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臨洞庭(孟浩然)

臨洞庭
洞庭(どうてい)に臨(のぞ)む
孟(もう)浩然(こうねん)
  • 五言律詩。清・城・明・情(下平声庚韻)。
  • ウィキソース「望洞庭湖贈張丞相」「孟浩然集 (四部叢刊本)/卷第三」参照。
  • 詩題 … 『宋本』では「岳陽樓」作る。『唐詩三百首』では「洞庭に望み、張丞相に上(たてまつ)る」(望洞庭上張丞相)に作る。『全唐詩』では「望洞庭湖贈張丞相」に作り、「一作臨洞庭」と注する。『文苑英華』では「望洞庭湖上張丞相」に作り、「集作岳陽樓」と注する。『唐詩別裁集』では「臨洞庭上張丞相」に作る。
  • 洞庭 … 洞庭湖。湖南省北部にある淡水湖。ウィキペディア【洞庭湖】参照。
  • 臨 … 目の前にする。高い所から下を見る。
  • この詩は洞庭湖の壮大な光景を前にしながら、自分の感慨を述べたもの。この詩を張丞相に贈り、暗に仕官を依頼したという。張丞相とは一般に張九齢(673~740)であろうといわれているが、一方で張(ちょう)説(えつ)(667~730)ではないかともいわれている。
  • 孟浩然 … 689~740。盛唐の詩人。襄(じょう)州襄(じょう)陽(よう)県(湖北省襄陽市襄州区)の人。名は浩、浩然は字(あざな)。若い頃、科挙に及第できず、諸国を放浪した末、郷里の鹿門山に隠棲した。四十歳のとき、都に出て張九齢や王維らと親交を結んだが、仕官はできなかった。その後、張九齢が荊(けい)州(しゅう)(湖北省)の長(ちょう)史(し)(地方長官の属官)に左遷されたとき、招かれて従(じゅう)事(じ)(輔佐官)となったが、まもなく辞任し、江南を放浪した末、郷里に帰ってまた隠棲生活に入り、一生を終えた。多く自然を歌い、王維と並び称される。「春眠暁を覚えず」で始まる「春暁」が最も有名。『孟浩然集』四巻がある。ウィキペディア【孟浩然】参照。
八月湖水平
八月(はちがつ) 湖(こ)水(すい)平(たい)らかなり
  • 八月 … 陰暦八月。中秋。
  • 湖水平 … 長江が増水し、湖の水が平らに漲(みなぎ)り、水面が限りなく広がっている様子。
涵虚混太清
虚(きょ)を涵(ひた)して太清(たいせい)に混(こん)ず
  • 虚 … 虚空。大空。
  • 涵 … 浸す。『宋本』では「含」に作る。
  • 太清 … 天。道教用語。
  • 混 … 空と水とが一つに混ざり合う。
氣蒸雲夢澤
気(き)は蒸(む)す 雲夢(うんぼう)の沢(たく)
  • 気蒸 … 水蒸気が立ちのぼる。
  • 雲夢沢 … 今の湖北省南部から湖南省北部にかけてあったといわれる広大な湿地帯の名。
波撼岳陽城
波(なみ)は撼(うご)かす 岳陽城(がくようじょう)
  • 波撼 … 湖水の波が揺り動かさんばかりに打ち寄せる。撼は、揺るがす。動かす。『全唐詩』には「一作動」と注する。『宋本』『文苑英華』では「動」に作る。
  • 岳陽城 … 岳陽の町。城は、都市を取り囲む城壁のこと。ちなみに内側の壁を城、外側の壁を郭、その総称を城郭という。
欲濟無舟楫
済(わた)らんと欲(ほっ)するに舟楫(しゅうしゅう)無(な)く
  • 欲済 … 洞庭湖を渡ろうとしても。済は、渡る。ここでは官吏となって政治に参加することの喩え。
  • 舟楫 … 舟と櫂(かい)。ここでは官職に就くための手段の喩え。『書経』説命(えつめい)篇上に「若(も)し巨川(きょせん)を済(わた)らば、汝(なんじ)を用(もっ)て舟楫(しゅうしゅう)と作(な)さん」(若濟巨川、用汝作舟楫)とあるのに基づく。ウィキソース「尚書/說命上」参照。
端居恥聖明
端居(たんきょ)して聖明(せいめい)に恥(は)ず
  • 端居 … なすこともなく、じっとしている。
  • 聖明 … 天子の明徳。立派な天子の治世。立派に治まっている御代(みよ)。
  • 恥 … 恥ずかしい。恥じ入るばかりである。
坐觀垂釣者
坐(そぞ)ろに釣(つり)を垂(た)るる者(もの)を観(み)て
  • 坐 … ただ何となく。
  • 坐観 … 『全唐詩』には「一作徒憐」と注する。
  • 垂釣者 … 釣り糸を垂れている人。
  • 者 … 『全唐詩』には「一作叟」と注する。『文苑英華』では「叟」に作り、「集作者」と注する。
  • 観 … 見ては。眺めては。『文苑英華』では「憐」に作り、「集作觀」と注する。
徒有羨魚情
徒(いたず)らに魚(うお)を羨(うらや)むの情(じょう)有(あ)り
  • 徒 … むなしくも。むなしいことではあるが。むなしいことだとは知りながら。『全唐詩』では「空」に作り、「一作徒」と注する。『宋本』では「空」に作る。『文苑英華』には「集作空」と注する。
  • 羨魚情 … 自分も魚が欲しいと(釣り人を)羨(うらや)む気持ち。ここでは官職に就きたいという気持ちの喩えで、才能も努力もなしに仕官を求める愚かさを自嘲している。『漢書(かんじょ)』董(とう)仲(ちゅう)舒(じょ)伝に「淵に臨んで魚を羨むは、退いて網を結ぶに如(し)かず」(臨淵羨魚、不如退而結網)とあるのに基づく。ウィキソース「漢書/卷056」参照。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻三(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻一百六十(排印本、中華書局、1960年)
  • 『孟浩然詩集』巻上(宋蜀刻本唐人集叢刊、上海古籍出版社、1982年、略称:宋本)
  • 『孟浩然集』巻三(『四部叢刊 初編集部』所収)
  • 『孟浩然集』巻三(『四部備要 集部』所収、中華書局)
  • 『孟浩然集』巻二(明銅活字本、『唐五十家詩集』所収、上海古籍出版社、1989年)
  • 『孟浩然詩集』(元文四年刊、『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、127頁、略称:元文刊本)
  • 『孟浩然詩集』巻上(元禄三年刊、『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、161頁、略称:元禄刊本)
  • 『唐詩三百首注疏』巻四・五言律詩(廣文書局、1980年)
  • 『文苑英華』巻二百五十(影印本、中華書局、1966年)
  • 『唐詩品彙』巻六十([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『唐詩別裁集』巻九([清]沈徳潜編、乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
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