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送友人入蜀(李白)

送友人入蜀
友人ゆうじんしょくるをおく
はく
  • 五言律詩。行・生・城・平(平声庚韻)。
  • ウィキソース「送友人入蜀」参照。
  • 入蜀 … 都長安から蜀へ入る。蜀は、今の四川省。ウィキペディア【四川省】参照。蜀への道は険しく、桟道を通って行かなければならない。李白の「蜀道難」に「噫吁嚱ああ、危ういかな高いかな、蜀道の難きは、青天に上るよりも難し」(噫吁嚱、危乎高哉、蜀道之難、難於上靑天)とある。ウィキソース「蜀道難 (李白)」参照。
  • 送 … 見送る。
  • この詩は、都長安から蜀へ旅立つ友人を見送って詠んだもの。友人が誰であるのかは不明。安旗主編『新版 李白全集編年注釋』(巴蜀書社、2000年)によると、開元十九年(731)、三十一歳の作。
  • 李白 … 701~762。盛唐の詩人。あざなは太白。蜀の隆昌県青蓮郷(四川省江油市青蓮鎮)の人。青蓮居士と号した。科挙を受験せず、各地を遊歴。天宝元年(742)、玄宗に召されて翰林かんりん供奉ぐぶ(天子側近の文学侍従)となった。しかし、玄宗の側近で宦官の高力士らに憎まれて都を追われ、再び放浪の生活を送った。杜甫と並び称される大詩人で「詩仙」と仰がれた。『李太白集』がある。ウィキペディア【李白】参照。
見說蠶叢路
うならく 蚕叢さんそうみち
  • 見説 … 「いうならく」「きくならく」「みるならく」等と読み、「~と言われている」「聞くところでは~」「世間でいうところによれば~」等と訳す。「聞説」「聞道」に同じ。
  • 蚕叢 … 伝説上の蜀王の名。蜀の国の開祖。民に養蚕を教えたという。転じて蜀の地の別名。前漢の揚雄『蜀王本紀』に「蜀のさきに王を称する者は、蚕叢・柏濩はくかくぎょ・開明有り。……開明従り已上蚕叢に至るまで、積むこと三万四千歳なり。……蜀王のせんは蚕叢と名づく」(蜀之先稱王者、有蠶叢、柏濩、魚鳧、開明。……從開明已上至蠶叢、積三萬四千歲。……蜀王之先名蠶叢)とある。ウィキソース「蜀王本纪」参照。また李白の「蜀道難」に「蚕叢と魚鳧と、国を開くこと何ぞ茫然たる」(蠶叢及魚鳧、開國何茫然)とある。ウィキソース「蜀道難 (李白)」参照。
崎嶇不易行
崎嶇きくとしてやすからずと
  • 崎嶇 … 山道の険しいさま。双声(二字の語頭子音が同じ)語。陶潜の「帰去来の辞」に「すでようちょうとしてもったにたずね、崎嶇きくとしておか」(既窈窕以尋壑、亦崎嶇而經丘)とある。ウィキソース「歸去來辭並序」参照。
  • 不易行 … 行くのが容易じゃない。
山從人面起
やま人面じんめんよりおこ
  • 人面 … 顔の鼻先。目の前。
  • 面 … 『許本』『劉本』『唐詩品彙』『唐宋詩醇』では「靣」に作る。『唐詩別裁集』では「」に作る。いずれも異体字。
  • 起 … そそり立つ。
雲傍馬頭生
くもとううてしょう
  • 馬頭 … 乗っている馬の頭。
  • 傍 … 沿って。わき。すぐそば。『全唐詩』『蕭本』『許本』『唐詩品彙』『唐詩別裁集』『古今詩刪』では「」に作る。異体字。
  • 生 … 湧き起こる。
芳樹籠秦棧
芳樹ほうじゅ 秦桟しんさん
  • 芳樹 … 芳しい花の咲いている春の木々。阮籍「詠懐詩十七首 其の十三」(『文選』巻二十三)に「芳樹ほうじゅりょくようれ、清雲せいうんおのずから逶迤いいたり」(芳樹垂綠葉、清雲自逶迤)とある。ウィキソース「詠懷詩十七首」参照。
  • 秦桟 … 桟は、桟道(崖のように切り立った所に棚のように小さい板をつないで掛け渡して作った道)のこと。秦は、秦のときに築いたため、また秦から蜀へ通ずる桟道の意であるともいわれる。王琦の注に「其の秦より蜀に入るの道を以てす。故に秦桟と曰う」(以其自秦入蜀之道。故曰秦棧)とある。ウィキソース「李太白集注 (四庫全書本)/卷18」参照。
  • 籠 … 包み込むように茂っている。
春流遶蜀城
春流しゅんりゅう 蜀城しょくじょうめぐ
  • 春流 … 春の清流。四川省成都市の中心部を流れる錦江を指す。岷江の支流。ウィキペディア【錦江 (四川省)】参照。
  • 蜀城 … 成都の町を指す。城は、町を囲む城郭。
  • 遶 … めぐって流れる。
升沈應已定
しょうちん まさすでさだまるべし
  • 升沈 … のぼることと沈むこと。栄えることと落ちぶれること。人の世の浮き沈み。「浮沈」「窮達」に同じ。魏の李康(あざなは蕭遠)の「運命論」(『文選』巻五十三)に「之を雲にのぼせば則ち雨ほどこし、之を地に沈むれば則ち土うるおう」(升之於雲則雨施、沈之於地則土潤)とある。ウィキソース「運命論」参照。
  • 沈 … 『宋本』『繆本』『蕭本』『郭本』『許本』『劉本』『唐詩品彙』『唐詩別裁集』『唐宋詩醇』では「沉」に作る。異体字。
  • 応已定 … きっと前もって決まっていることだろう。
  • 応 … 「まさに~すべし」と読み、「きっと~であろう」と訳す。再読文字。強い推量の意を示す。
不必問君平
かならずしも君平くんぺいわず
  • 不必 … 「かならずしも~ず」と読み、「必ず~であるとは限らない」と訳す。部分否定。
  • 君平 … 前漢の道家の学者・思想家、厳遵。君平はあざな。蜀の人。仕官せず、成都の町で卜筮ぼくぜいして生計を立て、一日に百銭を稼ぐと店を閉め、すだれを下して『老子』を講じたという。『漢書』王貢両龔鮑伝に「蜀に厳君平有り。……君平、成都の市に卜筮す、以為おもえらく卜筮ぼくぜいは賎業なり、而も以て衆人をけいす可し。……各〻おのおの勢いに因って之を導くに善を以てし、吾が言に従う者、已に過半なり。わずかに日に数人をけみするに、百銭を得て自ら養うに足らば、則ちみせを閉じすだれを下して老子を授く」(蜀有嚴君平。……君平卜筮於成都市、以爲卜筮者賤業、而可以惠衆人。……各因勢導之以善、從吾言者、已過半矣。裁日閱數人、得百錢足自養、則閉肆下簾而授老子)とある。ウィキソース「漢書/卷072」参照。ウィキペディア【莊遵】(中文)参照。
  • 問 … 尋ねる。ここでは占ってもらう。『王本』には「繆本作訪」とある。『宋本』『繆本』では「訪」に作る。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻三(『漢文大系 第二巻』冨山房、1910年)
  • 『全唐詩』巻一百七十七(揚州詩局本縮印、上海古籍出版社、1985年)
  • 『李太白文集』巻十五(静嘉堂文庫蔵宋刊本影印、平岡武夫編『李白の作品』所収、略称:宋本)
  • 『李太白文集』巻十五(ぼくえつ重刊、雙泉草堂本、略称:繆本)
  • 『分類補註李太白詩』巻十八(しょういん補注、内閣文庫蔵、略称:蕭本)
  • 『分類補註李太白詩』巻十八(蕭士贇補注、郭雲鵬校刻、『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:郭本)
  • 『分類補註李太白詩』巻十八(蕭士贇補注、許自昌校刻、『和刻本漢詩集成 唐詩2』所収、略称:許本)
  • 『李翰林集』巻十(景宋咸淳本、劉世珩刊、江蘇広陵古籍刻印社、略称:劉本)
  • 『李太白全集』巻十八(王琦編注、『四部備要 集部』所収、略称:王本)
  • 『唐詩品彙』巻六十(汪宗尼本影印、上海古籍出版社、1981年)
  • 『唐詩別裁集』巻十(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 『古今詩刪』巻十四(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、24頁)
  • 『唐詩解』巻三十三(清順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐宋詩醇』巻七(乾隆二十五年重刊、紫陽書院、内閣文庫蔵)
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