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蘇台覧古(李白)

蘇臺覽古
だいらん
はく
  • 七言絶句。新・春・人(平声真韻)。
  • ウィキソース「蘇臺覽古」参照。
  • この詩の転句と結句は、衛万の「呉宮怨」(七言古詩)の末二句と同じ。
  • 蘇台 … 姑蘇こそだいのこと。春秋時代の後期、呉王闔廬こうりょが姑蘇山(江蘇省蘇州市の西南)上に築き、後にその子夫差が改修した離宮。西施など大勢の美女を住まわせて遊んだという。台とは、建物を築くとき、土を高く盛ってつき固めた台基のこと。『分類補註李太白詩』の楊斉賢の注に「呉王夫差、蘇州にみやこして、桂苑・姑蘇台・春宵宮・海霊館・かん閣有り。宮妓千人を以て長夜の飲を為し、千石のしゅしょうを造り天池と作し、池中に青竜舟を作り、舟中にがくを盛んにならべ、日に西施と水戯を為す」(吳王夫差都蘇州、有桂苑、姑蘇臺、春宵宮、海靈舘、舘娃閣。以宮妓千人爲長夜飮、造千石酒鍾作天池、池中作青龍舟、舟中盛陳妓樂、日與西施爲水戲)とある。酒鍾は、さかづき。酒の猪口。ウィキソース「分類補註李太白詩 (四部叢刊本)/卷第二十二」参照。また『元和郡県図志』江南道、蘇州の条に「(姑蘇)山は(蘇)州の西四十里に在り。其の上に闔廬こうりょ、台をきづく」(山在州西四十里。其上闔閭起臺)とある。ウィキソース「元和郡縣圖志/卷25」参照。また『山堂肆考』宮室、寵西施の条に「呉王夫差越を破り、越乃ち西施を進めて軍を退かんことを請う。呉王之を許し、呉王既に西施を得。甚だ之を寵し、為に姑蘇台を築く。高さ三百丈、其の上にて遊宴す」(吳王夫差破越、越乃進西施請退軍。吳王許之、吳王既得西施。甚寵之、爲築姑蘇臺。髙三百丈、遊宴其上)とある。ウィキソース「山堂肆考 (四庫全書本)/卷172」参照。
  • 覧古 … いにしえの跡をる。古跡を訪れて当時を偲ぶこと。
  • この詩は、作者が姑蘇山上にあった姑蘇台の遺跡を訪れ、栄華を極めた呉王の昔を偲んで詠んだもの。安旗主編『新版 李白全集編年注釋』(巴蜀書社、2000年)によると、天宝七載(748)、四十八歳の作。
  • 李白 … 701~762。盛唐の詩人。あざなは太白。蜀の隆昌県青蓮郷(四川省江油市青蓮鎮)の人。青蓮居士と号した。科挙を受験せず、各地を遊歴。天宝元年(742)、玄宗に召されて翰林かんりん供奉ぐぶ(天子側近の文学侍従)となった。しかし、玄宗の側近で宦官の高力士らに憎まれて都を追われ、再び放浪の生活を送った。杜甫と並び称される大詩人で「詩仙」と仰がれた。『李太白集』がある。ウィキペディア【李白】参照。
舊苑荒臺楊柳新
きゅうえん 荒台こうだい ようりゅうあらたなり
  • 旧苑 … ふるびた庭園。桂苑の遺跡を指す。
  • 荒台 … 荒れ果てた楼台。姑蘇台の遺跡を指す。
  • 楊柳 … 柳の総称。楊は、カワヤナギ。柳は、シダレヤナギ。
  • 柳 … 『唐宋詩醇』では「栁」に作る。異体字。
  • 新 … 新しく芽吹いた。
菱歌清唱不勝春
りょう せいしょう はるえず
  • 菱歌 … ひしの実を採りながら歌われる民謡。菱は、ヒシ科の一年草。沼や池に群生する。茎は泥中にあって、葉は水面に浮かび、菱形三角形。夏に白い花を開く。実は二つのとげのある固い殻をかぶり、果肉は白く食用となる。ウィキペディア【ヒシ】参照。『文苑英華』では「採菱」に作る。どうの「採蓮曲」(『楽府詩集』巻五十・清商曲辞)に「りょうしみてうたわず、すべかられて帰る時を待つべし」(菱歌惜不唱、須待暝歸時)とある。ウィキソース「樂府詩集/050卷」参照。また西晋の張協の「七命」(『文選』巻三十五)に「榜人ぼうじんさいりょうの歌を奏す。歌に曰く、しゅうに乗りてすいを為し、芳洲に臨んでうんを抜く、と」(榜人奏采菱之歌。歌曰、乘鳧舟兮爲水嬉、臨芳洲兮拔雲芝)とある。榜人は、船頭。鳧舟は、鴨の形をした舟。水嬉は、舟遊び。ウィキソース「七命」参照。
  • 清唱 … 清らかな声で歌うこと。
  • 清 … 『宋本』『繆本』では「春」に作る。『王本』には「繆本作春誤」とある。『文苑英華』では「歌」に作る。
  • 不勝春 … 春の感傷に堪えられない。春の風情に堪えられない。不勝は、たえられない、こらえきれないの意。不堪に同じ。
只今惟有西江月
只今ただいま 西江せいこうつきのみ
  • 只今 … 今はただ。只は、祗に同じ。
  • 惟 … 「ただ~のみ」と読み、「ただ~だけ」「ただ~にすぎない」と訳す。限定の意を示す。『宋本』『繆本』『郭本』『劉本』『文苑英華』『唐詩解』では「唯」に作る。同義。
  • 西江 … 姑蘇台の西を流れる川。姑蘇台の西に大きな川はない。ここでは太湖を指しているのかもしれない。『宋本』『繆本』『蕭本』『郭本』『劉本』では「江西」に作る。『王本』には「霏玉本繆本作江西」とある。『唐詩解』には「本集作江西」とある。
曾照吳王宮裏人
かつらす おうきゅうひと
  • 曾 … かつては。『全唐詩』(揚州詩局本)『宋本』『繆本』『郭本』『劉本』『万首唐人絶句』(万暦刊本)『唐詩別裁集』『古今詩刪』『唐宋詩醇』では「曽」に作る。異体字。
  • 呉王宮裏人 … 呉王夫差の宮中にいた美人。ここでは西せいを指す。越王勾践こうせんが呉に敗れたとき、彼女は呉王夫差のもとに送られ、夫差は彼女におぼれ、ついに国を亡ぼした。ウィキペディア【西施】参照。
  • 呉 … 『宋本』では「吴」に作る。異体字。
  • 服部南郭『唐詩選国字解』には「たゞ今惟あるものとては、月のみで、呉王の宮殿はあとかたもない、呉王宮裡のてらされた人はなく、たゞ宮人をてらした、月のみむかしにかわらぬ」とある。『漢籍国字解全書』第10巻(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻七(『漢文大系 第二巻』冨山房、1910年)
  • 『全唐詩』巻一百八十一(揚州詩局本縮印、上海古籍出版社、1985年)
  • 『全唐詩』巻一百八十一(点校本、中華書局、1960年)
  • 『李太白文集』巻二十(静嘉堂文庫蔵宋刊本影印、平岡武夫編『李白の作品』所収、略称:宋本)
  • 『李太白文集』巻二十(ぼくえつ重刊、雙泉草堂本、略称:繆本)
  • 『分類補註李太白詩』巻二十二(しょういん補注、内閣文庫蔵、略称:蕭本)
  • 『分類補註李太白詩』巻二十二(蕭士贇補注、郭雲鵬校刻、『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:郭本)
  • 『分類補註李太白詩』巻二十二(蕭士贇補注、許自昌校刻、『和刻本漢詩集成 唐詩2』所収、略称:許本)
  • 『李翰林集』巻十四(景宋咸淳本、劉世珩刊、江蘇広陵古籍刻印社、略称:劉本)
  • 『李太白全集』巻二十二(王琦編注、『四部備要 集部』所収、略称:王本)
  • 『文苑英華』巻三百十三(影印本、中華書局、1966年)
  • 趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十三(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐詩品彙』巻四十七(汪宗尼本影印、上海古籍出版社、1981年)
  • 『唐詩別裁集』巻二十(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 『古今詩刪』巻二十一(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、55頁)
  • 『唐詩解』巻二十五(清順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐宋詩醇』巻八(乾隆二十五年重刊、紫陽書院、内閣文庫蔵)
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