五十歩百歩
五十歩百歩
- 出典:『孟子』梁恵王上(ウィキソース「孟子/梁惠王上」参照)
- 解釈:少しの違いはあっても本質的にはほとんど同じであること。たいした違いがないこと。戦場で、五十歩逃げた者が百歩逃げた者を笑ったが、逃げたことには変わりはないという故事から。
- 孟子 … 七編。戦国時代の思想家、孟子(前372?~前289)の言行や思想を弟子たちがまとめた書。四書の一つ。ウィキペディア【孟子 (書物)】参照。
梁惠王曰、
梁の恵王曰く、
寡人之於國也、盡心焉耳矣。
寡人の国に於けるや、心を尽くすのみ。
- 寡人 … わたくし。諸侯が自分を謙遜していう言葉。「徳の少ない人」という意味。「寡」は「少」と同じ。
- 於国 … 国の政治をするにあたっては。
- 尽心 … 精一杯心を砕いて政治をする。誠意をもって物事にあたる。
- 焉耳矣 … 三文字で「のみ」と読む。「~だけだ」「~ばかりだ」「~にほかならぬ」と訳す。強い断定の意を示す。
河内凶、則移其民於河東、移其粟於河内。
河内凶なれば、則ち其の民を河東に移し、其の粟を河内に移す。
- 河内 … 地名。「河」は黄河。今の河南省のうち、黄河以北の地。
- 凶 … 凶作。
- 則 … 「すなわち」と読み、「~ならば」「~すると、その時には」と訳す。
- 河東 … 地名。「河」は黄河。今の山西省の黄河以東の地。
- 粟 … 穀物の総称。「あわ」だけではない。
河東凶、亦然。
河東凶なるも、亦た然り。
- 亦然 … やはりそうする。同じようにする。
察隣國之政、無如寡人之用心者。
隣国の政を察するに、寡人の心を用うるが如き者無し。
- 用心 … 心遣いをする。
- 如 … 「~のごとし」と読み、「~のようだ」と訳す。
- 者 … 状態。様子。
隣國之民不加少、寡人之民不加多、何也。
隣国の民少なきを加えず、寡人の民多きを加えざるは、何ぞや。
- 不加少 … 減っていかない。
- 不加多 … 増えていかない。
- 何也 … 「なんぞや」と読み、「どうしてか」と訳す。
孟子對曰、
孟子対えて曰く、
- 孟子 … 前372~前289。戦国時代の思想家。魯の鄒(今の山東省鄒城市)の人。名は軻、字は子輿。亜聖(聖人につぐ賢人)と称される。ウィキペディア【孟子】参照。
- 対 … 目上の人に答えるときに「対」を用いる。
王好戰。請以戰喩。
王、戦いを好む。請う戦いを以て喩えん。
- 請~ … 「こう~(せ)ん」と読み、「どうか~させてほしい」と訳す。自分の希望を表す。
塡然鼓之、兵刃既接。
塡然として之に鼓し、兵刃既に接す。
- 塡然 … ドンドンと太鼓を打つ音の形容。
- 兵刃 … 武器。
棄甲曳兵而走。
甲を棄て兵を曳きて走る。
- 甲 … よろい。
- 棄 … 脱ぎ捨てる。
- 曳 … 引きずって。
- 走 … 逃げる。敗走する。
或百歩而後止、或五十歩而後止。
或いは百歩にして後止まり、或いは五十歩にして後止まる。
- 或 … ある者は。ある兵士は。
以五十歩笑百歩、則何如。
五十歩を以て百歩を笑わば、則ち何如、と。
- 以 … ~という理由で。
- 何如 … どうでしょうか。どうであるか。事実や状態を問う場合に用いる。「何奈」「何若」も同じ。ちなみに「如何」は「どうしたらよいか」と訳し、方法や処置・動作を問う場合に用いる。
曰、不可。直不百歩耳。
曰く、不可なり。直だ百歩ならざるのみ。
- 不可 … いけない。よくない。「可ならず」と読んでもよい。
- 直~耳 … 「ただ~のみ」と読み、「ただ~だけだ」と訳す。限定の意を示す。「耳」は「のみ」とひらがなで書き下す。
- 直不百歩耳 … ただ百歩でなかっただけだ。
是亦走也。
是れも亦た走るなり、と。
- 是 … 五十歩を指す。
- 亦 … 「~(も)また」と読み、「~もまた」「~も同様に」と訳す。
曰、王如知此、則無望民之多於隣國也。
曰く、王、如し此を知らば、則ち民の隣国より多きを望むこと無かれ、と。
- 如 … 「もし~ば」と読み、「もし~ならば」と訳す。仮定条件の意を示す。
- 此 … 五十歩逃げた者も、逃げた点では変わりなく、笑う資格がないという道理を指す。
- 民之多於隣国 … 国民が隣国よりも多い。「於」は置き字。比較を表す。
- 無 … 「なかれ」と読み、「~するな」と訳す。禁止の意を示す。
- 也 … ここでは置き字となり、読まない。
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