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秋浦歌(李白)

秋浦歌
しゅううた
はく
  • 五言絶句。長・霜(平声陽韻)。
  • ウィキソース「秋浦歌 (白髮三千丈)」参照。
  • 詩題 … 秋浦地方の歌。連作十七首の第十五首。『万首唐人絶句』(嘉靖刊本)では「秋浦歌十二首 其十」に作る。『万首唐人絶句』(万暦刊本)では「秋浦歌十四首 其十二」に作る。『唐詩解』では「秋浦歌二首 其一」に作る。『唐宋詩醇』では「秋浦歌九首 其八」に作る。『宋本』『繆本』には、題下に「秋浦」とある。
  • 秋浦 … 唐代の県名。現在の安徽省池州市貴池区。この地を秋浦河と清渓河(白洋河)が南から北流しており、長江に連なっている。なお、秋浦地方の中心的な景勝地は秋浦河ではなく、清渓河にある。『太平寰宇記』江南西道、太平州、貴池県の条に「秋浦県は、蓋し秋浦の水を以て名と為す」(秋浦縣、盖以秋浦之水爲名)とある。ウィキソース「太平寰宇記 (四庫全書本)/卷105」参照。『中国歴史地図集 第五冊』(地図出版社、1982年、国学导航「江南西道:秋浦」57~58頁②10)参照。ウィキペディア【貴池区】参照。
  • この詩は、作者が朝廷を追われてから各地を放浪中、秋浦の地に遊んだ折に、わが身の老いに驚いて詠んだもの。安旗主編『新版 李白全集編年注釋』(巴蜀書社、2000年)によると、天宝十三載(754)、五十四歳の作。「秋浦の歌」の「其の一」では「秋浦とこしえに秋に似たり、蕭条として人をして愁えしむ」(秋浦長似秋、蕭條使人愁)と詠み、「其の四」では「りょうびん秋浦に入り、一朝にしてさつとして已に衰う。猿声白髪を催し、長短尽く糸と成る」(兩鬢入秋浦、一朝颯已衰。猿聲催白髮、長短盡成絲)と詠んでおり、この第十五首はこれらの詩を踏まえている。ウィキソース「秋浦歌」参照。
  • 李白 … 701~762。盛唐の詩人。あざなは太白。蜀の隆昌県青蓮郷(四川省江油市青蓮鎮)の人。青蓮居士と号した。科挙を受験せず、各地を遊歴。天宝元年(742)、玄宗に召されて翰林かんりん供奉ぐぶ(天子側近の文学侍従)となった。しかし、玄宗の側近で宦官の高力士らに憎まれて都を追われ、再び放浪の生活を送った。杜甫と並び称される大詩人で「詩仙」と仰がれた。『李太白集』がある。ウィキペディア【李白】参照。
白髮三千丈
白髪はくはつ 三千さんぜんじょう
  • 三千丈 … 極めて長いこと。一丈は、十尺。唐代の尺には、大尺(約30センチ)と小尺(約25センチ)がある。従って大尺で一丈は、約3メートル。三千丈は、約9千メートル。『宋本』では「三十尺」に作る。三十尺(三丈)は、約9メートル。松浦友久編訳『李白詩選』(岩波文庫、1997年)に「『十』(入声)では平仄が合わない」との指摘がある。
  • 三千 … 数が非常に多いことの喩え。『荘子』逍遙遊篇に「鵬の南冥にうつるや、水の撃すること三千里、ようちてのぼる者九万里、去りて六月りくげつを以ていこう者なり」(鵬之徙於南冥也、水擊三千里、摶扶搖而上者九萬里、去以六月息者也)とある。扶揺は、つむじ風。暴風。ひょう(つむじ風)を二音節に発音したもの。ウィキソース「莊子/逍遙遊」参照。また『史記』孟嘗君伝に「其のしょっかく三千人、ゆうにゅう以て客に奉ずるに足らず」(其食客三千人、邑入不足以奉客)とある。邑入は、領地から入る税の収入。ウィキソース「史記/卷075」参照。また白居易の「長恨歌」に「後宮のれい三千人、三千の寵愛一身に在り」(後宮佳麗三千人、三千寵愛在一身)とある。ウィキソース「長恨歌」参照。
綠愁似箇長
うれいにりて かくごとなが
  • 縁 … 「~によりて」「~によって」と読み、「~のために」「~が原因で」と訳す。「因」に同じ。
  • 似箇 … このように。「箇」は「これ」の意。「似」は「~ように」の意。「かくごとし」(如此)の当時の俗語表現。
  • 箇 … 『全唐詩』『許本』『唐宋詩醇』では「个」に作る。同義。
不知明鏡裏
らず めいきょううち
  • 不知 … 「しらず」と読み、「~であろうか」「~かしら」と訳す。結句まで掛かっている。
  • 明鏡 … 一点の曇りもない鏡。ここでの鏡は、みずかがみを指す。清渓河の澄んだ水面に姿が映って見えるさまを鏡に見立てている。松浦友久「白髪三千丈(『秋浦歌』その十五)―『明鏡』としての清渓河」(『詩語の諸相――唐詩ノート〈増訂版〉』研文出版、1995年)参照。庾信の「州中の新閣に登る」(『文苑英華』巻三百十四、『古詩紀』巻一百二十五)に「池は明鏡の光の如し」(池如明鏡光)とある。ウィキソース「文苑英華 (四庫全書本)/卷0314」参照。
  • 裏 … 「うち」と読み、「~の中」と訳す。
何處得秋霜
いずれのところにか 秋霜しゅうそうたる
  • 何処 … 「いずれのところにか~」と読み、「どこで~か」と訳す。また、「いずれのところよりか~」と読み、「どこから~か」と訳してもよい。
  • 處 … 『古今詩刪』では「」に作る。異体字。
  • 秋霜 … 秋に降りる霜。白髪に喩える。曹植の「朔風の詩」(『文選』巻二十九)に「繁華まさに茂らんとし、秋霜これそこなう」(繁華将茂、秋霜悴之)とある。ウィキソース「朔風詩」参照。また西晋の左思「白髪の賦」(『芸文類聚』巻十七)に「命をくること幸いならず、君の年の暮るるにあたる。秋霜に逼迫せられ、生じてこうたり。始めて明鏡をて、惕然てきぜんとしてにくまる。朝に生じ昼抜かるは、何の罪の故ぞ」(稟命不幸、値君年暮。逼迫秋霜、生而皓素。始覽明鏡、惕然見惡。朝生晝拔、何罪之故)とある。惕然は、ひやひやして恐れるさま。ウィキソース「白髮賦」「藝文類聚/卷017」参照。なお「秋霜」は、刑罰の厳しいことや、志の堅いことなどにも喩えられる。後漢の荀悦の『申鑒』雑言上篇に「喜びは春陽の如く、怒りは秋霜の如し」(喜如春陽、怒如秋霜)とある。ウィキソース「申鑒/4」参照。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻六(『漢文大系 第二巻』冨山房、1910年)
  • 『全唐詩』巻一百六十七(揚州詩局本縮印、上海古籍出版社、1985年)
  • 『李太白文集』巻七(静嘉堂文庫蔵宋刊本影印、平岡武夫編『李白の作品』所収、略称:宋本)
  • 『李太白文集』巻七(ぼくえつ重刊、雙泉草堂本、略称:繆本)
  • 『分類補註李太白詩』巻八(しょういん補注、内閣文庫蔵、略称:蕭本)
  • 『分類補註李太白詩』巻八(蕭士贇補注、郭雲鵬校刻、『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:郭本)
  • 『分類補註李太白詩』巻八(蕭士贇補注、許自昌校刻、『和刻本漢詩集成 唐詩2』所収、略称:許本)
  • 『李翰林集』巻十七(景宋咸淳本、劉世珩刊、江蘇広陵古籍刻印社、略称:劉本)
  • 『李太白全集』巻八(王琦編注、『四部備要 集部』所収、略称:王本)
  • 『万首唐人絶句』五言・巻一(明嘉靖刊本影印、文学古籍刊行社、1955年)
  • 趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻三(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐詩品彙』巻三十九(汪宗尼本影印、上海古籍出版社、1981年)
  • 『古今詩刪』巻二十(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、50頁)
  • 『唐詩解』巻二十一(清順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐宋詩醇』巻五(乾隆二十五年重刊、紫陽書院、内閣文庫蔵)
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