子夜呉歌(李白)
子夜吳歌
子夜呉歌
子夜呉歌
- 五言古詩。聲・情・征(平声庚韻)。
- ウィキソース「子夜呉歌/秋歌」参照。
- 詩題 … もとは四首連作の第三首、秋歌。『全唐詩』では、題下に「一作子夜四時歌」とある。『楽府詩集』『劉本』では「子夜四時歌」に作る。『唐詩三百首』では「子夜歌」に作る。『宋本』『繆本』では、題下に「春夏秋冬」とある。『唐宋詩醇』では三首収録し、「夏歌」を不収録。
- 子夜呉歌 … 楽府題の一つ。『楽府詩集』巻四十五・清商曲辞・呉声歌曲に属する。ウィキソース「樂府詩集/045卷」参照。東晋の時代、子夜という名の娘が歌を作って歌っていた。その曲調は哀調を帯びたもので呉の地に流行した。のちに後人によっていくつも替え歌が作られた。李白の時代には「子夜呉歌」の旋律が残っていなかったので、この詩は替え歌ではなく、「子夜呉歌」の情緒に基づいて作られたもの。『楽府古題要解』巻上に「晋に女子有り、子夜と曰う。作る所の声至りて哀し。晋の武帝、太元中に、瑯琊王軻の家に鬼有り之を歌う。後人四時行楽の詞に依って、之を子夜四時歌と謂う」(晉有女子、曰子夜。所作聲至哀。晉武帝太元中、瑯琊王軻家有鬼歌之。後人依四時行樂之詞、謂之子夜四時歌)とある。ウィキソース「樂府古題要解」参照。
- この詩は、遠征中の夫を思う女性の心情を、長安の秋の夜の風情とともに詠んだもの。安旗主編『新版 李白全集編年注釋』(巴蜀書社、2000年)によると、天宝元年(742)、四十二歳の作。
- 李白 … 701~762。盛唐の詩人。字は太白。蜀の隆昌県青蓮郷(四川省江油市青蓮鎮)の人。青蓮居士と号した。科挙を受験せず、各地を遊歴。天宝元年(742)、玄宗に召されて翰林供奉(天子側近の文学侍従)となった。しかし、玄宗の側近で宦官の高力士らに憎まれて都を追われ、再び放浪の生活を送った。杜甫と並び称される大詩人で「詩仙」と仰がれた。『李太白集』がある。ウィキペディア【李白】参照。
長安一片月
長安 一片の月
- 長安 … 唐の都。現在の陝西省西安市。当時、人口百万を超える大都市であった。『読史方輿紀要』陝西、長安県の条に「高帝(劉邦)の五年(前202)、長安県を置く、都を此に定む。恵帝の始め城を築く、今、県の西北に在り」(高帝五年置長安縣、定都於此。惠帝始築城、在今縣西北)とある。ウィキソース「讀史方輿紀要/卷五十三」参照。ウィキペディア【長安】参照。
- 一片月 … 一つの月。一個の月。月一つ。「一面の月光」という解釈は誤り。松浦友久「長安一片月――『一片』の用法とそのイメージ」(『詩語の諸相――唐詩ノート〈増訂版〉』研文出版、1995年)参照。
萬戸擣衣聲
万戸 衣を擣つの声
- 万戸 … 多くの家々から。あちこちの家々から。
- 擣衣声 … 冬着支度のための、布を砧で打つ音。布地を柔らかくし、つやを出すために行った。擣は、棒で隅々まで叩くこと。
秋風吹不盡
秋風 吹いて尽きず
- 吹不尽 … いつまでも吹きやまぬこと。
總是玉關情
総べて是れ 玉関の情
- 総是 … これらはすべて~である。総は、一片の月、きぬたの音、秋風を指す。
- 総 … 『楽府詩集』『宋本』『繆本』『劉本』では「揔」に作る。同義。『蕭本』では「緫」に作る。異体字。
- 玉関 … 玉門関。漢代に建立された故関(古い関所)は甘粛省敦煌の西にあった。六朝期に200キロ東に移され、今の甘粛省瓜州県の東に置かれた。『元和郡県図志』隴右道下、沙州の条に「玉門の故関は、県の西北一百一十七里に在り」(玉門故關、在縣西北一百一十七里)とある。また瓜州の条に「玉門関は、県の東二十歩に在り」(玉門關、在縣東二十步)とある。ウィキソース「元和郡縣圖志/卷40」参照。ウィキペディア【玉門関】参照。『中国歴史地図集 第五冊』(地図出版社、1982年、国学导航「隴右道東部」59~60頁、玉門故関④3・玉門関④6)参照。
- 情 … (玉門関の辺りに遠征している)夫を思う妻の心。
何日平胡虜
何れの日か 胡虜を平らげ
- 何日 … いつになったら~か。
- 胡虜 … 匈奴を指す。虜は、罵るときの言葉。のち、北方の異民族の総称。
- 平 … 敵を滅ぼし、世の中を鎮める。平定する。
良人罷遠征
良人 遠征を罷めん
- 良人 … 妻の夫への呼称。『詩経』唐風・綢繆の詩に「綢繆して薪を束ぬれば、三星は天に在り。今夕は何の夕ぞ、此の良人を見る。子や子や、此の良人を如何せん」(綢繆束薪、三星在天。今夕何夕、見此良人。子兮子兮、如此良人何)とある。綢繆は、ひもを巻きつけてしばること。ウィキソース「詩經/綢繆」参照。『毛詩正義』に「妻、夫を謂いて良人と為す」(妻謂夫爲良人)とある。ウィキソース「毛詩正義 (四庫全書本)/卷10」参照。また『孟子』離婁下篇に「吾、将に良人の之く所を瞷わんとす」(吾將瞷良人之所之也)とある。ウィキソース「孟子/離婁下」参照。
- 遠征 … 匈奴との戦いを指す。
- 罷 … 遠征をやめて帰ってくること。
テキスト
- 『箋註唐詩選』巻一(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)
- 『唐詩三百首注疏』巻一(廣文書局、1980年)
- 『全唐詩』巻一百六十五(揚州詩局本縮印、上海古籍出版社、1985年)
- 『李太白文集』巻六(静嘉堂文庫蔵宋刊本影印、平岡武夫編『李白の作品』所収、略称:宋本)
- 『李太白文集』巻六(繆曰芑重刊、雙泉草堂本、略称:繆本)
- 『分類補註李太白詩』巻六(蕭士贇補注、内閣文庫蔵、略称:蕭本)
- 『分類補註李太白詩』巻六(蕭士贇補注、郭雲鵬校刻、『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:郭本)
- 『分類補註李太白詩』巻六(蕭士贇補注、許自昌校刻、『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、略称:許本)
- 『李翰林集』巻五(景宋咸淳本、劉世珩刊、江蘇広陵古籍刻印社、略称:劉本)
- 『李太白全集』巻六(王琦編注、『四部備要 集部』所収、略称:王本)
- 『楽府詩集』巻四十五・清商曲辞(北京図書館蔵宋刊本影印、中津濱渉『樂府詩集の研究』所収)
- 『唐詩品彙』巻四([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
- 『唐詩別裁集』巻二(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
- 『古今詩刪』巻十(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇8』所収、457頁)
- 『唐詩解』巻三(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
- 『唐宋詩醇』巻四(乾隆二十五年重刊、紫陽書院、内閣文庫蔵)
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