秋思(李白)
秋思
秋思
秋思
- 五言律詩。臺・來・囘・摧(平声灰韻)。
- ウィキソース「秋思 (燕支黃葉落)」参照。
- 詩題 … 『楽府詩集』では「秋思二首 其二」に作る。『唐詩別裁集』では「秋思二首 其一」に作る。
- 秋思 … 楽府題の一つ。秋の物思い。秋の物寂しい気持ち。『楚辞』の「九弁」に「悲しいかな、秋の気たるや」(悲哉、秋之為氣也)とある。ウィキソース「九辯」参照。『楽府詩集』巻五十九・琴曲歌辞に属する。
- この詩は、辺境へ出征した夫を思う妻の嘆きを詠んだもの。安旗主編『新版 李白全集編年注釋』(巴蜀書社、2000年)によると、天宝二年(743)、四十三歳の作。
- 李白 … 701~762。盛唐の詩人。字は太白。蜀の隆昌県青蓮郷(四川省江油市青蓮鎮)の人。青蓮居士と号した。科挙を受験せず、各地を遊歴。天宝元年(742)、玄宗に召されて翰林供奉(天子側近の文学侍従)となった。しかし、玄宗の側近で宦官の高力士らに憎まれて都を追われ、再び放浪の生活を送った。杜甫と並び称される大詩人で「詩仙」と仰がれた。『李太白集』がある。ウィキペディア【李白】参照。
燕支黃葉落
燕支 黄葉落つらん
- 燕支 … 今の甘粛省張掖市山丹県の東南にある山。焉支山・胭脂山・刪丹山とも書く。燕支は、臙脂(べに)に通じ、その草をこの山が多く産したという。漢代、祁連山とともに匈奴の地であったが、前漢の武帝の時、霍去病に破られて、二つの山を失ったため、匈奴の人々は深く悲しんだという。『括地志』甘州、刪丹県の条に「焉支山は一に刪丹山と名づく、甘州刪丹県の東南五十里に在り。西河故事に云く、匈奴、祁連・焉支の二山を失う。乃ち歌って曰く、我が六畜をして蕃息せざらしむ。我が焉支山を失い、我が婦女をして顔色無からしむ。其の慜惜すること乃ち此の如し」(焉支山一名刪丹山、在甘州刪丹縣東南五十里。西河故事云、匈奴失祁連、焉支二山。乃歌曰、亡我祁連山、使我六畜不蕃息。失我焉支山、使我婦女無顏色。其慜惜乃如此)とある。慜惜は、憐れみ惜しむこと。憫惜に同じ。ウィキソース「括地志輯校/004」参照。ウィキペディア【焉支山】(中文)参照。『全唐詩』には「一作閼氏」とある。『宋本』『繆本』『劉本』『楽府詩集』では「閼氏」に作る。『王本』には「繆本作閼氏」とある。閼氏は、単于の后の称号。『史記』匈奴列伝に「単于に太子有り、名は冒頓。後、愛する所の閼氏有りて、少子を生む」(單于有太子、名冒頓。後有所愛閼氏、生少子)とある。ウィキソース「史記/卷110」参照。
- 黄葉落 … 黄ばんだ木の葉も落ちた頃であろう。
妾望白登臺
妾は望む 白登台
- 妾 … 女性の一人称代名詞。わたし。わらわ。
- 望 … 辺境の地を眺めようとして。
- 白登台 … 山西省大同市の東北、白登山(今の馬鋪山)の上にあった高台。白登山は、漢の高祖が匈奴の冒頓単于と戦い、包囲された古戦場。『史記』匈奴列伝に「冒頓、精兵四十万騎を縦ち、高帝を白登に囲む。七日、漢の兵、中外相救餉するを得ず」(冒頓縱精兵四十萬騎、圍高帝於白登。七日、漢兵中外不得相救餉)とある。救餉は、食糧を送って助けること。ウィキソース「史記/卷110」参照。ウィキペディア【白登山】(中文)、【白登山の戦い】参照。
- 白 … 『全唐詩』では「自」に作り、「一作白」とある。『劉本』には「一作自」とある。『王本』には「蕭本作自」とある。『唐詩選』『蕭本』『郭本』『許本』『唐詩品彙』『唐詩別裁集』『古今詩刪』『唐詩解』では「自」に作る。
海上碧雲斷
海上 碧雲断ち
- 海上 … 青海(ココノール湖)のほとり。『全唐詩』『宋本』『繆本』『王本』には「一作月出」とある。『楽府詩集』では「月出」に作り、「一作海上」とある。
- 碧雲 … 青く澄んだ雲。
- 断 … 海上との間を遮る。ここでは従来の解釈(雲が絶え絶えとなる)ではなく、中島敏夫氏の解釈に従った。『中国の古典28 唐詩選 中』(学習研究社、1984年)参照。
單于秋色來
単于 秋色来る
- 単于 … 通常は匈奴の王の称号であるが、ここでは単于都護府または単于の住む西域の地一帯を指す。顧炎武『日知録』巻二十七、李太白詩注に「海上碧雲断ち、単于秋色来る。単于は是れ地名なり」(海上碧雲斷、單于秋色來。單于是地名)とある。ウィキソース「日知錄/卷27」参照。また『旧唐書』地理志に「単于都護府は、秦漢の時、雲中の郡城なり。唐の龍朔三年(663)、雲中都護府を置く。麟徳元年(664)、改めて単于大都護府と為す」(單于都護府、秦漢時雲中郡城也。唐龍朔三年、置雲中都護府。麟德元年、改爲單于大都護府)とある。ウィキソース「舊唐書/卷39」参照。『全唐詩』『宋本』『繆本』『王本』には「一作蟬聲」とある。『楽府詩集』では「蟬聲」に作り、「一作單于」とある。
- 秋色来 … 秋の気配が押し寄せて来る。秋色は、秋の気配。
胡兵沙塞合
胡兵 沙塞に合し
- 胡兵 … 胡の兵士。
- 沙塞 … 西北の砂漠の中にある塞。
- 合 … 集結する。
漢使玉關回
漢使 玉関より回る
- 漢使 … 漢の朝廷の使者。
- 玉関 … 玉門関。漢代に建立された故関(古い関所)は甘粛省敦煌の西にあった。六朝期に200キロ東に移され、今の甘粛省瓜州県の東に置かれた。『元和郡県図志』隴右道下、沙州の条に「玉門の故関は、県の西北一百一十七里に在り」(玉門故關、在縣西北一百一十七里)とある。また瓜州の条に「玉門関は、県の東二十歩に在り」(玉門關、在縣東二十步)とある。ウィキソース「元和郡縣圖志/卷40」参照。ウィキペディア【玉門関】参照。『中国歴史地図集 第五冊』(地図出版社、1982年、国学导航「隴右道東部」59~60頁、玉門故関④3・玉門関④6)参照。
- 回 … 馳せ回る。帰って来る。『唐詩選』『全唐詩』『許本』『唐詩別裁集』『唐詩解』では「囘」に作る。『劉本』では「」に作る。いずれも異体字。
征客無歸日
征客 帰る日無し
- 征客 … 戦争に兵士として行っている人。出征兵士。ここでは出征した夫を指す。
- 無帰日 … 帰れる日など当分定まらない。
空悲蕙草摧
空しく悲しむ 蕙草の摧くるを
テキスト
- 『箋註唐詩選』巻三(『漢文大系 第二巻』冨山房、1910年)
- 『全唐詩』巻一百六十五(揚州詩局本縮印、上海古籍出版社、1985年)
- 『李太白文集』巻六(静嘉堂文庫蔵宋刊本影印、平岡武夫編『李白の作品』所収、略称:宋本)
- 『李太白文集』巻六(繆曰芑重刊、雙泉草堂本、略称:繆本)
- 『分類補註李太白詩』巻六(蕭士贇補注、内閣文庫蔵、略称:蕭本)
- 『分類補註李太白詩』巻六(蕭士贇補注、郭雲鵬校刻、『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:郭本)
- 『分類補註李太白詩』巻六(蕭士贇補注、許自昌校刻、『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、略称:許本)
- 『李翰林集』巻五(景宋咸淳本、劉世珩刊、江蘇広陵古籍刻印社、略称:劉本)
- 『李太白全集』巻六(王琦編注、『四部備要 集部』所収、略称:王本)
- 『楽府詩集』巻五十九・琴曲歌辞(北京図書館蔵宋刊本影印、中津濱渉『樂府詩集の研究』所収)
- 『唐詩品彙』巻六十(汪宗尼本影印、上海古籍出版社、1981年)
- 『唐詩別裁集』巻十(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
- 『古今詩刪』巻十四(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、23頁)
- 『唐詩解』巻三十三(清順治十六年刊、内閣文庫蔵)
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