大学 経一章
- 01 大学之道、在明明徳、在親民……
- 02 知止而后有定、定而后能静……
- 03 物有本末、事有終始。……
- 04 古之欲明明徳於天下者、先治……
- 格物致知
- 修身斉家治国平天下
- 05 物格而后知至。……
- 06 自天子以至於庶人……
- 07 其本乱而末治者否矣。……
- 右経一章、蓋孔子之言、而曾子……
01 大學之道、在明明徳、在親民、在止於至善。
大学の道は、明徳を明らかにするに在り、民を親たにするに在り、至善に止まるに在り。
- ウィキソース「四書章句集註/大學章句」参照。
- 大学之道 … 成人が学ぶべき道。朱注には「大学とは、大人の学なり」(大學者、大人之學也)とある。「大人」は、成人の意。
- 明明徳 … 天から授かった立派な徳を明らかにする。朱注には「明は、之を明らかにするなり。明徳とは、人の天より得る所にして、虚霊不昧、以て衆理を具えて、万事に応ずる者なり。但、気稟の拘する所、人欲の蔽う所と為らば、則ち時有りて昏し。然れども其の本体の明は、則ち未だ嘗て息まざる者有り。故に学者当に其の発する所に因りて、遂に之を明らかにし、以て其の初に復るべきなり」(明、明之也。明德者、人之所得乎天、而虛靈不昧、以具衆理而應萬事者也。但爲氣稟所拘、人欲所蔽、則有時而昏。然其本體之明、則有未嘗息者。故學者當因其所發、而遂明之、以復其初也)とある。
- 親民 … 民衆を教化して民衆を革新する。民衆を教化して性格をかえる。程伊川は「親」を「新」に改め、朱子はそれに従っている。朱注には「新とは、其の旧きを革むるの謂なり。言うこころは、既に自ら其の明徳を明らかにすれば、又当に推して以て人に及ぼし、之をして亦た以て其の旧染の汚を去ること有らしむべし、となり」(新者、革其舊之謂也。言既自明其明德、又當推以及人、使之亦有以去其舊染之汚也)とある。
- 止於至善 … 最高の善にふみ止まること。「至善」は、最高の善。至極の善。究極の善。朱注には「止とは、必ず是に至りて遷らざるの意。至善は、則ち事理の当然の極なり。言うこころは、明徳を明らかにし、民を新たにするは、皆当に至善の地に止まりて遷らざるべし、となり。蓋し必ず其の以て夫の天理の極を尽くすこと有りて、一毫も人欲の私無きなり」(止者、必至於是而不遷之意。至善、則事理當然之極也。言明明德、新民、皆當止於至善之地而不遷。蓋必其有以盡夫天理之極、而無一毫人欲之私也)とある。
- 朱注には「此の三者は、大学の綱領なり」(此三者、大學之綱領也)とある。「三者」とは、「明明徳」「新民」「止至善」を指す。朱子はこれを「三綱領」と呼んだ。
02 知止而后有定、定而后能靜、靜而后能安、安而后能慮、慮而后能得。
止まるを知って后定まる有り、定まって后能く静かに、静かにして后能く安く、安くして后能く慮り、慮りて后能く得。
- 知止 … ふみ止まるべきところを知って。朱注には「止とは、当に止まるべき所の地、即ち至善の在る所なり。之を知れば、則ち志に定向有り」(止者、所當止之地、即至善之所在也。知之、則志有定向)とある。
- 后有定 … その後に志が一定する。
- 后能静 … その後に心が静かになって動揺しない。朱注には「静とは、心の妄動せざるを謂う」(靜、謂心不妄動)とある。
- 后能安 … その後に身も心が安らかになる。朱注には「安とは、処る所にして安んずるを謂う」(安、謂所處而安)とある。
- 后能慮 … 物事を正しく考えることができる。朱注には「慮とは、事に処して精詳なるを謂う」(慮、謂處事精詳)とある。
- 后能得 … 止まるべきところを達成できる。朱注には「得とは、其の止まる所を得るを謂う」(得、謂得其所止)とある。
03 物有本末、事有終始。知所先後、則近道矣。
物に本末有り、事に終始有り。先後する所を知れば、則ち道に近し。
- 本末 … 本と末。「本」は明徳を指し、「末」は新民を指す。朱注には「明徳を本と為す、新民を末と為す」(明德爲本、新民爲末)とある。
- 終始 … 始めと終わり。始終。「始」は知止(止まるを知る)を指し、「終」は能得(能く得)を指す。朱注には「知止を始めと為す、能得を終わりと為す」(知止爲始、能得爲終)とある。
- 先後 … 先にすることと後にすること。先と後との順序。「先」は本と始めとを指し、「後」は末と終わりとを指す。朱注には「本と始めとは先とする所、末と終わりとは後とする所なり」(本始所先、末終所後)とある。
- 近道 … 道理に近い。正しい道を習得したことになる。
- 朱注には「此は上文の両節の意を結ぶ」(此結上文兩節之意)とある。
04 古之欲明明德於天下者、先治其國。
古の明徳を天下に明らかにせんと欲する者は、先ず其の国を治む。
- 古 … 古き良き時代。
- 明明徳於天下 … すぐれた徳を天下に明らかにしようとする者は。朱注には「明徳を天下に明らかにするとは、天下の人をして皆以て其の明徳を明らかにすること有らしむるなり」(明明德於天下者、使天下之人皆有以明其明德也)とある。ここは転じて、八条目の一つ「平天下」に該当する。「平天下」とは、天下を平和にすることの意。
- 先治其国 … それに先立ってその国を安らかに治める。
- 治国 … 国を治めること。八条目の一つ。
欲治其國者、先齊其家。
其の国を治めんと欲する者は、先ず其の家を斉う。
- 先斉其家 … それに先立って一家の長として自分の家庭を整え治める。
- 斉家 … 家庭を整え治めること。家族が和合すること。治家。八条目の一つ。
欲齊其家者、先脩其身。
其の家を斉えんと欲する者は、先ず其の身を修む。
- 先修其身 … それに先立って自分の身を修める。「脩」は「修」と通用。
- 修身 … 自分の身を修めて正しい行いをするように努力すること。八条目の一つ。
欲脩其身者、先正其心。
其の身を修めんと欲する者は、先ず其の心を正しくす。
- 先正其心 … それに先立って自分の心を正しくする。朱注には「心とは、身の主とする所なり」(心者、身之所主也)とある。「身之所主」とは、身体の主人の意。
- 正心 … 心を正しくする。八条目の一つ。
欲正其心者、先誠其意。
其の心を正しくせんと欲する者は、先ず其の意を誠にす。
- 先誠其意 … それに先立って自分の思いを誠実にする。「意」は、心。思い。気持ち。朱注には「誠は、実なり。意とは、心の発する所なり。其の心の発する所を実にし、其の善に一にして自ら欺くこと無きを欲するなり」(誠、實也。意者、心之所發也。實其心之所發、欲其一於善而無自欺也)とある。
- 誠意 … 自分の心に偽りを持たず、誠実な状態にすること。八条目の一つ。
欲誠其意者、先致其知。
其の意を誠にせんと欲する者は、先ず其の知を致す。
- 欲誠其意者 … 自分の心に偽りを持たず、誠実な状態にしようとする者は。
- 先致其知 … それに先立って自分の知識を推し極める。「知」は、知識。「致」は、推し極める。朱注には「致は、推し極むるなり。知は、猶お識のごときなり。吾の知識を推し極め、其の知る所尽くさざる無きを欲するなり」(致、推極也。知、猶識也。推極吾之知識、欲其所知無不盡也)とある。
- 致知 … 知識を推し極めること。八条目の一つ。
致知在格物。
知を致すは物に格るに在り。
- 致知在格物 … 知識を推し極めるには、一つ一つの物事の道理を突き詰めることが大切である。
- 格物 … 一つ一つの物事の道理を窮める。個々の事物の本質に突き当たるまで窮める。「物」は、物事。事物。「格」は、至る。八条目の一つ。朱注には「格は、至るなり。物は、猶お事のごときなり。事物の理を窮め至りて、其の極処到らざる無きを欲するなり」(格、至也。物、猶事也。窮至事物之理、欲其極處無不到也)とある。
- 朱注には「此の八者は、大学の条目なり」(此八者、大學之條目也)とある。「条目」は、箇条書き。この「格物・致知・誠意・正心・修身・斉家・治国・平天下」の八箇条は、修養の順序・方法を示すもので、朱子は「八条目」と呼んだ。
05 物格而后知至。
物格りて后知至る。
- 物格 … 物事の道理が窮極まで到達されてこそ。朱注には「物格るとは、物理の極処、到らざる無きなり」(物格者、物理之極處無不到也)とある。
- 后知至 … はじめて知識が十分に推し極められ、すべてを知り尽くす。朱注には「知至るとは、吾が心の知る所、尽きざる無きなり」(知至者、吾心之所知無不盡也)とある。
知至而后意誠。
知至りて后意誠なり。
- 后意誠 … はじめて自分の思いが誠実になる。朱注には「知既に尽くれば、則ち意得て実にす可し」(知既盡、則意可得而實矣)とある。
意誠而后心正。
意誠にして后心正し。
- 后心正 … はじめて心が正しくなる。朱注には「意既に実なれば、則ち心得て正しくす可し」(意既實、則心可得而正矣)とある。
心正而后身脩。
心正しくして后身修まる。
- 后身修 … はじめて自分の身がよく修まる。朱注には「身を修むることより以上は、明徳を明らかにするの事なり。家を斉うることより以下は、民を新たにするの事なり。物格り知至れば、則ち止まる所を知る。意誠なることより以下は、則ち皆止まる所を得るの序なり」(脩身以上、明明德之事也。齊家以下、新民之事也。物格知至、則知所止矣。意誠以下、則皆得所止之序也)とある。「格物・致知・誠意・正心・修身」までが自分の身を修める「明明徳」に当たり、「斉家・治国・平天下」までが民衆を治めて革新させる「新民」に当たる。「序」は順序の意。
身脩而后家齊。
身修まりて后家斉う。
- 后家斉 … はじめて自分の家庭が整う。家族が和合する。
家齊而后國治。
家斉いて后国治まる。
- 后国治 … はじめて国がよく治まる。
國治而后天下平。
国治まりて后天下平らかなり。
- 后天下平 … はじめて世界中が平和になる。
06 自天子以至於庶人、壹是皆以脩身爲本。
天子より以て庶人に至るまで、壱是に皆身を修むるを以て本と為す。
- 庶人 … 庶民。
- 壱是 … 「いっし」と読む。すべて。専ら。一切。朱注には「壱是は、一切なり」(壹是、一切也)とある。
- 皆以修身為本 … みな自分の身を修めることを根本とする。朱注には「正心以上は、皆身を修むる所以なり。斉家以下は、則ち此を挙げて之を措くのみ」(正心以上、皆所以脩身也。齊家以下、則舉此而措之耳)とある。「正心以上」とは「格物・致知・誠意・正心」の四つを指す。「斉家以下」とは「斉家・治国・平天下」の三つを指す。「措」は省略する。
07 其本亂而末治者否矣。
其の本乱れて末治まる者は否ず。
- 其本乱 … その根本である自分の身を修めることがでたらめでありながら。朱注には「本は、身を謂うなり」(本、謂身也)とある。
- 末治者否矣 … 末端である国や天下が治まるということはない。
其所厚者薄、而其所薄者厚、未之有也。
其の厚くする所の者薄くして、其の薄くする所の者厚きは、未だ之有らざるなり。
- 其所厚者薄 … 手厚くしなければならないことを手薄にしながら。「所厚」は、家を指す。朱注には「厚くする所は、家を謂うなり」(所厚、謂家也)とある。
- 其所薄者厚 … 手薄でもよいことを手厚くしていること。「所薄」は、国や天下を指す。
- 未之有也 … 「いまだこれあらざるなり」と読み、「まだ存在したことがない」「これまでにない」「今までにあったためしがない」と訳す。「未」は「いまだ~(せ)ず」と読み、「まだ~しない」と訳す。再読文字。
- 朱注には「此の両節は、上文の両節の意を結ぶ」(此兩節結上文兩節之意)とある。
右經一章、蓋孔子之言、而曾子述之。
右経一章、蓋し孔子の言にして、曾子之を述ぶ。
- 蓋 … 恐らく。多分。
- 孔子之言 … 孔子の言葉。
- 曾子述之 … 曾子がこれを祖述したものであろう。
- 曾子 … 孔子の弟子で、姓は曾、名は参、字は子輿。ウィキペディア【曾子】参照。
- 朱注には「凡そ二百五字」(凡二百五字)とある。
其傳十章、則曾子之意、而門人記之也。
其の伝十章は、則ち曾子の意にして、門人之を記するなり。
- 伝 … 注釈。
- 曾子之意 … 曾子の意見。曾子の考え。
- 門人記之 … 曾子の門人がこれを記録したものである。
舊本頗有錯簡。
旧本頗る錯簡有り。
- 旧本 … 在来のテキスト。
- 頗 … 「すこぶる」と読み、「かなり」「非常に」「たいそう」と訳す。
- 錯簡 … 本文の入れ違えや前後した箇所。
今因程子所定、而更考經文、別爲序次如左。
今は程子の定むる所に因り、更に経文を考えて、別に序次を為すこと左の如し。
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