独坐敬亭山(李白)
獨坐敬亭山
独り敬亭山に坐す
独り敬亭山に坐す
- ウィキソース「獨坐敬亭山」参照。
- この詩は、作者が一人で敬亭山に登り、じっと坐って景色を眺めて詠んだもの。安旗主編『新版 李白全集編年注釋』(巴蜀書社、2000年)によると、天宝十二載(753)、五十三歳の作。
- 詩題 … 『宋本』『繆本』には、題下に「宣城」と注する。
- 独坐 … ただひとりで坐っていること。
- 敬亭山 … 安徽省宣城市の北北西約5キロにある山。別名、昭亭山。高さは海抜324.1メートル。李白が敬愛した謝朓が宣城の太守だったとき、しばしばここに遊んだという。『元和郡県図志』江南道、宣州、宣城県の条に「敬亭山は、州の北十二里。即ち謝朓が詩を賦するの所なり」(敬亭山、州北十二里。即謝朓賦詩之所)とある。ウィキソース「元和郡縣圖志/卷28」参照。また『読史方輿紀要』江南十、寧国府、宣城県の条に「敬亭山は府の北十里。一名昭亭山。東は宛・勾の二水に臨み、南は城闉を俯し、千巌万壑、雲蒸し霞蔚たり。近郊の名勝を為す」(敬亭山府北十里。一名昭亭山。東臨宛、勾二水、南俯城闉、千巖萬壑、雲蒸霞蔚。爲近郊名勝)とある。城闉は、城内の二重になっている門。ウィキソース「讀史方輿紀要/卷二十八」参照。『中国歴史地図集 第五冊』(地図出版社、1982年、国学导航「江南西道:敬亭山」57~58頁①11)参照。ウィキペディア【敬亭山】(中文)参照。
- 李白 … 701~762。盛唐の詩人。字は太白。蜀の隆昌県青蓮郷(四川省江油市青蓮鎮)の人。青蓮居士と号した。科挙を受験せず、各地を遊歴。天宝元年(742)、玄宗に召されて翰林供奉(天子側近の文学侍従)となった。しかし、玄宗の側近で宦官の高力士らに憎まれて都を追われ、再び放浪の生活を送った。杜甫と並び称される大詩人で「詩仙」と仰がれた。『李太白集』がある。ウィキペディア【李白】参照。
衆鳥高飛盡
衆鳥 高く飛んで尽き
- 衆鳥 … 数多くいた鳥。たくさんいた鳥。『楚辞』九弁に「衆鳥は皆な登棲する所有り、鳳は独り遑遑として集まる所無し」(衆鳥皆有所登棲兮、鳳獨遑遑而無所集)とある。登棲は、登って止まること。遑遑は、慌ただしくて落ち着かないさま。ウィキソース「九辯」参照。また『荀子』勧学篇に「樹、蔭を成して衆鳥息い、醯、酸にして蜹聚まる」(樹成蔭而衆鳥息焉、醯酸而蜹聚焉)とある。醯は、ししびしお。肉の塩辛。蜹は、ぶよ。ウィキソース「荀子/勸學篇」参照。また、東晋の陶潜「貧士を詠ず七首」詩の第一首に「朝霞宿霧を開き、衆鳥相与に飛ぶ」(朝霞開宿霧、衆鳥相與飛)とある。ウィキソース「詠貧士/其一」参照。
- 高飛 … 空高く飛んで。『詩経』小雅・菀柳に「鳥有り高く飛ぶ、亦た天に傅る」(有鳥高飛、亦傅于天)とある。菀柳は、こんもり茂った柳。ウィキソース「詩經/菀柳」参照。
- 高 … 『劉本』では「忽」に作り、「一作高」と注する。
- 尽 … どこかへ行ってしまった。
孤雲獨去閑
孤雲 独り去って閑なり
- 孤雲 … ひとひら浮かんでいた雲。離れ雲。東晋の陶潜「貧士を詠ず七首」詩の第一首に「万族各〻託する有り、孤雲独り依る無し」(萬族各有託、孤雲獨無依)とある。ウィキソース「詠貧士/其一」参照。
- 独去閑 … ぽつんと流れ去って静けさが増す。また「独り去ること閑なり」と訓読した場合、「静かに流れ去ってゆく」という訳になる。
- 閑 … 静かである。
相看兩不厭
相看て 両つながら厭わざるは
- 相看 … (作者と敬亭山とが)互いに見つめ合って。互いに眺め合って。山を擬人化して詠んだもの。南朝陳の徐陵の楽府「洛陽道二首」(『楽府詩集』巻二十三)の第二首に「相看るも語るを得ず、密意 眼中より来たる」(相看不得語、密意眼中來)とある。密意は、深い思い。ウィキソース「樂府詩集/023卷」参照。また、隋の丁六娘「十索四首」詩(『古詩紀』巻一百三十八)の第二首に「曼眼 腕中嬌たり、相看て厭足する無し」(曼眼腕中嬌、相看無厭足)とある。曼眼は、流し目。嬌は、なまめかしいさま。厭足は、飽き足りること。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷138」参照。
- 相 … 「あい」と読み、「互いに」「ともに」と訳す。
- 両 … (作者と敬亭山の)双方が。そのどちらも。
- 不厭 … 飽きのこないのは。嫌にならないのは。三国魏の劉楨「従弟に贈る」詩(『文選』巻二十三)の第三首に「心に於いて厭かざる有り、翅を奮って紫氛を凌ぐ」(於心有不厭、奮翅凌紫氛)とある。紫氛は、紫色の雲気。天上をいう。ウィキソース「贈從弟三首」参照。
只有敬亭山
只だ敬亭山有るのみ
- 只 … 「ただ」と読み、「ただ~だけだ」と訳す。限定の意を表す。河北景楨『助辞鵠』巻三に「李白ノ詩ニ、只ダ敬亭山有ルノミト云フモ、ヒトヘニコノ敬亭山ノ愛スベキコソアレト云フ意ナリ。他ハ然ラズ、タヾ敬亭山バカリナリト云フヤウニ、重ク心得ルハヨカラズ」とある。なお、送りがなは読みやすさを考慮して一部修正した。『助辞鵠』(「国書データベース」国文学研究資料館)参照。
- 有 … ここでは「あるのみ」と、送りがなに「のみ」を付けて読む。『文苑英華』では「在」に作り、「一作有」と注する。
詩型・韻字
- 五言絶句。
- 閑・山(上平声刪韻)。
テキスト
- 『箋註唐詩選』巻六(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)
- 『全唐詩』巻一百八十二(排印本、中華書局、1960年)
- 『李太白文集』巻二十一(静嘉堂文庫蔵宋刊本影印、平岡武夫編『李白の作品』所収、略称:宋本)
- 『李太白文集』巻二十一(繆曰芑重刊、雙泉草堂本、略称:繆本)
- 『分類補註李太白詩』巻二十三(蕭士贇補注、内閣文庫蔵、略称:蕭本)
- 『分類補註李太白詩』巻二十三(蕭士贇補注、郭雲鵬校刻、『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:郭本)
- 『分類補註李太白詩』巻二十三(蕭士贇補注、許自昌校刻、『和刻本漢詩集成 唐詩2』所収、略称:許本)
- 『李翰林集』巻十九(景宋咸淳本、劉世珩刊、江蘇広陵古籍刻印社、略称:劉本)
- 『李太白全集』巻二十三(王琦編注、『四部備要 集部』所収、略称:王本)
- 『李詩通』巻二十([明]胡震亨評注、内閣文庫蔵、略称:胡本)
- 『文苑英華』巻一百五十九(影印本、中華書局、1966年)
- 『万首唐人絶句』五言・巻一(明嘉靖本影印、文学古籍刊行社、1955年)
- 『唐詩品彙』巻三十九([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
- 『古今詩刪』巻二十(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、汲古書院)
- 『唐詩解』巻二十一(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
- 『唐宋詩醇』巻八(乾隆二十五年重刊、紫陽書院、内閣文庫蔵)
- 松浦友久編『校注 唐詩解釈辞典』(大修館書店、1987年)
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