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早発白帝城(李白)

早發白帝城
つと白帝はくていじょうはっ
はく
  • 七言絶句。閒・還・山(平声刪韻)。
  • ウィキソース「早發白帝城」参照。
  • 詩題 … 『全唐詩』『宋本』『繆本』『蕭本』『郭本』『許本』『王本』には、題下に「一に白帝より江陵に下るに作る」(一作白帝下江陵)とある。『劉本』『万首唐人絶句』(両種とも)では「白帝下江陵」に作る。『唐詩別裁集』では「下江陵」に作る。
  • 早 … 朝早く。
  • 白帝城 … 今の重慶市(直轄市、旧四川省)奉節県の東、とう峡の入り口、白帝山上にあった城塞の名。前漢末、殿前の井戸から白竜が出るのを見た公孫述が自ら白帝と称し、この城塞を白帝城と名づけた。三国時代、蜀の劉備がこの城で没している。『太平寰宇記』山南東道、州の条に「公孫述、魚復に至る。白竜有って井中を出ず。因って魚復を号して白帝城と為す」(公孫述至魚復。有白龍出井中。因號魚復爲白帝城)とある。ウィキソース「太平寰宇記 (四庫全書本)/卷148」参照。ウィキペディア【白帝城】参照。
  • 発 … 出発する。
  • この詩は、作者が夜郎(貴州省北部)へ流罪となって向かっていた途中、巫山に至って恩赦の知らせを聞き、喜び勇んで一気に長江を下り、江陵(湖北省荊州市)まで戻ろうとしたときに詠んだもの。安旗主編『新版 李白全集編年注釋』(巴蜀書社、2000年)によると、乾元二年(759)、五十九歳の作。なお、開元十三年(725)、作者二十五歳の作とする説もある。
  • 李白 … 701~762。盛唐の詩人。あざなは太白。蜀の隆昌県青蓮郷(四川省江油市青蓮鎮)の人。青蓮居士と号した。科挙を受験せず、各地を遊歴。天宝元年(742)、玄宗に召されて翰林かんりん供奉ぐぶ(天子側近の文学侍従)となった。しかし、玄宗の側近で宦官の高力士らに憎まれて都を追われ、再び放浪の生活を送った。杜甫と並び称される大詩人で「詩仙」と仰がれた。『李太白集』がある。ウィキペディア【李白】参照。
朝辭白帝彩雲閒
あしたす 白帝はくてい 彩雲さいうんかん
  • 朝 … 朝早く。早朝。
  • 辞 … 別れを告げる。辞去する。
  • 彩雲 … 朝焼け雲。
  • 彩 … 『唐詩品彙』では「綵」に作る。同義。
  • 間 … 辺り。
千里江陵一日還
せんこうりょう 一日いちじつにしてかえ
  • 千里 … 千里の彼方の。千里も離れている。
  • 江陵 … 現在の湖北省けいしゅう市。『中国歴史地図集 第五冊』(地図出版社、1982年、国学导航「山南东道:江陵」52~53頁⑤9)参照。ウィキペディア【荊州市】参照。『水経注』江水の条に「し王命急に宣ぶれば、時有りてあしたに白帝を発すれば、暮に江陵に到る。其のかん千二百里、ほんに乗り風にると雖も、以てはやしとせざるなり」(或王命急宣、有時朝發白帝、暮到江陵。其間千二百里、雖乘奔御風、不以疾也)とある。奔は、奔馬。ウィキソース「水經注/34」参照。また『太平御覧』巻五十三に引く『荊州記』にも、ほぼ同じ記述がある。ウィキソース「太平御覽/0053」参照。
  • 一日 … 「いちにち」と読んでもよい。
  • 還 … 帰っていく。恩赦を受けて引き返すこと。ここは五十九歳説の根拠となっている部分であるが、「還」には、「めぐる、ぐるぐるとまわる」という意味もあり、二十五歳説も否定しきれない。
兩岸猿聲啼不住
りょうがん猿声えんせい いてまざるに
  • 両岸 … 揚子江は江陵に至る途中で川幅が狭くなり、急流となる。絶壁が高くそびえるが、その中の三つの峡谷をさんきょうとう峡・峡・西せいりょう峡)と呼ぶ。この辺りは猿が多く住む。
  • 猿声 … 猿の鳴き声。『水経注』江水の条に「常に高猿の長くき、しょくいんせいなる有り。空谷に響きを伝え、哀転久しくして絶ゆ。故に漁者歌いて曰く、とうの三峡巫峡長し、猿鳴くこと三声涙もすそうるおす、と」(常有高猿長嘯、屬引淒異。空谷傳響、哀轉久絶。故漁者歌曰、巴東三峽巫峽長、猿鳴三聲淚沾裳)とある。属引は、長く引く声。ウィキソース「水經注/34」参照。
  • 不住 … 「~してやめない」「~しつづける」の意。「とどまらず」とも読む。
  • 住 … 『全唐詩』『宋本』『繆本』『蕭本』『郭本』『許本』『劉本』『王本』『万首唐人絶句』(両種とも)では「盡」に作る。『唐詩解』には「本集作盡」とある。
輕舟已過萬重山
けいしゅうすでぐ ばんちょうやま
  • 軽舟 … 舟足の速い小舟。舟足の軽やかな小舟。
  • 已過 … いつの間にか通り過ぎていく。
  • 万重山 … 幾重にも重なった山。『水経注』江水の条に「三峡より七百里中、両岸の連山、略〻ほぼくる処無し。ちょうがん畳嶂じょうしょう、天を隠し日を蔽い、てい夜分に非ざるよりは、げつを見ず」(自三峽七百里中、兩岸連山、略無闕處。重巖疊嶂、隱天蔽日、自非停午夜分、不見曦月)とある。重巌は、積み重なった岩。畳嶂は、重なり連なる山。停午は、正午。曦月は、太陽と月。ウィキソース「水經注/34」参照。
  • 軽舟已過万重山 … 『宋本』『繆本』『蕭本』『郭本』『許本』『王本』には「一に須臾にして万重の山を過却すに作る」(一作須臾過却萬重山)とある。『劉本』では「須更過却萬重山」に作る。『万首唐人絶句』(嘉靖刊本)では「須臾過却萬重山」に作る。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻七(『漢文大系 第二巻』冨山房、1910年)
  • 『唐詩三百首注疏』巻六下(廣文書局、1980年)
  • 『全唐詩』巻一百八十一(揚州詩局本縮印、上海古籍出版社、1985年)
  • 『李太白文集』巻二十(静嘉堂文庫蔵宋刊本影印、平岡武夫編『李白の作品』所収、略称:宋本)
  • 『李太白文集』巻二十(ぼくえつ重刊、雙泉草堂本、略称:繆本)
  • 『分類補註李太白詩』巻二十二(しょういん補注、内閣文庫蔵、略称:蕭本)
  • 『分類補註李太白詩』巻二十二(蕭士贇補注、郭雲鵬校刻、『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:郭本)
  • 『分類補註李太白詩』巻二十二(蕭士贇補注、許自昌校刻、『和刻本漢詩集成 唐詩2』所収、略称:許本)
  • 『李翰林集』巻十九(景宋咸淳本、劉世珩刊、江蘇広陵古籍刻印社、略称:劉本)
  • 『李太白全集』巻二十二(王琦編注、『四部備要 集部』所収、略称:王本)
  • 『万首唐人絶句』七言・巻二(明嘉靖刊本影印、文学古籍刊行社、1955年)
  • 趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十三(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐詩品彙』巻四十七(汪宗尼本影印、上海古籍出版社、1981年)
  • 『唐詩別裁集』巻二十(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 『古今詩刪』巻二十一(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、55頁)
  • 『唐詩解』巻二十五(清順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐宋詩醇』巻七(乾隆二十五年重刊、紫陽書院、内閣文庫蔵)
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