孫子 行軍篇
01 孫子曰、凡處軍、相敵、絶山依谷、視生處高、戰隆無登。
孫子曰く、凡そ軍を処き、敵を相るに、山を絶れば谷に依り、生を視て高きに処り、隆きに戦うに登ること無かれ。
- この篇は『孫子集注』(明嘉靖刊本、『四部叢刊 初篇子部』所収)の本文が錯乱しているので、『十一家注孫子校理』(中華書局、1999年)により本文の順序を改めた。
- 行軍篇 … 武経本では「行軍第九」に作る。
- 処軍相敵 … 軍の配置と敵情の偵察について言えば。
- 絶山依谷 … 山を越えるには谷沿いを進む。「絶」は、ここでは越えるの意。
- 視生処高 … 高みを見つけては高い場所に布陣する。「生」は、ここでは高みの意。
- 戦隆無登 … 敵が高い場所にいる場合は、攻め登ってはいけない。
此處山之軍也。
此れ山に処るの軍なり。
- 此処山之軍也 … これが山地にいる軍隊の注意すべきことである。
絶水必遠水。
水を絶れば必ず水より遠ざかる。
- 絶水必遠水 … 川を渡り終えたら、必ず川から遠ざかる。
客絶水而來、勿迎之於水内、令半濟而擊之利。
客、水を絶りて来らば、之を水の内に迎うること勿く、半ば済らしめて之を撃つは利あり。
- 客絶水而来 … 敵が川を渡って来たときは。「客」は敵を指す。
- 勿迎之於水内 … 敵を川の中で迎え撃ったりせず。「之」は敵を指す。「迎」は迎え撃つ。
- 令半済而撃之利 … 敵の半分が渡った時に攻撃すると有利である。
欲戰者、無附於水而迎客。
戦わんと欲する者は、水に附きて客を迎うること無かれ。
- 欲戦者 … 戦おうとするときは。
- 無附於水而迎客 … 川岸で待機して敵を迎え撃ってはいけない。
視生處高、無迎水流。
生を視て高きに処り、水流を迎うること無かれ。
- 視生処高 … 高みを見つけては高い場所に布陣する。「生」は、ここでは高みの意。
- 無迎水流 … 下流にいて上流の敵を迎え撃ってはいけない。
此處水上之軍也。
此れ水上に処るの軍なり。
- 此処水上之軍也 … これが川のほとりにいるときの軍隊の注意すべきことである。
絶斥澤、惟亟去無留。
斥沢を絶れば、惟だ亟かに去りて留まること無かれ。
- 斥沢 … 湿地帯。沼沢地。
- 惟亟去無留 … ただ速やかに通過し、そこに留まってはいけない。
- 惟 … 武経本では「唯」に作る。
- 亟 … 「すみやかに」と読み、「すみやかに」「急いで」と訳す。
若交軍於斥澤之中、必依水草而背衆樹。
若し軍を斥沢の中に交うれば、必ず水草に依りて衆樹を背にせよ。
- 若交軍於斥沢之中 … もし湿地帯で敵と交戦する事態になったならば。
- 必依水草 … 必ず飲料水と飼料の草がある所に軍を配置する。
- 背衆樹 … 多くの樹木を背にして布陣せよ。
此處斥澤之軍也。
此れ斥沢に処るの軍なり。
- 此処斥沢之軍也 … これが湿地帯にいるときの軍隊の注意すべきことである。
平陸處易、而右背高、前死後生。
平陸には易きに処りて、高きを右背にし、死を前にして生を後ろにす。
- 平陸処易 … 平地では平坦な場所に軍を駐留させる。
- 平陸 … 平らな陸地。
- 而 … 武経本にはこの字なし。
- 右背高 … 高い所を右後方にする。
- 前死後生 … 低地を前にし、高地を後ろにする。
此處平陸之軍也。
此れ平陸に処るの軍なり。
- 此処平陸之軍也 … これが平地にいるときの軍隊の注意すべきことである。
凡此四軍之利、黄帝之所以勝四帝也。
凡そ此の四軍の利は、黄帝の四帝に勝ちし所以なり。
- 四軍之利 … 山地・河川地帯・湿地帯・平地における軍隊の利益。
- 黄帝之所以勝四帝也 … 黄帝が四人の帝王に勝った原因である。
- 黄帝 … 伝説上の帝王。五帝の一人。名は軒轅。ウィキペディア【黄帝】参照。
02 凡軍好高而惡下、貴陽而賤陰、養生而處實。
凡そ軍は高きを好みて下きを悪み、陽を貴びて陰を賤しみ、生を養いて実に処る。
- 軍好高而悪下 … 軍隊は高い所を好んで低い所を嫌う。
- 貴陽而賤陰 … 日当たりの良い南面を尊び、日当たりの悪い北面を蔑む。
- 養生而処実 … 兵士の健康に留意し、水や草など補給物資の豊かな場所にいる。武経本には「而」の字なし。
軍無百疾、是謂必勝。
軍に百疾無くんば、是を必勝と謂う。
- 百疾 … 種々の病気。「百」は、数の多いこと。「疾」は、疾病。
- 必勝 … 必ず勝つこと。
丘陵隄防、必處其陽、而右背之。
丘陵・隄防には、必ず其の陽に処りて、之を右背にす。
- 丘陵隄防 … 丘や堤防がある場合は。「隄」は「堤」と同義。
- 必処其陽 … 必ず日当たりの良い場所にいる。
- 右背之 … 丘や堤防が右後方になるようにする。「之」は丘や堤防を指す。
此兵之利、地之助也。
此れ兵の利、地の助けなり。
- 兵之利 … 戦闘上の利益。
- 地之助 … 地形の援助。
03 上雨、水沫至、欲渉者、待其定也。
上に雨ふりて、水沫至らば、渉らんと欲する者は、其の定まるを待て。
- 上雨 … 上流に雨が降って。
- 水沫至 … 水かさが増してきたら。「水沫」は、水のあわ。
- 欲渉者 … 川を渡ろうとする者は。
- 待其定也 … 水の流れが落ち着くまで待たなければならない。
凡地、有絶澗、天井、天牢、天羅、天陷、天隙、必亟去之、勿近也。
凡そ地に、絶澗・天井・天牢・天羅・天陥・天隙有らば、必ず亟かに之を去りて、近づくこと勿かれ。
- 地 … 地形。
- 絶澗 … 切り立って深くて険しい谷間。絶谷・絶壑とも。
- 天井 … 四方が高くて中央が窪んでいる、天然の井戸のような所。
- 天牢 … 入り口以外は山に囲まれて脱出困難な、天然の牢獄のような所。
- 天羅 … 灌木が密生して進むのが困難な、天然の網のような所。
- 天陥 … 沼地で足を取られてしまう、天然の落とし穴のような所。
- 天隙 … 山間の細くて狭い、天然の裂け目のような所。
- 必亟去之 … 必ず速やかに立ち去って。
- 亟 … 「すみやかに」と読み、「すみやかに」「急いで」と訳す。
- 勿近也 … 近づいてはならない。
吾遠之、敵近之、吾迎之、敵背之。
吾は之に遠ざかり、敵は之に近づかせ、吾は之を迎え、敵は之に背にせしめよ。
- 吾遠之 … 味方はこの地から遠ざかる。「之」は絶澗から天隙までの六地を指す。
- 敵近之 … 敵はこの地に近づくように仕向ける。
- 吾迎之 … 味方はこの地に向かって攻撃する。
- 敵背之 … 敵はこの地を背後にするように追い込む。
軍行有險阻、潢井、葭葦、山林、翳薈者、必謹覆索之。
軍行に険阻・潢井・葭葦・山林・翳薈有れば、必ず謹んで之を覆索せよ。
- 軍行 … 行軍中に。武経本では「軍旁」に作る。こちらは「行軍している道のそばに」の意。
- 険阻 … 険しい場所。「嶮岨」とも書く。
- 潢井 … 水たまりと井戸。「潢」は、水たまり。水をためた池。
- 葭葦 … 葦の密生地。武経本では「蒹葭」に作る。
- 山林 … 武経本では「林木」に作る。
- 翳薈 … 草木の生い茂っている所。
- 必謹覆索之 … 必ず念入りに探索しなければならない。「謹」は、念を入れること。
- 覆索 … 念入りに調べ探すこと。
此伏姦之所處也。
此れ伏姦の処る所なり。
- 伏姦 … 待ち伏せして不意に襲いかかる兵。伏兵。
- 処 … 武経本にはこの字なし。
04 敵近而靜者、恃其險也。
敵近くして静かなるは、其の険を恃むなり。
- 敵近而静者 … 敵が近くにおりながら、静まり返っているのは。
- 敵 … 武経本にはこの字なし。
- 恃其険也 … 陣地の険しさを頼りとしているからである。
- 恃 … 頼む。頼りとする。当てにする。期待する。
遠而挑戰者、欲人之進也。
遠くして戦いを挑むは、人の進むを欲するなり。
- 遠而挑戦者 … 敵が遠くにいながら、戦いを挑んでくるのは。
- 欲人之進也 … こちらが進撃するのを望んでいるからである。
其所居易者、利也。
其の居る所の易きは、利あるなり。
- 其所居易者 … 敵が陣地を敷いている場所が平坦な土地であるのは。
- 利也 … 何か利便を見出しているからである。
衆樹動者、來也。
衆樹の動くは、来るなり。
- 衆樹動者 … 多くの木々が揺れ動いているのは。
- 来也 … 敵が進撃してくるからである。
衆草多障者、疑也。
衆草の障多きは、疑なり。
- 衆草多障者 … あちこちの草を結んで覆いかぶせてあるのは。「障」は、ここでは覆いかぶせる。
- 疑也 … 伏兵がいるように疑い惑わせるためである。
鳥起者、伏也。
鳥の起つは、伏なり。
- 鳥起者 … 鳥が飛び立つのは。
- 伏也 … 伏兵がいるからである。
獸駭者、覆也。
獣の駭くは、覆なり。
- 獣駭者 … 獣が驚いて走り出すのは。
- 駭 … 驚く。
- 覆也 … 伏兵がいるからである。「覆」も、伏兵の意。
塵高而鋭者、車來也。
塵高くして鋭きは、車の来るなり。
- 塵高而鋭者 … 砂塵が高く舞い上がって、先端が尖っているのは。
- 車来也 … 戦車が来るからである。
卑而廣者、徒來也。
卑くして広きは、徒の来るなり。
- 卑而広者 … 砂塵が低く一面に広がって舞い上がるのは。
- 徒来也 … 敵の歩兵がやって来るからである。
散而條達者、樵採也。
散じて条達するは、樵採するなり。
- 散而条達者 … 砂塵があちらこちらで細い筋のように舞い上がるのは。「条」は、すじ。「達」は、十分にのびること。
- 樵採也 … 炊事のために薪を取っているからである。
少而往來者、營軍也。
少なくして往来するは、軍を営むなり。
- 少而往来者 … 砂塵が少しだけしか上がらず、兵士が行ったり来たりしているのは。
- 営軍也 … 宿営の準備をしているからである。
辭卑而益備者、進也。
辞卑くして備えを益すは、進むなり。
- 辞卑而益備者 … 敵の使者の口上はへりくだっているのに、着々と守備を増強しているのは。
- 進也 … 実は進撃しようとしているからである。
辭疆而進驅者、退也。
辞疆くして進駆するは、退くなり。
- 辞疆而進駆者 … 敵の使者の口上が強硬で、今にも進軍してくるかのように見せるのは。「疆」は武経本では「強」に作る。
- 進駆 … 敵陣に向かって進むこと。
- 退也 … 実は退却しようとしているからである。
輕車先出、居其側者、陳也。
軽車先に出でて、其の側に居るは、陣するなり。
- 軽車先出 … 軽戦車が前面に出てきて。
- 軽車 … 戦車。軽戦車。
- 居其側者 … 敵軍の両側に配置しているのは。
- 陣也 … 陣立てをしているのである。「陣」と「陳」は同義。
無約而請和者、謀也。
約無くして和を請うは、謀るなり。
- 無約而請和者 … 敵が窮迫した事情もないのに、講和を申し入れてくるのは。「約」は、ここでは困窮。貧窮。一説に、誓う、約束するの意。
- 謀也 … 何か計略があるからである。
奔走而陳兵車者、期也。
奔走して兵車を陳ぬるは、期するなり。
- 奔走而陳兵車者 … 敵が慌ただしく戦車を配置しているのは。
- 兵車 … 戦車。武経本には「車」の字なし。
- 期也 … 決戦を期しているからである。
半進半退者、誘也。
半進半退するは、誘うなり。
- 半進半退者 … 敵の軍隊が進んだり、退いたりしているのは。
- 誘也 … こちらを誘い出そうとしているからである。
杖而立者、飢也。
杖つきて立つは、飢うるなり。
- 杖而立者 … 兵士が杖にすがって立っているのは。兵器を杖として身体を支えているのは。
- 飢也 … 食糧が不足しているからである。
汲而先飮者、渇也。
汲みて先ず飲むは、渇するなり。
- 汲而先飲者 … 水汲みに出て、本人が先に飲んでしまうのは。
- 渇也 … 飲料水が不足しているからである。
見利而不進者、勞也。
利を見て進まざるは、労るるなり。
- 見利而不進者 … 敵が有利なものを見ても、進んで攻撃してこないのは。
- 労也 … 疲労しているからである。
鳥集者、虚也。
鳥の集まるは、虚しきなり。
- 鳥集者 … 鳥が敵陣の上に集まっているのは。
- 虚也 … 敵がそこにいないからである。
夜呼者、恐也。
夜呼ぶは、恐るるなり。
- 夜呼者 … 夜、敵陣から大声で呼び交わす声が聞こえるのは。
- 恐也 … 敵の兵士が恐怖にかられているからである。
軍擾者、將不重也。
軍の擾るるは、将の重からざるなり。
- 軍擾者 … 敵軍が乱れて騒がしいのは。
- 将不重也 … 敵の将軍に威厳がないからである。
旌旗動者、亂也。
旌旗の動くは、乱るるなり。
- 旌旗動者 … 敵の旗が揺れ動いているのは。
- 旌旗 … 旗。旗指物。
- 乱也 … 軍の秩序が乱れているからである。
吏怒者、倦也。
吏の怒るは、倦みたるなり。
- 吏怒者 … 上官が部下を怒鳴り散らすのは。
- 倦也 … 兵士たちが戦いに飽きて疲れているからである。
粟馬肉食、軍無懸缻、不返其舍者、窮寇也。
馬に粟して肉食し、軍に缻を懸くること無く、其の舎に返らざるは、窮寇なり。
- 粟馬 … 兵士の食べる食糧を馬に食べさせる。
- 粟 … 穀物の総称。武経本では「殺」に作る。
- 肉食 … 兵士が牛馬を殺してその肉を食べる。武経本では「肉食者」に作る。
- 軍無懸缻 … 懸けている軍の炊事道具を取り片付けてしまう。「缻」は、鍋や釜などの炊事道具を指し、使用しないときは懸けておく。武経本では「軍無糧也懸缶」に作る。
- 不返其舎者 … 野営の兵舎に戻ろうとしないのは。
- 窮寇 … 進退窮まった敵。窮地に陥っている敵。
諄諄翕翕、徐與人言者、失衆也。
諄諄翕翕として、徐に人と言うは、衆を失うなり。
- 諄諄 … 丁寧に説き聞かせること。ねんごろに繰り返し話すこと。
- 翕翕 … 相手に合わせるように努めること。下手に出ること。武経本では「」に作る。
- 徐与人言者 … 静かにゆっくりと兵士に話しかけているのは。「徐」は、ゆっくりしている様子。
- 失衆也 … 部下の信望を失っているからである。
數賞者、窘也。
数〻賞するは、窘しむなり。
- 数 … 「しばしば」と読み、「たびたび」と訳す。書き下し文では「〻」(二の字点)が用いられ、「数〻」と表記されることが多い。
- 賞者 … 賞を与えるのは。
- 窘也 … 行き詰まって苦しんでいるからである。
數罰者、困也。
数〻罰するは、困しむなり。
- 罰者 … 罰を与えるのは。
- 困也 … 苦境を脱しようとして苦しんでいるからである。「困」は「窘」と同じ。
先暴而後畏其衆者、不精之至也。
先に暴にして後に其の衆を畏るるは、不精の至りなり。
- 先暴而後畏其衆者 … 始めは乱暴に兵士たちを扱っておきながら、後からその兵士たちの離反を恐れるのは。
- 不精之至也 … まったく配慮が足りないことである。「不精」は、その道に精通していないの意。
來委謝者、欲休息也。
来りて委謝するは、休息を欲するなり。
- 来委謝者 … 敵の軍使がやって来て、穏やかに詫び言を言うのは。「委謝」は、穏やかに詫び言を言うこと。
- 欲休息也 …しばらく休戦して兵士を休ませたいからである。
兵怒而相迎、久而不合、又不相去、必謹察之。
兵怒りて相迎え、久しくして合せず、又相去らざるは、必ず謹みて之を察せよ。
- 兵怒而相迎 … 敵の兵士がいきり立って、攻め寄せてきて我が軍と対峙し。
- 久而不合 … しばらく経っても戦おうとせず。
- 又不相去 … また撤退もしないのは。
- 必謹察之 … 何か意図があるから、必ず慎重に観察しなければならない。
05 兵非益多也。
兵は多きを益とするに非ざるなり。
- 兵非益多也 … 戦争は、兵士の数が多ければ多いほどよいというものではない。「益」は、有益。武経本では「兵非貴益多」に作る。
惟無武進、足以併力、料敵、取人而已。
惟だ武進すること無く、以て力を併せて、敵を料るに足らば、人を取らんのみ。
- 惟無武進 … ただ猛進することなく。「惟」は武経本では「唯」に作る。
- 武進 … 勇ましく進むこと。
- 足以併力 … 味方の戦力を集中する。
- 料敵 … 敵情をはかることが十分であれば。敵の力量を計算し、把握できれば。
- 取人而已 … 敵を攻め取ることができる。「人」は、敵を指す。
夫惟無慮而易敵者、必擒於人。
夫れ惟だ慮り無くして敵を易る者は、必ず人に擒にせらる。
- 惟無慮而易敵者 … 思慮が浅く、敵を軽視するならば。「惟」は武経本では「唯」に作る。
- 必擒於人 … 必ず敵の捕虜にされるであろう。「人」は、敵を指す。「擒」は、捕虜にする。
卒未親附而罰之、則不服。
卒、未だ親附せざるに而も之を罰すれば、則ち服せず。
- 卒 … 兵士。歩兵。兵卒。
- 未親附 … まだ将軍に親しみ懐いていないのに。
- 親附 … 親しむ。懐く。
- 罰之 … 懲罰を行なうと。「之」は卒を指す。
- 不服 … 心服しなくなる。服従しなくなる。
不服、則難用也。
服せざれば、則ち用い難きなり。
- 不服則難用也 … 心服しない者は使いにくい。
- 也 … 武経本にはこの字なし。
卒已親附而罰不行、則不可用也。
卒、已に親附せるに而も罰行われざれば、則ち用う可からざるなり。
- 已親附而罰不行 … すでに将軍に親しみ懐いているのに、懲罰を行なわないでいると。
- 不可用也 … 用いることができない。働かせることができない。
- 也 … 武経本にはこの字なし。
故令之以文、齊之以武。
故に之に令するに文を以てし、之を斉うるに武を以てす。
- 令之以文 … 兵士に対し、徳をもって教える。「之」は、兵を指す。「令」は、教令する。教育する。「文」は、ここでは徳。恩徳。温情。
- 斉之以武 … 軍の法令をもって兵士を統制する。「武」は、軍の法令を指す。
是謂必取。
是を必取と謂う。
- 必取 … 敵を必ず攻め取る方法。
令素行以教其民、則民服。
令、素より行われて以て其の民を教うれば、則ち民服す。
- 令素行以教其民 … 普段から法令が守られていて、動員された兵士に軍の法令を教えるならば。「民」は、ここでは人民ではなく、動員されたばかりの新兵を指す。
- 民服 … 兵士は服従する。
令不素行以教其民、則民不服。
令、素より行われずして以て其の民を教うれば、則ち民服せず。
- 令不素行以教其民 … 普段から法令が守られていないのに、動員された兵士に軍の法令を教えるならば。「民」は、ここでは人民ではなく、動員されたばかりの新兵を指す。
- 民不服 … 兵士は服従しない。
令素行者、與衆相得也。
令、素より行わるる者は、衆と相得るなり。
- 令素行者 … 日頃から法令が徹底していれば。
- 与衆相得也 … 将軍と兵士は心が相通じ合う。兵士の信頼を勝ち取ることができる。「衆」は、ここでは大衆ではなく、兵士を指す。
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