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余桃の罪

とうつみ
  • 出典:『韓非子』説難ぜいなん(ウィキソース「韓非子/說難」参照)
  • 解釈:主君のちょうあいのあてにならないことの喩え。衛に弥子瑕びしかという美少年がいた。彼は主君から非常に寵愛されていた。ある日、果樹園で食べかけの桃がとても甘かったので主君に献じた。主君は「自分で全部食べずに、わしにくれた。わしを大切に思ってくれているからだ」と大いに喜ばれた。しかし、その後弥子瑕の容色が衰え、主君の寵愛が薄れたとき、「こいつは自分の食べかけの桃をわしに食わせた」と言って罰せられたという。
  • 韓非子 … 二十巻五十五篇。戦国時代末期の思想家で、厳格な法治主義を唱え、信賞必罰を行うことを主張したかん(?~前233)の著作を中心に、のちの法家一派の論を加えたもの。法による富国強兵と君主権の確立が説かれている。ウィキペディア【韓非子】参照。
昔者彌子瑕有寵於衞君。衞國之法、竊駕君車者罪刖。彌子瑕母病。人閒往夜告彌子。彌子矯駕君車以出。君聞而賢之、曰、孝哉、爲母之故、忘其刖罪。
昔者むかし弥子瑕びしか衛君えいくんちょうり。衛国えいこくほうひそかにきみくるまするものつみとしてげっせらる。弥子瑕びしかははむ。ひとひそかにき、よる弥子びしぐ。弥子びしいつわりてきみくるましてもっづ。きみきてこれけんとし、いわく、こうなるかな、ははためゆえに、刖罪げっざいなるをわする、と。
  • 弥子瑕 … 春秋時代、衛の霊公の小姓。ウィキペディア【弥子瑕】参照。
  • 衛君 … 衛の君主、霊公を指す。在位前534~前493。ウィキペディア【霊公 (衛)】参照。
  • 寵 … かわいがられること。寵愛。
  • 窃 … こっそり。勝手に。
  • 刖 … 足切りの刑罰。
  • 矯 … (君命と)偽って。
異日、與君遊於果園、食桃而甘、不盡、以其半啗君。君曰、愛我哉、忘其口味、以啗寡人。
じつきみえんあそび、ももくらいてうまし、くさずして、なかばをもっきみくらわす。きみいわく、われあいするかな、こうわすれて、もっじんくらわす、と。
  • 異日 … 別の日。ある日。
  • 果園 … 果樹園。
  • 甘 … おいしい。
  • 不尽 … 全部食べずに。
  • 啗 … 食べさせる。「啖」に同じ。
  • 口味 … 口に味わうこと。味わい。
  • 寡人 … 君主が自分を謙遜していう言葉。王侯の自称。
及彌子色衰愛弛、得罪於君。君曰、是固嘗矯駕吾車、又嘗啗我以餘桃
弥子びしいろおとろあいゆるむにおよび、つみきみたり。きみいわく、もとよりかついつわりてくるまし、またかつわれくらわすにとうもってす、と。
  • 色 … 容色。容貌。
  • 愛弛 … 寵愛が薄れる。
  • 得罪於君 … 主君から罪を受けることとなった。
  • 余桃 … 食べ残しの桃。
故彌子之行、未變於初也。而以前之所以見賢、而後獲罪者、愛憎之變也。
ゆえ弥子びしおこないは、いまはじめにわらざるなり。しかるにさきけんとせらるる所以ゆえんもってして、のちつみしは、愛憎あいぞうへんなり。
  • 未変於初也 … 最初と少しも変わらない。
  • 賢 … 立派な行いであると、ほめられたこと。
  • 見 … 「る」「らる」と読み、「~される」と訳す。受身の意を示す。
  • 愛憎 … かわいがることと憎むこと。
あ行 か行 さ行
た行 な行 は行
ま行 や行 ら行・わ
論語の名言名句