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背水の陣(十八史略)

背水(はいすい)の陣(じん)(十八史略)
  • 出典:『十八史略』巻二・西漢・漢太祖高皇帝(国立国会図書館デジタルコレクション「十八史畧 二」参照)
  • 解釈:一歩も退くことの出来ない切羽詰まった立場で勝負にのぞむこと。漢の韓信が趙の軍と井陘(せいけい)にて戦ったとき、韓信はわざと川を背にして陣を敷き、味方に決死の覚悟をさせて敵を破ったという故事から。ウィキペディア【井陘の戦い】参照。
  • 十八史略 … 七巻。元の曾(そう)先(せん)之(し)撰。『史記』から『新五代史』までの十七の正史に、宋代の史書を加えて十八史とし、その概要を編年体でまとめたもの。史料的価値はほとんどないが、我が国では初学者のための入門書として広く読まれており、特に江戸時代には『論語』『唐詩選』とともに、初学者の必読書とされた。ウィキペディア【十八史略】参照。
  • 出典が『史記』のものは、「背水の陣(史記)」を参照。
漢三年、信耳以兵撃趙。
漢(かん)の三年(さんねん)、信(しん)・耳(じ)、兵(へい)を以(ひき)いて趙(ちょう)を撃(う)つ。
  • 漢三年 … 紀元前204年。
  • 信 … 前漢の高祖の名将、韓信。?~前196。淮陰(わいいん)(江蘇省)の人。高祖を助け、漢の建国に貢献した。統一後は楚王に封ぜられたが、のち淮陰侯に左遷され、反逆を疑われて殺された。蕭何・張良とともに「漢の三傑」の一人。ウィキペディア【韓信】参照。
  • 耳 … ?~前202。前漢初の武将、張耳。魏の大梁(今の河南省開封市)の人。のち、漢の高祖のもとに走り、韓信とともに井陘(せいけい)の戦いで趙を破って趙王に封ぜられた。ウィキペディア【張耳】参照。
  • 以 … 率いる。
  • 趙 … 戦国時代の国。戦国七雄(秦・楚・斉・燕・趙・魏・韓)の一つ。ウィキペディア【趙 (戦国)】参照。
趙王歇、及成安君陳餘禦之。
趙(ちょう)王(おう)歇(けつ)、及(およ)び成安君(せいあんくん)陳(ちん)余(よ)之(これ)を禦(ふせ)ぐ。
  • 成安君陳余 … 秦末の武将。ウィキペディア【陳余】参照。
  • 禦 … 防ごうとする。防御する。
夜半、信傳發輕騎二千人、人持赤幟、從閒道望趙軍、戒曰、
夜(や)半(はん)、信(しん)伝(でん)して軽(けい)騎(き)二(に)千(せん)人(にん)を発(はっ)し、人(ひと)ごとに赤(せき)幟(し)を持(も)ち、間道(かんどう)より趙(ちょう)の軍(ぐん)を望(のぞ)ましめ、戒(いまし)めて曰(いわ)く、
  • 夜半 … 夜中。
  • 軽騎 … 身軽な装備をした騎兵。
  • 発 … 出発する。
  • 赤幟 …赤いのぼり旗。漢軍の軍旗。
  • 間道 … 抜け道。
  • 戒 … 教え諭す。注意を与える。
趙見我走、必空壁逐我。
趙(ちょう)我(われ)の走(に)ぐるを見(み)れば、必(かなら)ず壁(へき)を空(むな)しくして我(われ)を逐(お)わん。
  • 走 … 逃げる。敗走する。
  • 我 … 我が軍。
  • 空 … 空っぽにして。
  • 逐 … 追撃する。
若疾入趙壁、拔趙幟、立漢赤幟。
若(なんじ)、疾(と)く趙(ちょう)の壁(へき)に入(い)り、趙(ちょう)の幟(し)を抜(ぬ)き、漢(かん)の赤(せき)幟(し)を立(た)てよ、と。
  • 若 … 「なんじ」と読み、「お前たち」「諸君」と訳す。
  • 疾 … すばやく。
乃使萬人先背水陣。
乃(すなわ)ち万人(ばんにん)をして先(ま)ず水(みず)を背(せ)にして陣(じん)せしむ。
  • 乃 … 「すなわち」と読み、「そこで」と訳す。
  • 万人 … 一万人の兵。
  • 使 … 「使AB」の形で「AをしてB(せ)しむ」と読み、「AにBさせる」と訳す。使役を表す。
  • 水 … 川。
  • 陣 … 陣を敷く。
平旦、建大將旗鼓、鼓行出井陘口。
平旦(へいたん)、大(たい)将(しょう)の旗鼓(きこ)を建(た)て、鼓(こ)行(こう)して井陘(せいけい)口(こう)より出(い)づ。
  • 平旦 … 明けがた。夜明け。
  • 旗鼓 … 軍旗と太鼓。軍隊の進退の合図として使う。
  • 鼓行 … 太鼓を打ち鳴らして進軍すること。
  • 井陘 … 関所の名。河北省石(せっ)家(か)荘(そう)市井陘(せいけい)県の北東、井陘(せいけい)山の上にある。ウィキペディア【井陘県】参照。
  • 口 … (井陘の)入り口。
趙開壁撃之。戰良久。
趙(ちょう)、壁(へき)を開(ひら)きて之(これ)を撃(う)つ。戦(たたか)うこと良(やや)久(ひさ)し。
  • 良久 … 「ややひさし」と読み、「しばらく」と訳す。
信耳佯棄鼓旗、走水上軍。
信(しん)・耳(じ)佯(いつわ)りて鼓旗(こき)を棄(す)て、水(みず)の上(ほとり)の軍(ぐん)に走(はし)る。
  • 信・耳 … 韓信と張耳。
  • 詳 … 偽る。負けたふりをする。「詳」と同じ。
  • 水上軍 … 川のほとりに陣取った軍。
  • 走 … 逃げ帰る。
趙果空壁逐之。
趙(ちょう)果(は)たして壁(へき)を空(むな)しくして之(これ)を逐(お)う。
  • 果 … 「はたして」と読み、「思ったとおり」と訳す。
  • 空 … 空にする。
  • 逐 … 追撃する。
水上軍皆殊死戰。
水(みず)の上(ほとり)の軍(ぐん)皆(みな)殊(しゅ)死(し)して戦(たたか)う。
  • 殊死 … 死に物狂い。
趙軍已失信等歸壁、見赤幟大驚、遂亂遁走。
趙(ちょう)の軍(ぐん)已(すで)に信(しん)等(ら)を失(うしな)いて壁(へき)に帰(かえ)り、赤(せき)幟(し)を見(み)て大(おお)いに驚(おどろ)き、遂(つい)に乱(みだ)れて遁走(とんそう)す。
  • 信等 … 韓信ら。
  • 失 … 取り逃がす。
  • 遂 … 「ついに」と読み、「かくして」「その結果」と訳す。
  • 遁走 … 逃げ出す。逃走する。
漢軍夾撃、大破之、斬陳餘、禽趙歇。
漢(かん)の軍(ぐん)夾(きょう)撃(げき)し、大(おお)いに之(これ)を破(やぶ)り、陳(ちん)余(よ)を斬(き)り、趙(ちょう)歇(けつ)を禽(とりこ)にす。
  • 夾撃 … 挟み撃ちにする。
  • 禽 … 捕らえる。とりこにする。
諸將賀因問曰、
諸(しょ)将(しょう)賀(が)し、因(よ)りて問(と)いて曰(いわ)く、
  • 賀 … お祝いをのべる。
兵法右倍山陵、前左水澤。
兵法(へいほう)に、山(さん)陵(りょう)を右(みぎ)にし倍(そむ)き、水沢(すいたく)を前(まえ)にし左(ひだり)にすと。
  • 山陵 … 山や丘。
  • 倍 … 背にす。「倍」は「背」と同じ。
  • 水沢 … 川や沢。
今背水而勝何也。
今(いま)、水(みず)を背(せ)にして勝(か)ちしは何(なん)ぞや、と。
  • 何也 … 「なんぞや」と読み、「どうしてか」と訳す。
信曰、兵法不曰陷之死地而後生、置之亡地而後存乎。
信(しん)曰(いわ)く、兵法(へいほう)に、之(これ)を死地(しち)に陥(おとしい)れて而(しか)る後(のち)に生(い)き、之(これ)を亡(ぼう)地(ち)に置(お)きて而(しか)る後(のち)に存(そん)すと曰(い)わざらんや、と。
  • 死地 … 死ぬような場所。非常に危険な場所。
  • 陥 … 追い込む。
  • 而後 … 「しかるのち」と読み、「そうしたあとで」「そうして初めて」と訳す。
  • 亡地 … 兵が必ず滅ぶような場所。
  • 存 … 生き残る。
  • 不~乎 … 「~ざらんや」と読み、「~ではないか、いや~だ」と訳す。
諸將皆服。
諸(しょ)将(しょう)皆(みな)服(ふく)す。
  • 服 … 感服する。
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