>   漢詩   >   唐詩選   >   巻七 七絶   >   峨眉山月歌(李白)

峨眉山月歌(李白)

峨眉山月歌
峨眉がび山月さんげつうた
はく
  • 七言絶句。秋・流・州(平声尤韻)。
  • ウィキソース「峨眉山月歌」参照。
  • 詩題 … 峨眉山にかかる月の歌。『宋本』『繆本』には、題下に「峽路」とある。
  • 峨眉山 … 四川省峨眉山市の西南にある山の名。標高3,099メートル。二つの峰がまゆに似た美しい形なので、このように名づけられた。峨嵋山・蛾眉山とも書く。ウィキペディア【峨眉山】参照。『水経注』青衣水の条に「成都を去ること南へ千里。然れども秋日清澄のとき、両山を望見すれば、相そばだつこと峨眉の如し」(去成都南千里。然秋日清澄、望見兩山、相峙如峨眉焉)とある。ウィキソース「水經注/36」参照。また『元和郡県図志』剣南道、嘉州の条に「峨眉大山は、県の西七里に在り。……両山相対し、之を望めば峨眉の如し。故に名づく」(峨眉大山、在縣西七里。……兩山相對、望之如峨眉。故名)とある。ウィキソース「元和郡縣圖志/卷31」参照。また左思の「蜀都の賦」(『文選』巻四)に「峨眉のちょうむかう」(抗峨眉之重阻)とある。ウィキソース「蜀都賦 (左思)」参照。
  • この詩は、作者が蜀を出て長江を下る旅に出ようとし、清渓の町を出発して三峡に向かう途中、峨眉山にかかる月影が川面に浮かんでいるのを見て詠んだもの。安旗主編『新版 李白全集編年注釋』(巴蜀書社、2000年)によると、開元十二年(724)、二十四歳の作。
  • 李白 … 701~762。盛唐の詩人。あざなは太白。蜀の隆昌県青蓮郷(四川省江油市青蓮鎮)の人。青蓮居士と号した。科挙を受験せず、各地を遊歴。天宝元年(742)、玄宗に召されて翰林かんりん供奉ぐぶ(天子側近の文学侍従)となった。しかし、玄宗の側近で宦官の高力士らに憎まれて都を追われ、再び放浪の生活を送った。杜甫と並び称される大詩人で「詩仙」と仰がれた。『李太白集』がある。ウィキペディア【李白】参照。
峨眉山月半輪秋
峨眉がび山月さんげつ 半輪はんりんあき
  • 半輪 … 半円形の月。秋の弦月(弓に弦を張ったときの形に見える月)。江総の「秋日登広州城南楼」(『文苑英華』巻三百十一)に「新月半輪くうなり」(新月半輪空)とある。ウィキソース「文苑英華 (四庫全書本)/卷0311」参照。
影入平羌江水流
かげへいきょう江水こうすいってなが
  • 影 … 光。月光。
  • 平羌江 … 従来は、峨眉山の北東の麓を流れるせいこうのことであると解釈されてきた。ウィキペディア【青衣江】参照。しかし、近年の研究では、楽山北辺の岷江びんこうを指すといわれている。ウィキペディア【岷江】参照。詳しくは、松浦友久編訳『李白詩選』(岩波文庫、1997年)の補注〔14〕(343頁以下)参照。『中国名勝旧跡事典 5』(ぺりかん社、1989年)の「嘉州小三峡」の項にも「岷江は平羌峡から楽山までを平羌江ともいい……」と記されている。
  • 羌 … 『宋本』『蕭本』『郭本』『許本』『唐詩解』では「羗」に作る。異体字。
夜發清溪向三峽
よる 清渓せいけいはっして さんきょうかう
  • 清渓 … 楽山市の上流15キロの板橋渓という小鎮。『中国名勝旧跡事典 5』(ぺりかん社、1989年)の「嘉州小三峡」の項には「平羌峡の南口の東岸にある板橋渓という町は、唐代には青渓駅といい、代々、邑宰が大官や上司を送迎したところ……」と記されている。詳しくは、松浦友久編訳『李白詩選』(岩波文庫、1997年)の補注〔14〕(343頁以下)参照。
  • 清 … 『万首唐人絶句』『唐詩別裁集』では「青」に作る。
  • 渓 … 『唐詩品彙』では「谿」に作る。同義。
  • 発 … 出発する。
  • 三峡 … 長江上流にある三つの峡谷。上流からとう峡・峡・西せいりょう峡のことをいう。ウィキペディア【三峡】参照。「蜀都の賦」(『文選』巻四)に「三峡の崢嶸そうこうたるをこつ蹇滻けんさんたるをむ」(經三峽之崢嶸、躡五屼之蹇滻)とある。ウィキソース「蜀都賦 (左思)」参照。
思君不見下渝州
きみおもえどもえず しゅうくだ
  • 君 … ここでは月を指す。また、月のほかに誰か思う人を指したとも考えられる。
  • 渝州 … 今の重慶市。ウィキペディア【重慶市】参照。『元和郡県図志』剣南道、渝州の条に「隋の開皇九年、楚州を改めて渝州と為す。渝水に因りて名と為す」(隋開皇九年、改楚州爲渝州。因渝水爲名)とある。ウィキソース「元和郡縣圖志/卷33」参照。
  • 州 … 『劉本』では「洲」に作る。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻七(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)
  • 『全唐詩』巻一百六十七(揚州詩局本縮印、上海古籍出版社、1985年)
  • 『李太白文集』巻七(静嘉堂文庫蔵、『唐代研究のしおり 第九 李白の作品』所収、略称:宋本)
  • 『李太白文集』巻七(ぼくえつ重刊、雙泉草堂本、略称:繆本)
  • 『分類補註李太白詩』巻八(しょういん補注、内閣文庫蔵、略称:蕭本)
  • 『分類補註李太白詩』巻八(蕭士贇補注、郭雲鵬校刻、『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:郭本)
  • 『分類補註李太白詩』巻八(蕭士贇補注、許自昌校刻、『和刻本漢詩集成 唐詩2』所収、略称:許本)
  • 『李翰林集』巻十七(景宋咸淳本、劉世珩刊、江蘇広陵古籍刻印社、略称:劉本)、『李太白全集』巻八(王琦編注、『四部備要 集部』所収、略称:王本)
  • 『万首唐人絶句』七言・巻二(明嘉靖刊本影印、文学古籍刊行社、1955年)
  • 『唐詩品彙』巻四十七([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『唐詩別裁集』巻二十(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 『唐詩解』巻二十五(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐宋詩醇』巻五(乾隆二十五年重刊、紫陽書院、内閣文庫蔵)
歴代詩選
古代 前漢
後漢
南北朝
初唐 盛唐
中唐 晩唐
北宋 南宋
唐詩選
巻一 五言古詩 巻二 七言古詩
巻三 五言律詩 巻四 五言排律
巻五 七言律詩 巻六 五言絶句
巻七 七言絶句
詩人別
あ行 か行 さ行
た行 は行 ま行
や行 ら行