酒泉太守席上酔後作(岑参)
酒泉太守席上醉後作
酒泉太守の席上、酔後の作
酒泉太守の席上、酔後の作
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻二百一、『岑嘉州詩』巻二(『四部叢刊 初篇集部』所収)、『岑嘉州集』巻下(『前唐十二家詩』所収)、『岑嘉州集』巻八(『唐五十家詩集』所収)、『岑嘉州詩』巻八・寛保元年刊(『和刻本漢詩集成 唐詩5』所収、168頁、略称:寛保刊本)、『唐詩品彙』巻四十八、趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十二(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)、『唐詩別裁集』巻十九、他
- 七言絶句。舞・鼓・雨(上声麌韻)。
- ウィキソース「酒泉太守席上醉後作 (酒泉太守能劒舞)」参照。
- 詩題 … この詩は本来十句からなる七言古詩で、ここでは最初の四句をとって絶句としたもの。『四部叢刊本』は十句からなる七言古詩を収録している。『全唐詩』『前唐十二家詩本』『唐五十家詩集本』『寛保刊本』では二首に分けて収録している。ウィキソース「酒泉太守席上醉後作」参照。後の六句は次の通り。「琵琶長笛曲は相和し、羌児胡雛斉しく唱歌す、渾て犂牛を炙り野駞を烹て、交河の美酒金叵羅、三更酔後軍中に寝れば、秦山の帰夢を奈何ともする無し」(琵琶長笛曲相和、羌兒胡雛齊唱歌、渾炙犂牛烹野駞、交河美酒金叵羅、三更醉後軍中寢、無奈秦山歸夢何)。『唐詩別裁集』では「酒泉太守席上醉後歌」に作る。
- 酒泉 … 郡名。今の甘粛省酒泉市。ウィキペディア【酒泉市】参照。『旧唐書』地理志三、隴右道に「天宝元年、改めて酒泉郡と為す。乾元元年、復して肅州と為す」(天寶元年、改爲酒泉郡。乾元元年、復爲肅州)とある。ウィキソース「舊唐書/卷40」参照。城下に金泉という泉があり、その味が酒に似ているために名付けられたという。『水経注』河水の条に「応劭の地理風俗記に曰く、敦煌、酒泉、其の水酒の味の若き故なり」(應劭地理風俗記曰、敦煌、酒泉、其水若酒味故也)とある。ウィキソース「水經注/02」参照。
- 太守 … 郡の長官。大守。郡守。ウィキペディア【太守】参照。
- 席上 … 酒宴の席で。
- 酔後 … 酒に酔ったあと。
- 天宝十三載(754)三月、安西四鎮節度使の封常清は入朝して御史大夫の官職を加えられ、さらに北庭都護の兼務も命じられた。作者は封常清に迎えられ、安西北庭節度判官に任ぜられて北庭(今の新疆ウイグル自治区ジムサル県)に赴き、至徳二載(757)の春まで従軍した。この詩は酒泉(今の甘粛省酒泉市)の太守に招かれた宴席で、酒に酔ったあとに作ったもの。『岑参詩集編年箋註』(巴蜀書社)の中の「岑参年譜」には至徳元載(756)12月の作とある。
- 岑参 … 715~770。盛唐の詩人。湖北省江陵の人。天宝三載(744)、進士に及第。西域の節度使の幕僚として長く辺境に勤務したのち、右補闕・虢州長史(次官)・嘉州刺史などを歴任した。辺塞詩人として高適とともに「高岑」と並び称される。『岑嘉州集』七巻がある。ウィキペディア【岑参】参照。
酒泉太守能劒舞
酒泉の太守 能く剣舞す
- 能 … 上手に。
- 剣舞 … 剣を振りながら舞う舞。剣の舞。『史記』項羽本紀に「君王、沛公と飲す。軍中、以て楽しみを為す無し。請う剣を以て舞わん」(君王與沛公飮。軍中無以爲樂。請以劒舞)とある。ウィキソース「史記/卷007」参照。
高堂置酒夜撃鼓
高堂に置酒して 夜 鼓を撃つ
- 高堂 … 大広間。
- 高 … 『四部叢刊本』『唐五十家詩集本』『寛保刊本』では「髙」に作る。異体字。
- 置酒 … 酒席に酒壺を置いて飲むこと。酒もりをすること。酒宴を開くこと。阮瑀の「雑詩二首 其の一」(『古詩紀』巻二十七)に「置酒高堂の上、友朋光輝集む」(置酒髙堂上、友朋集光輝)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷027」参照。
- 撃鼓 … 剣舞に合わせて太鼓を打ち鳴らすこと。鼓は、陣太鼓。『詩経』邶風・撃鼓の詩に「鼓を撃つこと其れ鏜たり、踊躍して兵を用う」(擊鼓其鏜、踴躍用兵)とある。鏜は、太鼓のドンドンと鳴る音の形容。踊躍は、勇み立つこと。踴は、踊の異体字。ウィキソース「詩經/擊鼓」参照。
- 鼓 … 『四部叢刊本』『唐五十家詩集本』では「皷」に作る。異体字。
胡笳一曲斷人腸
胡笳一曲 人の腸を断つ
- 胡笳 … 北方民族の胡人が吹く葦の葉の笛。物悲しい音色を出す。『文献通考』に「胡笳は觱篥に似て孔無く、後世鹵部に之を用う」(胡笳似觱篥而無孔、後世鹵部用之)とある。觱篥は、管楽器の一つ。竹製の縦笛で前面に七つ、裏面に二つの指孔がある。音色は鋭く、哀調を帯びる。ウィキペディア【篳篥】参照。鹵部は、大駕(天子の乗り物)の儀仗。鹵簿(天子の行列)。ウィキソース「文獻通考 (四庫全書本)/卷138」参照。
- 一曲 … 一節。
- 断人腸 … 人の腸をかきむしるような、非常に悲しい調べ。後漢の蔡琰の「胡笳十八拍」(『楽府詩集』巻五十九、『楚辞後語』巻三)の第五拍に「雁飛ぶこと高く、邈かにして尋ね難し、空しく腸を断ちて思い愔愔たり」(雁飛高兮邈難尋、空斷腸兮思愔愔)とある。ウィキソース「胡笳十八拍」「樂府詩集/059卷」「楚辭集注 (四庫全書本)/後語卷3」参照。
- 腸 … 『万首唐人絶句』では「膓」に作る。異体字。
坐客相看淚如雨
坐客相看て 涙 雨の如し
- 坐客 … 一座の客人たち。
- 坐 … 『全唐詩』『四部叢刊本』『前唐十二家詩本』『唐五十家詩集本』『寛保刊本』『唐詩別裁集』では「座」に作る。同義。
- 客 … 『全唐詩』『四部叢刊本』『前唐十二家詩本』『唐五十家詩集本』『寛保刊本』『万首唐人絶句』『唐詩別裁集』では「上」に作る。
- 相看 … 互いの顔を見合わせて。
- 相 … 「あい」と読み、「互いに」「ともに」と訳す。
- 涙如雨 … 雨のように涙を流した。
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