背水の陣(十八史略)
背水の陣(十八史略)
漢三年、信耳以兵撃趙。
漢の三年、信・耳、兵を以いて趙を撃つ。
趙王歇、及成安君陳餘禦之。
趙王歇、及び成安君陳余之を禦ぐ。
- 成安君陳余 … 秦末の武将。ウィキペディア【陳余】参照。
 - 禦 … 防ごうとする。防御する。
 
夜半、信傳發輕騎二千人、人持赤幟、從閒道望趙軍、戒曰、
夜半、信伝して軽騎二千人を発し、人ごとに赤幟を持ち、間道より趙の軍を望ましめ、戒めて曰く、
- 夜半 … 夜中。
 - 軽騎 … 身軽な装備をした騎兵。
 - 発 … 出発する。
 - 赤幟 …赤いのぼり旗。漢軍の軍旗。
 - 間道 … 抜け道。
 - 戒 … 教え諭す。注意を与える。
 
趙見我走、必空壁逐我。
趙我の走ぐるを見れば、必ず壁を空しくして我を逐わん。
- 走 … 逃げる。敗走する。
 - 我 … 我が軍。
 - 空 … 空っぽにして。
 - 逐 … 追撃する。
 
若疾入趙壁、拔趙幟、立漢赤幟。
若、疾く趙の壁に入り、趙の幟を抜き、漢の赤幟を立てよ、と。
- 若 … 「なんじ」と読み、「お前たち」「諸君」と訳す。
 - 疾 … すばやく。
 
乃使萬人先背水陣。
乃ち万人をして先ず水を背にして陣せしむ。
- 乃 … 「すなわち」と読み、「そこで」と訳す。
 - 万人 … 一万人の兵。
 - 使 … 「使AB」の形で「AをしてB(せ)しむ」と読み、「AにBさせる」と訳す。使役を表す。
 - 水 … 川。
 - 陣 … 陣を敷く。
 
平旦、建大將旗鼓、鼓行出井陘口。
平旦、大将の旗鼓を建て、鼓行して井陘口より出づ。
- 平旦 … 明けがた。夜明け。
 - 旗鼓 … 軍旗と太鼓。軍隊の進退の合図として使う。
 - 鼓行 … 太鼓を打ち鳴らして進軍すること。
 - 井陘 … 関所の名。河北省石家荘市井陘県の北東、井陘山の上にある。ウィキペディア【井陘県】参照。
 - 口 … (井陘の)入り口。
 
趙開壁撃之。戰良久。
趙、壁を開きて之を撃つ。戦うこと良久し。
- 良久 … 「ややひさし」と読み、「しばらく」と訳す。
 
信耳佯棄鼓旗、走水上軍。
信・耳佯りて鼓旗を棄て、水の上の軍に走る。
- 信・耳 … 韓信と張耳。
 - 詳 … 偽る。負けたふりをする。「詳」と同じ。
 - 水上軍 … 川のほとりに陣取った軍。
 - 走 … 逃げ帰る。
 
趙果空壁逐之。
趙果たして壁を空しくして之を逐う。
- 果 … 「はたして」と読み、「思ったとおり」と訳す。
 - 空 … 空にする。
 - 逐 … 追撃する。
 
水上軍皆殊死戰。
水の上の軍皆殊死して戦う。
- 殊死 … 死に物狂い。
 
趙軍已失信等歸壁、見赤幟大驚、遂亂遁走。
趙の軍已に信等を失いて壁に帰り、赤幟を見て大いに驚き、遂に乱れて遁走す。
- 信等 … 韓信ら。
 - 失 … 取り逃がす。
 - 遂 … 「ついに」と読み、「かくして」「その結果」と訳す。
 - 遁走 … 逃げ出す。逃走する。
 
漢軍夾撃、大破之、斬陳餘、禽趙歇。
漢の軍夾撃し、大いに之を破り、陳余を斬り、趙歇を禽にす。
- 夾撃 … 挟み撃ちにする。
 - 禽 … 捕らえる。とりこにする。
 
諸將賀因問曰、
諸将賀し、因りて問いて曰く、
- 賀 … お祝いをのべる。
 
兵法右倍山陵、前左水澤。
兵法に、山陵を右にし倍き、水沢を前にし左にすと。
- 山陵 … 山や丘。
 - 倍 … 背にす。「倍」は「背」と同じ。
 - 水沢 … 川や沢。
 
今背水而勝何也。
今、水を背にして勝ちしは何ぞや、と。
- 何也 … 「なんぞや」と読み、「どうしてか」と訳す。
 
信曰、兵法不曰陷之死地而後生、置之亡地而後存乎。
信曰く、兵法に、之を死地に陥れて而る後に生き、之を亡地に置きて而る後に存すと曰わざらんや、と。
- 死地 … 死ぬような場所。非常に危険な場所。
 - 陥 … 追い込む。
 - 而後 … 「しかるのち」と読み、「そうしたあとで」「そうして初めて」と訳す。
 - 亡地 … 兵が必ず滅ぶような場所。
 - 存 … 生き残る。
 - 不~乎 … 「~ざらんや」と読み、「~ではないか、いや~だ」と訳す。
 
諸將皆服。
諸将皆服す。
- 服 … 感服する。
 

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