糟糠の妻
糟糠の妻
- 出典:『後漢書』宋弘伝(ウィキソース「後漢書/卷26」参照)
- 解釈:貧しい時から苦労を共にしてきた妻のこと。「糟」は酒粕、「糠」は米糠。後漢の光武帝は、姉の湖陽公主が夫に先立たれたのち、宋弘の立派な人柄にひかれていることを知り、公主を屏風の陰にひそませ、宋弘に高い身分に似合うよう妻をかえることを促した。しかし宋弘は「貧乏な時から苦労を共にしてきた妻は表座敷からおろしてはいけない」という諺を引いて断ったという故事から。「糟糠の妻は堂より下さず」とも。
- 後漢書 … 後漢の歴史を記した歴史書。百二十巻。宋の范曄(398~445)の著。二十四史の一つ。ウィキペディア【後漢書】参照。
時帝姉湖陽公主新寡。
時に帝の姉湖陽公主新たに寡となる。
- 時 … あるとき。そのとき。
- 帝 … 後漢の初代皇帝、光武帝のこと。在位25~57。姓は劉、名は秀。ウィキペディア【光武帝】参照。
- 湖陽公主 … 光武帝の姉。「公主」は、皇女のこと。
- 寡 … 寡婦。未亡人。
帝與共論朝臣、微觀其意。
帝与共に朝臣を論じ、微かに其の意を観る。
- 与共 … 二字で「ともに」と読み、「いっしょに」と訳す。
- 朝臣 … 朝廷に仕える臣下。家臣。ここでは家臣の器量。
- 意 … 意中の人物。
主曰、宋公威容德器、群臣莫及。
主曰く、宋公の威容徳器、群臣及ぶ莫し。
- 宋公 … 光武帝の臣、宋弘。字は仲子。ウィキペディア【宋公】参照。
- 威容 … 威厳のある容貌。
- 徳器 … 立派な人格。人徳と才能。
- 群臣 … 家臣たち。
帝曰、方且圖之。
帝曰く、方に且に之を図らんとす、と。
- 方 … 「まさに」と読み、「これから」「ちょうど」と訳す。
- 且 … 「まさに~(せ)んとす」と読み、「~しようとする」と訳す。再読文字。
- 之 … 湖陽公主と宋公との再婚話を指す。
- 図 … 考えてみる。
後、弘被引見。
後、弘引見せらる。
- 弘 … 宋弘。
- 引見 … 呼び出して会うこと。
- 被 … 「る」「らる」と読み、「~される」と訳す。受身の意を示す。
帝令主坐屏風後、因謂弘曰、
帝、主をして屏風の後ろに坐せしめ、因りて弘に謂いて曰く、
- 主 … 姉の湖陽公主。
- 令 … 「令AB」の形で「AをしてB(せ)しむ」と読み、「AにBさせる」と訳す。使役を表す。
- 因 … 「よりて」と読み、「そこで」と訳す。
- 弘 … 宋弘。
諺言、貴易交、富易妻。人情乎。
諺に言う、貴くして交わりを易え、富みて妻を易う、と。人の情か、と。
- 貴易交 … 身分が高くなったら交友関係を変える。「易」は、かえる。とりかえる。
- 富易妻 … 富を手に入れたら妻を変える。
- 人情乎 … 人として当然のことではないか。
- 乎 … 「か」と読み、「~であろうか」「~だろうか」と訳す。疑問の終助字。
弘曰、臣聞、貧賤之交不可忘。糟糠之妻不下堂。
弘曰く、臣聞く、貧賤の交わりは忘る可からず。糟糠の妻は堂より下さず、と。
- 臣 … わたくし。臣下が君主に対してへりくだっていう自称の言葉。
- 貧賤之交 … 貧しく身分が低いときの交友関係。
- 糟糠 … 酒粕と米糠しか食べられないような貧しい生活を共にした妻。「糟」は、酒粕、「糠」は、米糠。
- 不下堂 … 表座敷から下してはならない。転じて、家から追い出してはならない。離縁してはならないこと。「堂」は、表座敷。
帝顧謂主曰、事不諧矣。
帝顧みて主に謂いて曰く、事諧わず、と。
- 顧 … 振り返る。
- 主 … 姉の湖陽公主。
- 謂~曰 … 「~にいいていわく」と読み、「~に向かって言う」と訳す。
- 諧 … 成功する。
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