送人還京(岑参)
送人還京
人の京に還るを送る
人の京に還るを送る
- 七言絶句。歸・飛・衣(上平声微韻)。
- ウィキソース「送崔子還京」参照。
- 詩題 … 都の長安に帰っていく人を見送る。『全唐詩』『前唐十二家詩本』『唐五十家詩集本』『四部叢刊本』『寛保刊本』『岑嘉州詩箋注』『岑参詩集編年箋注』では「崔子が京に還るを送る」(送崔子還京)に作る。「崔子」については不明であるが、別に「熱海行、崔侍御の京に還るを送る」という七言古詩もあり、この崔侍御のことかと思われる。ウィキソース「熱海行送崔侍御還京」参照。
- 京 … 都。長安。
- 天宝十三載(754)三月、安西四鎮節度使の封常清は入朝して御史大夫の官職を加えられ、さらに北庭都護の兼務も命じられた。作者は封常清に迎えられ、安西北庭節度判官に任ぜられて北庭(今の新疆ウイグル自治区ジムサル県)に赴き、至徳二載(757)の春まで従軍した。作者にとって二度目の塞外生活であった。この詩は、この数年の間に作ったもので、長安の都へ帰る人を見送るとともに、塞外にあるわが身の哀愁を詠んでいる。
- 岑参 … 715~770。盛唐の詩人。荊州江陵(現在の湖北省荊州市江陵県)の人。天宝三載(744)、進士に及第。西域の節度使の幕僚として長く辺境に勤務したのち、右補闕・虢州長史(次官)・嘉州刺史などを歴任した。辺塞詩人として高適とともに「高岑」と並び称される。『岑嘉州集』七巻がある。ウィキペディア【岑参】参照。
匹馬西從天外歸
匹馬 西のかた天外より帰る
- 匹馬 … (君を乗せた)一匹の馬。『春秋公羊伝註疏』僖公三十三年に「匹馬隻輪反る者無し」(匹馬隻輪無反者)とあり、その何休の注に「匹馬は、一馬なり」(匹馬、一馬也)とある。ウィキソース「春秋公羊傳註疏/卷12」参照。また『越絶書』越絶外伝記・地伝に「呉、越を伐ち、道大風に逢い、車敗れ馬失い、騎士堕ちて死し、疋馬啼嗥す」(吳伐越、道逢大風、車敗馬失、騎士墮死、疋馬啼嗥)とある。啼嗥は、叫び泣くこと。ウィキソース「越絕書/卷八」参照。
- 西 … 「にしのかた」と読み、「西のほうで」と訳す。
- 従 … 「より」と読み、「~から」と訳す。空間の起点の意を示す。底本では「來」に作る。
- 天外 … 天の彼方。大空の彼方。はるかに遠い所。ここでは、作者のいる辺塞の地を指す。三国魏の阮籍「詠懐詩八十二首」(其五十八)に「危冠は浮雲に切り、長剣は天外に出づ」(危冠切浮雲、長劒出天外)とある。危冠は、高い冠。ウィキソース「詠懷詩五言八十二首」参照。
揚鞭只共鳥爭飛
鞭を揚げて只だ鳥と飛ぶを争う
- 揚鞭 … 鞭をあげて。鞭を振りあげて。『寛保刊本』では「一作翩々」に作る。南朝陳の江総の楽府「紫騮馬」に「鞭を揚げて柳市に向かい、細かに蹀みて金堤に上る」(揚鞭向柳市、細蹀上金堤)とある。柳市は、漢代の長安の繁華街。金堤は、堅固な堤。ウィキソース「樂府詩集/024卷」参照。
- 只共鳥爭飛 … まるで飛ぶ鳥と速さを競うかのようだ。
送君九月交河北
君を送る 九月 交河の北
雪裏題詩淚滿衣
雪裏 詩を題して涙衣に満つ
- 雪裏 … 雪の中で。北周の庾信「梅花」詩に「今春の晩きを信ぜず、倶に雪裡に来たりて看る」(不信今春晩、倶來雪裡看)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷127」参照。
- 題詩 … 送別の詩を作っていると。
- 涙満衣 … 涙が止めどなく流れ、衣をすっかり濡らしてしまう。
テキスト
- 『箋註唐詩選』巻七(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
- 『全唐詩』巻二百一(排印本、中華書局、1960年)
- 『岑嘉州集』巻下([明]許自昌編、『前唐十二家詩』所収、万暦三十一年刊、内閣文庫蔵)
- 『岑嘉州集』巻八(明銅活字本、『唐五十家詩集』所収、上海古籍出版社、1989年)
- 『岑嘉州詩』巻七(『四部叢刊 初篇集部』所収、第二次影印本、蕭山朱氏蔵明正徳刊本)
- 『岑嘉州詩』巻八(寛保元年刊、『和刻本漢詩集成 唐詩5』所収、汲古書院、略称:寛保刊本)
- 『唐詩品彙』巻四十八([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
- 『唐詩解』巻二十七(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
- 『万首唐人絶句』七言・巻十八(明嘉靖本影印、文学古籍刊行社、1955年)
- 『古今詩刪』巻二十一(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、汲古書院)
- 廖立箋注『岑嘉州詩箋注』巻七(中国古典文学基本叢書、中華書局、2004年)
- 劉開揚箋注『岑参詩集編年箋注』(巴蜀書社、1995年)
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