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客中行(李白)

客中行
かくちゅうこう
はく
  • 七言絶句。香・光・郷(平声陽韻)。
  • ウィキソース「客中行」参照。
  • 詩題 … 『宋本』『繆本』『文苑英華』『唐詩別裁集』では「客中作」に作る。『王本』では「客中作」に作り、「蕭本作客中行」とある。
  • 客中行 … 旅先での歌。客中は、旅の途中。旅のさなか。行は、歌・曲の意。
  • この詩は、作者が旅先で旅愁を感じているものの、酒に酔って忘我の境に入っている様子を詠んだもの。魯(今の山東省)を旅寓していた時の作と思われる。安旗主編『新版 李白全集編年注釋』(巴蜀書社、2000年)によると、開元二十八年(740)、四十歳の作。
  • 李白 … 701~762。盛唐の詩人。あざなは太白。蜀の隆昌県青蓮郷(四川省江油市青蓮鎮)の人。青蓮居士と号した。科挙を受験せず、各地を遊歴。天宝元年(742)、玄宗に召されて翰林かんりん供奉ぐぶ(天子側近の文学侍従)となった。しかし、玄宗の側近で宦官の高力士らに憎まれて都を追われ、再び放浪の生活を送った。杜甫と並び称される大詩人で「詩仙」と仰がれた。『李太白集』がある。ウィキペディア【李白】参照。
蘭陵美酒鬱金香
らんりょうしゅ 鬱金うっこんこう
  • 蘭陵 … 唐代は州承県(今の山東省棗荘そうそうえきじょう)の辺り。『元和郡県図志』河南道、沂州、承県の条に「蘭陵県城は、(沂州承)県の東六十里に在り」(蘭陵縣城、在縣東六十里)とある。ウィキソース「元和郡縣圖志/卷11」参照。当時、名酒の産地として知られていた。ウィキペディア【兰陵县 (楚国)】(中文)参照。
  • 美酒 … うまい酒。味のよい酒。「古詩十九首 其の十三」(『文選』巻二十九)に「かずしゅみて、がんとをふくせんには」(不如飲美酒、被服紈與素)とある。紈・素は、白い練絹・生絹。華美な衣服の意。ウィキソース「驅車上東門」参照。
  • 鬱金香 … 鬱金うっこんの香り。鬱金は、西域産の香草の名。ここでは、その香りをつけた酒を指す。『唐会要』雑録の条に「(貞観)二十一年、……伽毘国、鬱金香を献ず。葉は麦門冬ばくもんとうに似て、九月に花開き、かたちは芙蓉の如し。其の色、紫碧。香り数十歩聞こゆ。華ひらきて実ならず。えんと欲すれば其の根を取る」(二十一年、……伽毘國獻鬱金香。葉似麥門冬、九月花開、狀如芙蓉。其色紫碧。香聞數十步。華而不實。欲種取其根)とある。ウィキソース「唐會要/卷100」参照。また『本草綱目』草部、芳草類、鬱金の項に「鬱金は蜀地及び西戎に生じ、苗はきょうに似て黄、花は白く質は紅く、末秋に茎心を出だすも実無し」(鬱金生蜀地及西戎、苗似薑黃、花白質紅、末秋出莖心而無實)とある。ウィキソース「本草綱目/草之三」参照。なお、「鬱金」を「郁金」に作るのは、「郁」が「鬱」の簡体字のため。
玉椀盛來琥珀光
ぎょくわんきたる はくひかり
  • 玉椀 … ぎょくで作った酒椀。玉の杯。
  • 椀 … 『宋本』『繆本』では「埦」に作る。『唐詩品彙』では「碗」に作る。いずれも同義。『文苑英華』『唐詩別裁集』『古今詩刪』では「盌」に作る。「盌」は「碗」の異体字。
  • 盛来 … なみなみと注げば。「来」は助辞。
  • 琥珀 … 宝石の一つ。地質時代の植物の樹脂が化石となったもの。透明または半透明で、色は黄褐色・赤色などがある。ここでは酒の色の形容。ウィキペディア【琥珀】参照。『博物志』に引く『神仙伝』に「松柏脂地に入ること千年、化してぶくりょうと為り、茯苓化して琥珀と為る」(松柏脂入地千年、化爲茯苓、茯苓化爲琥珀)とある。ウィキソース「博物志/卷之四」参照。
  • 光 … 『万首唐人絶句』では「灮」に作る。異体字。
但使主人能醉客
主人しゅじんをしてかくわしめば
  • 但使 … 「ただ~せしめば」「もし~」と読み、「もし~でありさえすれば」と訳す。条件が唯一である意を示す。
  • 主人 … 宴席の主人。酒宴の主催者。
  • 能酔客 … 旅の客である私を存分に酔わせてくれさえすれば。
  • 客 … ここでは「旅人」と「宴席の客」という両方の意がある。
不知何處是他鄉
らず いずれのところきょうなるを
  • 不知 … 私の知ったことじゃない。
  • 何処 … 「いずれのところか」と読み、「どこが」と訳す。
  • 處 … 『劉本』『古今詩刪』では「「」に作る。異体字。
  • 他郷 … 自分の故郷でない土地。異郷。
  • 他 … 『唐詩選』では「佗」に作る。同義。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻七(『漢文大系 第二巻』冨山房、1910年)
  • 『全唐詩』巻一百八十一(揚州詩局本縮印、上海古籍出版社、1985年)
  • 『李太白文集』巻二十(静嘉堂文庫蔵宋刊本影印、平岡武夫編『李白の作品』所収、略称:宋本)
  • 『李太白文集』巻二十(ぼくえつ重刊、雙泉草堂本、略称:繆本)
  • 『分類補註李太白詩』巻二十二(しょういん補注、内閣文庫蔵、略称:蕭本)
  • 『分類補註李太白詩』巻二十二(蕭士贇補注、郭雲鵬校刻、『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:郭本)
  • 『分類補註李太白詩』巻二十二(蕭士贇補注、許自昌校刻、『和刻本漢詩集成 唐詩2』所収、略称:許本)
  • 『李翰林集』巻十四(景宋咸淳本、劉世珩刊、江蘇広陵古籍刻印社、略称:劉本)
  • 『李太白全集』巻二十二(王琦編注、『四部備要 集部』所収、略称:王本)
  • 『文苑英華』巻二百九十一(影印本、中華書局、1966年)
  • 趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十三(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐詩品彙』巻四十七(汪宗尼本影印、上海古籍出版社、1981年)
  • 『唐詩別裁集』巻二十(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 『古今詩刪』巻二十一(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、54頁)
  • 『唐詩解』巻二十五(清順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐宋詩醇』巻七(乾隆二十五年重刊、紫陽書院、内閣文庫蔵)
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