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五十歩百歩

じっひゃっ
  • 出典:『孟子』梁恵王上(ウィキソース「孟子/梁惠王上」参照)
  • 解釈:少しの違いはあっても本質的にはほとんど同じであること。たいした違いがないこと。戦場で、五十歩逃げた者が百歩逃げた者を笑ったが、逃げたことには変わりはないという故事から。
  • 孟子 … 七編。戦国時代の思想家、孟子(前372?~前289)の言行や思想を弟子たちがまとめた書。四書の一つ。ウィキペディア【孟子 (書物)】参照。
梁惠王曰、
りょう恵王けいおういわく、
  • 梁 … 戦国時代、の国の別名。恵王のときに都を大梁に移してから、こう呼ばれるようになった。ウィキペディア【魏 (戦国)】参照。
  • 恵王 … 戦国時代、の君主。在位前369~前319。秦に侵攻され、都を安邑あんゆうからたいりょう(現在の河南省開封市)に移した。ウィキペディア【恵王 (魏)】参照。
寡人之於國也、盡心焉耳矣。
じんくにけるや、こころくすのみ。
  • 寡人 … わたくし。諸侯が自分を謙遜していう言葉。「徳の少ない人」という意味。「寡」は「少」と同じ。
  • 於国 … 国の政治をするにあたっては。
  • 尽心 … 精一杯心を砕いて政治をする。誠意をもって物事にあたる。
  • 焉耳矣 … 三文字で「のみ」と読む。「~だけだ」「~ばかりだ」「~にほかならぬ」と訳す。強い断定の意を示す。
河内凶、則移其民於河東、移其粟於河内。
だいきょうなれば、すなわたみとううつし、ぞくだいうつす。
  • 河内 … 地名。「河」は黄河。今の河南省のうち、黄河以北の地。
  • 凶 … 凶作。
  • 則 … 「すなわち」と読み、「~ならば」「~すると、その時には」と訳す。
  • 河東 … 地名。「河」は黄河。今の山西省の黄河以東の地。
  • 粟 … 穀物の総称。「あわ」だけではない。
河東凶、亦然。
とうきょうなるも、しかり。
  • 亦然 … やはりそうする。同じようにする。
察隣國之政、無如寡人之用心者。
隣国りんごくまつりごとさっするに、じんこころもちうるがごとものし。
  • 用心 … 心遣いをする。
  • 如 … 「~のごとし」と読み、「~のようだ」と訳す。
  • 者 … 状態。様子。
隣國之民不加少、寡人之民不加多、何也。
隣国りんごくたみすくなきをくわえず、じんたみおおきをくわえざるは、なんぞや。
  • 不加少 … 減っていかない。
  • 不加多 … 増えていかない。
  • 何也 … 「なんぞや」と読み、「どうしてか」と訳す。
孟子對曰、
もうこたえていわく、
  • 孟子 … 前372~前289。戦国時代の思想家。魯のすう(今の山東省鄒城市)の人。名はあざな子輿しよせい(聖人につぐ賢人)と称される。ウィキペディア【孟子】参照。
  • 対 … 目上の人に答えるときに「対」を用いる。
王好戰。請以戰喩。
おうたたかいをこのむ。たたかいをもったとえん。
  • 請~ … 「こう~(せ)ん」と読み、「どうか~させてほしい」と訳す。自分の希望を表す。
塡然鼓之、兵刃既接。
塡然てんぜんとしてこれし、兵刃へいじんすでせっす。
  • 塡然 … ドンドンと太鼓を打つ音の形容。
  • 兵刃 … 武器。
棄甲曳兵而走。
こうへいきてはしる。
  • 甲 … よろい。
  • 棄 … 脱ぎ捨てる。
  • 曳 … 引きずって。
  • 走 … 逃げる。敗走する。
百歩而後止、或五十歩而後止。
あるいはひゃっにしてのちとどまり、あるいはじっにしてのちとどまる。
  • 或 … ある者は。ある兵士は。
以五十歩笑百歩、則何如。
じっもっひゃっわらわば、すなわ何如いかん、と。
  • 以 … ~という理由で。
  • 何如 … どうでしょうか。どうであるか。事実や状態を問う場合に用いる。「何奈いかん」「何若いかん」も同じ。ちなみに「如何いかん」は「どうしたらよいか」と訳し、方法や処置・動作を問う場合に用いる。
曰、不可。直不百歩耳。
いわく、不可ふかなり。ひゃっならざるのみ。
  • 不可 … いけない。よくない。「ならず」と読んでもよい。
  • 直~耳 … 「ただ~のみ」と読み、「ただ~だけだ」と訳す。限定の意を示す。「耳」は「のみ」とひらがなで書き下す。
  • 直不百歩耳 … ただ百歩でなかっただけだ。
是亦走也。
れもはしるなり、と。
  • 是 … 五十歩を指す。
  • 亦 … 「~(も)また」と読み、「~もまた」「~も同様に」と訳す。
曰、王如知此、則無望民之多於隣國也。
いわく、おうこれらば、すなわたみ隣国りんごくよりおおきをのぞむことかれ、と。
  • 如 … 「もし~ば」と読み、「もし~ならば」と訳す。仮定条件の意を示す。
  • 此 … 五十歩逃げた者も、逃げた点では変わりなく、笑う資格がないという道理を指す。
  • 民之多於隣国 … 国民が隣国よりも多い。「於」は置き字。比較を表す。
  • 無 … 「なかれ」と読み、「~するな」と訳す。禁止の意を示す。
  • 也 … ここでは置き字となり、読まない。
あ行 か行 さ行
た行 な行 は行
ま行 や行 ら行・わ
論語の名言名句