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聖善閣送裴迪入京(李頎)

聖善閣送裴迪入京
聖善閣せいぜんかくにて裴迪はいてきけいるをおく
  • 〔テキスト〕 『唐詩選』巻四、『全唐詩』巻一百三十四、『唐詩品彙』巻七十六、『古今詩刪』巻十九(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、47頁)、『唐詩紀事』巻二十、『唐百家詩選』巻五、他
  • 五言排律。欄・寒・歡・盤・看・難(平声寒韻)。
  • ウィキソース「聖善閣送裴迪入京」参照。
  • 聖善閣 … 洛陽にあった聖善寺の楼閣。高彦休『唐闕史』に「東の聖善寺は、締構天下に甲たり」(東都聖善寺、締構甲於天下)とある。ウィキソース「唐闕史」参照。また聖善は、『詩経』邶風はいふう・凱風の詩に「母氏ぼし聖善せいぜんなれど、われ令人れいじんし」(母氏聖善、我無令人)とあるのに基づく。ウィキソース「詩經/凱風」参照。また中宗が母の則天武后の菩提を弔うために聖善閣を建て、武后が鋳造した仏像を安置したという。劉餗『隋唐嘉話』に「中宗に至り武后の志を成さんと欲し、乃ち像を(けず)り短くせしめ、聖善寺の閣を建て以て之に居く」(至中宗欲成武后志、乃像令短、建聖善寺閣以居之)とある。ウィキソース「隋唐嘉話」参照。
  • 裴迪 … 716~?。盛唐の詩人。関中(陝西省)の人。あざなは不詳。安禄山の乱の後、蜀州刺史、尚書郎などになったという。王維の詩友として知られる。ウィキペディア【裴迪】(中文)参照。
  • 迪 … 『唐詩品彙』『古今詩刪』では「廸」に作る。異体字。
  • 入京 … 長安へ行くこと。
  • 送 … 見送る。
  • この詩は、裴迪が長安に行くことになり、洛陽の聖善閣で送別の宴を催し、そのはなむけとして詠んだもの。
  • 李頎 … 690~751?。盛唐の詩人。本籍は趙州ちょうしゅう(河北省趙県)の人。開元二十三年(735)、進士に及第。新郷(河南省)の尉となったが、官を辞し、神仙を慕って隠棲生活を送ったという。ウィキペディア【李頎】参照。
雪華滿高閣
せっ 高閣こうかく
  • 雪華 … 雪。雪を花に喩えていう。
  • 雪 … 『全唐詩』では「雲」に作り、「一作雪」とある。
  • 高閣 … 高殿たかどの。高楼。
  • 満 … 雪がいっぱいに降り積もっているさま。『全唐詩』には「一作斂」とある。『唐詩紀事』『唐百家詩選』では「斂」に作る。
苔色上勾欄
たいしょく 勾欄こうらんのぼ
  • 苔色 … 苔の色。苔の緑色。
  • 勾欄 … 回廊の手すり。勾は、曲がる。段国の『沙州記』(『説郛』巻六十一下)に「よくこん、河上に於いて橋を作る。之をれいと謂う。長さ一百五十歩、勾欄甚だ厳飾す」(吐谷渾於河上作橋。謂之河厲。長一百五十步、勾欄甚嚴飾)とある。吐谷渾は、西晋末、青海一帯にあった国。663年、吐蕃に滅ぼされ種族は四散した。河厲は、河上に作った橋。厳飾は、立派に飾ること。ウィキソース「沙州記」「説郛 (四庫全書本)/卷061下」参照。
  • 勾 … 『全唐詩』『唐百家詩選』では「鉤」に作る。同義。『唐詩紀事』では「鈎」に作る。「鈎」は「鉤」の異体字。『唐詩品彙』では「构」に作る。
  • 欄 … 『唐詩品彙』では「闌」に作る。同義。
  • 上 … 這い上って覆っている。
藥草空階靜
薬草やくそう 空階くうかいしずかに
  • 薬草 … 芍薬の植え込み。寺院の庭先に芍薬や牡丹を植えることが当時の風習であった。
  • 草 … 『唐詩選』『古今詩刪』では「艸」に作る。
  • 空階 … ひとのないきざはし
  • 階 … 『唐詩品彙』『古今詩刪』では「堦」に作る。異体字。
梧桐返照寒
とう へんしょうさむ
  • 梧桐 … 梧桐あおぎり。あおぎり科の落葉高木。樹皮は緑色、葉は手のひら形で大きく、豆に似た実がなる。街路樹として植えられる。へき。ウィキペディア【アオギリ】参照。
  • 返照 … 夕日の照りかえしの光。返景。返映。
清吟可愈疾
清吟せいぎん やまいをいや
  • 清吟 … 清らかに詩を吟ずれば。
  • 可愈疾 … 病気を治すことができる。魏の陳琳が諸書と檄文の草稿を作って太祖(曹操)に見せたところ、頭痛で苦しんでいた太祖がこれを読んで起き上がって、「此れ我が病を癒す」と言ったという故事に基づく。『三国志』魏書・げん伝の裴松の注に「典略に曰く、琳、諸書及び檄を作る。草成りて太祖に呈す。太祖先に頭風に苦しむ。是の日疾発す。臥して琳の作る所を読み、きゅうぜんとして起ちて曰く、此れ我が病を愈す、と」(典略曰、琳作諸書及檄。草成呈太祖。太祖先苦頭風。是日疾發。臥讀琳所作、翕然而起曰、此愈我病)とある。ウィキソース「三國志/卷21」参照。
攜手暫同歡
たずさえてしばらかんおなじうす
  • 携手 … お互いに手を取り合って。
  • 暫同歓 … 少しの間いっしょに楽しもう。
墜葉和金磬
墜葉ついよう 金磬きんけい
  • 墜葉 … 落葉(の音)。
  • 金磬 … 銅製の磬。磬は、「へ」の字形の打楽器で、吊るして打ち鳴らす。高く澄んだ音を出す。寺院の食事の合図などに使う。ウィキペディア【】参照。
  • 和 … 調和して響く。
饑烏鳴露盤
饑烏きう ばん
  • 饑烏 … 飢えたカラス。
  • 饑 … 『全唐詩』『古今詩刪』『唐詩紀事』『唐百家詩選』では「飢」に作る。同義。
  • 露盤 … 寺院の塔の相輪(塔の頂上の金属で作られた部分の総称)の一番下にある四角な土台。ウィキペディア【相輪】参照。
伊流惜東別
りゅう ひがしわかるるをしみ
  • 伊流 … 伊水のこと。河南省盧氏ろし県の東南の悶頓嶺に源を発し、東北流して洛陽を経てえん市の東で洛水(洛河)に注ぐ。伊河とも。『山海経』中山経・中次二経に「また西にしひゃくを、蔓渠まんきょやまう。うえきんぎょくおおく、した竹箭ちくせんおおし。すいここよりでて、とうりゅうしてらくそそぐ」(又西二百里、曰蔓渠之山。其上多金玉、其下多竹箭。伊水出焉、而東流注于洛)とある。ウィキソース「山海經/中山經」「山海經 (四部叢刊本)/卷第五」参照。
  • 流 … 『全唐詩』には「一作川」とある。『唐詩紀事』『唐百家詩選』では「川」に作る。
  • 惜東別 … 東へと流れる伊水のほとりで別れを惜しむ。
灞水向西看
すい 西にしむかって
  • 灞水 … 川の名。霸水とも。関中八川の一つ。陝西省藍田県の東倒谷の中に源を発し、滻水さんすいと合し、渭水に注ぐ。『漢書』地理志、京兆尹の条の注に「霸水も亦た藍田谷より出でて、北のかた渭に入る。(師)古すいと曰う、秦の穆公名をあらため、以て霸功をあきらかにし、子孫にしめす」(霸水亦出藍田谷、北入渭。古曰茲水、秦穆公更名、以章霸功、視子孫)とある。『漢書評林』巻二十八(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 向西看 … 君は西のかた灞水のあたり、その向こうにある長安の都を眺めやる。
舊託含香署
もと 含香がんこうしょたく
  • 旧 … 以前。
  • 含香署 … 尚書省のこと。漢のちょうそんという尚書郎が、老齢のため天子に上奏するのに口臭を発するので、天子が鶏舌香という香を与えて口に含ませた。以後、漢の尚書郎は鶏舌香を含んで上奏する習わしになったという。『芸文類聚』人部、口の条に引く応劭の『漢官儀』に「侍中刁存、年老いて口臭し。帝、雞舌香を賜い、之に含ましむ」(侍中刁存、年老口臭。帝賜雞舌香、令含之)とある。ウィキソース「藝文類聚/卷017」参照。また『通典』職官典、尚書上、歴代郎官の条に「尚書郎、口に雞舌香を含み、其の事を奏する答対を以て、気息芬芳ふんぽうせしめんと欲するなり」(尚書郎口含雞舌香、以其奏事答對、欲使氣息芬芳也)とある。ウィキソース「通典/卷022」参照。
  • 託 … 仕える。仕官する。身を置く。託は、身がらを預ける。寄託する。
雲霄何足難
うんしょう なんかたしとするにらん
  • 雲霄 … 雲の上。雲のある空。霄は、空の果て。ここでは高い地位、高位高官に喩える。
  • 何足難 … 何も困難なことではないだろう。別に難しく思うことはなかろう。
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