封大夫破播仙凱歌二首 其二(岑参)
封大夫破播仙凱歌二首 其二
封大夫の播仙を破る凱歌二首 其の二
封大夫の播仙を破る凱歌二首 其の二
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻二百一、『岑嘉州詩』巻七(『四部叢刊 初編集部』所収)、『岑嘉州集』巻下(『前唐十二家詩』所収)、『岑嘉州集』巻八(『唐五十家詩集』所収)、『岑嘉州詩』巻八・寛保元年刊(『和刻本漢詩集成 唐詩5』所収、167頁、略称:寛保刊本)、『唐詩品彙』巻四十八、『唐詩別裁集』巻十九、趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十二(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)、『楽府詩集』巻二十、『唐人万首絶句選』巻三、他
- 七言絶句。鳴・城・營(平声庚韻)。
- ウィキソース「獻封大夫破播仙凱歌 (日落轅門鼓角鳴)」参照。
- 詩題 … 『全唐詩』『四部叢刊本』『前唐十二家詩本』『唐五十家詩集本』では「封大夫の播仙を破るに献ずる凱歌(獻封大夫破播仙凱歌)六首(章) 其四」に作る。『唐詩品彙』では「封大夫破播仙凱歌四章 其四」に作る。『万首唐人絶句』では「封大夫破播仙凱歌六首 其四」に作る。『楽府詩集』では「唐凱歌六首 其四」に作る。
- 封大夫 … 安西四鎮節度使の封常清(?~755)のこと。蒲州猗氏県(今の山西省運城市臨猗県)の人。天宝十三載(754)、入朝して御史大夫の官職を加えられたので、封大夫と呼んだ。ウィキペディア【封常清】参照。
- 播仙 … 地名。播仙鎮。新疆ウイグル自治区且末県の東北、車爾臣河の北岸にあった。『新唐書』地理志七下に「播仙鎮、故の且末城なり、高宗の上元中に名を更む」(播仙鎮、故且末城也、高宗上元中更名)とある。ウィキソース「新唐書/卷043下」参照。
- 凱歌 … 戦いに勝ったときに歌う祝いの歌。勝ちいくさの歌。勝利祝賀の歌。愷歌とも書く。『周礼』春官に「凡そ軍の大献には、愷歌を教えて、遂に之を倡えしむ」(凡軍大獻、教愷歌、遂倡之)とある。大献は、戦勝を祖廟に告げること。ウィキソース「周禮/春官宗伯」参照。
- 天宝十三載(754)三月、安西四鎮節度使の封常清は入朝して御史大夫の官職を加えられ、さらに北庭都護の兼務も命じられた。作者は封常清に迎えられ、安西北庭節度判官に任ぜられて北庭(今の新疆ウイグル自治区ジムサル県)に赴いた。その冬、封常清が播仙を破って凱旋した。この詩は、これを祝ったもの。
- 岑参 … 715~770。盛唐の詩人。湖北省江陵の人。天宝三載(744)、進士に及第。西域の節度使の幕僚として長く辺境に勤務したのち、右補闕・虢州長史(次官)・嘉州刺史などを歴任した。辺塞詩人として高適とともに「高岑」と並び称される。『岑嘉州集』七巻がある。ウィキペディア【岑参】参照。
日落轅門鼓角鳴
日落ちて轅門 鼓角鳴り
- 轅門 … 軍門のこと。轅は、車の轅。昔、野外に陣営を張るとき、周囲に車を並べて垣を作り、出入り口には二台の車を車輪が向き合うように立てたので、轅が門のように見えた。『春秋穀梁伝』昭公八年に「旃を置き以て轅門と為す」(置旃以爲轅門)とある。その注に「轅門は車を卬むけて、其の轅を以て門を表す」(轅門卬車、以其轅表門)とある。その疏に「車を以て営と為し、轅を挙げて門と為す」(以車爲營、舉轅爲門)とある。ウィキソース「春秋穀梁傳註疏/卷17」参照。
- 鼓角 … 太鼓と角笛。軍隊で時刻を告げるために打ち鳴らす。『楽書』に「革角は長さ五尺、形は竹筒の如し。本細く末大なり。唐の鹵簿及び軍中に之を用う。或いは竹木を以てし、或いは皮を以てし、定制有ること非ざるなり」(革角長五尺、形如竹筒。本細末大。唐鹵簿及軍中用之。或以竹木、或以皮、非有定制也)とある。鹵簿は、天子の行列。ウィキソース「樂書 (四庫全書本)/卷140」参照。
千羣面縛出蕃城
千群面縛して蕃城を出づ
- 千群 … 幾千もの敵兵の群れ。
- 面縛 … 両手をうしろ手に縛り、顔を前につき出す。降伏したものが無抵抗を示す姿勢。『春秋左氏伝』僖公六年に「許男は面縛して璧を銜み、大夫は衰絰し、士は櫬を輿す」(許男面縛銜璧、大夫衰絰、士輿櫬)とある。許は、春秋時代の諸侯国。銜璧は、璧を口にくわえて死者の様子をする。衰絰は、麻を織った古代の喪服。絰は、首または腰につける麻の紐や帯。輿櫬は、棺をかついで行くこと。古代、降伏するときの礼。死罪を受ける気持ちを表す。櫬は、棺。輿は、輿にのせる。ウィキソース「春秋左氏傳/僖公」参照。
- 蕃城 … 蕃族(えびすの種族)の城。蕃族の町。『周礼』秋官に「九州の外、之を蕃国と謂う」(九州之外謂之蕃國)とある。ウィキソース「周禮註疏/卷三十七」参照。
- 出 … 降参して出てきた。
洗兵魚海雲迎陣
兵を魚海に洗えば 雲 陣を迎え
- 洗兵 … 武器を洗う。兵は兵器。武器。『説苑』権謀篇に「武王、紂を伐つ。……風霽れて乗ずるに大雨を以てし、水地に平らかにして嗇る。散宜生又諫めて曰く、此れ其れ妖か、と。武王曰く、非なり、天兵を灑うなり」(武王伐紂。……風霽而乘以大雨、水平地而嗇。散宜生又諫曰、此其妖歟。武王曰、非也、天灑兵也)とある。ウィキソース「說苑/卷13」参照。
- 魚海 … 湖の名。古くは休屠沢、白亭海と呼んだ。今の内モンゴル自治区アルシャー右旗の境にあるという。
- 雲迎陣 … 雲がわが軍隊を迎えるように湧き起こる。
- 陣 … 『寛保刊本』では「陳」に作る。同義。
秣馬龍堆月照營
馬を竜堆に秣えば 月 営を照らす
- 秣馬 … 馬を一休みさせて、まぐさをやる。草を食べさす。「秣」は「まぐさかう」と読む。馬に飼い葉を与えること。
- 竜堆 … 白竜堆の略称。今の新疆ウイグル自治区東部、ロプノール湖の東にある砂漠。地形の起伏するさまが臥竜のように見えるところから名づけられたという。『漢書』匈奴伝に「能く白竜堆を踰えて西辺に寇するや」(能踰白龍堆而寇西邊哉)とある。ウィキソース「漢書/卷094下」参照。その注に「竜堆は形、土竜の身の如く、頭無くして尾有り。高さ大なる者は二三丈。埤き者は丈余。皆東北に向いて、相似たり。西域中に在り」(龍堆形如土龍身、無頭有尾。高大者二三丈。埤者丈餘。皆東北向、相似也。在西域中)とある。『漢書評林』巻九十四(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 月照営 … 月がわが陣営を皓皓と照らしている。平和が回復し、平穏無事になった様子を表している。
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