繞繞じょうじょうたり、落葉らくよう紛紛ふんぷんたり」(流蘋方繞繞、落葉尚紛紛)とある。流蘋は、流れうつる浮き草。繞繞は、まつわりつくこと。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷091」参照。
春風落日誰相見
しゅんぷう落日らくじつ たれあい
  • 春風落日 … 春風吹く夕暮れ時に。
  • 誰相見 … 君は誰に会われるのだろう。
靑翰舟中有鄂君
青翰せいかん舟中しゅうちゅう 鄂君がくくんらん
  • 青翰舟 … せいじゃく舟とも。船首に青雀、すなわちげきという水鳥の形の飾りをつけた船。翰は、鳥の羽。楚の貴公子、鄂君がくくんせきはたいへんな美男子であった。ある日、青翰の舟に乗り、管弦の遊びをしたとき、越人の漕ぎ手がその美しさを讃えて歌った。鄂君はその漕ぎ手を抱擁し、刺繍のかいまきで覆い包んだという故事を踏まえる。『説苑』善説篇に「君独り鄂君がくくんせきが舟を新波の中にうかべしを聞かずや。青翰の舟に乗り、りょうを極め、翠蓋すいがいを張ってさいち、褂衽かいじんを班麗にし、鍾鼓の音おわるに会うや、榜枻ぼうえい越人えつひと楫を擁して歌う。歌辞に曰く、濫として草にべんし、しょうを濫にし、予が昌州を沢す、……鄂君子皙曰く、われ越の歌を知らず、子試みに我が為に之を楚説せよと。是に於いて乃ち越のやくを召して、乃ち之を楚説して曰く、今夕こんせきは何の夕べぞ、中洲の流れにかかる。今日は何の日ぞ、王子と舟を同じくするを得たり。羞を蒙り好を被れども、こうおもわず。心ほとんど頑にして絶えず、王子を得るを知らんや。山に木有り、木に枝有り。心に君をよろこべども君知らずと。是に於いて鄂君子皙、乃ちしゅうべいき、いて之を擁し、しゅうを挙げて之を覆う。鄂君子皙は、親しきこと楚王の母弟なり」(君獨不聞夫鄂君子皙之汎舟於新波之中也。乘青翰之舟、極䓣芘、張翠蓋而㩉犀尾、班麗褂衽、會鍾鼓之音畢、榜枻越人擁楫而歌。歌辭曰、濫兮抃草、濫予昌枑、澤予昌州、……鄂君子皙曰、吾不知越歌、子試為我楚說之。於是乃召越譯、乃楚說之曰、今夕何夕、搴中洲流。今日何日兮得與王子同舟。蒙羞被好兮、不訾詬恥。心幾頑而不絕兮知得王子。山有木兮木有枝。心說君兮君不知。於是鄂君子皙乃㩉脩袂、行而擁之、舉繡被而覆之。鄂君子皙、親楚王母弟也)とある。ウィキソース「說苑/卷11」参照。
  • 鄂君 … 戦国時代、楚国の公子。生没年不詳。名は啓、あざなせき。頃襄王(在位前298~前263)の同母弟。父は懐王。美男子として有名。ウィキペディア【鄂君启】(中文)参照。「有鄂君」は、鄂君のような美しい人が舟に乗っていることだろう、鄂君のような美少年と会われるのだろう、の意。
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