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見渭水思秦川(岑参)

見渭水思秦川
すい秦川しんせんおも
岑參しんじん
  • 五言絶句。州・流(下平声尤韻)。
  • ウィキソース「西過渭州見渭水思秦川」参照。
  • 詩題 … 『全唐詩』『前唐十二家詩本』『唐五十家詩集本』『四部叢刊本』『寛保刊本』『岑嘉州詩箋注』『岑参詩集編年箋注』では「西のかた渭州を過ぎ、渭水を見て秦川を思う」(西過渭州見渭水思秦川)に作る。渭州は、今の甘粛省平涼市の辺り。
  • 渭水 … 黄河最大の支流。渭河いがとも。甘粛省隴西県の鳥鼠山に源を発し、長安を過ぎ、最後に黄河に合流する。ウィキペディア【渭水】参照。『書経』禹貢篇に「みちびき、ちょう同穴どうけつより、ひがししてほうかいし、又た東してけいに会し、又た東してしつしょを過ぎ、に入る」(導渭、自鳥鼠同穴、東會于灃、又東會于涇、又東過漆沮、入于河)とある。ウィキソース「尚書/禹貢」参照。また『山海経』西山経に「又た西二百二十里を、ちょう同穴どうけつの山と曰う。其の上にびゃっはくぎょく多し。渭水ここより出でて、とうりゅうしてそそぐ」(又西二百二十里、曰鳥鼠同穴之山。其上多白虎白玉。渭水出焉、而東流注于河)とある。ウィキソース「山海經/西山經」参照。
  • 秦川 … 長安一帯の平野の総称。西晋の潘岳「西征の賦」(『文選』巻十)に「樊川はんせんおおいにして以て池にそそぐ」(倬樊川以激池)とあり、その李善注に「三秦記に曰く、長安の正南せいなん秦嶺、嶺の根に水流れて秦川と為す。一に樊川と名づく、と」(三秦記曰、長安正南秦嶺、嶺根水流爲秦川。一名樊川)とある。正南は、ま南。ウィキソース「昭明文選/卷10」参照。また『蜀志』諸葛亮伝に「将軍はみずから益州の衆を率い、秦川を出づ」(將軍身率益州之眾、出於秦川)とある。ウィキソース「三國志/卷35」参照。また劉宋の謝霊運「魏の太子の鄴中集ぎょうちゅうしゅうの詩に擬す」(八首其二・王粲、『文選』巻三十)に「家はもと秦川にして、貴公の子孫なり」(家本秦川、貴公子孫)とある。ウィキソース「擬魏太子鄴中集詩八首」参照。
  • この詩は、天宝八載(749)、作者が安西へ赴く途中、渭水の上流に差し掛かり、この川が東流して長安へと流れて行くのかと思い、長年住み慣れた自宅のある長安を懐かしんで詠んだもの。
  • 岑参 … 715~770。盛唐の詩人。荊州江陵(現在の湖北省荊州市江陵県)の人。天宝三載(744)、進士に及第。西域の節度使の幕僚として長く辺境に勤務したのち、けつかく州長史(次官)・嘉州刺史などを歴任した。辺塞詩人として高適こうせきとともに「高岑」と並び称される。『岑嘉州集』七巻がある。ウィキペディア【岑参】参照。
渭水東流去
すい ひがしなが
  • 東流去 … 東へ東へと流れ去っていく。「前谿ぜんけい」(近代呉歌九首其五、『玉台新詠』巻十)に「花落ちて流れに随って去る、何ぞ流れを逐うて還るを見ん」(花落隨流去、何見逐流還)とある。ウィキソース「前谿」参照。
何時到雍州
いずれのときようしゅういたらん
  • 何時到 … いつ頃着くのだろうか。古楽府「長歌行」(『文選』巻二十七)に「ひゃくせんひがしして海に到らば、何れの時か復た西に帰らん」(百川東到海、何時復西歸)とある。百川は、多くの川。ウィキソース「長歌行 (漢樂府)」参照。
  • 雍州 … 行政地区の名。現在の陝西省・甘粛省および青海省の一部にあたる。もとは古代の九州(州・えん州・青州・徐州・揚州・荊州・豫州・梁州・雍州)の一つ。『書経』禹貢篇に「黒水こくすい西せいようしゅう」(黑水、西河惟雍州)とある。黒水は甘粛省、西河は黄河西岸。ウィキソース「尚書/禹貢」参照。なお、唐の開元元年(713)、京兆府と改称された。『新唐書』地理志に「京兆府京兆郡、本と雍州、開元元年、府と為る」(京兆府京兆郡、本雍州、開元元年爲府)とある。ウィキソース「新唐書/卷037」参照。ここでは、旧称を使って秦川と同様、長安の地を指す。ウィキペディア【雍州】参照。
憑添兩行淚
たのむらくは両行りょうぎょうなみだえて
  • 憑 … 「って」と読んでもよい。頼りとする。頼む。ここでは、故郷へと流れて行く川の水に頼むこと。
  • 両行涙 … 二筋の涙。両眼からあふれる涙。南朝陳の江総の楽府「長相思」に「紅楼 千愁の色、ぎょくちょ 両行垂る」(紅樓千愁色、玉筯兩行埀)とある。玉筯は、玉で作った箸。ここでは、美人の涙の喩え。ウィキソース「樂府詩集/069卷」参照。
  • 添 … 川の流れに加えること。
寄向故園流
せてえんむかってながさん
  • 寄 … 言付ける。
  • 故園 … ふるさと。長安の自宅を指す。長安は作者の故郷ではないが、ここでは長年住み慣れた地の意。南朝梁の何遜「興安こうあんと夜別る」詩に「まさしんの恨みを抱き、独り故園の秋を守らん」(方抱新離恨、獨守故園秋)とある。新離は、新たな別れ。ウィキソース「與胡興安夜别」参照。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻六(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻二百一(排印本、中華書局、1960年)
  • 『岑嘉州集』巻下([明]許自昌編、『前唐十二家詩』所収、万暦三十一年刊、内閣文庫蔵)
  • 『岑嘉州集』巻八(明銅活字本、『唐五十家詩集』所収、上海古籍出版社、1989年)
  • 『岑嘉州詩』巻六(『四部叢刊 初篇集部』所収、第二次影印本、蕭山朱氏蔵明正徳刊本)
  • 『岑嘉州詩』巻八(寛保元年刊、『和刻本漢詩集成 唐詩5』所収、汲古書院、略称:寛保刊本)
  • 『唐詩品彙』巻四十([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『唐詩解』巻二十二(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐詩別裁集』巻十九([清]沈徳潜編、乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 『万首唐人絶句』五言・巻四(明嘉靖本影印、文学古籍刊行社、1955年)
  • 『古今詩刪』巻二十(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、汲古書院)
  • 廖立箋注『岑嘉州詩箋注』巻六(中国古典文学基本叢書、中華書局、2004年)
  • 劉開揚箋注『岑参詩集編年箋注』(巴蜀書社、1995年)
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