大学 伝九章
- 01 所謂治国必先斉其家者……
- 02 康誥曰、如保赤子。心誠求之……
- 中らずと雖も遠からず
- 03 一家仁、一国興仁、一家譲……
- 04 堯舜帥天下以仁、而民従之。……
- 05 故治国、在斉其家。
- 06 詩云、桃之夭夭、其葉蓁蓁。……
- 07 詩云、宜兄宜弟。……
- 08 詩云、其儀不忒、正是四国。……
- 09 此謂治国在斉其家。
- 右伝之九章、釈斉家治国。
01 所謂治國必先齊其家者、其家不可教、而能教人者無之。
所謂国を治むるには必ず先ず其の家を斉うとは、其の家教う可からずして、能く人を教うる者は之れ無し。
- ウィキソース「四書章句集註/大學章句」参照。
- 治国必先斉其家者 … 「国を治めるには、必ずまず一家の長として自分の家庭を整え治めなければならない」とは。
- 治国 … 国を治めること。八条目の一つ。
- 斉家 … 家庭を整え治めること。家族が和合すること。治家。八条目の一つ。
- 其家不可教 … その家族を教化することもできないのに。
- 能教人者無之 … 国民を教化することができる者などいない。
故君子不出家、而成教於國。
故に君子は家を出でずして、教えを国に成す。
- 君子不出家 … 君子は家から出なくても。
- 成教於国 … 教化を国中に成し遂げられる。
孝者所以事君也。弟者所以事長也。慈者所以使衆也。
孝は君に事うる所以なり。弟は長に事うる所以なり。慈は衆を使う所以なり。
- 孝者所以事君也 … 親への孝行は、そのまま君主に仕える方法である。
- 弟者所以事長也 … 兄に仕える従順さは、そのまま年長者に仕える方法である。
- 弟 … 兄や年長者に仕えて従順なこと。「悌」に同じ。
- 慈者所以使衆也 … 子に対する慈愛は、そのまま民衆を使役する方法である。
- 朱注には「身修まれば、則ち家教う可し。孝・弟・慈は、身を修めて家に教うる所以の者なり。然り而して国の君に事え長に事え衆を使う所以の道も、此に外ならず。此れ家、上に斉いて、教え下に成る所以なり」(身脩、則家可教矣。孝弟慈、所以脩身而教於家者也。然而國之所以事君事長使衆之道、不外乎此。此所以家齊於上、而教成於下也)とある。
02 康誥曰、如保赤子。心誠求之、雖不中不遠矣。
康誥に曰く、赤子を保んずるが如し、と。心誠に之を求むれば、中らずと雖も遠からず。
- 康誥 … 『書経』周書・康誥篇の一節。ウィキソース「尚書/康誥」参照。
- 如保赤子 … 赤ん坊を保育するようなものである。『書経』では「若保赤子」に作る。
- 心誠求之 … (赤ん坊が欲していることを)慈愛の心で求めたなら。
- 雖不中不遠 … ピタリと的中しているわけではないが、大きく見当が外れてはいない。
- 朱注には「此は書を引いて之を釈し、又教えを立つるの本は、強いて為すを仮らずして、其の端を識りて之を推し広むるに在るを明らかにするのみ」(此引書而釋之、又明立教之本、不假强爲、在識其端而推廣之耳)とある。
未有學養子、而后嫁者也。
未だ子を養うことを学びて、而る后に嫁する者有らざるなり。
- 未有学養子、而后嫁者也 … あらかじめ子どもを養育する方法を学んでから嫁ぐ者などいない。
- 而后 … 「しかるのち」と読み、「そうしたあとで」「そうしてはじめて」と訳す。事柄・時間の前後関係を示す。「而後」とも書く。
03 一家仁、一國興仁、一家讓、一國興讓、一人貪戻、一國作亂。其機如此。
一家仁なれば、一国仁に興り、一家譲なれば、一国譲に興り、一人貪戻なれば、一国乱を作す。其の機此の如し。
- 一家仁、一国興仁 … 一家に仁愛の徳が満ち溢れると、国じゅうの人々が仁愛を行なおうと奮い立つ。
- 一家譲、一国興譲 … 一家に謙譲の徳が満ち溢れると、国じゅうの人々が謙譲を行なおうと奮い立つ。
- 一人貪戻、一国作乱 … 君主一人が貪欲で道理に背いているならば、国じゅうの人々は騒乱を起こすことになる。「一人」は、君主を指す。朱注には「一人は、君を謂うなり」(一人、謂君也)とある。
- 貪戻 … 貪欲で道理に背いていること。
- 其機如此 … (国が治まることと、乱れることとの)発起点はこの通りである。朱注には「機は、発動の由る所なり」(機、發動所由也)とある。
此謂一言僨事、一人定國。
此を一言事を僨り、一人国を定むと謂う。
- 一言僨事、一人定国 … 君主のただ一言の発言が国の大事を覆し、君主一人の働きが国を安定させる。
- 僨 … 覆り敗れること。敗北。覆滅。朱注には「僨は、覆敗なり」(僨、覆敗也)とある。
- 朱注には「此は教えの国に成るの効を言うなり」(此言教成於國之效)とある。
04 堯舜帥天下以仁、而民從之。
堯・舜は天下を帥いるに仁を以てして、民之に従う。
桀紂帥天下以暴、而民從之。
桀・紂は天下を帥いるに暴を以てして、民之に従う。
其所令、反其所好、而民不從。
其の令する所、其の好む所に反しては、民従わず。
- 其所令 … 君主が命令したこと。
- 反其所好 … 君主の好むことに背いていれば。
- 而民不従 … そんな命令には民衆は従わない。
是故君子有諸己、而后求諸人。
是の故に君子は諸を己に有して、而る后に諸を人に求む。
- 是故 … こういうわけで。
- 君子有諸己 … 君子はまずわが身に善を備えてから。「諸」は、善を指す。
- 而后 … そうしてはじめて。
- 求諸人 … 他人にも善を求める。
無諸己、而后非諸人。
諸を己に無くして、而る后に諸を人に非とす。
- 無諸己 … わが身に悪がなくて。「諸」は、悪を指す。
- 而后 … そうしてはじめて。
- 求諸人 … 他人の悪を非難する。
所藏乎身不恕、而能喩諸人者、未之有也。
身に蔵する所恕ならずして、能く諸を人に喩す者は、未だ之れ有らざるなり。
- 所蔵乎身不恕 … わが身に備えたものが思いやりでなくて。
- 恕 … 他人の気持ちを思いやること。思いやり。
- 能喩諸人者 … 他人をうまく教え諭せる者。
- 未之有也 … 「いまだこれあらざるなり」と読み、「まだ存在したことがない」「これまでにない」「今までにあったためしがない」と訳す。「未」は「いまだ~(せ)ず」と読み、「まだ~しない」と訳す。再読文字。
- 朱注には「此れ又上文の一人国を定むを承けて言う。己に善有りて、然る後に以て人の善を責む可し。己に悪無くして、然る後に以て人の悪を正す可し。皆己を推して以て人に及ぼす、所謂恕なり。是の如くならざれば、則ち令する所其の好む所に反して、民従わず。喩は、暁すなり」(此又承上文一人定國而言。有善於己、然後可以責人之善。無惡於己、然後可以正人之惡。皆推己以及人、所謂恕也。不如是、則所令反其所好、而民不從矣。喻、曉也)とある。
05 故治國、在齊其家。
故に国を治むるは、其の家を斉うるに在り。
- 故治国、在斉其家 … だからこそ、国を治めるには、まず自分の家庭を整えなければならないのである。
- 朱注には「上文を通じて結ぶ」(通結上文)とある。
06 詩云、桃之夭夭、其葉蓁蓁。之子于歸、宜其家人。
詩に云く、桃の夭夭たる、其の葉蓁蓁たり。之の子于に帰ぐ、其の家人に宜しからん、と。
- 詩 … 『詩経』国風・周南・桃夭篇の一節。朱注には「詩は、周南桃夭の篇」(詩、周南桃夭之篇)とある。ウィキソース「詩經/桃夭」参照。
- 夭夭 … 桃の木が若々しいさま。娘の若々しさに喩える。朱注には「夭夭は、少好の貌」(夭夭、少好貌)とある。このように同じ漢字を重ねた熟語を「畳語」または「重言」という。
- 蓁蓁 … 葉が盛んに茂っている様子。娘が元気はつらつとしており、若さがみなぎっている様子に喩え、嫁ぎ先の家の繁栄を前もって祝っている。朱注には「蓁蓁は、美盛の貌。興なり」(蓁蓁、美盛貌。興也)とある。畳語(重言)。
- 之子 … この子。この娘。「是の子」に同じ。「この」に「之」を用いるのは、『詩経』特有の用法。朱注には「之子は、猶お是の子と言うがことし。此は女子の嫁する者を指して言うなり」(之子、猶言是子。此指女子之嫁者而言也)とある。
- 于 … 「ここに」と読む。調子を整えるための助辞。特に意味はない。古注では「往く」と解釈する。
- 帰 … 嫁ぐ。「嫁」に同じ。朱注には「婦人は嫁を謂いて帰と曰う」(婦人謂嫁曰歸)とある。
- 家人 … 嫁ぎ先の家の人たち。
- 宜 … うまくいく。仲良くできる。和合する。溶け込む。朱注には「宜は、猶お善のごときなり」(宜、猶善也)とある。
宜其家人、而后可以教國人。
其の家人に宜しくして、而る后に以て国人に教う可し。
- 宜其家人 … 嫁ぎ先の家の人たちとうまくいってこそ。
- 而后 … そうしてはじめて。
- 可以教国人 … 国じゅうの人々を教化することができる。
07 詩云、宜兄宜弟。
詩に云く、兄に宜しく弟に宜し、と。
- 詩 … 『詩経』小雅・蓼蕭篇の一節。朱注には「詩は、小雅の蓼蕭篇」(詩、小雅蓼蕭篇)とある。ウィキソース「詩經/蓼蕭」参照。
- 宜兄宜弟 … 兄と仲良く、弟と仲良く。
宜兄宜弟、而后可以教國人。
兄に宜しく弟に宜しくして、而る后に以て国人に教う可し。
- 宜兄宜弟 … 兄と仲良く、弟と仲良くしてこそ。
- 而后 … そうしてはじめて。
- 可以教国人 … 国じゅうの人々を教化することができる。
08 詩云、其儀不忒、正是四國。
詩に云く、其の儀忒わず、是の四国を正す、と。
- 詩 … 『詩経』曹風・鳲鳩篇の一節。朱注には「詩は、曹風鳲鳩の篇」(詩、曹風鳲鳩篇)とある。ウィキソース「詩經/鳲鳩」参照。
- 其儀不忒 … 君子の威儀は法則に違わない。
- 儀 … 威儀。
- 忒 … 違う。食い違う。朱注には「忒は、差うなり」(忒、差也)とある。
- 正是四国 … 四方の国々の人々の行ないを正すことができる。
其爲父子兄弟足法、而后民法之也。
其の父子・兄弟たること法るに足りて、而る后に民之に法るなり。
- 其為父子兄弟足法 … 父としても子としても兄としても弟としても、その行ないが模範となることができて。
- 而后 … そうしてはじめて。
- 民法之也 … 民衆もこれを模範とするのである。
09 此謂治國在齊其家。
此を国を治むるは其の家を斉うるに在りと謂う。
- 此謂治国在斉其家 … これを「国を治めるには、まず自分の家庭を整えることにある」というのである。
- 朱注には「此に三たび詩を引くは、皆以て上文の事を詠歎して、又之を結ぶこと此の如し。其の味深長、最も宜しく潜玩すべし」(此三引詩、皆以詠歎上文之事、而又結之如此。其味深長、最宜潛玩)とある。「潜玩」は、深く味わうこと。
右傳之九章、釋齊家治國。
右伝の九章、家を斉え国を治むることを釈す。
- 斉家治国 … 自分の家庭を整え、国を治めること。
- 釈 … 解釈したものである。
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