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大学 経(けい)一章

01 大學之道、在明明徳、在親民、在止於至善。
大学(だいがく)の道(みち)は、明徳(めいとく)を明(あき)らかにするに在(あ)り、民(たみ)を親(あら)たにするに在(あ)り、至(し)善(ぜん)に止(とど)まるに在(あ)り。
  • ウィキソース「四書章句集註/大學章句」参照。
  • 大学之道 … 成人が学ぶべき道。朱注には「大学とは、大人(たいじん)の学なり」(大學者、大人之學也)とある。「大人」は、成人の意。
  • 明明徳 … 天から授かった立派な徳を明らかにする。朱注には「明(めい)は、之を明らかにするなり。明徳とは、人の天より得る所にして、虚霊(きょれい)不(ふ)昧(まい)、以て衆理を具(そな)えて、万事に応ずる者なり。但(ただ)、気(き)稟(ひん)の拘(こう)する所、人欲の蔽(おお)う所と為らば、則ち時有りて昏(くら)し。然れども其の本体の明は、則ち未だ嘗(かつ)て息(や)まざる者有り。故に学者当(まさ)に其の発する所に因りて、遂に之を明らかにし、以て其の初に復(かえ)るべきなり」(明、明之也。明德者、人之所得乎天、而虛靈不昧、以具衆理而應萬事者也。但爲氣稟所拘、人欲所蔽、則有時而昏。然其本體之明、則有未嘗息者。故學者當因其所發、而遂明之、以復其初也)とある。
  • 親民 … 民衆を教化して民衆を革新する。民衆を教化して性格をかえる。程伊川は「親」を「新」に改め、朱子はそれに従っている。朱注には「新とは、其の旧(ふる)きを革(あらた)むるの謂(いい)なり。言うこころは、既に自ら其の明徳を明らかにすれば、又当(まさ)に推(お)して以て人に及ぼし、之をして亦(ま)た以て其の旧(きゅう)染(ぜん)の汚(お)を去ること有らしむべし、となり」(新者、革其舊之謂也。言既自明其明德、又當推以及人、使之亦有以去其舊染之汚也)とある。
  • 止於至善 … 最高の善にふみ止(とど)まること。「至善」は、最高の善。至極の善。究極の善。朱注には「止とは、必ず是(ここ)に至りて遷(うつ)らざるの意。至善は、則ち事理(じり)の当然の極(きょく)なり。言うこころは、明徳を明らかにし、民を新(あら)たにするは、皆当(まさ)に至善の地に止まりて遷(うつ)らざるべし、となり。蓋し必ず其の以て夫(か)の天理の極(きょく)を尽くすこと有りて、一毫(いちごう)も人欲の私無きなり」(止者、必至於是而不遷之意。至善、則事理當然之極也。言明明德、新民、皆當止於至善之地而不遷。蓋必其有以盡夫天理之極、而無一毫人欲之私也)とある。
  • 朱注には「此の三者は、大学の綱領なり」(此三者、大學之綱領也)とある。「三者」とは、「明明徳」「新民」「止至善」を指す。朱子はこれを「三綱領」と呼んだ。
02 知止而后有定、定而后能靜、靜而后能安、安而后能慮、慮而后能得。
止(とど)まるを知(し)って后(のち)定(さだ)まる有(あ)り、定(さだ)まって后(にち)能(よ)く静(しず)かに、静(しず)かにして后(のち)能(よ)く安(やす)く、安(やす)くして后(のち)能(よ)く慮(おもんぱか)り、慮(おもんぱか)りて后(のち)能(よ)く得(う)。
  • 知止 … ふみ止まるべきところを知って。朱注には「止とは、当(まさ)に止(とど)まるべき所(ところ)の地(ち)、即(すなわ)ち至(し)善(ぜん)の在(あ)る所(ところ)なり。之(これ)を知(し)れば、則(すなわ)ち志(こころざし)に定向(ていこう)有(あ)り」(止者、所當止之地、即至善之所在也。知之、則志有定向)とある。
  • 后有定 … その後に志が一定する。
  • 后能静 … その後に心が静かになって動揺しない。朱注には「静とは、心(こころ)の妄動(もうどう)せざるを謂う」(靜、謂心不妄動)とある。
  • 后能安 … その後に身も心が安らかになる。朱注には「安とは、処(お)る所(ところ)にして安(やす)んずるを謂う」(安、謂所處而安)とある。
  • 后能慮 … 物事を正しく考えることができる。朱注には「慮とは、事(こと)に処(しょ)して精(せい)詳(しょう)なるを謂う」(慮、謂處事精詳)とある。
  • 后能得 … 止(とど)まるべきところを達成できる。朱注には「得とは、其の止(とど)まる所を得るを謂う」(得、謂得其所止)とある。
03 物有本末、事有終始。知所先後、則近道矣。
物(もの)に本末(ほんまつ)有(あ)り、事(こと)に終(しゅう)始(し)有(あ)り。先後(せんこう)する所(ところ)を知(し)れば、則(すなわ)ち道(みち)に近(ちか)し。
  • 本末 … 本(もと)と末(すえ)。「本」は明徳を指し、「末」は新民を指す。朱注には「明徳(めいとく)を本(もと)と為(な)す、新民(しんみん)を末(すえ)と為す」(明德爲本、新民爲末)とある。
  • 終始 … 始めと終わり。始終。「始」は知止(ちし)(止(とど)まるを知(し)る)を指し、「終」は能得(のうとく)(能(よ)く得(う))を指す。朱注には「知止(ちし)を始めと為す、能得(のうとく)を終わりと為す」(知止爲始、能得爲終)とある。
  • 先後 … 先にすることと後にすること。先と後との順序。「先」は本(もと)と始めとを指し、「後」は末(すえ)と終わりとを指す。朱注には「本(もと)と始めとは先(さき)とする所、末(すえ)と終わりとは後(あと)とする所なり」(本始所先、末終所後)とある。
  • 近道 … 道理に近い。正しい道を習得したことになる。
  • 朱注には「此(これ)は上文の両節の意を結ぶ」(此結上文兩節之意)とある。
04 古之欲明明德於天下者、先治其國。
古(いにしえ)の明徳(めいとく)を天(てん)下(か)に明(あき)らかにせんと欲(ほっ)する者(もの)は、先(ま)ず其(そ)の国(くに)を治(おさ)む。
  • 古 … 古き良き時代。
  • 明明徳於天下 … すぐれた徳を天下に明らかにしようとする者は。朱注には「明徳を天下に明らかにするとは、天下の人をして皆(みな)以て其の明徳を明らかにすること有らしむるなり」(明明德於天下者、使天下之人皆有以明其明德也)とある。ここは転じて、八条目の一つ「平天下」に該当する。「平天下」とは、天下を平和にすることの意。
  • 先治其国 … それに先立ってその国を安らかに治める。
  • 治国 … 国を治めること。八条目の一つ。
欲治其國者、先齊其家。
其(そ)の国(くに)を治(おさ)めんと欲(ほっ)する者(もの)は、先(ま)ず其(そ)の家(いえ)を斉(ととの)う。
  • 先斉其家 … それに先立って一家の長として自分の家庭を整え治める。
  • 斉家 … 家庭を整え治めること。家族が和合すること。治家。八条目の一つ。
欲齊其家者、先脩其身。
其(そ)の家(いえ)を斉(ととの)えんと欲(ほっ)する者(もの)は、先(ま)ず其(そ)の身(み)を修(おさ)む。
  • 先修其身 … それに先立って自分の身を修める。「脩」は「修」と通用。
  • 修身 … 自分の身を修めて正しい行いをするように努力すること。八条目の一つ。
欲脩其身者、先正其心。
其(そ)の身(み)を修(おさ)めんと欲(ほっ)する者(もの)は、先(ま)ず其(そ)の心(こころ)を正(ただ)しくす。
  • 先正其心 … それに先立って自分の心を正しくする。朱注には「心とは、身(み)の主(しゅ)とする所なり」(心者、身之所主也)とある。「身之所主」とは、身体の主人の意。
  • 正心 … 心を正しくする。八条目の一つ。
欲正其心者、先誠其意。
其(そ)の心(こころ)を正(ただ)しくせんと欲(ほっ)する者(もの)は、先(ま)ず其(そ)の意(い)を誠(まこと)にす。
  • 先誠其意 … それに先立って自分の思いを誠実にする。「意」は、心。思い。気持ち。朱注には「誠(まこと)は、実(じつ)なり。意とは、心の発(はっ)する所なり。其の心の発する所を実(じつ)にし、其の善に一にして自ら欺(あざむ)くこと無きを欲するなり」(誠、實也。意者、心之所發也。實其心之所發、欲其一於善而無自欺也)とある。
  • 誠意 … 自分の心に偽りを持たず、誠実な状態にすること。八条目の一つ。
欲誠其意者、先致其知。
其(そ)の意(い)を誠(まこと)にせんと欲(ほっ)する者(もの)は、先(ま)ず其(そ)の知(ち)を致(いた)す。
  • 欲誠其意者 … 自分の心に偽りを持たず、誠実な状態にしようとする者は。
  • 先致其知 … それに先立って自分の知識を推し極める。「知」は、知識。「致」は、推し極める。朱注には「致は、推し極むるなり。知は、猶(な)お識(しき)のごときなり。吾(われ)の知識を推し極め、其の知る所尽(つ)くさざる無きを欲するなり」(致、推極也。知、猶識也。推極吾之知識、欲其所知無不盡也)とある。
  • 致知 … 知識を推し極めること。八条目の一つ。
致知在格物。
知(ち)を致(いた)すは物(もの)に格(いた)るに在(あ)り。
  • 致知在格物 … 知識を推し極めるには、一つ一つの物事の道理を突き詰めることが大切である。
  • 格物 … 一つ一つの物事(ものごと)の道理を窮める。個々の事物の本質に突き当たるまで窮める。「物」は、物事(ものごと)。事(じ)物(ぶつ)。「格」は、至る。八条目の一つ。朱注には「格は、至(いた)るなり。物は、猶(な)お事(こと)のごときなり。事(じ)物(ぶつ)の理(り)を窮め至りて、其の極(きょく)処(しょ)到らざる無きを欲するなり」(格、至也。物、猶事也。窮至事物之理、欲其極處無不到也)とある。
  • 朱注には「此(こ)の八者は、大学の条目なり」(此八者、大學之條目也)とある。「条目」は、箇条書き。この「格物・致知・誠意・正心・修身・斉家・治国・平天下」の八箇条は、修養の順序・方法を示すもので、朱子は「八条目」と呼んだ。
05 物格而后知至。
物(もの)格(いた)りて后(のち)知(ち)至(いた)る。
  • 物格 … 物事(ものごと)の道理が窮極まで到達されてこそ。朱注には「物格(いた)るとは、物理の極(きょく)処(しょ)、到らざる無きなり」(物格者、物理之極處無不到也)とある。
  • 后知至 … はじめて知識が十分に推し極められ、すべてを知り尽くす。朱注には「知至(いた)るとは、吾が心の知る所、尽きざる無きなり」(知至者、吾心之所知無不盡也)とある。
知至而后意誠。
知(ち)至(いた)りて后(のち)意(い)誠(まこと)なり。
  • 后意誠 … はじめて自分の思いが誠実になる。朱注には「知既に尽くれば、則ち意得(え)て実(じつ)にす可し」(知既盡、則意可得而實矣)とある。
意誠而后心正。
意(い)誠(まこと)にして后(のち)心(こころ)正(ただ)し。
  • 后心正 … はじめて心が正しくなる。朱注には「意既に実なれば、則ち心得(え)て正しくす可し」(意既實、則心可得而正矣)とある。
心正而后身脩。
心(こころ)正(ただ)しくして后(のち)身(み)修(おさ)まる。
  • 后身修 … はじめて自分の身がよく修まる。朱注には「身を修むることより以上は、明徳を明らかにするの事なり。家を斉うることより以下は、民を新たにするの事なり。物格り知至れば、則ち止まる所を知る。意誠なることより以下は、則ち皆止まる所を得るの序なり」(脩身以上、明明德之事也。齊家以下、新民之事也。物格知至、則知所止矣。意誠以下、則皆得所止之序也)とある。「格物・致知・誠意・正心・修身」までが自分の身を修める「明明徳」に当たり、「斉家・治国・平天下」までが民衆を治めて革新させる「新民」に当たる。「序」は順序の意。
身脩而后家齊。
身(み)修(おさ)まりて后(のち)家(いえ)斉(ととの)う。
  • 后家斉 … はじめて自分の家庭が整う。家族が和合する。
家齊而后國治。
家(いえ)斉(ととの)いて后(のち)国(くに)治(おさ)まる。
  • 后国治 … はじめて国がよく治まる。
國治而后天下平。
国(くに)治(おさ)まりて后(のち)天(てん)下(か)平(たい)らかなり。
  • 后天下平 … はじめて世界中が平和になる。
06 自天子以至於庶人、壹是皆以脩身爲本。
天(てん)子(し)より以(もっ)て庶人(しょじん)に至(いた)るまで、壱(いっ)是(し)に皆(みな)身(み)を修(おさ)むるを以(もっ)て本(もと)と為(な)す。
  • 庶人 … 庶民。
  • 壱是 … 「いっし」と読む。すべて。専ら。一切。朱注には「壱是は、一切なり」(壹是、一切也)とある。
  • 皆以修身為本 … みな自分の身を修めることを根本とする。朱注には「正心以上は、皆身を修むる所以なり。斉家以下は、則ち此(これ)を挙げて之を措(お)くのみ」(正心以上、皆所以脩身也。齊家以下、則舉此而措之耳)とある。「正心以上」とは「格物・致知・誠意・正心」の四つを指す。「斉家以下」とは「斉家・治国・平天下」の三つを指す。「措」は省略する。
07 其本亂而末治者否矣。
其(そ)の本(もと)乱(みだ)れて末(すえ)治(おさ)まる者(もの)は否(あら)ず。
  • 其本乱 … その根本である自分の身を修めることがでたらめでありながら。朱注には「本は、身を謂うなり」(本、謂身也)とある。
  • 末治者否矣 … 末端である国や天下が治まるということはない。
其所厚者薄、而其所薄者厚、未之有也。
其(そ)の厚(あつ)くする所(ところ)の者(もの)薄(うす)くして、其(そ)の薄(うす)くする所(ところ)の者(もの)厚(あつ)きは、未(いま)だ之(これ)有(あ)らざるなり。
  • 其所厚者薄 … 手厚くしなければならないことを手薄にしながら。「所厚」は、家を指す。朱注には「厚くする所は、家を謂うなり」(所厚、謂家也)とある。
  • 其所薄者厚 … 手薄でもよいことを手厚くしていること。「所薄」は、国や天下を指す。
  • 未之有也 … 「いまだこれあらざるなり」と読み、「まだ存在したことがない」「これまでにない」「今までにあったためしがない」と訳す。「未」は「いまだ~(せ)ず」と読み、「まだ~しない」と訳す。再読文字。
  • 朱注には「此の両節は、上文の両節の意を結ぶ」(此兩節結上文兩節之意)とある。
右經一章、蓋孔子之言、而曾子述之。
右(みぎ)経(けい)一(いっ)章(しょう)、蓋(けだ)し孔(こう)子(し)の言(げん)にして、曾(そう)子(し)之(これ)を述(の)ぶ。
  • 蓋 … 恐らく。多分。
  • 孔子之言 … 孔子の言葉。
  • 曾子述之 … 曾子がこれを祖述したものであろう。
  • 曾子 … 孔子の弟子で、姓は曾(そう)、名は参(しん)、字(あざな)は子輿(しよ)。ウィキペディア【曾子】参照。
  • 朱注には「凡(およ)そ二百五字」(凡二百五字)とある。
其傳十章、則曾子之意、而門人記之也。
其(そ)の伝(でん)十(じっ)章(しょう)は、則(すなわ)ち曾(そう)子(し)の意(い)にして、門人(もんじん)之(これ)を記(き)するなり。
  • 伝 … 注釈。
  • 曾子之意 … 曾子の意見。曾子の考え。
  • 門人記之 … 曾子の門人がこれを記録したものである。
舊本頗有錯簡。
旧(きゅう)本(ほん)頗(すこぶ)る錯簡(さっかん)有(あ)り。
  • 旧本 … 在来のテキスト。
  • 頗 … 「すこぶる」と読み、「かなり」「非常に」「たいそう」と訳す。
  • 錯簡 … 本文の入れ違えや前後した箇所。
今因程子所定、而更考經文、別爲序次如左。
今(いま)は程(てい)子(し)の定(さだ)むる所(ところ)に因(よ)り、更(さら)に経文(けいぶん)を考(かんが)えて、別(べつ)に序(じょ)次(じ)を為(な)すこと左(さ)の如(ごと)し。
  • 程子 … 北宋の儒学者、程(てい)明道(めいどう)(名は顥(こう)、1032~1085)と程(てい)伊(い)川(せん)(名は頤(い)、1033~1107)の兄弟のこと。「二程子」と呼ばれる。河南洛陽の生まれ。ともに周(しゅう)敦(とん)頤(い)(1017~1073)に学び、その学問の系統は朱子に連なる。ウィキペディア【程コウ】【程頤】参照。
  • 所定 … 改定したところ。
  • 別為序次如左 … 別に順序を左のように付けた。朱注には「凡(およ)そ千五百四十六字」(凡千五百四十六字)とある。
  • 序次 … 順序。
大学章句序 大学 朱熹章句
経一章 伝一章
伝二章 伝三章
伝四章 伝五章補伝
伝六章 伝七章
伝八章 伝九章
伝十章