山房春事(岑参)
山房春事
山房春事
山房春事
- 七言絶句。鴉・家・花(下平声麻韻)。
- ウィキソース「山房春事 (梁園日暮亂飛鴉)」「山房春事二首」参照。
- 詩題 … 『全唐詩』『前唐十二家詩本』『唐五十家詩集本』『四部叢刊本』『寛保刊本』『岑嘉州詩箋注』『岑参詩集編年箋注』では「山房春事二首其二」に作る。『万首唐人絶句』七言・巻六十七(嘉靖刊本)では第一首のみ収録し、第二首である本詩は収録していない。『万首唐人絶句』(万暦刊本)では、二首ともに収録しているが、連続して収録しておらず、詩題もそれぞれ単に「山房春事」となっている。
- 山房 … 山中の家。山中の庵。
- 春事 … 春に当たって感じたこと。春景色に感じたこと。「春興」に同じ。
- この詩は、作者が梁園の廃墟を訪れ、その春景色を見て懐古の情をおこして詠んだもの。詩題と詩の内容とが一致しない。
- 岑参 … 715~770。盛唐の詩人。荊州江陵(現在の湖北省荊州市江陵県)の人。天宝三載(744)、進士に及第。西域の節度使の幕僚として長く辺境に勤務したのち、右補闕・虢州長史(次官)・嘉州刺史などを歴任した。辺塞詩人として高適とともに「高岑」と並び称される。『岑嘉州集』七巻がある。ウィキペディア【岑参】参照。
梁園日暮亂飛鴉
梁園 日暮 乱飛の鴉
- 梁園 … 梁苑。漢の文帝の子、梁の孝王が築き、客を集めた庭園。兎園・修竹園ともいう。現在の河南省開封市付近にあった。『元和郡県図志』河南道、宋州に「兔園、(宋城)県の東南十里」(兔園、縣東南十里)とある。ウィキソース「元和郡縣圖志/卷07」参照。また『西京雑記』巻二に「梁の孝王、宮室・苑囿を営むの楽しみを好む。曜華の宮を作り、兎園を築く。園上に百霊山有り。山に膚寸石、落猿巌、棲竜岫有り。又た雁池有り。池間に鶴洲・鳧渚有り。其の諸の宮観相連なり、延べ数十里に亘る。奇果・異樹、瑰禽・怪獣畢く備わる。王、日に宮人・賓客と、其の中に弋釣す」(梁孝王好營宮室苑囿之樂。作曜華之宮、築兔園。園上有百靈山。山有膚寸石、落猿巖、棲龍岫。又有雁池。池間有鶴洲鳧渚。其諸宮觀相連、延亘數十里。奇果異樹、瑰禽怪獸畢備。王日與宮人賓客、弋釣其中)とある。苑囿は、鳥や獣を放し飼いにする庭。鳧渚は、かもの游ぶなぎさ。弋釣は、狩りや釣りをすること。ウィキソース「西京雜記/卷二」参照。
- 日暮 … 日暮れ時。後漢の蔡琰の楽府「胡笳十八拍」(『楽府詩集』巻五十九、『楚辞後語』巻三)の第七拍に「日は暮れ風は悲しくして辺声は四もに起こり、知らず愁心は説うこと誰に向かいて是なる」(日暮風悲兮邊聲四起、不知愁心兮說向誰是)とある。ウィキソース「胡笳十八拍」「樂府詩集/059卷」「楚辭集注 (四庫全書本)/後語卷3」参照。
- 乱飛 … 乱れ飛ぶ。
- 鴉 … からす。
極目蕭條三兩家
極目蕭条たり 三両家
- 極目 … 見渡す限り。目の届く限り。『楚辞』招魂に「湛湛たる江水、上に楓有り。目は千里を極めて、春心を傷ましむ」(湛湛江水兮、上有楓。目極千里兮、傷春心)とある。ウィキソース「楚辭/招䰟」参照。また魏の王粲「登楼の賦」(『文選』巻十一)に「平原遠くして目を極め、荊山の高岑に蔽わる」(平原遠而極目兮、蔽荊山之高岑)とある。ウィキソース「登樓賦」参照。
- 蕭条 … 荒れ果てて物寂しいさま。『楚辞』遠遊に「山は蕭条として獣無く、野は寂漠として其れ人無し」(山蕭條而無獸兮、野寂漠其無人)とある。ウィキソース「楚辭/遠遊」参照。また、後漢の班固「西都の賦」(『文選』巻一)に「原野蕭条として、目四裔を極む」(原野蕭條、目極四裔)とある。四裔は、四方の遠い果て。ウィキソース「西都賦」参照。また、後漢の班彪「北征の賦」(『文選』巻九)に「野蕭条として以て莽蕩たり、千里に迥かにして家無し」(野蕭條以莽蕩、迥千里而無家)とある。莽蕩は、草原が広々としたさま。ウィキソース「北征賦」参照。
- 三両家 … 二、三軒の家。わずかな家の数をいう。三両は、二つ三つ。両三。二三。
庭樹不知人去盡
庭樹は知らず 人の去り尽くすを
- 庭樹 … 庭の木々。魏の曹植「丁儀に贈る」詩(『文選』巻二十四)に「初秋に涼気発し、庭樹は微しく銷落す」(初秋涼氣發、庭樹微銷落)とある。銷落は、枯れ落ちること。ウィキソース「贈丁儀」参照。また、西晋の潘岳「秋興の賦」(『文選』巻十三)に「庭樹槭として以て灑落し、勁風戻として帷を吹く」(庭樹槭以灑落兮、勁風戾而吹帷)とある。秋興は、秋に感じる情趣。槭は、葉がしぼんで落ちるさま。灑落は、葉がさらりと落ちること。勁風は、強い風。ウィキソース「秋興賦」参照。
- 人去尽 … かつてここに遊んだ人が全部いなくなってしまったことを。
- 去 … 『全唐詩』では「死」に作り、「一作去」と注する。『前唐十二家詩本』『唐五十家詩集本』『寛保刊本』『万首唐人絶句』(万暦刊本)では「死」に作る。こちらの場合は「人の死に尽くすを」と読み、「かつてここに遊んだ人が全部亡くなってしまったことを」と訳す。
春來還發舊時花
春来 還た発く 旧時の花
- 春来 … 春になれば。春が来れば。劉宋の顔延之「秋胡の詩九首」(其八、『文選』巻二十一、『玉台新詠』巻四)に「春来たるも時に予しむこと無く、秋至れば恒に早く寒し」(春來無時豫、秋至恆早寒)とある。ウィキソース「秋胡詩 (顏延年)」参照。
- 還発 … また花を咲かせる。
- 還 … 「また」と読み、「もう一度」「再び」と訳す。「復」と同じ。中世以後の俗語。
- 發 … 『四部叢刊本』では「落」に作る。
- 旧時花 … 昔のままの花。
- 後半二句(転句・結句)は、劉廷芝「白頭を悲しむ翁に代る」詩の「年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず」(年年歳歳花相似、歳歳年年人不同)とほぼ同意。ウィキソース「代悲白頭翁」参照。
テキスト
- 『箋註唐詩選』巻七(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
- 『全唐詩』巻二百一(排印本、中華書局、1960年)
- 『岑嘉州集』巻下([明]許自昌編、『前唐十二家詩』所収、万暦三十一年刊、内閣文庫蔵)
- 『岑嘉州集』巻八(明銅活字本、『唐五十家詩集』所収、上海古籍出版社、1989年)
- 『岑嘉州詩』巻七(『四部叢刊 初篇集部』所収、第二次影印本、蕭山朱氏蔵明正徳刊本)
- 『岑嘉州詩』巻八(寛保元年刊、『和刻本漢詩集成 唐詩5』所収、汲古書院、略称:寛保刊本)
- 『唐詩品彙』巻四十八([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
- 『唐詩別裁集』巻十九([清]沈徳潜編、乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
- 『唐詩解』巻二十七(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
- 趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十二(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)
- 『古今詩刪』巻二十一(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、汲古書院)
- 廖立箋注『岑嘉州詩箋注』巻七(中国古典文学基本叢書、中華書局、2004年)
- 劉開揚箋注『岑参詩集編年箋注』(巴蜀書社、1995年)
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