楚辞 九歌第二 (六)少司命
秋蘭兮麋蕪 羅生兮堂下
秋蘭と麋蕪と、堂下に羅生す。
緑葉兮素枝 芳菲菲兮襲予
緑葉と素枝、芳菲菲として予を襲う。
- 芳 … 芳香。
- 菲菲 … 香りが漂うさま。
夫人自有兮美子 蓀何以兮愁苦
夫れ人には自ずから美子有り、蓀何を以て愁苦する。
- 美子 … よい人。愛する人。恋人。よき配偶者。
- 蓀 … 香草の名。ここでは相手の美称。あなた。
- 愁苦 … 思い悩んで苦しむこと。
秋蘭兮青青 緑葉兮紫莖
秋蘭は青青たり、緑葉と紫茎と、
滿堂兮美人 忽獨與余兮目成
満堂の美人、忽ち独り余と目成す。
- 美人 … ここでは美女ではなく、立派な君子の意。
入不言兮出不辭 乗回風兮載雲旗
入るに言わず、出づるに辞せず、回風に乗りて雲旗を載つ。
悲莫悲兮生別離 樂莫樂兮新相知
悲しきは生きながら別離より悲しきは莫く、楽しきは新しく相知るより楽しきは莫し。
荷衣兮蕙帶 儵而來兮忽而逝
荷の衣、蕙の帯、儵として来り、忽として逝く。
夕宿兮帝郊 君誰須兮雲之際
夕に帝郊に宿り、君誰をか雲の際に須つ。
與女遊兮九河 衝風至兮水揚波
女と九河に遊べば、衝風至って水波を揚ぐ。
- この二句は古本になく、王逸の注もない。補注では「この二句は『河伯』章中の語なり」という。
與女沐兮咸池 晞女髮兮陽之阿
女と咸池に沐し、女の髪を陽の阿に晞かさん。
望美人兮未來 臨風怳兮浩歌
美人を望めども未だ来らず、風に臨んで怳として浩歌す。
- 美人 … 大司命を指す。
- 浩歌 … 大きい声で歌う。
孔蓋兮翠旍 登九天兮撫彗星
孔蓋と翠旍と、九天に登って彗星を撫す。
竦長劔兮擁幼艾 蓀獨冝兮爲民正
長剣を竦りて幼艾を擁す。蓀独り宜しく民の正為るべし。
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