梁上の君子
梁上の君子
- 出典:『後漢書』陳寔伝(ウィキソース「後漢書/卷62」参照)
- 解釈:盗賊・泥棒のこと。後漢の陳寔が、梁の上に盗賊が潜んでいることを知り、子どもや孫たちを呼んで、「悪人も生れつき悪人ではない。悪い習慣によってとうとう悪人になってしまったのだ。梁の上の君子がそれだ」と説いて聞かせた。それを聞いた盗賊は梁の上から降りて来て謝罪し、改心したという故事から。
- 後漢書 … 後漢の歴史を記した歴史書。百二十巻。宋の范曄(398~445)の著。二十四史の一つ。ウィキペディア【後漢書】参照。
時歳荒民倹。
時に歳荒れて民倹なり。
- 歳荒 … 凶作。その年の穀物が実らないこと。「歳荒にして」と読んでもよい。
- 倹 … 生活が苦しい。貧しい。
有盜夜入陳寔室、止於梁上。
盗有りて夜陳寔の室に入り、梁上に止まる。
- 盗 … 盗賊。泥棒。
- 陳寔 … 104~187。後漢の官吏。潁川(河南省)の人。字は仲弓。ウィキペディア【陳寔】参照。
- 室 … 部屋。
- 梁上 … 梁の上。
寔陰見、乃起自整拂、呼命子孫、正色訓之曰、夫人不可不自勉。
寔陰かに見て、乃ち起ちて自ら整払し、呼びて子孫に命じ、色を正し之に訓えて曰く、夫れ人は自ら勉めざるべからず。
- 陰 … ひそかに。こっそりと。
- 乃 … 「すなわち」と読み、「そこで」と訳す。
- 自 … 「みずから」と読み、「自分で」「自分から」と訳す。
- 整払 … 身なりをきちんと整える。
- 子孫 … 子どもや孫たち。
- 命 … (自分の部屋に集まるよう)命じる。
- 正色 … 顔つきを改める。表情を引き締める。
- 之 … 子孫を指す。
- 訓 … 言い聞かせる。教え諭す。
- 夫 … 「それ」と読み、「そもそも」と訳す。文頭におかれる。
- 不可不自勉 … 努力しないわけにはいかない。努力しなければならない。
- 不可不 … 「~ざるべからず」と読み、「~しないわけにはいかない」「~しなければならない」と訳す。二重否定。
不善之人未必本惡。習以性成、遂至於此。
不善の人も、未だ必ずしも本より悪ならず、習い性を以て成り、遂に此に至る。
- 不善 … よくないこと。
- 未必本悪 … 必ずしももとから悪いとは限らない。生れつき悪いわけではない。
- 未必 … 「いまだかならずしも~ず」と読み、「必ずしも~とは限らない」と訳す。部分否定。「未」は再読文字。
- 本 … 生れつき。
- 習以性成 … 習慣が本性のようになる。「以」は「与」と同じで、「~と」と読んでもよい。
- 遂 … 「ついに」と読み、「かくして」「その結果」と訳す。
- 此 … 悪人になったことを指す。
梁上君子者是矣。
梁上の君子は是れなり、と。
- 梁上君子 … 梁の上にいる紳士。
- 者 … 「~は」と読む。
- 是 … 「不善之人~遂至於此」の内容を指す。
盜大驚、自投於地、稽顙歸罪。
盗大いに驚き、自ら地に投じて、稽顙して罪に帰す。
- 自投於地 … 自分から下に飛び降りた。
- 稽顙 … 額を地につけて礼する。「稽」は、地につける。「顙」は、額。「稽首」も同じ。
- 帰罪 … 罪を白状する。
寔徐譬之曰、視君状貌不似惡人。
寔徐ろに之を譬して曰く、君の状貌を視るに、悪人に似ず。
- 徐 … 穏やかに。静かに。ゆっくりと。
- 之 … 盗賊を指す。
- 譬 … 教え諭す。
- 状貌 … 顔かたち。容貌。
- 不似 … 「~ににず」と読み、「~のようではない」「~らしくない」と訳す。
宜深剋己反善。
宜しく深く己に剋ちて善に反るべし。
- 宜 … 「よろしく~べし」と読み、「当然~するのがよい」と訳す。再読文字。
- 剋己 … 自分に打ち勝つ。「剋」は「克」と同じ。
- 反 … 戻る。「返」と同じ。
然此當由貧困。
然れども此れ当に貧困に由るべし、と。
- 然 … 「しかれども」と読み、「しかしながら」「そうではあるが」と訳す。逆接の意を示す。
- 此 … 盗みを働こうとしたことを指す。
- 当 … 「まさに~べし」と読み、「~に違いない」「~であろう」と訳す。再読文字。推量の意を示す。
- 由 … 由来する。
令遺絹二匹。
絹二匹を遺らしむ。
- 令 … 「~(せ)しむ」と読み、「~させる」と訳す。使役を表す。
- 匹 … 布地を数える単位。一匹は布二反のこと。「疋」とも書く。
- 遺 … 与えた。
自是一縣無復盜竊。
是れより一県に復た盗窃無し。
- 自 … 「より」と読み、「~から」と訳す。返読文字。時間・場所などの起点を示す。
- 一県 … (陳寔がいた)その県じゅう。
- 無復 … 「また~なし」と読み、「二度とは~しない」と訳す。部分否定。「不復」と同じ。
- 盗窃 … 盗み。窃盗。
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