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登金陵鳳凰台(李白)

登金陵鳳凰臺
きんりょう鳳凰台ほうおうだいのぼ
はく
  • 七言律詩。遊・流・丘・洲・愁(平声尤韻)。
  • ウィキソース「登金陵鳳凰臺」参照。
  • 金陵 … 江蘇省南京市の古名。戦国時代、楚が金陵ゆうを設置した。三国時代、呉の孫権が建業と称して都を置いた。晋代、建康と改めた。南京の雅称として用いられる。『晋書』王導伝に「建康けんこうは、いにしえきんりょうもとていたり」(建康、古之金陵、舊爲帝里)とある。帝里は、天子の住む土地。帝都。ウィキソース「晉書/卷065」参照。ウィキペディア【南京市】参照。
  • 鳳凰台 … 鳳凰は、徳の高い天子が世に出たときに現れるといわれる想像上のめでたい鳥。六朝の宋代、金陵の西南隅の山に三羽の美しい鳥が群れ集まった。人々はその鳥を鳳凰と呼び、その瑞祥にあやかるようにと山上に台を築き、鳳凰台と名付けたという。王琦の注に引く『江南通志』に「鳳凰台は江寧府城内の西南隅に在り。……宋の元嘉十六年、三鳥の山間に翔集する有り、文彩五色、状孔雀の如く、音声諧和し、衆鳥群附す。時人之を鳳凰と謂う。台を山に起し、之を鳳凰台と謂う」(鳳凰臺在江寧府城内之西南隅。……宋元嘉十六年、有三鳥翔集山間、文彩五色、狀如孔雀、音聲諧和、衆鳥羣附。時人謂之鳳凰。起臺于山、謂之鳳凰臺)とある。ウィキソース「李太白集注 (四庫全書本)/卷21」参照。
  • 凰 … 『唐詩選』『宋本』『繆本』では「皇」に作る。
  • この詩は、朝廷を追われた作者が諸国を放浪した後、しばらく金陵(今の南京市)に滞在し、そこにある鳳凰台に登って詠んだもの。安旗主編『新版 李白全集編年注釋』(巴蜀書社、2000年)によると、天宝六載(747)、四十七歳の作。
  • 李白 … 701~762。盛唐の詩人。あざなは太白。蜀の隆昌県青蓮郷(四川省江油市青蓮鎮)の人。青蓮居士と号した。科挙を受験せず、各地を遊歴。天宝元年(742)、玄宗に召されて翰林かんりん供奉ぐぶ(天子側近の文学侍従)となった。しかし、玄宗の側近で宦官の高力士らに憎まれて都を追われ、再び放浪の生活を送った。杜甫と並び称される大詩人で「詩仙」と仰がれた。『李太白集』がある。ウィキペディア【李白】参照。
鳳凰臺上鳳凰遊
鳳凰台ほうおうだいじょう 鳳凰ほうおうあそ
  • 鳳凰台上鳳凰 … 『唐詩選』『宋本』『繆本』では「鳳皇台上鳳皇」に作る。
  • 鳳凰台上 … 鳳凰台の上には。
  • 鳳凰遊 … かつて鳳凰が来て遊んだという。
  • 遊… 『瀛奎律髄』では「游」に作る。同義。
鳳去臺空江自流
ほうり だいむなしくして こうおのずからなが
  • 鳳去 … 今は鳳凰も飛び去って。
  • 台空江自流 … 台が空しく残り、長江だけが昔と変わらず流れている。
吳宮花草埋幽徑
きゅうそうは 幽径ゆうけいうずもれ
  • 呉宮 … 三国時代、呉の国の宮殿。黄龍元年(229)、呉の孫権が金陵(今の南京市)に都を置き、建業と称した。『呉越春秋』夫差内伝に「吾今日死せば、呉宮墟と為り、庭蔓草を生ぜん」(吾今日死、吳宮爲墟、庭生蔓草)とある。ウィキソース「吳越春秋/第005卷」参照。
  • 宮 … 『宋本』『繆本』『王本』『瀛奎律髄』には「一作時」とある。『劉本』『唐文粋』では「時」に作る。『文苑英華』でも「時」に作り、「集作宮」とある。
  • 花草 … 美しい花や草。後漢の繁欽の「定情詩」(『玉台新詠』巻一)に「衣をかかげて茂草をみ、おもう君我をあざむかずと」(褰衣躡茂草、謂君不我欺)とある。ウィキソース「定情詩」参照。
  • 草 … 『唐詩解』では「艸」に作る。同義。
  • 幽径 … 静かで奥深い小道。
  • 徑 … 『文苑英華』では「逕」に作る。同義。
晉代衣冠成古丘
晋代しんだいかんは きゅう
  • 晋代 … 東晋(317~420)の時代を指す。金陵(今の南京市)に都した。呉のときは建業と呼ばれていたが、西晋(265~316)のときに建康と改称された。ウィキペディア【東晋】参照。
  • 代 … 『宋本』『繆本』『王本』『瀛奎律髄』には「一作國」とある。『文苑英華』には「集作國」とある。『唐文粋』では「國」に作る。『劉本』でも「國」に作り、「一作代」とある。
  • 衣冠 … 衣服とかんむりをつけた高官たち。南朝宋の顔延之「陵廟に拝する作」(『文選』巻二十三)に「衣冠は終に冥漠めいばくりょうゆううた蔥青そうせいたり」(衣冠終冥漠、陵邑轉蔥靑)とある。蔥青は、草木の青々としたさま。ウィキソース「拜陵廟作」参照。
  • 古丘 … 古い墓。
  • 丘 … 『唐詩三百首』『王本』『瀛奎律髄』『唐宋詩醇』では「邱」に作る。同義。
三山半落靑天外
三山さんざん なかつ 青天せいてんそと
  • 三山 … 金陵(今の南京市)の西南にある山。長江沿いに三つの峰が並立しているので、こう名付けられた。ウィキペディア【三山 (南京)】(中文)参照。『大明一統志』に「三山は府の西南五十七里に在り。下大江に臨んで、三峰排列す」(三山在府西南五十七里。下臨大江、三峯排列)とある。大江は、長江のこと。ウィキソース「明一統志 (四庫全書本)/卷06」参照。また王琦の注に引く『輿地志』に「其の山積石せきせき森欝しんうつたり、大江にひんす。三峰排列し、南北相つらなる。故に三山と号す」(其山積石森欝、濱于大江。三峯排列、南北相連。故號三山)とある。ウィキソース「李太白集注 (四庫全書本)/卷21」参照。また南宋の陸游『入蜀記』に「三山は、石頭及び鳳凰台より之を望めば、有無のうち杳杳ようようたるのみ」(三山、自石頭及鳳凰臺望之、杳杳有無中耳)とある。ウィキソース「入蜀記/卷2」参照。
  • 半落青天外 … 青空の彼方に、半分落ちかかったように見える。三山がぼんやりと霞んで見えるさま。
一水中分白鷺洲
一水いっすい ちゅうぶんす はくしゅう
  • 一水 … 一筋の長江の流れ。『唐詩選』『唐詩三百首』『全唐詩』『瀛奎律髄』『文苑英華』『唐詩品彙』『唐詩別裁集』『古今詩刪』『唐詩解』『唐宋詩醇』『唐文粋』では「二水」に作る。『宋本』『繆本』『劉本』『王本』には「一作二(水)」とある。旧来の多くの注釈書でも「二水」とし、長江の支流である秦淮河を指すとするが、近年の研究によると、正しくは「一水」で長江を指すと考証されている。詳しくは松浦友久「一水中分白鷺洲――詩材としての風土」(『詩語の諸相――唐詩ノート〈増訂版〉』研文出版、1995年)参照。
  • 中分 … 二つに分かれている。二つにさかれている。
  • 白鷺洲 … 秦淮河口の長江中にあった中洲。現在は消滅している。『太平寰宇記』江南東道、昇州、江寧県の条に「白鷺洲は大江の中に在り。多く白鷺をあつむ、因って之を名づく」(白鷺洲在大江中。多聚白鷺、因名之)とある。大江は、長江のこと。ウィキソース「太平寰宇記 (四庫全書本)/卷090」参照。
總爲浮雲能蔽日
すべうんおおうがため
  • 総為 … 『宋本』『繆本』『王本』には「一作盡道」とある。『文苑英華』には「集作盡道」とある。
  • 総 … 結局は。結局のところ。つまるところは。『宋本』『繆本』『蕭本』『許本』『劉本』『唐詩品彙』『唐文粋』では「揔」に作る。同義。『郭本』『王本』では「緫」に作る。異体字。
  • 浮雲能蔽日 … 浮き雲が太陽の光を遮っている。前漢の陸賈『新語』慎微篇に「邪臣の賢を蔽うは、猶お浮雲の日月をさえぎるがごときなり」(邪臣之蔽賢、猶浮雲之鄣日月也)とある。ウィキソース「新語 (四部叢刊本)/卷上」参照。また「古詩十九首 其の一」(『文選』巻二十九、『玉台新詠』巻一)に「浮雲白日を蔽い、遊子はんせず」(浮雲蔽白日、遊子不顧反)とある。ウィキソース「行行重行行」参照。
長安不見使人愁
ちょうあんえず ひとをしてうれえしむ
  • 長安不見 … 長安を見ることができず。『晋書』明帝紀に「目を挙ぐれば則ち日を見るも、長安を見ず」(舉目則見日、不見長安)とある。ウィキソース「晉書/卷006」「世說新語/夙惠」参照。
  • 使人愁 … 私の心を悲しくさせる。私の心を愁いに沈ませる。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻五(『漢文大系 第二巻』冨山房、1910年)
  • 『唐詩三百首注疏』巻五(廣文書局、1980年)
  • 『全唐詩』巻一百八十(揚州詩局本縮印、上海古籍出版社、1985年)
  • 『李太白文集』巻十九(静嘉堂文庫蔵宋刊本影印、平岡武夫編『李白の作品』所収、略称:宋本)
  • 『李太白文集』巻十九(ぼくえつ重刊、雙泉草堂本、略称:繆本)
  • 『分類補註李太白詩』巻二十一(しょういん補注、内閣文庫蔵、略称:蕭本)
  • 『分類補註李太白詩』巻二十一(蕭士贇補注、郭雲鵬校刻、『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:郭本)
  • 『分類補註李太白詩』巻二十一(蕭士贇補注、許自昌校刻、『和刻本漢詩集成 唐詩2』所収、略称:許本)
  • 『李翰林集』巻十六(景宋咸淳本、劉世珩刊、江蘇広陵古籍刻印社、略称:劉本)
  • 『李太白全集』巻二十一(王琦編注、『四部備要 集部』所収、略称:王本)
  • 『瀛奎律髄刊誤』巻一(紀昀批点、掃葉山房、1922年)
  • 『文苑英華』巻三百十三(影印本、中華書局、1966年)
  • 『唐詩品彙』巻八十三(汪宗尼本影印、上海古籍出版社、1981年)
  • 『唐詩別裁集』巻十三(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 『古今詩刪』巻十六(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、33頁)
  • 『唐詩解』巻四十(清順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐宋詩醇』巻七(乾隆二十五年重刊、紫陽書院、内閣文庫蔵)
  • 『唐文粋』巻十六上(姚鉉撰、明嘉靖刊本影印、『四部叢刊 初篇集部』所収)
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