杞憂
杞憂
- 出典:『列子』天瑞(ウィキソース「列子/天瑞篇」参照)
- 解釈:取り越し苦労。杞の国の人が、天が落ちてこないかと心配したという故事から。
- 列子 … 八巻。道家の思想書。戦国時代の道家の思想家、列禦寇の作といわれる。寓話が多く、独創性が低い。ウィキペディア【列子】参照。
杞國有人憂天地崩墜、身亡所寄、廢寢食者。
杞国に人の天地崩墜して、身の寄する所亡きを憂え、寝食を廃する者有り。
- 杞 … 周代の国名。今の河南省杞県にあった。ウィキペディア【杞】参照。
- 崩墜 … 崩れ落ちる。
- 身亡所寄 … 身の置き所がなくなること。
- 亡 … ~がない。「無」と同じ。
- 寝食 … 寝ることと食べること。
又有憂彼之所憂者。
又彼の憂うる所あるを憂うる者有り。
- 憂 … 心配する。
- 有憂彼之所憂者 … 彼が心配ごとをしているのを心配する者がいた。
因往曉之曰、
因りて往きて之を暁して曰く、
- 因 … 「よりて」と読み、「そこで」と訳す。
- 暁 … 諭す。
天積氣耳。
天は積気のみ。
- 積気 … 大気の集まり。
- 耳 … 「~のみ」と読み、「~だけだ」と訳す。断定の意を示す。「而已」に同じ。
亡處亡氣。
処として気亡きは亡し。
- 亡処亡気 … どんな所にも大気のない所はない。
- 亡~亡~ … 「~として~なきはなし」と読み、「~しないものはない」と訳す。二重否定。
若屈伸呼吸、終日在天中行止。
屈伸呼吸の若きは、終日天中に在りて行止するなり。
- 屈伸 … 身体をかがめたり、伸ばしたりすること。
- 天中 … 天の中心。天の中央。
- 行止 … 行動する。
奈何憂崩墜乎。
奈何ぞ崩墜を憂えんや、と。
- 奈何 … 「いかんぞ~ん(や)」と読み、「どうして~だろうか、いや~ない」と訳す。
其人曰、天果積氣、日月星宿不當墜邪。
其の人曰く、天果たして積気ならば、日月星宿は当に墜つべからざるか、と。
- 果 … 「はたして」と読み、「思ったとおり」と訳す。
- 日月 … 太陽や月。
- 星宿 … 星。
- 邪 … 「か」と読み、「~か」と訳す。疑問の意を示す。
曉之者曰、日月星宿亦積氣中之有光耀者。
之を暁す者曰く、日月星宿も亦た積気中の光耀有る者なり。
- 光耀 … 光り輝くこと。
只使墜、亦不能有所中傷。
只使い墜つとも、亦た中傷する所有る能わず、と。
- 只使 … 二字で「たとい~とも」と読み、「たとえ~であっても」と訳す。仮定の意を示す。
- 中傷 … 当たって怪我をする。
其人曰、奈地壞何。
其の人曰く、地の壊るるを奈何せん、と。
- 奈~何 … 「~をいかんせん」と読み、「~をどうしようか」と訳す。処置・方法を問う疑問の意を示す。
曉者曰、地積塊耳。
暁す者曰く、地は積塊のみ。
- 積塊 … 積み重なった土塊。
充塞四虚、亡處亡塊。
四虚に充塞し、処として塊亡きは亡し。
- 四虚 … 四方の空間。
- 充塞 … ぎっしりと詰まっていること。
- 塊 … 土のかたまり。
- 亡~亡~ … 「~として~なきはなし」と読み、「~しないものはない」と訳す。二重否定。
若躇歩跐蹈、終日在地上行止。
躇歩跐蹈のごときは、終日地上に在りて行止す。
- 躇歩跐蹈 … 足を地に踏みつけて歩く。「躇」「跐」「蹈」も、足で地を踏むの意。
- 行止 … 行動する。
奈何憂其壞。
奈何ぞ其の壊るるを憂えんや、と。
- 奈何 … 「いかんぞ~ん(や)」と読み、「どうして~だろうか、いや~ない」と訳す。
其人舍然大喜、曉之者亦舍然大喜。
其の人舎然として大いに喜び、之を暁す者も亦た舎然として大いに喜ぶ。
- 舎然 … 疑いがさっぱりと解けるさま。
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