先ず隗より始めよ
先ず隗より始めよ
- 出典:『十八史略』巻一・春秋戦国・燕(国立国会図書館デジタルコレクション「十八史畧 一」参照)、『戦国策』燕(ウィキソース「戰國策 (鮑彪注, 四庫全書本)/卷09」参照)
- 解釈:事を始めるには、手近なことから始めよ。大事を始めるには、小事から手をつけよ。「隗」とは、戦国時代の燕の人、郭隗のこと。郭隗が昭王に賢臣の集め方を問われ、賢臣を招きたければ、まず私のような取り柄のない人間を重用してください、そうすれば自分よりすぐれた人物が次々と集まってくるでしょう、と答えたという故事から。現在はそこから転じて、「言い出した人からまず始めよ」という意味に使われることが多い。単に「隗より始めよ」とも。
- 十八史略 … 七巻。元の曾先之撰。『史記』から『新五代史』までの十七の正史に、宋代の史書を加えて十八史とし、その概要を編年体でまとめたもの。史料的価値はほとんどないが、我が国では初学者のための入門書として広く読まれており、特に江戸時代には『論語』『唐詩選』とともに、初学者の必読書とされた。ウィキペディア【十八史略】参照。
〔十八史略、春秋戦国、燕〕
燕人立太子平爲君。
燕人立太子平爲君。
燕人、太子の平を立てて君と為す。
- 燕人 … 燕国の人々。国の下に「人」がつく場合は「じん」とは読まず、「ひと」と読む慣習がある。
- 太子 … 皇太子。
- 平 … 後の燕の昭王の名。
是爲昭王。
是れを昭王と為す。
- 昭王 … 戦国時代の燕の王。在位前312~前279。燕王噲の子。名は平。ウィキペディア【昭王 (燕)】参照。
弔死問生、卑辭厚幣、以招賢者。
死を弔い生を問い、辞を卑くし幣を厚くし、以て賢者を招く。
- 弔死問生 … 戦死者をとむらい、生存者を見舞う。
- 卑辞厚幣 … 言葉を丁寧にし、礼物を十分にする。「辞」は言葉。「幣」は進物、礼物、贈り物。
問郭隗曰、齊因孤之國亂而襲破燕。
郭隗に問いて曰く、斉、孤の国の乱るるに因りて襲いて燕を破る。
- 郭隗 … 戦国時代の燕の大臣。姓は郭。生没年未詳。
- 斉 … 田斉。戦国時代、前386年に田氏が斉を滅ぼして以後の斉のこと。ウィキペディア【田斉】参照。
- 孤 … わたし。諸侯や国王が自分のことを謙遜して言う言葉。
- 因孤之国乱 … 我が国の内乱に乗じて。「因」は「よりて」と読み、「~の理由で」「~が原因となって」と訳す。
孤極知燕小不足以報。
孤、極めて燕の小にして以て報ゆるに足らざるを知る。
- 孤 … 王侯の謙称。
- 極 … 十分に。
- 燕小 … 燕国が小国であること。
- 不足以報 … 報復するだけの力が十分でない。「報」は報復、仕返し。
誠得賢士、與共國、以雪先王之恥、孤之願也。
誠に賢士を得て、与に国を共にし、以て先王の恥を雪がんことは、孤の願いなり。
- 誠 … ぜひとも。
- 賢士 … 賢人。賢者。
- 共国 … 国政を相談する。国政を謀る。
- 雪先王之恥 … 先代の王が受けた恥をそそぐ。「先王」は昭王の父、噲を指す。「雪」は「すすぐ」と読み、「そそぐ」「清める」と訳す。
先生視可者。
先生、可なる者を視せ。
- 先生 … 郭隗を指す。
- 可者 … 国政を相談できるりっぱな人。
- 視 … 推薦して下さい。紹介して下さい。
得身事之。
身、之に事うるを得ん、と。
- 得身事之 … 私自身そういう人に師事したい。「身」はわが身。「得」は「~したい」。「事」は師事。「之」は「可者」、つまり「賢士」を指す。
隗曰、古之君、有以千金使涓人求千里馬者。
隗曰く、古の君、千金を以て涓人をして千里の馬を求めしむる者有り。
- 古之君 … 昔のある国の君主。
- 涓人 … 官名。宮中の清掃や雑用をする小役。
- 千里馬 … 一日に千里も走る名馬。
買死馬骨五百金而返。君怒。
死馬の骨を五百金に買いて返る。君怒る。
- 死馬 … 死んだ名馬。
- 君 … 「古之君」を指す。
涓人曰、死馬且買之。況生者乎。
涓人曰く、死馬すら且つ之を買う。況んや生ける者をや。
- 死馬且買之、況生者乎 … 死んだ名馬の骨でさえ(五百金という大金で)買ったのだから、まして生きている名馬ならなおさらである。抑揚形。「Aすら且つC、況んやBをや」となり、「AでさえCである。ましてBはなおさらだ」の意。ここではAは死馬、Bは生者、Cは買之。
馬今至矣。
馬、今に至らん、と。
- 馬今至矣 … そのうち名馬がやって参りましょう。
- 矣 … 置き字。訓読しない。断定の意を示す。
不期年、千里馬至者三。
期年ならずして、千里の馬至る者三あり。
- 期年 … まる一年。
今、王必欲致士、先從隗始。
今、王必ず士を致さんと欲せば、先ず隗より始めよ。
- 致士 … 賢者を招き寄せる。「致」は招く。
- 先従隗始 … (賢者を招くのでしたら、)まずこの隗から始めて下さい。
況賢於隗者、豈遠千里哉。
況んや隗より賢なる者、豈に千里を遠しとせんや、と。
- 況賢於隗者 … ましてこの隗より賢い者は。
- 豈遠千里哉 … どうして千里の道を遠いと思うだろうか。(いや遠いと思わない。)「豈…哉」は「あに…(せ)んや」と読み、「どうして…だろうか。(いや…ない。)」と訳す。
於是昭王爲隗改築宮、師事之。
是に於いて昭王、隗の為に改めて宮を築き、之に師事す。
- 於是 … 「ここにおいて」と読み、「そこで」と訳す。ちなみに「是以」は「ここをもって」と読み、「こういうわけで」と訳す。「以是」は「これをもって」と読み、「この点から」と訳す。
- 宮 … 邸宅。
- 師事之 … (昭王は)彼を先生として仕えた。「之」は隗を指す。
於是士爭趨燕。
是に於いて士争いて燕に趨く。
- 於是 … 「ここにおいて」と読み、「そこで」と訳す。
- 士争趨燕 … 天下の賢人たちは我先にと燕に行った。「趨」は足ばやに行くこと。
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