磧中作(岑参)
磧中作
磧中の作
磧中の作
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻二百一、『岑嘉州詩』巻七(『四部叢刊 初篇集部』所収)、『岑嘉州集』巻下(『前唐十二家詩』所収)、『岑嘉州集』巻八(『唐五十家詩集』所収)、『岑嘉州詩』巻八・寛保元年刊(『和刻本漢詩集成 唐詩5』所収、168頁、略称:寛保刊本)、『唐詩品彙』巻四十八、趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十二(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)、『唐詩別裁集』巻十九、他
- 七言絶句。天・圓・煙(平声先韻)。
- ウィキソース「磧中作」参照。
- 詩題 … 砂漠の中で作った詩。
- 磧 … 小石まじりの砂地。砂原。ここでは砂漠を指す。
- この詩は、作者が西征の途中、砂漠の中を通ったときに詠んだもの。天宝八載(749)の作。
- 岑参 … 715~770。盛唐の詩人。湖北省江陵の人。天宝三載(744)、進士に及第。西域の節度使の幕僚として長く辺境に勤務したのち、右補闕・虢州長史(次官)・嘉州刺史などを歴任した。辺塞詩人として高適とともに「高岑」と並び称される。『岑嘉州集』七巻がある。ウィキペディア【岑参】参照。
走馬西來欲到天
馬を走らせて西来 天に到らんと欲す
- 走馬西来 … 馬を走らせて西へ西へと進んで行けば。
- 走馬 … 馬を疾走させること。『詩経』大雅・緜の詩に「古公亶父、朝に来って馬を走らせ、西水の滸に率い、岐の下に至り、爰に姜女と、聿に来りて宇を胥る」(古公亶父、來朝走馬、率西水滸、至于岐下、爰及姜女、聿來胥宇)とある。古公亶父は、周の文王の祖父。及は「~と」と読む。ウィキソース「詩經/緜」参照。また曹植の「名都篇」(『文選』巻二十七)に「鶏を東郊の道に闘わし、馬を長楸の間に走らす」(鬪雞東郊道、走馬長楸間)とある。長楸は、長い楸の並木道。ウィキソース「名都篇」参照。
- 走 … 『前唐十二家詩本』では「」に作る。異体字。
- 西来 … 西へ進む。「来」は「~すると」の意を表す助辞。
- 欲到天 … 今にも天まで届きそうだ。
- 欲 … 「~(んと)ほっす」と読み、「今にも~しそうだ」と訳す。「~したいと思う」の意ではない。
辭家見月兩囘圓
家を辞して月の両回円かなるを見る
- 辞家 … 家を出てから。陸機の「顧彦先の為に婦に贈る二首 其の一」(『文選』巻二十四、『玉台新詠』巻三)に「家を辞して遠く行遊す、悠悠三千里」(辭家遠行遊、悠悠三千里)とある。ウィキソース「為顧彥先贈婦二首」参照。
- 辞 … 『前唐十二家詩本』では「辤」に作る。異体字。『四部叢刊本』では「離」に作る。
- 月両回円 … 月が二度満月になった。二か月経過したこと。
- 両回 … 二度。二回。
- 囘 … 「回」の異体字。『四部叢刊本』では「」(回の俗字)に作る。この字は元来「面」の古字で「回」とは別字。
今夜不知何處宿
今夜は知らず 何れの処にか宿せん
- 何処宿 … どこに泊まることになるのか。庾信の「烏夜啼」(『玉台新詠』巻九、『古詩源』巻十四、『楽府詩集』巻四十七)に「御史府中何れの処にか宿せん、洛陽城頭那ぞ棲むを得ん」(御史府中何處宿、洛陽城頭那得棲)とある。ウィキソース「烏夜啼 (庾信)」参照。
- 何処 … 「いずれのところにか~」と読み、「どこに~か」と訳す。
平沙萬里絕人煙
平沙万里 人煙を絶つ
- 平沙 … 広く平らな砂漠。「沙」は「砂」と同じ。李華の「古戦場を弔う文」(『古文真宝』後集、巻五)に「浩浩乎として平沙垠り無く、敻かに人を見ず」(浩浩乎平沙無垠、敻不見人)とある。ウィキソース「弔古戰場文」参照。また南朝梁の何遜の「慈姥磯」(『古詩源』巻十三、『古詩紀』巻九十四)に「野岸平沙合し、連山遠霧浮かぶ」(野岸平沙合、連山遠霧浮)とある。こちらの平沙は、平らな河原の砂地。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷094」参照。
- 万里 … きわめて広大であること。一万里の意から。
- 絶人煙 … 人家から立ち上る炊事の煙は、まったく見えない。曹植の「応氏を送る詩二首 其の一」(『文選』巻二十)に「中野何ぞ蕭条たる、千里に人煙無し」(中野何蕭條、千里無人煙)とある。ウィキソース「送應氏詩二首」参照。
- 煙 … 『四部叢刊本』では「」に作る。『万首唐人絶句』では「烟」に作る。いずれも異体字。
こちらもオススメ!
- 行軍九日思長安故園(五絶)
- 見渭水思秦川(五絶)
- 封大夫破播仙凱歌二首 其一(七絶)
- 封大夫破播仙凱歌二首 其二(七絶)
- 苜蓿烽寄家人(七絶)
- 玉関寄長安李主簿(七絶)
- 逢入京使(七絶)
- 虢州後亭送李判官使赴晋絳得秋字(七絶)
- 送人還京(七絶)
- 赴北庭度隴思家(七絶)
- 酒泉太守席上酔後作(七絶)
- 送劉判官赴磧西(七絶)
- 山房春事(七絶)
歴代詩選 | |
古代 | 前漢 |
後漢 | 魏 |
晋 | 南北朝 |
初唐 | 盛唐 |
中唐 | 晩唐 |
北宋 | 南宋 |
金 | 元 |
明 | 清 |
唐詩選 | |
巻一 五言古詩 | 巻二 七言古詩 |
巻三 五言律詩 | 巻四 五言排律 |
巻五 七言律詩 | 巻六 五言絶句 |
巻七 七言絶句 |
詩人別 | ||
あ行 | か行 | さ行 |
た行 | は行 | ま行 |
や行 | ら行 |