静夜思(李白)
靜夜思
静夜思
静夜思
- 五言絶句。光・霜・郷(平声陽韻)。
- ウィキソース「靜夜思」参照。
- 詩題 … 『唐詩三百首』『唐詩別裁集』『唐人万首絶句選』では「夜思」に作る。
- 静夜思 … 静かな夜の物思い。楽府題の一つ。新楽府(唐代になってから出来た楽府)。『楽府詩集』巻九十・新楽府辞に収める。『楽府詩集』に「新楽府は、皆唐世の新歌なり」(新樂府者、皆唐世之新歌也)とある。ウィキソース「樂府詩集/090卷」参照。なお、『楽府詩集』に収める「静夜思」という楽府題の詩は、この一首のみである。従ってこの楽府題は李白が命名したものであろう。
- この詩は、月の冴えわたる静かな夜、故郷を思って詠んだもの。安旗主編『新版 李白全集編年注釋』(巴蜀書社、2000年)によると、開元十五年(727)、二十七歳の作。なお、現代の中国で最も通行している『唐詩三百首』等の通俗詞華集では、第一句を「明月光」に、第三句を「望明月」に作る。この改竄とその変遷については、森瀬壽三『唐詩新攷』(関西大学出版部、1998年)、及び『唐詩新攷 補篇』(関西大学出版部、2007年)に詳しい。
- 李白 … 701~762。盛唐の詩人。字は太白。蜀の隆昌県青蓮郷(四川省江油市青蓮鎮)の人。青蓮居士と号した。科挙を受験せず、各地を遊歴。天宝元年(742)、玄宗に召されて翰林供奉(天子側近の文学侍従)となった。しかし、玄宗の側近で宦官の高力士らに憎まれて都を追われ、再び放浪の生活を送った。杜甫と並び称される大詩人で「詩仙」と仰がれた。『李太白集』がある。ウィキペディア【李白】参照。
牀前看月光
牀前 月光を看る
- 牀前 … ベッドの前。寝台の前。「牀」は「床」に同じ。中国式のベッドのこと。『説文解字』巻六上、木部に「身を安んずるの坐する者」(安身之坐者)とある。ウィキソース「說文解字/06」参照。
- 看月光 … ベッドの前まで差し込んでくる月の光を見ている。床が敷石なのでキラキラ光って見えている情景。「古詩十九首」(『文選』巻二十九、『玉台新詠』巻一)の第十九首に「明月何ぞ皎皎たる、我が羅の牀幃を照らす」(明月何皎皎、照我羅牀幃)とある。皎皎は、白く明るいさま。「皎皎」と読んでもよい。羅は、薄い絹織物。うすぎぬ。牀幃は、寝床のとばり。ウィキソース「明月何皎皎」参照。また曹丕の「雑詩二首 其の一」(『文選』巻二十九)に「俯して清水の波を視、仰いで明月の光を看る」(俯視清水波、仰看明月光)とある。ウィキソース「雜詩二首 (曹丕)」参照。
- 光 … 『万首唐人絶句』(万暦刊本)では「灮」に作る。異体字。
- 看 … じっと見る。よく見る。見つめる。『唐詩三百首』『唐詩別裁集』『唐人万首絶句選』『唐宋詩醇』では「明」に作る。
疑是地上霜
疑うらくは是れ 地上の霜かと
- 疑 … 「うたがうらくは」と読み、「~と疑われるほどである」と訳す。
- 地上霜 … 地上に降りた霜。李益の「夜、受降城に上りて笛を聞く」に「回楽峰前沙雪に似たり、受降城外月霜の如し」(囘樂峯前沙似雪、受降城外月如霜)とある。ウィキソース「夜上受降城聞笛」参照。
擧頭望山月
頭を挙げて 山月を望み
- 挙頭 … 頭をあげる。「近代呉歌九首 其の三 秋歌」(『玉台新詠』巻十)に「秋風窓裏に入る、羅帳起りて飄颺す。頭を仰がしめて明月を看、情を寄す千里の光に」(秋風入窗裏、羅帳起飄颺。仰頭看明月、寄情千里光)とある。羅帳は、薄絹のとばり。飄颺は、風に吹かれて翻り上がること。ウィキソース「秋歌 (近代吳歌)」参照。
- 山月 … 山の端の月。山上の月。
- 山 … 『唐詩三百首』『万首唐人絶句』(万暦刊本)では「明」に作る。
- 望 … 眺める。
低頭思故鄉
頭を低れて 故郷を思う
- 低頭 … 頭を垂れる。うなだれて、物思いに沈むさま。
- 思故郷 … 蘇武の「詩四首 其の四」(『文選』巻二十九)に「征夫遠路を懐い、遊子故郷を恋う」(征夫懷遠路、遊子戀故鄉)とある。征夫は、旅立つ人。また曹丕の「雑詩二首 其の一」(『文選』巻二十九)に「鬱鬱として悲思多く、綿綿として故郷を思う」(鬱鬱多悲思、緜緜思故鄉)とある。ウィキソース「昭明文選/卷29」参照。
テキスト
- 『箋註唐詩選』巻六(『漢文大系 第二巻』冨山房、1910年)
- 『唐詩三百首注疏』巻六上(廣文書局、1980年)
- 『全唐詩』巻一百六十五(揚州詩局本縮印、上海古籍出版社、1985年)
- 『楽府詩集』巻九十・新楽府辞(北京図書館蔵宋刊本影印、中津濱渉『樂府詩集の研究』所収)
- 『李太白文集』巻六(静嘉堂文庫蔵宋刊本影印、平岡武夫編『李白の作品』所収、略称:宋本)
- 『李太白文集』巻六(繆曰芑重刊、雙泉草堂本、略称:繆本)
- 『分類補註李太白詩』巻六(蕭士贇補注、内閣文庫蔵、略称:蕭本)
- 『分類補註李太白詩』巻六(蕭士贇補注、郭雲鵬校刻、『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:郭本)
- 『分類補註李太白詩』巻六(蕭士贇補注、許自昌校刻、『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、略称:許本)
- 『李翰林集』巻五(景宋咸淳本、劉世珩刊、江蘇広陵古籍刻印社、略称:劉本)
- 『李太白全集』巻六(王琦編注、『四部備要 集部』所収、略称:王本)
- 『万首唐人絶句』五言・巻一(明嘉靖刊本影印、文学古籍刊行社、1955年)
- 趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻三(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)
- 王士禛選『唐人万首絶句選』巻一(芸文印書館、1970年)
- 『唐詩品彙』巻三十九(汪宗尼本影印、上海古籍出版社、1981年)
- 『唐詩別裁集』巻十九(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
- 『古今詩刪』巻二十(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、50頁)
- 『唐詩解』巻二十一(清順治十六年刊、内閣文庫蔵)
- 『唐宋詩醇』巻四(乾隆二十五年重刊、紫陽書院、内閣文庫蔵)
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