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玉関寄長安李主簿(岑参)

玉關寄長安李主簿
ぎょくかんにてちょうあんしゅ簿
岑參しんじん
  • 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻二百一、『岑嘉州詩』巻七(『四部叢刊 初編集部』所収)、『岑嘉州集』巻下(『前唐十二家詩』所収)、『岑嘉州集』巻八(『唐五十家詩集』所収)、『岑嘉州詩』巻八・寛保元年刊(『和刻本漢詩集成 唐詩5』所収、167頁、略称:寛保刊本)、『唐詩品彙』巻四十八、趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十二(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)、『才調集』巻七(『唐人選唐詩新編』所収)、『唐百家詩選』巻三、他
  • 七言絶句。餘・書・除(平声魚韻)。
  • ウィキソース「玉關寄長安李主簿」参照。
  • 詩題 … 『四部叢刊本』『唐詩品彙』『万首唐人絶句』『才調集』では「玉關寄長安主簿」に作る。
  • 玉関 … 玉門関。漢代に建立された故関(古い関所)は甘粛省敦煌の西にあった。六朝期に200キロ東に移され、今の甘粛省瓜州県の東に置かれた。『元和郡県図志』隴右道下、沙州の条に「玉門の故関は、県の西北一百一十七里に在り」(玉門故關、在縣西北一百一十七里)とある。また瓜州の条に「玉門関は、県の東二十歩に在り」(玉門關、在縣東二十步)とある。ウィキソース「元和郡縣圖志/卷40」参照。ウィキペディア【玉門関】参照。
  • 李 … 作者の友人、李某。人物については不明。
  • 主簿 … 官名。文書や帳簿を司る。漢代以後、各官庁に置かれた。
  • 寄 … 詩を人に託して送り届けること。「贈」は、詩を直接手渡すこと。
  • この詩は、作者が玉門関から長安の都にいる李主簿に寄せたもの。『岑嘉州詩箋注』(中華書局、2004年)の附録「岑参年譜」によると、天宝十四載(755)の作。
  • 岑参 … 715~770。盛唐の詩人。湖北省江陵の人。天宝三載(744)、進士に及第。西域の節度使の幕僚として長く辺境に勤務したのち、けつかく州長史(次官)・嘉州刺史などを歴任した。辺塞詩人として高適こうせきとともに「高岑」と並び称される。『岑嘉州集』七巻がある。ウィキペディア【岑参】参照。
東去長安萬里餘
ひがしのかたちょうあんってばん
  • 東 … 「ひがしのかた」と読み、「東に向かって」「東のほうで」「東の方角で」と訳す。『唐百家詩選』では「去」に作る。
  • 長安 … 唐の都。現在の陝西省西安市。当時、人口百万を超える大都市であった。『読史方輿紀要』陝西、長安県の条に「高帝(劉邦)の五年(前202)、長安県を置く、都をここに定む。恵帝の始め城を築く、今、県の西北に在り」(高帝五年置長安縣、定都於此。惠帝始築城、在今縣西北)とある。ウィキソース「讀史方輿紀要/卷五十三」参照。ウィキペディア【長安】参照。
  • 万里余 … 一万里以上も隔てた遠い所へ来た。
故人那惜一行書
じんんぞしむ いちぎょうしょ
  • 故人 … 昔からの友人。旧友。李主簿を指す。呉筠の「りゅううんあい贈答ぞうとうする六首 其の二」(『玉台新詠』巻六)に「じんからず、しんむなしくなにかせん」(故人不可棄、新知空復何)とある。こちらの「故人」は、古女房の意。ウィキソース「與柳惲相贈答」参照。
  • 那 … 「なんぞ」と読み、「どうして~(する)のか」と訳す。疑問の意を示す。『全唐詩』『四部叢刊本』『前唐十二家詩本』『唐五十家詩集本』『寛保刊本』『万首唐人絶句』『才調集』『唐百家詩選』では「何」に作る。
  • 一行書 … 短い手紙。「書」は、手紙。南朝梁の何遜の「従主移西州寓直斎内霖雨不晴懐郡中遊聚」(『古詩紀』巻九十三)に「いちぎょうしょせんとほっす。なんさんしゅうかいせん」(欲寄一行書。何解三秋意)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷093」参照。また杜甫の「こうさんじゅうせんす」に「あいればはんぴゃくぐるに、いちぎょうしょせず」(相看過半百、不寄一行書)とある。高は、高適。半百は、五十歳。ウィキソース「杜詩詳註 (四庫全書本)/卷06」参照。
玉關西望腸堪斷
ぎょくかん 西望せいぼうすればはらわたつにえたり
  • 玉関西望 … ここ玉門関から西の方を眺めれば。
  • 腸堪断 … はらわたがちぎれる思い。非常に悲しいさま。後漢の蔡琰さいえんの「胡笳十八拍」(『楽府詩集』巻五十九、『楚辞後語』巻三)の第五拍に「かりぶことたかく、はるかにしてたずがたし、むなしくはらわたちておも愔愔あんあんたり」(雁飛高兮邈難尋、空斷腸兮思愔愔)とある。ウィキソース「胡笳十八拍」「樂府詩集/059卷」「楚辭集注 (四庫全書本)/後語卷3」参照。また謝霊運の「道路にて山中をおもう」(『文選』巻二十六)に「ひとこころむかしえ、越客えつかくはらわたいまゆ」(楚人心昔絕、越客腸今斷)とある。ウィキソース「昭明文選/卷26」参照。『全唐詩』『四部叢刊本』『前唐十二家詩本』『唐五十家詩集本』『寛保刊本』では「堪腸斷」に作る。
  • 腸 … 『寛保刊本』『万首唐人絶句』では「膓」に作る。異体字。
  • 堪 … ~することができる。~に値する。十分である。『韓非子』難三篇に「きみあくのぞくに、えざらんことをおそる」(除君之惡、惟恐不堪)とある。ウィキソース「韓非子/難三」参照。
況復明朝是歲除
いわんや明朝みょうちょう歳除さいじょなるをや
  • 況復 … そのうえに。まして。さらに加えて。「復」は、ここでは「況」を強調する助字。
  • 明朝 … ここでは明日の朝ではなく、明日の意。現代中国語の「明天」と同じ。
  • 歳除 … 大晦日。一年の最後の日。旧い歳を除き去るの意。大晦日の前日、疫鬼を追い払う儀式を行う。『夢渓筆談』弁証篇に「じょのごとし。しんもっきゅううをじょう。しんきゅうとしまじわりを歳除さいじょうがごとし」(除猶易也。以新易舊曰除。如新舊歲之交謂之歲除)とある。ウィキソース「夢溪筆談/卷04」参照。また『呂氏春秋』季冬紀・季冬篇に「ゆうめいじて、おおいにあまねたくし、ぎゅういだして、もっかんおくる」(命有司、大儺旁磔、出土牛、以送寒氣)とあり、高誘の注に「たいは、いんくしようしてみちびくなり。今人こんじん臘歳ろうさいまえ一日いちじつつづみえきる、これ逐除ちくじょうは、れなり」(大儺、逐盡陰氣爲陽導也。今人臘嵗前一日擊皷驅疫、謂之逐除、是也)とある。大儺は、疫鬼を追い払う儀式。「たいな」とも読む。ウィキソース「呂氏春秋 (四部叢刊本)/卷第十二」参照。
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