漁父の利
漁父の利
- 出典:『戦国策』燕(ウィキソース「戰國策 (鮑彪注, 四庫全書本)/卷09」参照)
- 解釈:両者が争っているすきに、第三者が利益を横取りすること。シギとドブ貝が争っているところへ年老いた漁師がやって来て、両方とも捕らえたという故事から。「漁父」の「父」は老人のこと。正しくは「ぎょほ」と読むが、一般的には「ぎょふ」と読まれており、また「漁夫の利」と書くことも多い。
- 戦国策 … 漢の劉向(前77~前6)の編。戦国時代の各国の出来事や、諸国を遊説した縦横家(ショウオウカとも)の策謀を国別に集めたもの。テキストには姚氏三十三巻本と鮑氏十巻本との二種類がある。ウィキペディア【戦国策】参照。
〔昭王、趙且伐燕〕
趙且伐燕。
趙且伐燕。
趙、且に燕を伐たんとす。
蘇代爲燕謂惠王曰、
蘇代、燕の為に恵王に謂いて曰く、
- 蘇代 … 戦国時代の遊説家。洛陽(河南省)の人。合従(秦以外の六国の南北同盟)策を成立させた蘇秦の弟。
- 恵王 … 戦国時代の趙の君主、恵文王のこと。在位前298~前266。名は何。武霊王の子。ウィキペディア【恵文王 (趙)】参照。
- 謂~曰 … 「~にいいていわく」と読み、「~に向かって言う」と訳す。
今者臣來過易水。
今者、臣来たるとき易水を過ぐ。
- 今者 … いま。「者」の読みが省略されるので、二字で「いま」と読む。「者」は時を示す語に添える助字。「昔者」なども同様。
- 臣 … わたくし。臣下が君主に対してへりくだっていう自称の言葉。ここでは蘇代を指す。
- 易水 … 今の河北省を流れる川。上流は趙の、下流は燕の国を流れ、一部は両国の国境になっていた。
蚌方出曝。
蚌方に出でて曝す。
- 蚌 … どぶ貝。からす貝。
- 方 … 「まさに」と読み、「その時に」「~してはじめて」と訳す。
- 曝 … 日にさらす。日光にあたる。日なたぼっこをする。
而鷸啄其肉。
而して鷸其の肉を啄む。
- 而 … 文頭にあるので「しかして」「しこうして」と読み、「すると」と訳す。順接の助字。
- 鷸 … シギ。くちばしが細く長い。ウィキペディア【シギ科】参照。
- 啄 … 鳥がくちばしでつついて食べる。
蚌合而箝其喙。
蚌合して其の喙を箝む。
- 合 … 貝殻を閉じること。
- 喙 … くちばし。
- 箝 … はさむ。ここでは貝殻を閉じてはさむこと。
鷸曰、今日不雨、明日不雨、即有死蚌。
鷸曰く、今日雨ふらず、明日雨ふらずんば、即ち死蚌有らん、と。
- 即 … 「すなわち」と読み、「すぐに」「ただちに」と訳す。
- 有死蚌 … 死んだどぶ貝ができてしまうぞ。
蚌亦謂鷸曰、今日不出、明日不出、即有死鷸。
蚌も亦た鷸に謂いて曰く、今日出さず、明日も出さずんば、即ち死鷸有らん、と。
- 亦 … 「(も)また~」と読み、「~もまた」「~も同様に」と訳す。
- 謂~曰 … 「~にいいていわく」と読み、「~に向かって言う」と訳す。
- 不出 … ここではくちばしが抜けないこと。
- 有死鷸 … 死んだシギができてしまうぞ。
兩者不肯相舍。
両者、相舎つるを肯んぜず。
- 相 … 「あい」と読み、「互いに~」と訳す。
- 舎 … 離す。「捨」に同じ。
- 不肯 … 「がえんぜず」と読み、「承知しない」と訳す。
漁者得而幷擒之。
漁者、得て之を幷せ擒う。
- 漁者 … 漁師。
- 得而 … 「えて~す」と読み、「~することができる」と訳す。
- 之 … 「蚌」と「鷸」を指す。
- 幷擒 … いっしょに捕らえた。「擒」は捕らえる。
今趙且伐燕。
今、趙且に燕を伐たんとす。
燕趙久相攻、以敝大衆。
燕・趙久しく相攻むれば、以て大衆を敝れしめん。
- 以 … 「もって」と読み、「そのために」「それによって」と訳す。理由・条件を示す。
- 敝 … 疲弊させる。「弊」と同じ。
臣恐強秦之爲漁父也。
臣、強秦の漁父と為らんことを恐るるなり。
- 強秦 … 強国の秦。
願王之熟計之也。
願わくは王の之を熟計せんことを、と。
- 熟計 … 十分によく考える。
惠王曰、善。乃止。
恵王曰く、善し、と。乃ち止む。
- 善 … よろしい。なるほど。よくわかった。
- 乃 … 「すなわち」と読み、「そこで」と訳す。
- 止 … (燕を攻撃する計画を)中止した。
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