臨洞庭(孟浩然)
臨洞庭
洞庭に臨む
洞庭に臨む
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻三、『唐詩三百首』五言律詩、『全唐詩』巻一百六十、『孟浩然詩集』巻上(宋蜀刻本唐人集叢刊、略称:宋本)、『孟浩然集』巻三(『四部叢刊 初編集部』所収)、『孟浩然集』巻三(『四部備要 集部』所収、略称:四部備要本)、『孟浩然集』巻二(『唐五十家詩集』所収)、『孟浩然詩集』(元文四年刊、『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、127頁、略称:元文刊本)、『孟浩然詩集』巻上(元禄三年刊、『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、161頁、略称:元禄刊本)、『文苑英華』巻二百五十、『唐詩品彙』巻六十、『唐詩別裁集』巻九、他
- 五言律詩。清・城・明・情(平声庚韻)。
- ウィキソース「望洞庭湖贈張丞相」「孟浩然集 (四部叢刊本)/卷第三」参照。
- 詩題 … 『宋本』では「岳陽樓」作る。『唐詩三百首』では「洞庭に望み、張丞相に上る」(望洞庭上張丞相)に作る。『全唐詩』では「望洞庭湖贈張丞相」に作り、「一作臨洞庭」とある。『文苑英華』では「望洞庭湖上張丞相」に作り、「集作岳陽樓」とある。『唐詩別裁集』では「臨洞庭上張丞相」に作る。
- 洞庭 … 洞庭湖。湖南省北部にある淡水湖。ウィキペディア【洞庭湖】参照。
- 臨 … 目の前にする。高い所から下を見る。
- この詩は洞庭湖の壮大な光景を前にしながら、自分の感慨を述べたもの。この詩を張丞相に贈り、暗に仕官を依頼したという。張丞相とは一般に張九齢(673~740)であろうといわれているが、一方で張説(667~730)ではないかともいわれている。
- 孟浩然 … 689~740。盛唐の詩人。襄陽(湖北省)の人。名は浩、浩然は字。若い頃、科挙に及第できず、諸国を放浪した末、郷里の鹿門山に隠棲した。四十歳のとき、都に出て張九齢や王維らと親交を結んだが、仕官はできなかった。その後、張九齢が荊州(湖北省)の長史(地方長官の属官)に左遷されたとき、招かれて従事(輔佐官)となったが、まもなく辞任し、江南を放浪した末、郷里に帰ってまた隠棲生活に入り、一生を終えた。多く自然を歌い、王維と並び称される。「春眠暁を覚えず」で始まる「春暁」が最も有名。『孟浩然集』四巻がある。ウィキペディア【孟浩然】参照。
八月湖水平
八月 湖水平らかなり
- 八月 … 陰暦八月。中秋。
- 湖水平 … 長江が増水し、湖の水が平らに漲り、水面が限りなく広がっている様子。
涵虚混太清
虚を涵して太清に混ず
- 虚 … 虚空。大空。
- 涵 … 浸す。『宋本』では「含」に作る。
- 太清 … 天。道教用語。
- 混 … 空と水とが一つに混ざり合う。
氣蒸雲夢澤
気は蒸す 雲夢の沢
- 気蒸 … 水蒸気が立ちのぼる。
- 雲夢沢 … 今の湖北省南部から湖南省北部にかけてあったといわれる広大な湿地帯の名。
波撼岳陽城
波は撼かす 岳陽城
- 波撼 … 湖水の波が揺り動かさんばかりに打ち寄せる。「撼」は、揺るがす。動かす。『全唐詩』には「一作動」とある。『宋本』『文苑英華』では「動」に作る。
- 岳陽城 … 岳陽の町。「城」は都市を取り囲む城壁のこと。ちなみに内側の壁を「城」、外側の壁を「郭」、その総称を「城郭」という。
欲濟無舟楫
済らんと欲するに舟楫無く
- 欲済 … 洞庭湖を渡ろうとしても。「済」は渡る。ここでは官吏となって政治に参加することの喩え。
- 舟楫 … 舟と櫂。ここでは官職に就くための手段の喩え。『書経』説命上に「若し巨川を済らば、汝を用て舟楫と作さん」(若濟巨川、用汝作舟楫)とあるのに基づく。ウィキソース「尚書/說命上」参照。
- 楫 … 『宋本』『四部叢刊本』『四部備要本』『文苑英華』では「檝」に作る。異体字。
端居恥聖明
端居して聖明に恥ず
- 端居 … なすこともなく、じっとしている。
- 聖明 … 天子の明徳。立派な天子の治世。立派に治まっている御代。
- 恥 … 恥ずかしい。恥じ入るばかりである。『宋本』『四部叢刊本』『唐五十家詩集本』『元文刊本』『文苑英華』『唐詩品彙』では「耻」に作る。異体字。
坐觀垂釣者
坐ろに釣を垂るる者を観て
- 坐 … ただ何となく。
- 坐観 … 『全唐詩』には「一作徒憐」とある。
- 垂釣者 … 釣り糸を垂れている人。
- 者 … 『全唐詩』には「一作叟」とある。『文苑英華』では「叟」に作り、「集作者」とある。
- 観 … 見ては。眺めては。『文苑英華』では「憐」に作り、「集作觀」とある。
徒有羨魚情
徒らに魚を羨むの情有り
- 徒 … むなしくも。むなしいことではあるが。むなしいことだとは知りながら。『全唐詩』では「空」に作り、「一作徒」とある。『宋本』では「空」に作る。『文苑英華』には「集作空」とある。
- 羨魚情 … 自分も魚が欲しいと(釣り人を)羨む気持ち。ここでは官職に就きたいという気持ちの喩えで、才能も努力もなしに仕官を求める愚かさを自嘲している。『漢書』巻五十六、董仲舒伝に「淵に臨んで魚を羨むは、退いて網を結ぶに如かず」(臨淵羨魚、不如退而結網)とあるのに基づく。ウィキソース「漢書/卷056」参照。
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