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送友人(李白)

送友人
友人ゆうじんおく
はく
  • 五言律詩。城・征・情・鳴(平声庚韻)。
  • ウィキソース「送友人 (李白)」参照。
  • 送 … 見送る。
  • この詩は、旅立つ友人を見送って詠んだもの。友人が誰であるのか、また見送った場所がどこかも全く不明。安旗主編『新版 李白全集編年注釋』(巴蜀書社、2000年)によると、開元二十六年(738)、三十八歳の作。
  • 李白 … 701~762。盛唐の詩人。あざなは太白。蜀の隆昌県青蓮郷(四川省江油市青蓮鎮)の人。青蓮居士と号した。科挙を受験せず、各地を遊歴。天宝元年(742)、玄宗に召されて翰林かんりん供奉ぐぶ(天子側近の文学侍従)となった。しかし、玄宗の側近で宦官の高力士らに憎まれて都を追われ、再び放浪の生活を送った。杜甫と並び称される大詩人で「詩仙」と仰がれた。『李太白集』がある。ウィキペディア【李白】参照。
靑山橫北郭
青山せいざん 北郭ほっかくよこたわり
  • 青山 … 青々とした山。
  • 北郭 … 町の北側。町の城壁の北側。中国では、町全体を城壁(=城)でとりまき、城門の外側に発達した町を、さらに城壁(=郭)でとり囲む。北郭は、北の城門の外側にできた町の部分を指す。謝朓の「東田とうでんに遊ぶ」(『文選』巻二十二)に「芳春の酒に対せずして、青山の郭を還り望む」(不對芳春酒、還望青山郭)とある。ウィキソース「遊東田」参照。また呉均の「使いをりょうに奉ず」(『文苑英華』巻二百九十六)に「車を駆りて北郭に還る」(驅車還北郭)とある。ウィキソース「文苑英華 (四庫全書本)/卷0296」参照。
白水遶東城
白水はくすい とうじょうめぐ
  • 白水 … 澄んだ清らかな川の流れ。西晋の閭丘沖の「三月三日応詔詩二首 其二」(『古詩紀』巻四十)に「浩浩たる白水、汎汎たる竜舟」(浩浩白水、汎汎龍舟)とある。浩浩は、水が一面にみなぎっている様子。汎汎は、速やかに流れて滞らないさま。竜舟は、へさきに竜の首の彫刻を飾った天子の乗る舟。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷040」参照。
  • 東城 … 町の東側。城東。
  • 遶 … めぐって流れる。ここでは川が城壁に沿って流れている様子。
此地一爲別
 ひとたびわかれを
  • 此地 … 今この土地で。友人と別れの場所を指す。
  • 一為別 … いったん別れてしまえば。
孤蓬萬里征
ほう ばん
  • 孤蓬 … 風に吹かれて飛んでいく蓬草ほうそうのような一人ぼっちの君。あてもない遠い旅に出る人の喩え。蓬は、一般的によもぎと訳すが、日本でいうよもぎとは異なる。秋に枯れると根元からちぎれ、丸くなって風の吹くままに転がってゆく。転蓬・飛蓬ともいう。曹植の「雑詩六首 其の二」(『文選』巻二十九)に「転蓬てんぽう本根ほんこんよりはなれ、ひょうようとしてちょうふうしたがう」(轉蓬離本根、飄颻隨長風)とある。本根は、もとの根。飄颻は、風に翻るさま。長風は、遠くから吹いてくる風。ウィキソース「昭明文選/卷29」参照。また南朝宋の鮑照「蕪城の賦」(『文選』巻十一)に「孤蓬自ずから振るい、けいながら飛ぶ」(孤蓬自振、驚砂坐飛)とある。驚砂は、風に吹かれてさっと舞い立つ砂。ウィキソース「蕪城賦」参照。
  • 万里征 … 万里の彼方へと旅立って行く。劉刪の「宮亭湖にうかぶ」(『古詩紀』巻一百十六)に「寄謝す千金の子、いずくにか知る万里の蓬」(寄謝千金子、安知萬里蓬)とある。寄謝は、ことづてすること。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷116」参照。
  • 征 … 「行」にほぼ同じ。
浮雲遊子意
うん ゆう
  • 浮雲遊子意 … 流れる浮き雲は、旅行く君の心。「古詩十九首 其の一」(『文選』巻二十九、『玉台新詠』巻一)に「うん白日はくじつおおい、ゆうへんせず」(浮雲蔽白日、遊子不顧返)とあるのに基づく。ウィキソース「行行重行行」参照。
  • 浮雲 … 浮き雲。友人の心を指す。
  • 遊子意 … 旅人の心。
  • 遊 … 『唐詩選』では「游」に作る。同義。
落日故人情
落日らくじつ じんじょう
  • 落日 … 沈みゆく夕日。梁の簡文帝「棗下何纂纂」(『楽府詩集』巻七十四・雑曲歌辞)に「落日芳春の暮、遊人すいの晩」(落日芳春暮、遊人歌吹晚)とある。歌吹は、歌をうたい、笛を吹くこと。ウィキソース「樂府詩集/074卷」参照。
  • 故人情 … 古くからの友人の気持ち。故人は、李白自身を指す。任昉の「郡に出でて伝舎にて范僕射を哭す」(『文選』巻二十三)に「一朝にして万化尽くるも、猶お我故人の情あり」(一朝萬化盡、猶我故人情)とある。ウィキソース「出郡傳舍哭范僕射」参照。
揮手自茲去
ふるって ここよりれば
  • 揮手 … 手を振って別れを惜しむこと。晋の劉琨の「扶風歌」(『文選』巻二十八)に「手を揮って長く相謝するに、哽咽こうえつとして言うこと能わず」(揮手長相謝、哽咽不能言)とある。哽咽は、のどを詰まらせてむせび泣くこと。ウィキソース「扶風歌」参照。
  • 茲 … ここ。「此」の類義語。
蕭蕭班馬鳴
蕭蕭しょうしょうとして はん
  • 蕭蕭 … 馬がいななく声の形容。『詩経』小雅・車攻の詩に「蕭蕭しょうしょうとしてうまいななき、悠悠ゆうゆうたる旆旌はいせい」(蕭蕭馬鳴、悠悠旆旌)とある。旆旌は、旗。旆は、端が二つに分かれた旗。旌は、鳥の羽を竿の先につけた旗。ウィキソース「詩經/車攻」参照。
  • 班馬 … 別れゆく馬。群れから離れた馬。『春秋左氏伝』襄公十八年に「班馬の声有り、斉の師其れのがれん」(有班馬之聲、齊師其遁)とあり、杜預の注に「夜のがるるに馬相見ず、故に鳴く。班は別れるなり」(夜遁馬不相見、故鳴。班別也)とある。『春秋左傳集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)、ウィキソース「春秋左氏傳/襄公」参照。また王琦の注に「主客の馬将に道を分たんとして蕭蕭として長鳴し、亦た離群の感有るが若し。畜すら猶お此くの如し、人何ぞ以て堪えんや」(主客之馬將分道而蕭蕭長鳴、亦若有離羣之感。畜猶如此、人何以堪)とある。ウィキソース「李太白集注 (四庫全書本)/卷18」参照。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻三(『漢文大系 第二巻』冨山房、1910年)
  • 『唐詩三百首注疏』巻四(廣文書局、1980年)
  • 『全唐詩』巻一百七十七(揚州詩局本縮印、上海古籍出版社、1985年)
  • 『李太白文集』巻十五(静嘉堂文庫蔵宋刊本影印、平岡武夫編『李白の作品』所収、略称:宋本)
  • 『李太白文集』巻十五(ぼくえつ重刊、雙泉草堂本、略称:繆本)
  • 『分類補註李太白詩』巻十八(しょういん補注、内閣文庫蔵、略称:蕭本)
  • 『分類補註李太白詩』巻十八(蕭士贇補注、郭雲鵬校刻、『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:郭本)
  • 『分類補註李太白詩』巻十八(蕭士贇補注、許自昌校刻、『和刻本漢詩集成 唐詩2』所収、略称:許本)
  • 『李翰林集』巻十一(景宋咸淳本、劉世珩刊、江蘇広陵古籍刻印社、略称:劉本)
  • 『李太白全集』巻十八(王琦編注、『四部備要 集部』所収、略称:王本)
  • 『唐詩品彙』巻六十(汪宗尼本影印、上海古籍出版社、1981年)
  • 『唐詩別裁集』巻十(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 『古今詩刪』巻十四(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、24頁)
  • 『唐詩解』巻三十三(清順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐宋詩醇』巻七(乾隆二十五年重刊、紫陽書院、内閣文庫蔵)
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