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代悲白頭翁 (劉希夷) (廷芝)

代悲白頭翁
白頭(はくとう)を悲(かな)しむ翁(おきな)に代(かわ)る
劉(りゅう)希夷(きい)(廷(てい)芝(し))
  • 七言古詩。花・家(下平声麻韻)、色・息(入声職韻)、改・在・海(上声賄韻)、東・風・同・翁(上平声東韻)、年・前・仙・邊(下平声先韻)、時・絲・悲(上平声支韻)。
  • ウィキソース「代悲白頭翁」参照。
  • 代悲白頭翁 … 白髪になった身を嘆く老人に代わってその気持ちを詠じた詩。代とは、古い歌の替え歌という意。『全唐詩』には、題下に「一作白頭吟」と注する。白頭吟は、楽府題の一つ。なお、同じ詩が『古文真宝前集』に宋之問「有所思」として見える。
  • 劉廷芝 … 劉希夷(きい)。651~679?。初唐の詩人。字(あざな)は庭芝、または廷芝。一説に名は庭芝、字が希夷とも。ウィキペディア【劉希夷】参照。
洛陽城東桃李花
洛陽(らくよう)城(じょう)東(とう) 桃(とう)李(り)の花(はな)
  • 洛陽 … 今の河南省洛陽市。唐代の副都として栄えた。東都とも呼ばれた。ウィキペディア【洛陽市】参照。『読史方輿紀要』河南、河南府に「洛陽の故城は、府の東北二十里に在り。周の顕王以後、都(みやこ)する所なり」(洛陽故城、在府東北二十里。周顯王以後所都也)とある。ウィキソース「讀史方輿紀要/卷四十八」参照(原文に異同あり)。
  • 城東 … 町の東側。
  • 東 … 『文苑英華』では「中」に作る。
  • 桃李 … 桃と李(すもも)。『詩経』召南・何彼襛矣に「何ぞ彼の襛(さかん)なる、華は桃李の如し」(何彼襛矣、華如桃李)とある。ウィキソース「詩經/何彼襛矣」参照。また『史記』李広伝の論賛に「諺(ことわざ)に曰く、桃(とう)李(り)言(ものい)わざれども、下(した)自(おの)ずから蹊(こみち)を成(な)す、と」(諺曰、桃李不言、下自成蹊)とある。ウィキソース「史記/卷109」参照。
飛來飛去落誰家
飛(と)び来(きた)り飛(と)び去(さ)って誰(た)が家(いえ)にか落(お)つる
  • 落誰家 … 誰の家に落ちていくのだろうか。
洛陽女兒惜顏色
洛陽(らくよう)の女(じょ)児(じ) 顔(がん)色(しょく)を惜(お)しみ
  • 洛陽 … 『古文真宝前集』では「幽閨」に作る。『文苑英華』には「一作幽閨」と注する。
  • 女児 … 若い娘たち。年頃の娘たち。日本語の「女児」の意ではない。『古文真宝前集』では「児女」に作る。
  • 惜 … 容色が衰えていくのを残念がる。『全唐詩』『文苑英華』では「好」に作る。
  • 顔色 … 若々しい顔かたち。容色。「かおいろ」の意ではない。
行逢落花長歎息
行〻(ゆくゆく)落(らっ)花(か)に逢(あ)いて長(ちょう)歎息(たんそく)す
  • 行 … 道を歩きながら。
  • 行逢 … 『全唐詩』では「坐見」に作り、「一作行逢」と注する。
  • 長歎息 … 長いため息をつく。
今年花落顏色改
今年(こんねん) 花(はな)落(お)ちて顔(がん)色(しょく)改(あらた)まり
  • 花落顔色改 … 花が散り、人の容色も衰えていく。
  • 落 … 『文苑英華』では「開」に作る。
明年花開復誰在
明年(みょうねん) 花(はな)開(ひら)いて復(ま)た誰(たれ)か在(あ)る
  • 明年花開 … 来年またこの花が咲く頃には。
  • 復誰在 … 誰がまた健在でここにいるだろうか。
已見松柏摧爲薪
已(すで)に見(み)る 松(しょう)柏(はく)の摧(くだ)かれて薪(たきぎ)と為(な)るを
  • 已見 … 私は見たことがある。南朝斉の檀約の楽府「陽春歌」(『楽府詩集』巻五十一)に「已(すで)に紅(あか)き花の発(ひら)くを見、復た緑の草の香るを聞く」(已見紅花發、復聞綠草香)とある。ウィキソース「樂府詩集/051卷」参照。
  • 松柏摧為薪 … いつまでも緑の変わらない松や柏も切り倒されて薪となる。変わらないと思われるものも、ついには滅びることのたとえ。「古詩十九首」第十四首(『文選』巻二十九)に「古墓(こぼ)は犂(す)かれて田(た)と為(な)り、松(しょう)柏(はく)は摧(くだ)かれて薪(たきぎ)と為(な)る」(古墓犁爲田、松柏摧爲薪)とあるのに基づく。ウィキソース「去者日以疎」参照。
更聞桑田變成海
更(さら)に聞(き)く 桑田(そうでん)の変(へん)じて海(うみ)と成(な)るを
  • 更聞 … さらにまた、こういうことも聞いている。
  • 桑田変成海 … 桑畑であった所が海に変わる。世の移り変わりが激しいことの喩え。麻姑(まこ)という仙女が王方平という仙人に、「この前お会いしてから東の海が桑畑にかわり、それがまた海になったのを三度も見ました」と語ったという故事に基づく。『神仙伝』王遠の条に「麻姑自ら説く、接待以来、已に東海の三たび桑田と為るを見る。向(さき)に蓬萊に到りしに、水又、往昔(おうせき)会時より浅きこと略〻(ほぼ)半ばなり。豈に将に復た還って陵(りょう)陸(りく)と為らんとするか、と。方平笑って曰く、聖人皆言う、海中行〻(ゆくゆく)復た塵を揚ぐ、と」(麻姑自說、接待以來、已見東海三爲桑田。向到蓬萊、水又淺於往昔、會時略半也。豈將復還爲陵陸乎。方平笑曰、聖人皆言、海中行復揚塵也)とある。ウィキソース「神仙傳/卷三」参照。
古人無復洛城東
古(こ)人(じん) 復(ま)た洛(らく)城(じょう)の東(ひがし)に無(な)く
  • 古人 … 昔の人。散りゆく花を見ながら自分の容姿が衰えていくのを嘆いた昔の人。
  • 無復洛城東 … もはや洛陽の町の東にいない。また、「復」を「かえる」と動詞に読み、「洛城の東に復(かえ)る無く」と訓読し、「もはや洛陽の町の東に戻ってはこない」と訳すこともできる。
  • 城 … 『文苑英華』では「陽」に作る。
今人還對落花風
今人(こんじん) 還(ま)た対(たい)す 落(らっ)花(か)の風(かぜ)
  • 今人 … 今の人。『楚辞』九章・渉江に「前世と与(とも)にして皆な然り、吾又た何ぞ今の人を怨みん」(與前世而皆然兮、吾又何怨乎今之人)とある。ウィキソース「楚辭/九章」参照。
  • 人 … 『文苑英華』では「日」に作る。
  • 還 … やはりまた。
  • 対落花風 … 散りゆく花を飛ばす風の前に立っている。古人と同じく、容姿の衰えを嘆いている。
年年歳歳花相似
年年(ねんねん)歳歳(さいさい) 花(はな)相(あい)似(に)たり
  • 年年歳歳 … 毎年毎年。来る年来る年。
  • 花相似 … 花は同じように咲く。
歳歳年年人不同
歳歳(さいさい)年年(ねんねん) 人(ひと)同(おな)じからず
  • 歳歳年年 … 年年歳歳に同じ。
  • 人不同 … 花を眺める人は毎年変わっていく。
寄言全盛紅顏子
言(げん)を寄(よ)す 全盛(ぜんせい)の紅顔(こうがん)子(し)
  • 寄言 … 聞きなさい。呼びかけの冒頭におく言葉。
  • 紅顔子 … 「年若く元気な少年」という解釈が多いが、ここでは第三句の「洛陽の女児」を指すと思われるので「若く美しい娘さん」と解釈しておく。
應憐半死白頭翁
応(まさ)に憐(あわ)れむべし 半(はん)死(し)の白頭翁(はくとうおう)
  • 応憐 … 当然憐れむべきだ。
  • 応 … 「まさに~すべし」と読み、「当然~するべきだ」と訳す。『古文真宝前集』『楽府詩集』等では「須」に作る。
  • 半死 … 死にかかっている。
  • 白頭翁 … 白髪の老人。
此翁白頭眞可憐
此(こ)の翁(おう) 白頭(はくとう) 真(しん)に憐(あわ)れむべし
  • 真可憐 … ほんとうに気の毒だ。
伊昔紅顏美少年
伊(こ)れ昔(むかし) 紅顔(こうがん)の美(び)少(しょう)年(ねん)
  • 伊 … 下のものを強調する語。これぞ。この人こそ。
  • 伊昔 … 『文苑英華』では「憶惜」に作る。
公子王孫芳樹下
公(こう)子(し)王孫(おうそん) 芳樹(ほうじゅ)の下(もと)
  • 公子王孫 … 貴族の子弟。
  • 芳樹 … 芳しい花の咲いている春の木。三国魏の阮籍「詠懐詩八十二首」の第七首(『文選』巻二十三では十七首中第十三首)に「芳樹は緑(りょく)葉(よう)を垂れ、清雲は自ずから逶迤(いい)たり」(芳樹垂綠葉、清雲自逶迤)とある。ウィキソース「詠懷詩五言八十二首」「詠懷詩十七首」参照。
清歌妙舞落花前
清(せい)歌(か)妙(みょう)舞(ぶ)す 落(らっ)花(か)の前(まえ)
  • 清歌妙舞 … 澄んだ美しい歌と、見事な舞い。
光祿池臺開錦繡
光禄(こうろく)の池(ち)台(だい) 錦(きん)繡(しゅう)を開(ひら)き
  • 光禄池台 … 前漢の光禄(こうろく)大(たい)夫(ふ)(官名。天子の顧問)王根(おうこん)は池の中に豪奢な楼台を築いたという故事。立派な邸宅のこと。
  • 開 … 『古文真宝前集』『文苑英華』『楽府詩集』等では「文」に作る。
  • 開錦繡 … 錦のとばりをひろげる。
將軍樓閣畫神仙
将(しょう)軍(ぐん)の楼閣(ろうかく) 神仙(しんせん)を画(えが)く
  • 将軍楼閣画神仙 … 「将軍」とは後漢の大将軍梁(りょう)冀(き)のこと。楼閣は、梁冀の豪華な屋敷を指す。梁冀は大将軍となって豪華な屋敷を建て、部屋の壁に神や仙人の姿を描かせ、不老不死の身になろうとしたという。『後漢書』梁冀伝に見える故事。ウィキペディア【梁冀】参照。
一朝臥病無相識
一(いっ)朝(ちょう) 病(やまい)に臥(ふ)して相識(そうしき)無(な)く
  • 一朝 … ひとたび。いったん。ある日。
  • 相 … 『楽府詩集』では「人」に作る。
  • 相識 … 知人。友人。
  • 無 … 尋ねて来なくなる。寄りつかなくなる。
三春行樂在誰邊
三(さん)春(しゅん)の行楽(こうらく) 誰(た)が辺(へん)にか在(あ)る
  • 三春 … 陰暦の春三か月のこと。孟(もう)春(陰暦正月)・仲(ちゅう)春(陰暦二月)・季(き)春(陰暦三月)をいう。
  • 行楽 … 山野などに出かけて遊び楽しむこと。
  • 樂 … 『文苑英華』では「落」に作る。
  • 在誰辺 … 誰のところへ行ってしまったのか。
宛轉蛾眉能幾時
宛転(えんてん)たる蛾眉(がび) 能(よ)く幾時(いくとき)ぞ
  • 宛転 … 眉が美しく曲がっているさま。
  • 蛾眉 … 蛾の触角のような、三日月形の美しい女性の眉。『詩経』衛風・碩人に「手(て)は柔(じゅう)荑(てい)の如く、膚(はだ)は凝(ぎょう)脂(し)の如く、領(うなじ)は蝤(しゅう)蠐(せい)の如く、歯(は)は瓠(こ)犀(さい)の如く、螓(せみ)の首(こうべ)と蛾(が)の眉(まゆ)、巧(こう)笑(しょう)倩(せん)たり、美(び)目(もく)盻(へん)たり」(手如柔荑、膚如凝脂、領如蝤蠐、齒如瓠犀、螓首蛾眉、巧笑倩兮、美目盻兮)とある。ウィキソース「詩經/碩人」参照。また前漢の枚(ばい)乗(じょう)「七発(しちはつ)」(『文選』巻三十四)に「皓(こう)歯(し)娥眉は、命(なづ)けて伐性(ばっせい)の斧(おの)と曰う」(皓齒娥眉、命曰伐性之斧)とある。皓歯は、白い歯。美人の形容。伐性之斧は、人の本性を断ち切る斧の意。ウィキソース「七發」参照。なお「蛾眉」については、松浦友久「『蛾眉』考―詩語と歌語Ⅱ」(『詩語の諸相―唐詩ノート』研文出版、1981年)に詳しい。
  • 能幾時 … いつまでその美しさを保てるのか。
須臾鶴髮亂如絲
須(しゅ)臾(ゆ)にして鶴髪(かくはつ) 乱(みだ)れて糸(いと)の如(ごと)し
  • 須臾 … ほんのわずかの時間。すぐに。たちまち。あっという間に。
  • 鶴 … 『楽府詩集』では「白」に作る。
  • 鶴髪 … 鶴の羽のような白い髪。白髪のたとえ。
  • 乱如糸 … 白髪が糸のようにほつれ、老女のようになる。
但看古來歌舞地
但(た)だ看(み)る 古(こ)来(らい) 歌舞(かぶ)の地(ち)
  • 但看 … 見ると。見れば。「但だ看よ」とも訓読できる。こちらは「見給え」という意味になる。
  • 古 … 『楽府詩集』では「舊」に作る。
  • 古来 … 昔から。
  • 歌舞地 … 歌と舞いで賑(にぎ)わっていた所。
  • 古来歌舞地 … 北周の庾信「人に代りて往を傷(いた)む」詩の第二首に「雑樹本(もと)唯だ金谷苑、諸花旧(もと)満つ洛陽城、正に是れ古来歌舞の処、今日看る時地の行くべき無し」(雜樹本唯金谷苑、諸花舊滿洛陽城、正是古來歌舞處、今日看時無地行)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷128」参照。
惟有黄昏鳥雀悲
惟(た)だ黄昏(こうこん) 鳥雀(ちょうじゃく)の悲(かな)しむ有(あ)るのみ
  • 黄昏 … 夕暮れ時。たそがれ時。『楚辞』九章・抽思に「昔、君我と言を誠(な)す、曰く、黄昏を以て期と為さん、と」(昔君與我誠言兮、曰黄昏以爲期)とある。ウィキソース「楚辭/九章」参照。
  • 鳥雀 … 雀などの小鳥。
  • 悲 … 悲しげにさえずるばかりだ。『文苑英華』では「飛」に作り、「一作悲」と注する。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻二(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻八十二(排印本、中華書局、1960年)
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