秋登宣城謝朓北楼(李白)
秋登宣城謝朓北樓
秋に宣城の謝朓の北楼に登る
秋に宣城の謝朓の北楼に登る
- 五言律詩。空・虹・桐・公(平声東韻)。
- ウィキソース「秋登宣城謝朓北樓」参照。
- 詩題 … 『宋本』『繆本』には、題下に「宣城」との注がある。
- 宣城 … 現在の安徽省宣城市宣州区。隋の煬帝の大業三年(607)、宣州を改め宣城郡とした。唐の高祖の武徳三年(620)、宣城郡を改め宣州とした。玄宗の天宝元年(742)、また改め宣城郡とした。粛宗の乾元元年(758)、また宣州に戻した。南宋の乾道二年(1166)、寧国府と称した。ウィキペディア【宣城市】、【宣州 (隋朝)】(中文)参照。
- 謝朓 … 464~499。南北朝時代、斉の詩人。陳郡陽夏(河南省太康付近)の人。字は玄暉。宣城(安徽省)の太守となったため、謝宣城という。一族の謝霊運・謝恵連とともに「三謝」と呼ばれる。『謝宣城集』五巻がある。ウィキペディア【謝朓】参照。
- 北楼 … 謝朓が宣城郡の太守だったとき、役所の北に建てた楼。謝公楼ともいう。『大明一統志』寧国府の条に「北楼は、府治の北に在り。南斉の守謝眺建つ。……咸通中、刺史の独孤霖、名を畳嶂楼に改む」(北樓、在府治北。南齊守謝眺建。……咸通中、刺史獨孤霖改名疊嶂樓)とある。ウィキソース「明一統志 (四庫全書本)/卷15」参照。また「宣州の謝朓楼にて校書叔雲を餞別す」の王琦の注に引く『江南通志』に「畳嶂楼は、寧国府の郡治の後に在り、即ち謝朓宣城太守たりし時の高斎の地なり。一名北楼、亦た謝公楼と称す。唐の咸通の間、刺史の独孤霖改建し、今の名に易う」(疊嶂樓、在寧國府郡治後、卽謝朓為宣城太守時之高齋地。一名北樓、亦稱謝公樓。唐咸通間、刺史獨孤霖改建、易今名)とある。高斎は、高殿にある書斎の意で、ここでは郡太守である謝朓の邸宅。ウィキソース「李太白集注 (四庫全書本)/卷18」参照。
- この詩は、かねてから敬愛していた南朝斉の詩人、謝朓が宣城郡の太守だったときに建てた高楼に登り、彼を偲んで詠んだもの。安旗主編『新版 李白全集編年注釋』(巴蜀書社、2000年)によると、天宝十二載(753)、五十三歳の作。
- 李白 … 701~762。盛唐の詩人。字は太白。蜀の隆昌県青蓮郷(四川省江油市青蓮鎮)の人。青蓮居士と号した。科挙を受験せず、各地を遊歴。天宝元年(742)、玄宗に召されて翰林供奉(天子側近の文学侍従)となった。しかし、玄宗の側近で宦官の高力士らに憎まれて都を追われ、再び放浪の生活を送った。杜甫と並び称される大詩人で「詩仙」と仰がれた。『李太白集』がある。ウィキペディア【李白】参照。
江城如畫裏
江城 画裏の如く
- 江城 … 川のほとりにある町。川沿いの町。城は、城壁で囲まれた町全体の意。ここでは宣城を指す。
- 如画裏 … 絵の中に描かれた景色のようである。
- 画裏 … 絵の中。画中に同じ。
山晚望晴空
山晩れて晴空を望む
- 山 … 宣城にある陵陽山を指す。『方輿勝覧』寧国府の条に「陵陽山は、宣城に在り。一峰を畳嶂楼と為し、一峰を譙楼と為し、一峰を景徳寺と為す」(陵陽山、在宣城。一峯爲疉嶂樓、一峯爲譙樓、一峯爲景德寺)とある。ウィキソース「方輿勝覽 (四庫全書本)/卷15」参照。
- 晩 … 暮れかかって。暮れる頃。『瀛奎律髄』では「色」に作り、「曉」との傍注がある。『唐詩選』『全唐詩』『唐詩品彙』『唐詩別裁集』『古今詩刪』『唐詩解』『唐宋詩醇』では「曉」に作る。こちらは「暁けて」と読む。
- 晴空 … よく晴れた空。
- 望 … 見渡す。眺め渡す。
兩水夾明鏡
両水 明鏡夾み
- 両水 … 宣城の町の東側を流れる宛渓と句渓の二水。『方輿勝覧』寧国府の条に「宛渓は、宣城の東に在り。……句渓は、宣城の東五里に在り」(宛溪、在宣城東。……句溪、在宣城東五里)とある。ウィキソース「方輿勝覽 (四庫全書本)/卷15」参照。
- 明鏡 … 明るく澄んだ鏡のように輝いている二つの川。
- 夾 … 二つの川が宣城の町をはさんで流れている。
雙橋落彩虹
双橋 彩虹落つ
- 双橋 … 宛渓に架かる二つの橋。上の橋を鳳凰橋、下の橋を済川橋という。王琦の注に引く『江南通志』に「宛渓は寧国府城の東に在り、渓を跨いで上下に両橋有り、上橋を鳳凰と曰い、城の東南の泰和門外に直る。下橋を済川と曰い、城の東の陽徳門外に直る。並びに隋の開皇中に建つ」(宛溪在寧國府城東、跨溪上下有兩橋、上橋曰鳳凰、直城東南泰和門外。下橋曰濟川、直城東陽德門外。並隋開皇中建)とある。ウィキソース「李太白集注 (四庫全書本)/卷21」参照。また『大明一統志』寧国府の条に「鳳凰橋は、府城の東南の泰和門外に在り。隋の開皇中に建つ。……済川橋は、府城の東の陽徳門外に在り。隋の開皇中に建つ」(鳳凰橋、在府城東南泰和門外。隋開皇中建。……濟川橋、在府城東陽德門外。隋開皇中建)とある。ウィキソース「明一統志 (四庫全書本)/卷15」参照。
- 彩虹 … 美しい彩りの虹。ここでは水面に映った二つの橋の影が、夕日に照らされて彩り鮮やかにきらめいている様子を虹に喩えたもの。
- 彩 … 『宋本』『繆本』では「采」に作る。同義。
- 落 … 水面に橋の影を落としている。
人煙寒橘柚
人煙 橘柚寒く
- 人煙 … 人家から立ちのぼる炊事の煙。
- 煙 … 『唐詩選』『王本』『瀛奎律髄』『唐詩品彙』『唐詩別裁集』『古今詩刪』『唐詩解』では「烟」に作る。異体字。
- 橘柚 … タチバナとユズ。ここではミカン類の総称。江南の特産。『書経』禹貢篇に「厥の包は橘・柚なり」(厥包橘柚)とあり、伝に「小を橘と曰い、大を柚と曰う」(小曰橘、大曰柚)とある。ウィキソース「尚書注疏 (四庫全書本)/卷05」参照。
- 寒 … ミカンの実が寒々しく色づいている。『宋本』『繆本』『王本』には「一作空」とある。
秋色老梧桐
秋色 梧桐老ゆ
- 秋色 … 秋の気配の中。
- 梧桐 … 梧桐。あおぎり科の落葉高木。樹皮は緑色、葉は手のひら形で大きく、豆に似た実がなる。街路樹として植えられる。碧梧。ウィキペディア【アオギリ】参照。
- 老 … しだいに枯れ落ちてゆく。
誰念北樓上
誰か念わん 北楼の上
- 誰念 … 誰が思ってくれようか、いや誰も思わない。反語。
- 北楼上 … この北楼の上に立って。
臨風懷謝公
風に臨んで謝公を懐わんとは
テキスト
- 『箋註唐詩選』巻三(『漢文大系 第二巻』冨山房、1910年)
- 『全唐詩』巻一百八十(揚州詩局本縮印、上海古籍出版社、1985年)
- 『李太白文集』巻十九(静嘉堂文庫蔵宋刊本影印、平岡武夫編『李白の作品』所収、略称:宋本)
- 『李太白文集』巻十九(繆曰芑重刊、雙泉草堂本、略称:繆本)
- 『分類補註李太白詩』巻二十一(蕭士贇補注、内閣文庫蔵、略称:蕭本)
- 『分類補註李太白詩』巻二十一(蕭士贇補注、郭雲鵬校刻、『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:郭本)
- 『分類補註李太白詩』巻二十一(蕭士贇補注、許自昌校刻、『和刻本漢詩集成 唐詩2』所収、略称:許本)
- 『李翰林集』巻十六(景宋咸淳本、劉世珩刊、江蘇広陵古籍刻印社、略称:劉本)
- 『李太白全集』巻二十一(王琦編注、『四部備要 集部』所収、略称:王本)
- 『瀛奎律髄刊誤』巻一(紀昀批点、掃葉山房、1922年)
- 『唐詩品彙』巻六十(汪宗尼本影印、上海古籍出版社、1981年)
- 『唐詩別裁集』巻十(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
- 『古今詩刪』巻十四(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、24頁)
- 『唐詩解』巻三十三(清順治十六年刊、内閣文庫蔵)
- 『唐宋詩醇』巻七(乾隆二十五年重刊、紫陽書院、内閣文庫蔵)
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