塞翁が馬
塞翁が馬
- 出典:『淮南子』人間訓(ウィキソース「淮南子/人間訓」参照)
- 解釈:人生の幸・不幸は予測しがたいことの喩え。むかし、辺境の塞に住んでいた老人の馬が逃げたが、のちに良馬をつれて帰って来た。この老人の息子がその馬に乗って落馬し、足を骨折してしまったが、そのため兵役をまぬがれ、戦死せずに済んだという故事による。「塞」は、砦。「塞翁」は、砦の近くに住んでいる老人。「人間万事塞翁が馬」とも。
- 淮南子 … 前漢時代の思想書。二十一巻。漢の劉安(前179~前122)編。道家思想を基本に、諸家の思想や学説が総合的に記述されている。ウィキペディア【淮南子】参照。
近塞上之人、有善術者。
塞上に近きの人に、術を善くする者有り。
- 塞上 … 砦のほとり。「上」は、ほとり。
- 術 … ここでは占いのこと。
- 善 … 上手にする。たくみにする。
馬無故亡而入胡。
馬、故無くして亡げて胡に入る。
- 無故 … 特別な理由もないのに。
- 亡 … 逃げ出す。逃げていなくなる。
- 胡 … 北方や西方に住む異民族の総称。
人皆弔之。
人皆之を弔す。
- 弔 … お悔やみを述べる。気の毒に思って慰める。
其父曰、此何遽不爲福乎。
其の父曰く、此れ何遽ぞ福と為らざらんや、と。
- 父 … 「老人」の意で「ほ」と読む。とりでの近くに住んでいる老人を指す。なお、「父親」の意のときは「ふ」と読む。
- 此 … このことが。
- 何遽~乎 … 「なんぞ~ん(や)」と読み、「どうして~であろうか、きっと~だろう」と訳す。「何遽」は、二字で「なんぞ」と読む。「何ぞ」と同じ。反語を表す。
- 何遽不爲福乎 … どうして福とならないことがあろうか、きっと福となるだろう。
居數月、其馬將胡駿馬而歸。
居ること数月、其の馬、胡の駿馬を将いて帰る。
- 居数月 … 数か月経って。「居」は、時間が経過すること。「数月」は「すうげつ」と読み、「数か月」と訳す。
- 駿馬 … 足の速いすぐれた馬。
- 将 … 「ひきいて」と読み、「連れて」と訳す。
人皆賀之。
人皆之を賀す。
- 賀 … お祝いの言葉を述べる。
其父曰、此何遽不能爲禍乎。
其の父曰く、此れ何遽ぞ禍と為る能わざらんや、と。
- 禍 … わざわい。
家富良馬。
家、良馬に富む。
- 良馬 … りっぱな馬。
其子好騎、墮而折其髀。
其の子、騎を好み、堕ちて其の髀を折る。
- 子 … 息子。
- 騎 … 馬に乗ること。乗馬。
- 髀 … ももの外側の骨。
人皆弔之。
人皆之を弔す。
其父曰、此何遽不爲福乎。
其の父曰く、此れ何遽ぞ福と為らざらんや、と。
居一年、胡人大入塞。
居ること一年、胡人大いに塞に入る。
- 居一年 … 一年経って。
- 胡人 … 北方の異民族。
- 入塞 … 砦に攻め込む。
丁壯者引弦而戰、近塞之人、死者十九。
丁壮なる者、弦を引きて戦い、塞に近きの人、死する者十に九なり。
- 丁壮 … 身体の丈夫な若者。「丁」は、一人前の男。「壮」は、元気な三、四十歳の男。
- 引弦 … 弓を引く。弓矢を射る。弓矢で戦う。「弦」は、弓のつる。
- 十九 … 「十に九なり」と読む。十人のうち九人まで。
此獨以跛之故、父子相保。
此れ独り跛の故を以て、父子相保てり。
- 此 … この息子。
- 跛 … 片足が不自由なこと。
- 以~故 … 「~のゆえをもって」と読み、「~の理由によって」と訳す。また、「~をもってのゆえに」と読んでもよい。
- 相保 … 二人とも無事だった。二人とも生き延びた。
故福之爲禍、禍之爲福、化不可極、深不可測也。
故に福の禍と為り、禍の福と為るは、化極むべからず、深測る可からざるなり。
- 化 … 物事の変化の妙。
- 極 … 見極める。極め知る。知り尽くす。
- 深 … 変化の奥深さ。変化の深遠さ。道理の奥深さ。
- 測 … 人間の知恵で予測する。
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