晏子の御
晏子の御
- 出典:『史記』管晏列伝(ウィキソース「史記/卷062」参照)
- 解釈:他人の権勢によりかかって得意になる人のこと。斉の宰相晏子の御者が、宰相の御者であることを自慢していた。御者の妻が恥じて離縁を申し出たため、御者は大いに反省し以後控えめにするようになった。晏子はそれを聞き、御者を大夫に取り立てたという故事から。
- 史記 … 前漢の司馬遷がまとめた歴史書。二十四史の一つ。事実を年代順に書き並べる編年体と違い、人物の伝記を中心とする紀伝体で編纂されている。本紀十二巻、表十巻、書八巻、世家三十巻、列伝七十巻の全百三十巻。ウィキペディア【史記】参照。
〔史記、晏嬰伝〕
晏子爲齋相。出。
晏子爲齋相。出。
晏子斉の相たり。出づ。
- 晏子 … 斉の名臣、晏嬰の尊称。字は仲、諡は平、名は嬰。通常、晏平仲と呼ぶ。ウィキペディア【晏嬰】参照。
- 相 … 宰相。
- 出 … 外出した。
其御之妻、從門閒而闚其夫。
其の御の妻、門間よりして其の夫を闚う。
- 御 … 馬を扱って馬車を走らせる人。御者。
- 門間 … 門のすき間。
- 従 … 「より」と読み、「…から」と訳す。
- 而 … 置き字。順接の働きをする。直前の語に「~て」「~して」と送り仮名をつける。ただし、ここでは「従」につけ、「よりして」と読む。
- 闚 … そっと様子をうかがう。
其夫爲相御、擁大葢、策駟馬、意氣揚揚、甚自得也。
其の夫、相の御と為り、大蓋を擁し、駟馬に策ち、意気揚揚として、甚だ自得するなり。
- 大蓋 … 車の上にかける大きな日よけ。
- 駟馬 … 四頭の馬。
- 意気揚揚 … 得意で誇らしげな様子。
- 自得 … 得意になってうぬぼれる。「自ら得たる」と読んでもよい。
既而歸。其妻請去。
既にして帰る。其の妻去らんことを請う。
- 既而 … 「すでにして」と読み、「その後まもなく」と訳す。
- 去 … ここでは離縁する。
- 請 … 願い出る。
夫問其故。
夫、其の故を問う。
- 故 … 理由。
妻曰、晏子長不滿六尺。
妻曰く、晏子は長六尺に満たず。
- 長 … 身長。
- 六尺 … 周代の一尺は大尺で22.5センチなので、六尺は約135センチ。
身相齋國、名顯諸侯。
身、斉国の相として、名、諸侯に顕る。
- 顕 … 知れ渡る。
今者妾觀其出、志念深矣。
今者、妾其の出づるを観るに、志念深し。
- 今者 … 現在。ちかごろ。「者」の読みが省略されるので、二字で「いま」と読む。「者」は時を示す語に添える助字。「昔者」なども同様。
- 妾 … わたし。女性が自分を謙遜していう言葉。
- 志念 … 心に強く思うこと。
- 矣 … 置き字。断定の意を示す。
常有以自下者。
常に自ら以て下くすること有り。
- 自下 … 自分からへりくだる。
今子長八尺、乃爲人僕御。
今、子長八尺、乃ち人の僕御たり。
- 子 … あなた。「御者」を指す。
- 八尺 … 約180センチ。
- 僕御 … 御者。
然子之意自以爲足。
然るに子の意自ら以て足れりと為す。
- 然 … 「しかるに」「しかれども」と読み、「けれども」「それにもかかわらず」と訳す。逆接の意を示す。
- 以為~ … 「もって~となす」と読み、「~と思う」「~とみなす」と訳す。「以為足」は、今の自分に満足だと思っている。
妾是以求去也。
妾、是を以て去らんことを求むるなり、と。
- 是以 … 「ここをもって」と読み、「こういうわけで」「このゆえに」「それゆえに」「だから」と訳す。「以是」は「これをもって」と読み、「この点から」「これにより」「これを用いて」と訳す。
其後夫自抑損。
其の後、夫自ら抑損す。
- 抑損 … へりくだる。
晏子怪而問之。
晏子怪しみて之を問う。
- 怪 … 不思議に思って。
御以實對。
御、実を以て対う。
- 実 … ありのままに。
- 対 … 目上の人に答えるときに「対」を用いる。
晏子薦以爲大夫。
晏子薦めて以て大夫と為す。
- 大夫 … 家老。重臣。
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