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冬日洛城北謁玄元皇帝廟、廟有呉道士画五聖図(杜甫)

冬日洛城北謁玄元皇帝廟、廟有吳道士畫五聖圖
冬日とうじつらくじょうきたにて玄元げんげん皇帝こうていびょうえつす、びょうどうえがけるせい
杜甫とほ
  • 〔テキスト〕 『唐詩選』巻四、『全唐詩』巻二百二十四、『宋本杜工部集』巻九、『九家集注杜詩』巻十七(『杜詩引得』第二冊)、『杜陵詩史』巻一(『杜詩又叢』所収)、『分門集注杜工部詩』巻六(『四部叢刊 初編集部』所収)、『草堂詩箋』巻二(『古逸叢書』所収)、『銭注杜詩』巻九、『杜詩詳注』巻二、『読杜心解』巻五之一、『杜詩鏡銓』巻一、『唐詩品彙』巻七十五、『文苑英華』巻三百二十、『古今詩刪』巻十九(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、46頁)、他
  • 五言排律。長・常・旁・梁・光・王・場・牆・行・揚・霜・牀・皇・郷(平声陽韻)。
  • ウィキソース「全唐詩/卷224」「分門集註杜工部詩 (四部叢刊本)/卷第六」参照。
  • 詩題 … 『全唐詩』『宋本』『銭注本』『鏡銓本』では「冬日洛城北謁玄元皇帝廟」に作り、「廟有呉道士畫五聖圖」を自注(原注)とする。『九家集注本』『四部叢刊本』『杜陵詩史』『詳注本』『心解本』『唐詩品彙』『古今詩刪』では「冬日洛城北謁玄元皇帝廟」に作る(「廟有」以下の自注はない)。
  • 冬日 … 冬の日。
  • 洛城 … 洛陽。
  • 玄元皇帝 … 老子の尊号。老子は姓は李、名はあざなは伯陽、おくりなたん。唐王室の姓が同じ李であることから、始祖として尊び、高宗の乾封けんふう元年(666)、玄元皇帝の尊号を贈った。『資治通鑑』高宗皇帝乾封元年の条に「癸未きびはくしゅうに至り、老君の廟に謁し、尊号をたてまつりて太上玄元皇帝と曰う」(癸未、至亳州、謁老君廟、上尊號曰太上玄元皇帝)とある。ウィキソース「資治通鑑/卷201」参照。また玄宗の開元二十九年(741)には、長安・洛陽の両京および諸州に廟を建てて祀った。『資治通鑑』玄宗皇帝開元二十九年の条に「五月、命じて玄元の真容をえがかしめ、分ちて諸州の開元観に置く」(五月、命畫玄元眞容、分置諸州開元觀)とある。ウィキソース「資治通鑑/卷214」参照。
  • 謁 … 拝謁する。
  • 呉道士 … 呉道玄。あざなは道子。玄宗に寵愛された宮廷画家。陽翟ようてき(河南省禹州市)の人。人物・山水・仏像・草木などを描いて、唐朝随一といわれた。『唐朝名画録』に「呉道玄、字は道子、東京とうけい陽翟ようてきの人なり。……時に明皇其の名を知り、召して入内じゅだい供奉せしむ。……凡そ人物、仏像、神鬼、禽獣、山水、台殿、草木をえがくに、皆世に冠絶かんぜつす、国朝第一なり。」(吳道玄字道子、東京陽翟人也。……時明皇知其名、召入內供奉。……凡畫人物、佛像、神鬼、禽獸、山水、臺殿、草木、皆冠絕於世、國朝第一。)とある。冠絶は、飛び抜けて優れていること。ウィキソース「唐朝名畫錄」参照。ウィキペディア【呉道玄】参照。
  • 五聖 … 天宝八載(749)六月、玄宗が唐の初代以下五人の皇帝に贈った尊号、神堯大聖皇帝(高祖)、文武大聖皇帝(太宗)、天皇大聖皇帝(高宗)、孝和大聖皇帝(中宗)、玄貞大聖皇帝(睿宗えいそう)の総称。『資治通鑑』玄宗皇帝天宝八載の条に「六月しん、聖祖に号をたてまつりて大道玄元皇帝と曰い、高祖におくりなたてまつりて神堯大聖皇帝と曰い、大宗の謚を文武大聖皇帝と曰い、高宗の謚を天皇大聖皇帝と曰い、中宗の謚を孝和大聖皇帝と曰い、睿宗の謚を玄真大聖皇帝と曰う」(六月戊申、上聖祖號曰大道玄元皇帝、上髙祖謚曰神堯大聖皇帝、大宗謚曰文武大聖皇帝、髙宗謚曰天皇大聖皇帝、中宗謚曰孝和大聖皇帝、睿宗謚曰玄眞大聖皇帝)とある。ウィキソース「資治通鑑/卷216」参照。
  • この詩は、作者が洛陽の北にある老子廟を参拝し、呉道士の描いた五聖の像を見て詠んだもの。天宝八載(749)冬の作。
  • 杜甫 … 712~770。盛唐の詩人。じょうよう(湖北省)の人。あざな子美しび。祖父は初唐の詩人、杜審言。若い頃、科挙を受験したが及第できず、各地を放浪して李白らと親交を結んだ。安史の乱では賊軍に捕らえられたが、やがて脱出し、新帝しゅくそうのもとで左拾遺に任じられた。その翌年左遷されたため官を捨てた。四十八歳の時、成都(四川省成都市)の近くのかんけいに草堂を建てて四年ほど過ごしたが、再び各地を転々とし一生を終えた。中国最高の詩人として「詩聖」と呼ばれ、李白とともに「李杜りと」と並称される。『杜工部集』がある。ウィキペディア【杜甫】参照。
配極玄都閟
きょくはいしてげんとざ
  • 配極 … 天の北極に配する。極は、天の中心である北極のこと。配は、その位置に対応させて祀ること。『孝経』聖治章に「こうは、ちちげんにするよりだいなるはし。ちちげんにするはてんはいするよりだいなるはし。すなわしゅうこうひとなり。昔者むかししゅうこうこうしょくこうしてもってんはいし、文王ぶんおう明堂めいどうそうしてもっじょうていはいす」(孝、莫大於嚴父。嚴父莫大於配天。則周公其人也。昔者、周公郊祀后稷以配天、宗祀文王於明堂以配上帝)とある。ウィキソース「今文孝經」参照。また『史記』秦始皇本紀に「すでにしてしんきゅうあらたなづけて極廟きょくびょうし、てんきょくかたどる」(已更命信宮爲極廟、象天極)とある。『索隠』に「宮廟と為し天極に象る、故に極廟と曰う」(爲宮廟象天極、故曰極廟)とある。ウィキソース「史記三家註/卷006」参照。
  • 配 … 『唐詩品彙』では「記」に作る。
  • 玄都 … 道教でいう最高神のいる都。ここでは、老子の祀られたこの廟を指す。『枕中書』(『説郛』巻七)に「真記に曰く、玄都玉京七宝山は、週廻九万里、大羅の上に在り。城上の七宝宮、宮内の七宝台に、上中下の三宮有り、一の如し。……上宮は是れ盤古真人・元始天王・太元聖母の治むる所なり」(眞記曰、玄都玉京七寳山、週廻九萬里、在大羅之上。城上七寳宮、宮内七寳臺、有上中下三宮、如一。……上宮是盤古眞人、元始天王、太元聖母所治)とある。ウィキソース「説郛 (四庫全書本)/卷007下」参照。また康駢『劇談録』老君廟画の条に「東都の北邙山に、玄元観有り、南に老君廟有り、台殿こうしょうらくかんす」(東都北邙山、有玄元觀、南有老君廟、臺殿高敞、下瞰伊洛)とある。ウィキソース「劇談錄」参照。また張正見の「神仙篇」(『楽府詩集』巻六十四)に「玄都府内青牛にす」(玄都府内駕青牛)とある。ウィキソース「樂府詩集/064卷」参照。
  • 閟 … 奥深く閉ざすこと。『詩経』魯頌・閟宮の詩に「きゅうきょくなるり、実実じつじつ枚枚ばいばいたり」(閟宮有侐、實實枚枚)とある。ウィキソース「詩經/閟宮」参照。また、その毛伝に「閟は、閉なり。先妣姜原の廟は周に在り。常に閉じて事無し」(閟、閉也。先妣姜原之廟在周。常閉而無事)とある。ウィキソース「毛詩正義/卷二十」参照。
憑高禁蘌長
たかきにりて禁蘌きんぎょなが
  • 憑高 … 高い所に寄りかかって。この廟は北邙山の上にあった。王僧孺の「落日登高」(『古詩紀』巻八十八)に「たかきにりてしばら一望いちぼうす」(憑髙且一望)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷088」参照。
  • 高 … 『全唐詩』では「虚」に作り、「一作高、一作空」とある。『銭注本』でも「虚」に作り、「一作高、又作空」とある。『詳注本』には「一作虚」とある。
  • 禁蘌 … 人の通行を禁止する竹矢来。蘌は、竹を折り、縄をめぐらした宮中の庭の意。揚雄の「りょうの賦」(『文選』巻八)に「しかれどもりょういたれば、甲車こうしゃじゅうかいちょ禁禦きんぎょいとなところはなは奢麗しゃれい誇詡こくにして、ぎょうしゅん成湯せいとう文王ぶんおうさんあらざるなり」(然至羽獵、甲車戎馬、器械儲偫、禁禦所營、尚泰奢麗誇詡、非堯舜成湯文王三驅之意也)とある。ウィキソース「羽獵賦」参照。
  • 蘌 … 『全唐詩』『銭注本』では「禦」に作り、「一作蘌」とある。『宋本』『杜陵詩史』『四部叢刊本』『唐詩品彙』『古今詩刪』では「禦」に作る。『詳注本』には「一作禦、《正異》作蘌」とある。『心解本』には「一作禦」とある。
  • 長 … 長く張り巡らされている。
守祧嚴具禮
しゅちょう れいおごそかにし
  • 守祧 … 官名。春官に属し、宗廟を守って祭祀を担当する役人。びょうもりちょうは、先祖の位牌を祀るみたまや。『周礼』春官に「守祧は、先王先公の廟祧を守ることを掌る」(守祧、掌守先王先公之廟祧)とある。ウィキソース「周禮/春官宗伯」参照。また『旧唐書』高宗紀に「其の廟に令・丞各〻一員を置く」(其廟置令丞各一員)とある。ウィキソース「舊唐書/卷5」参照。
  • 具礼 … 礼式をととのえ、供物を供えること。『史記』韓信伝に「おうもとよりまんにしてれいし。いまたいしょうはいするに、しょうぶがごときのみ、すなわしん所以ゆえんなり。おうかならこれはいせんとほっせば、りょうじつえらび、斎戒さいかいし、だんじょうもうけ、れいそなえば、すなわならんのみ」(王素慢無禮。今拜大將如呼小兒耳、此乃信所以去也。王必欲拜之、擇良日、齋戒、設壇場、具禮、乃可耳)とある。ウィキソース「史記/卷092」参照。
掌節鎭非常
しょうせつ じょうしず
  • 掌節 … 官名。天子から授けられた符節(割り符)を管理する職。ここでは廟の警備にあたる役人を指す。『周礼』地官に「掌節は、邦節を守りて其の用を弁じ、以て王命をたすくることを掌る」(掌節、掌守邦節而辨其用、以輔王命)とある。ウィキソース「周禮/地官司徒」参照。
  • 鎮非常 … 非常事態に備え、その取締りに当たる。鎮は、鎮護の意。『史記』項羽本紀に「将をつかわして関を守らしめし所以は、他の盗の出入と非常とに備えしなり」(所以遣將守關者、備他盜之出入與非常也)とある。ウィキソース「史記/卷007」参照。
碧瓦初寒外
へき 初寒しょかんそと
  • 碧瓦 … 青緑色のかわら。瑠璃色の瓦。呉融の「廃宅」(『全唐詩』巻六百八十六、『唐詩品彙』巻九十)に「かぜへきひるがえあめかきくだく、かえって鄰人りんじんためもんとざす」(風飄碧瓦雨摧垣、卻有鄰人爲鎖門)とある。ウィキソース「唐詩品彚 (四庫全書本)/卷90」参照。
  • 初寒 … 冬の初め。冬の初めの寒空。謝霊運の「燕歌行」(『古詩紀』巻五十七、『楽府詩集』巻三十二)に「孟冬もうとう初寒しょかんせっり、ふうねやってしもにわる」(孟冬初寒節氣成、悲風入閨霜依庭)とある。ウィキソース「燕歌行 (謝靈運)」「古詩紀 (四庫全書本)/卷057」「樂府詩集/032卷」参照。
  • 外 … 彼方。
金莖一氣旁
金茎きんけい いっかたわら
  • 金茎 … 承露盤(天から降る露を受ける盤)を支える銅製の柱。ここでは廟前の銅柱。班固「西都の賦」(『文選』巻一)に「せんしょうげてもっつゆけ、双立そうりつせる金茎きんけいく」(抗仙掌以承露、擢雙立之金莖)とある。ウィキソース「西都賦」参照。また『漢書』郊祀志に「其の後又た柏梁・銅柱・承露・仙人掌の属を作る」(其後又作柏梁、銅柱、承露、仙人掌之屬矣)とある。ウィキソース「漢書/卷025上」参照。
  • 一気 … 万物を生み出す根源の気。『荘子』知北遊篇に「天下を通じて一気のみ」(通天下一氣耳)とある。ウィキソース「莊子/知北遊」参照。晋の潘岳はんがくの「西征の賦」(『文選』巻十)に「りょうかく惚恍こつこうとして、いっして三才さんさいつくる」(寥廓惚恍、化一氣而甄三才)とある。ウィキソース「西征賦」参照。
  • 旁 … すぐ近くのあたり。そば。ここでは銅柱が天上にある根源の気のあたりまでそびえ立つこと。『文苑英華』『古今詩刪』では「傍」に作る。
山河扶繡戶
さん しゅうたす
  • 山河 … 山や川。陳後主叔宝の「入隋侍宴応詔」(『古詩紀』巻一百八、『文苑英華』巻一百六十九)に「日月天徳をかがやかし、山河帝居を壮んにす」(日月光天德、山河壯帝居)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷108」参照。
  • 繡戸 … 刺繡を施した美しい部屋。
  • 扶 … 左右から抱えるように取り巻くこと。
日月近雕梁
日月じつげつ 雕梁ちょうりょうちか
  • 日月 … 日や月。
  • 雕梁 … 彫刻を施したうつばり。檀約の「陽春歌」(『古詩紀』巻七十一、『文苑英華』巻一百九十三、『楽府詩集』巻五十一)に「青春初歳を献じ、白日雕梁に映ゆ」(青春獻初歲、白日映雕梁)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷071」参照。
  • 近 … (梁の)近くを巡っていく。
仙李盤根大
せん 盤根ばんこんだいにして
  • 仙李 … 仙界のすもも。ここでは廟前に植えられているすももの木を指す。老子は生まれてすぐにすももの木を指さして、これを我が姓とすると宣言したという。『太平広記』巻一、神仙に「老子生れて能く言う、李樹を指して曰く、これを以て我が姓とさん」(老子生而能言、指李樹曰、以此爲我姓)とある。ウィキソース「太平廣記/卷第001」参照。また『述異記』巻下に「中山にひょう有り、大いさ拳の如き者を、呼んで仙李と為す」(中山有縹李大如拳者、呼爲仙李)とある。縹李は、はなだ色(薄い藍色)のすもも。また巻上に「瀬郷に老子のほこらあり、紫石榴・紅縹李有り、一李二色」(瀨鄉老子祠有紫石榴紅縹李、一李二色)とある。ウィキソース「述異記」参照。
  • 仙 … 『唐詩品彙』では「僊」に作る。同義。
  • 盤根 … 曲がりくねった根。老子の子孫であるという唐王室がしっかりと根を張って繁栄しているということの譬え。畳韻語。唐の太宗「李を探得す」(『全唐詩』巻一)に「盤根盈渚えいしょに直し、幹を交えて天に倚って横たう」(盤根直盈渚、交幹橫倚天)とある。ウィキソース「探得李」参照。また庾信の「老子の廟に至る、みことのりに応ず」(『古詩紀』巻一百二十五、『文苑英華』巻一百七十)に「もう新鵠しんこくちいさく、盤根ばんこんじゅひくし」(毻毛新鵠小、盤根古樹低)とある。毻毛は、羽毛が抜けかわること。新鵠は、若い白鳥。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷125」参照。
  • 大 … 根が太いこと。
猗蘭奕葉光
らん 奕葉えきようかがや
  • 猗蘭 … 茂った蘭。また漢の武帝が生まれた宮殿の名。ここでは武帝を玄宗皇帝になぞらえている。『漢武故事』に「帝は乙酉いつゆうとし七月七日のあしたを以て、らん殿でんうまる。としさい、立ちて膠東こうとうおうと為る」(帝以乙酉年七月七日旦、生於猗蘭殿。年四歲、立爲膠東王)とある。ウィキソース「漢武故事」参照。
  • 奕葉 … 幾重にも重なった葉。また、代々の意味もあり、唐王室が代々繁栄していることに譬える。双声語。曹植の「王仲宣のるい」(『文選』巻五十六)に「きみ顕考けんこうかさねてときたすく」(伊君顯考、奕葉佐時)とある。ウィキソース「王仲宣誄」参照。
  • 光 … 輝く。
世家遺舊史
せい きゅうのこ
  • 世家 … 『史記』の中で、主として諸侯や王の家柄の歴史を述べた部分。孔子の伝記は世家の中に含められたが、老子は列伝に入れられた。玄宗のとき、老子伝を列伝の冒頭に置いた。『正義』に「老子・荘子、開元二十三年、勅し奉り升して列伝の首と為す。夷・斉の上に処く」(老子莊子、開元二十三年、奉敕升爲列傳首。處夷齊上)とある。ウィキソース「史記正義 (四庫全書本)/卷061」「史記三家註/卷061」参照。
  • 世 … 『宋本』『杜陵詩史』『四部叢刊本』『草堂詩箋』では「丗」に作る。異体字。
  • 旧史 … ここでは『史記』を指す。
  • 遺 … 忘れる。遺忘。『全唐詩』『銭注本』には「一作隨」とある。『詳注本』には「一作貽」とある。
道德付今王
道徳どうとく 今王きんおう
  • 道徳 … 『老子道徳経』の教え。ウィキペディア【老子道徳経】参照。
  • 今王 … 今上皇帝。玄宗を指す。『書経』太甲下篇に「今王いで令緒れいしょを有す」(今王嗣有令緒)とある。ウィキソース「尚書/太甲下」参照。
  • 王 … 『文苑英華』では「主」に作る。
  • 付 … 伝えられた。授けられた。『封氏聞見記』巻一に「玄宗開元二十一年、みずから老子道徳経を註し、学者をして之を習わしむ」(玄宗開元二十一年、親註老子道德經、令學者習之)とある。ウィキソース「封氏聞見記/卷一」参照。『全唐詩』『銭注本』には「一作冠」とある。
畫手看前輩
しゅ 前輩ぜんぱいるに
  • 画手 … 画家。画工・画師・画匠なども同じ。
  • 前輩 … 先輩。孔融の「盛孝章を論ずるの書」(『文選』巻四十一)に「今の少年、このんで前輩をそしり、或いは能く孝章をひょうす」(今之少年、喜謗前輩、或能譏評孝章)とある。ウィキソース「論盛孝章書」参照。『唐詩選』では「先輩」に作る。
  • 看 … 見る。較べる。
吳生遠擅場
せい とおじょうほしいままにす
  • 呉生 … 呉道子。生は、敬称。
  • 呉 … 『詳注本』では「吴」に作る。異体字。
  • 遠 … 遥かに。
  • 擅場 … その場に匹敵する者がいない。擅は、ほしいままにすること。張衡の「東京とうけいの賦」(『文選』巻三)に「秦政しんせい利觜りしちょうきょありて、ついじょうほしいままにするをおごりをもっぱらにせんことをおもえり」(秦政利觜長距、終得擅場、思專其侈)とある。ウィキソース「東京賦」参照。また曹植の「闘雞篇」(『楽府詩集』巻六十四)に「ねがわくはこうたすけをこうむりて、つねじょうほしいままにするをん」(願蒙狸膏助、常得擅此場)とある。ウィキソース「樂府詩集/064卷」参照。
  • 場 … 『唐詩品彙』では「塲」に作る。異体字。
森羅移地軸
しん じくうつ
  • 森羅 … 森羅万象の略。天地間のありとあらゆる物や、一切の現象。ここでは画中の森羅万象を指す。『証道歌』に「ばんしょうしんかげうちげんず、いっ円光えんこうないあらず」(萬象森羅影現中、一顆圓光非内外)とある。ウィキソース「永嘉證道歌」参照。
  • 地軸 … 大地の回転を支えていると想像された心棒。地中に三千六百本あるという。『太平御覧』に引く『河図括地象』に「昆侖は、地の中なり。下に八柱有り、柱の広さ十万里、三千六百軸有り、互いに相牽制し、名山大川、孔穴相通ず」(昆侖者、地之中也。下有八柱、柱廣十萬里、有三千六百軸、互相牽制、名山大川、孔穴相通)とある。ウィキソース「太平御覽/0036」参照。また木華の「海の賦」(『文選』巻十二)に「かたち天輪てんりん膠戻こうれいして激転げきてんするがごとく、またじく挺抜ていばつして争迴そうかいするにたり」(狀如天輪膠戾而激轉、又似地軸挺拔而爭迴)とある。ウィキソース「海賦 (木華)」参照。
  • 移 … 絵の中に移動させる。
妙絕動宮牆
みょうぜつ 宮牆きゅうしょううごかす
  • 妙絶 … 非常にすぐれていること。絶妙の技。
  • 宮牆 … 宮殿の垣根。魏の応璩おうきょ「百一詩三首 其の二」(『古詩紀』巻二十七)に「奈何なればすえの世の人は、侈靡しびを宮墻にいてするや」(奈何季世人、侈靡在宮墻)とある。侈靡は、身分不相応に贅沢すること。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷027」参照。
  • 動 … 揺り動かすほどである。
五聖聯龍袞
せい りょうこんつら
  • 五聖 … 五人の聖天子。上記の注参照。また『淮南子』脩務訓に「此の五聖は天下の盛主なり」(此五聖者天下之盛主)とある。ウィキソース「淮南子/脩務訓」参照。
  • 竜袞 … 竜の模様が刺繡された天子の衣服。『礼記』礼器篇に「れいぶんもったっとしとものり。てんりょうこん諸侯しょこうたいふつげんくんしょう」(禮有以文爲貴者。天子龍袞、諸侯黼、大夫黻、士玄衣纁裳)とある。黼は、斧紋。黻は、弓紋。玄衣纁裳は、黒衣に薄赤の裳で無紋。ウィキソース「禮記/禮器」参照。
  • 聯 … つらねて立つ。列になって立つ。『全唐詩』には「一作連」とある。『銭注本』『詳注本』には「晉作連」とある。
千官列雁行
千官せんかん 雁行がんこうつら
  • 千官 … 数多くの役人。百官にほぼ同じ。『荀子』正論篇に「いにしえは天子に千官あり、諸侯に百官あり」(古者天子千官、諸侯百官)とある。ウィキソース「荀子/正論篇」参照。
  • 雁行 … 空を飛ぶ雁の列のように、整然と隊列を組んで並ぶこと。『礼記』王制篇に「ちちよわいには随行ずいこうし、あによわいには雁行がんこうし、朋友ほうゆうにはあいえず」(父之齒隨行、兄之齒鴈行、朋友不相踰)とある。ウィキソース「禮記/王制」参照。
  • 雁 … 『宋本』『九家集注本』『杜陵詩史』『四部叢刊本』『草堂詩箋』『唐詩品彙』『文苑英華』では「鴈」に作る。同義。
  • 列 … 列になって続く。『全唐詩』『銭注本』『詳注本』には「一作引」とある。
冕旒倶秀發
べんりゅう ともしゅうはつ
  • 冕旒 … 天子のかんむり。冕は、天子がかぶる冠。旒は、冠の前後に、流れるように垂らした玉飾り。『礼記』礼器篇に「てんべんは、しゅりょくそうじゅうゆうりゅう」(天子之冕、朱綠藻、十有二旒)とある。朱緑藻は、朱と緑との飾り玉を貫いた紐。ウィキソース「禮記/禮器」参照。
  • 倶 … いずれも。
  • 秀発 … 光鮮やかなさま。光彩の美しく盛んなさま。左思の「蜀都の賦」(『文選』巻四)に「王褒おうほうようとしてしゅうはつし、楊雄ようゆうしょうふくんで挺生ていせいす」(王褒暐曄而秀發、楊雄含章而挺生)とある。ウィキソース「蜀都賦 (左思)」参照。
旌旆盡飛揚
旌旆せいはい ことごとよう
  • 旌旆 … 色鮮やかな旗。旗指物はたさしもの。旌旗・旌旃せいせんも同じ。
  • 旆 … 『唐詩選』では「旗」に作る。
  • 飛揚 … 高く翻っている。漢の高祖の「大風の歌」に「大風たいふうおこりてくもようす」(大風起兮雲飛揚)とある。ウィキソース「大風歌 (劉邦)」参照。
翠柏深留景
翠柏すいはく ふかかげとど
  • 翠柏 … 緑色の柏の木。柏は、ヒノキ科の常緑樹の一種。コノテガシワ。日本でいうブナ科のカシワとは違う。『水経注』涑水の条に「翠柏すいはくみねおおい、清泉せいせんいただきそそぐ」(翠柏蔭峯、清泉灌頂)とある。ウィキソース「水經注/06」参照。ウィキペディア【コノテガシワ】参照。
  • 柏 … 『宋本』『杜陵詩史』『四部叢刊本』『草堂詩箋』『唐詩品彙』『文苑英華』では「栢」に作る。異体字。
  • 深留景 … 地面に深い影を留めている。謝朓の「高松の賦」に「懐風陰にして声を送り、当月露にして影を留む」(懷風陰而送聲、當月露而留影)とある。ウィキソース「高松賦 (謝朓)」参照。
  • 留 … 『唐詩選』『唐詩品彙』では「畱」に作る。異体字。
紅梨迥得霜
こう はるかにしもたり
  • 紅梨 … りんご。
  • 迥得霜 … 霜に打たれた姿を遠くに見せている。
  • 迥 … 『文苑英華』では「廽」に作る。
風箏吹玉柱
風箏ふうそう 玉柱ぎょくちゅう
  • 風箏 … 軒の下につるした風鈴。風鐸。楊慎の『丹鉛総録』風箏詩に「古人殿閣えんりょうの間、風琴・風箏有り、皆風に因りて動きて音を成し、自ら宮商にかなう」(古人殿閣簷稜間、有風琴、風箏、皆因風動成音、自諧宮商)とある。簷稜は、軒端。宮商は、音楽の調子。ウィキソース「丹鉛總録 (四庫全書本)/卷20」参照。
  • 玉柱 … ぎょくで作った立派な柱。りゅううんの「七夕たなばた穿針せんしん」(『玉台新詠』巻五)に「せい羅衣らいくだり、しゅうふう玉柱ぎょくちゅうく」(清露下羅衣、秋風吹玉柱)とある。ウィキソース「七夕穿針」参照。
  • 吹 … 風が吹く。玉柱に風が吹いて風鈴が音を響かせる様子。
露井凍銀牀
せい ぎんしょうこお
  • 露井 … 屋根のない井戸。『楽府詩集』相和歌辞、相和曲、雞鳴に「桃露井の上に生じ、李樹桃傍に生ず」(桃生露井上、李樹生桃傍)とある。ウィキソース「樂府詩集/028卷」参照。
  • 銀牀 … 銀で作った井桁。『楽府詩集』舞曲歌辞、雑舞、淮南王篇に「後園に井をうがち、銀を牀とし、金瓶こうかん漿しょうを汲む」(後園鑿井銀作牀、金瓶素綆汲寒漿)とある。素綆は、白絹のつるべの縄。ウィキソース「樂府詩集/054卷」参照。また、ろくだな(つるべを上下させるのに用いる滑車の棚)とする説もある。『名義考』金井銀床の条に「銀床は亦た井欄に非ず、蓋し轆轤架なり」(銀床亦非井欄、蓋轆轤架也)とある。ウィキソース「名義考 (四庫全書本)/卷12」参照。
  • 牀 … 『九家集注本』『四部叢刊本』『杜陵詩史』では「床」に作る。同義。
  • 凍 … てついている。『全唐詩』には「一作動」とある。『銭注本』『詳注本』には「《英華》作動」とある。『文苑英華』では「動」に作る。
身退卑周室
退しりぞいてしゅうしついやしく
  • 身退卑周室 … 老子は世俗の栄達を嫌い、周の守蔵室の史(蔵書番)という低い地位に就いていたことを指す。『老子』第九章に「こうげて退しりぞくは、てんみちなり」(功成名遂身退、天之道)とある。ウィキソース「老子河上公章句/上」参照。また『史記』老子伝に「ろうは、……しゅう守蔵室しゅぞうしつなり。……しゅうることこれひさしくし、しゅうおとろうるをすなわついり、かんいたる。関令かんれいいんいわく、まさいんせんとす。つとめてためしょあらわせ、と。ここいてろうすなわしょじょうへんあらわし、道徳どうとくうこと、せんげんにしてる」(老子者、……周守藏室之史也。……居周久之、見周之衰乃遂去、至關。關令尹喜曰、子將隱矣。彊爲我著書。於是老子乃著書上下篇、言道德之意、五千餘言而去)とある。史は、下級の官吏。小吏。小役人。『正義』に「抱朴子に云く、老子西遊し、関令尹喜に散関に遇い、喜の為に道徳経一巻を著し、之を老子と謂う」(抱朴子云、老子西遊、遇關令尹喜於散關、爲喜著道德經一卷、謂之老子)とある。ウィキソース「史記正義 (四庫全書本)/卷061」「史記三家註/卷063」参照。
  • 周室 … 周の王室。『孔叢子』巡狩篇に「今、周室卑微ひびにして諸侯に霸無し」(今周室卑微諸侯無霸)とある。卑微は、衰えて小さくなること。ウィキソース「孔叢子/08」参照。
經傳拱漢皇
けいつたわりて漢皇かんこうきょうせしむ
  • 経 … 『老子道徳経』を指す。ウィキペディア【老子道徳経】参照。
  • 伝 … 後世に伝えられた。
  • 漢皇 … 漢の皇帝。ここでは漢の文帝を指す。文帝は『老子道徳経』を愛読し、河上公という隠者に師事したという。今も『老子河上公注』という本が伝わっている。『神仙伝』河上公の条に「河上公は、其の姓名を知る莫し。漢の孝文帝の時、草を結びていおりを河の浜につくる。常に老子道徳経を読む。時に文帝、老子の道を好む。……帝、経中に於いて疑義有り、人能く通ずる莫し、侍郎裴楷奏して云く、陜州の河上に人有り、老子を誦す。即ち詔使を遣わして疑義する所をもたらし之に問わしむ」(河上公者、莫知其姓名也。漢孝文帝時、結草爲庵於河之濱。常讀老子道德經。時文帝好老子之道。……帝於經中有疑義、人莫能通、侍郎裴楷奏云、陜州河上有人誦老子。即遣詔使賫所疑義問之)とある。ウィキソース「神仙傳/卷八」参照。ウィキペディア【文帝 (漢)】参照。
  • 拱 … こまぬく。敬意を表すために、両手を胸の前で組み合わせて礼をすること。
谷神如不死
谷神こくしん せずんば
  • 谷神 … 谷の中の空虚な所にある不思議な力。万物を産み出す働き。『老子』第六章に「谷神こくしんせず、これ玄牝げんぴんう」(谷神不死、是謂玄牝)とあるのに基づく。ここでは老子の精神を指す。庾信の「道士歩虚詞十首 其五」(『楽府詩集』巻七十八、『文苑英華』巻一百九十三、『古詩紀』巻一百二十四)に「ようびょうは玄牝を思い、虚無は谷神を養う」(要妙思玄牝、虛無養谷神)とある。ウィキソース「樂府詩集/078卷」「文苑英華 (四庫全書本)/卷0193」参照。
  • 如不死 … もし今も死なずに生き続けているならば。
  • 如 … 「もし~せば」と読み、「もし~ならば」と訳す。順接の仮定条件の意を示す。
養拙更何鄉
せつやしなうはさらいずれのきょう
  • 養拙 … 生まれつき有する素朴さを養い保つこと。潘岳「閑居の賦」(『文選』巻十六)に「衆妙しゅうみょうあおぎておもいをち、つい優游ゆうゆうしてもっせつやしなわん」(仰衆妙而絕思、終優游以養拙)とある。ウィキソース「閑居賦」参照。
  • 更何郷 … この廟以外に、いったいどこにあるのだろうか。『荘子』逍遙遊篇に「なんこれ無何むかゆうきょう広莫こうばくえ、彷徨ほうこうとしてかたわらく、しょうようとしてしたしんせざる」(何不樹之於無何有之鄉、廣莫之野、彷徨乎無爲其側、逍遙乎寢臥其下)とある。ウィキソース「莊子/逍遙遊」参照。
  • 郷 … 『全唐詩』『宋本』『銭注本』『詳注本』には「一作方」とある。
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