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李衛公問対 巻上〔十五〕

太宗曰、近契丹、奚皆內屬。
太宗たいそういわく、ちかごろ契丹きったんけいみな内属なんぞくせり。
  • ウィキソース「唐李問對/卷上」参照。
  • 契丹 … キタイ。四世紀以来、中国の東北部にいたモンゴル系の遊牧民族。十世紀初め、りつ阿保機あぼきが満州・モンゴルの諸部族を統合、その子太宗が国号をりょうと称した。のち、金に滅ぼされた。ウィキペディア【契丹】参照。
  • 奚 … 鮮卑系の一部族。四世紀頃からモンゴル東部のラオハムレン川流域に遊牧していた。ウィキペディア【】参照。
  • 内属 … 属国として服従すること。
置松漠、饒樂二都督、統於安北都護。
しょうばくじょうらくとくき、安北あんぽく都護とごべしむ。
  • 松漠 … 地名。現在の内モンゴル自治区シラムレン川(西拉木倫河)流域及びその支流であるラオハムレン川(老哈河)中下流一帯。貞観二十二(648)年、契丹族の地に都督府が置かれた。ウィキペディア【松漠都督府】(中文)参照。
  • 饒楽 … 地名。現在の内モンゴル自治区ラオハムレン川(老哈河)上流及び河北省らん中上流一帯。貞観二十二(648)年、奚族の地に都督府が置かれた。
  • 都督 … 州の軍事を統轄する官職。ウィキペディア【都督】参照。
  • 安北都護 … 安北都護府。貞観二十一(647)年、北モンゴル諸部族を統治するために設けた機関。六都護府(安東・安南・安西・安北・単于・北庭)の一つ。ウィキペディア【安北大都護府】参照。
  • 統 … 統治する。支配する。ここでは、松漠都督府と饒楽都督府とを安北都護府の支配下に置いたことを指す。
朕用薛萬徹。如何。
ちんせつ万徹ばんてつもちいんとす。如何いかん
  • 朕 … 古代の一人称代名詞。われ。わが。なお、秦の始皇帝から、天子だけが用いる一人称代名詞となった。
  • 薛万徹 … ?~653。唐の人。兄の万均とともに唐に帰順した。突厥や薛延陀を討伐して戦功を上げ、武安郡公に封ぜられた。ウィキペディア【薛万徹】参照。
  • 用 … 任用しようと思う。
  • 如何 … どうであろうか。
靖曰、萬徹不如阿史那社爾、及執失思力、契苾何力。此皆蕃臣之知兵者也。
せいいわく、万徹ばんてつ阿史那あしなしゃおよ執失しつしつりょく契苾けいひつりょくかず。みな蕃臣ばんしんへいものなり。
  • 阿史那社爾 … ?~655。阿史那は姓、社爾は名。東突厥の処羅可汗の子。唐に帰順し、大将軍に任じられた。ウィキペディア【阿史那社爾】参照。
  • 爾 … 底本では「尒」に作るが、『直解』に従い改めた。「尒」は、「爾」の異体字。
  • 執失思力 … 唐の人。突厥の酋長。貞観中、隋の蕭皇后を護送して入朝し、左領軍将軍に任ぜられた。ウィキペディア【執失思力】参照。
  • 契苾何力 … ?~677。唐初の名将。太宗と高宗に仕えた。吐谷渾、高昌、亀茲等を討伐した。ウィキペディア【契苾何力】(中文)参照。「苾」は、底本では「姦」に作るが、『直解』に従い改めた。
  • 不如 … 比較形。「A不如B」の形で「AはBにしかず」と読み、「AはBに及ばない」「AよりBの方がよい」と訳す。Aの部分が省略されることもある。「不若」も同じ。
  • 此皆蕃臣之知兵者也 … 彼らはみな異民族の家臣ではあるが、戦争の仕方を知っている。
  • 蕃臣 … 異民族の家臣。「蕃」は、えびす。異民族の総称。『直解』では「番臣」に作る。同義。
臣嘗與之言松漠、饒樂山川道路、蕃情逆順。
しんかつこれしょうばくじょうらく山川さんせんどうばんじょう逆順ぎゃくじゅんう。
  • 臣 … 臣下が君主に対し、へりくだっていう自称の言葉。わたくし。
  • 臣嘗 … 底本では「因常」に作るが、『直解』に従い改めた。
  • 之 … 阿史那社爾・及執失思力・契苾何力を指す。
  • 山川道路 … 地理を指す。
  • 蕃情 … 異民族の様子・動向。『直解』では「番情」に作る。同義。
  • 逆順 … 逆らうことと、従うこと。
遠至於西域部落十數種、歷歷可信。
とお西域せいいきらくじゅう数種すうしゅいたるまで、歴歴れきれきとしてしんし。
  • 於 … 底本では「于」に作るが、『直解』に従い改めた。
  • 西域部落十數種 … 西域のありとあらゆる部落の情報。
  • 歴歴 … はっきりとしているさま。
  • 可信 … 信用できる。
臣教之以陳法。無不點頭服義。
しんこれおしうるに陣法じんぽうもってす。点頭てんとうしてふくせざるし。
  • 臣教之以陣法 … わたしは彼らに陣立ての方法を教えた。
  • 陣法 … 陣立ての方法。
  • 無不点頭服義 … うなずいてその意義をよく理解した。
  • 点頭 … うなずく。
望陛下任之勿疑。若萬徹、則勇而無謀。難以獨任。
のぞむらくはへいこれにんじてうたがかれ。万徹ばんてつごときは、すなわゆうにしてはかりごとし。もっひとにんがたし。
  • 望 … 「のぞむらくは」と読み、「のぞむことには」「どうか…であってほしい」と訳す。
  • 任之勿疑 … どうか疑念を抱かず、彼らを任用してほしい。
  • 若万徹 … 万徹のような人物は。
  • 勇而無謀 … 勇気はあるが、知謀に欠ける。
  • 難以独任 … 補佐なく彼ひとりをこの職に任用することは難しい。
太宗笑曰、蕃人皆爲卿役使。古人云、以蠻夷攻蠻夷、中國之勢也。卿得之矣。
太宗たいそうわらっていわく、蕃人ばんひとみなけいえき使る。じんう、ばんもっばんむるは、ちゅうごくせいなり、と。けいこれたり。
  • 蕃人 … 異民族。『直解』では「番人」に作る。
  • 為卿役使 … そなたなら使いこなせる。
  • 卿 … 君主が重臣を尊んで呼ぶ言葉。そなた。なんじ。お前。あなた。
  • 役使 … 命令して人を使うこと。
  • 以蛮夷攻蛮夷、中国之勢也 … 未開地の民族をもって未開地の民族を攻めるのが、中国のやり方だ。
  • 蛮夷 … 未開地の民族。野蛮人。
  • 卿得之矣 … そなたはその要所をとらえている。
巻上
1 太宗曰、高麗数侵新羅……
2 太宗曰、朕破宋老生……
3 太宗曰、凡兵却、皆謂之奇乎……
4 太宗曰、奇正素分之歟……
5 太宗曰、曹公云、奇兵旁撃……
6 太宗曰、分合為変者、奇正……
7 太宗曰、古人臨陣出奇、攻人……
8 太宗曰、黄帝兵法、世握奇文……
9 太宗曰、陣数有九。中心零者……
10 太宗曰、漢張良、韓信、序次……
11 太宗曰、春秋楚子二廣之法……
12 太宗幸霊州回、召靖賜坐曰……
13 太宗曰、諸葛亮言、有制之兵……
14 太宗曰、蕃兵唯勁馬奔衝……
15 太宗曰、近契丹、奚皆内属……