楚辞 九歌第二 (三)湘君
君不行兮夷猶 蹇誰留兮中洲
君行かずして夷猶す。蹇、誰か中洲に留まれる。
- ウィキソース「九歌」参照。
- 湘君 … 洞庭湖に注ぐ湘水の女神のこと。堯帝の二人の娘、姉の娥皇と妹の女英は、ともに舜帝の妃となったが、舜帝が没した時、その後を追って湘水に身を投げて死に、水神になったという。姉を湘君、妹を湘夫人と呼ぶ。後世、二人を総称して、湘君・湘夫人・湘霊・湘妃・湘娥などという。また、湘君を男神、湘夫人を女神とし、二人を夫婦とする説もある。
- 夷猶 … ためらうこと。ぐずぐずすること。
- 蹇 … ああ。発語の助詞。
- 中洲 … 川の中にある島。中洲。
美要眇兮宜脩 沛吾乗兮桂舟
美しく要眇として宜修に、沛として吾桂舟に乗る。
令沅湘兮無波 使江水兮安流
沅湘をして波無からしめ、江水をして安らかに流れしめ、
望夫君兮未來 吹參差兮誰思
夫の君を望めども未だ来らず、参差を吹いて誰をか思う。
- 参差 … 長短不揃いの管を並べて作った笛。簫の底がないもの。
駕飛龍兮北征 邅吾道兮洞庭
飛龍に駕して北に征き、邅りて吾洞庭に道す。
- 吾 … 湘君を指す。
薜茘柏兮蕙綢 蓀橈兮蘭旌
薜茘の柏、蕙の綢。蓀の橈、蘭の旌。
- 橈 … かじ。かい。たわめた形をした舟のかいのこと。
望涔陽兮極浦 横大江兮揚靈
涔陽を極浦に望み、大江に横たわって霊を揚ぐ。
揚靈兮未極 女嬋媛兮爲余太息
霊を揚げて未だ極まらず、女嬋媛として余が為に太息す。
横流涕兮潺湲 隱思君兮陫側
涕を横流して潺湲たり、君を隠思して陫側たり。
桂櫂兮蘭枻 斲冰兮積雪
桂の櫂、蘭の枻。氷を斲り、雪を積む。
采薜茘兮水中 搴芙蓉兮木末
薜茘を水中に采り、芙蓉を木末に搴る。
心不同兮媒勞 恩不甚兮輕絶
心同じからざれば媒労し、恩甚だしからざれば軽く絶ゆ。
石瀬兮淺淺 飛龍兮翩翩
石瀬は浅浅たり、飛竜は翩翩たり。
交不忠兮怨長 期不信兮告余以不閒
交わり忠ならずして怨み長く、期信ならずして余に告ぐるに間あらざるを以てす。
鼂騁騖兮江皐 夕弭節兮北渚
鼂に江皐に騁騖して、夕に節を北渚に弭むれば、
- 鼂 … 「朝」の古字。
鳥次兮屋上 水周兮堂下
鳥は屋上に次り、水は堂下を周る。
捐余玦兮江中 遺余佩兮醴浦
余が玦を江中に捐て、余が佩を醴浦に遺て、
- 遺 … 底本では脱字のため補った。
采芳洲兮杜若 將以遺兮下女
芳洲の杜若を采り、将に以て下女に遺らんとす。
峕不可兮再得 聊逍遥兮容與
時は再び得可からず。聊く逍遥して容与せん。
九歌第二 | |
(一)東皇太一 | (二)雲中君 |
(三)湘君 | (四)湘夫人 |
(五)大司命 | (六)少司命 |
(七)東君 | (八)河伯 |
(九)山鬼 | (十)国殤 |
(十一)礼魂 |
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招隠士第十二 |